租税法 ( 第 04 回 ) 2014 年度 ( 香川大学 ) 1
所得税の変遷と所得概念 定期的, 回帰的 一時的, 偶発的 政府 2014 年度 ( 香川大学 ) 2
所得税の変遷と所得概念 定期的, 回帰的 一時的, 偶発的 政府 戦前所得税では原則非課税 2014 年度 ( 香川大学 ) 3
所得税の変遷と所得概念 定期的, 回帰的 一時的, 偶発的 政府 昭和 22 年改正で課税対象 ( 原則 ) 2014 年度 ( 香川大学 ) 4
所得税の変遷と所得概念 定期的, 回帰的 ( 所得 ) 制限的所得概念 ( 源泉所得説 ) 一時的, 偶発的 ( 資本そのもの ) 所得の出処たる源泉の確かさに着目 2014 年度 ( 香川大学 ) 5
所得税の変遷と所得概念 定期的, 回帰的 ( 所得 ) 包括的所得概念 一時的, 偶発的 ( 所得 ) 一時的, 偶発的利得も所得として把握! どのような根拠 視点? 2014 年度 ( 香川大学 ) 6
所得税の変遷と所得概念 使途 ( 貯蓄 消費 ) は源泉に拘らず, 共通! 貯蓄 消費 包括的所得概念 2014 年度 ( 香川大学 ) 7
Henry C. Simons の所得定義 包括的所得 個人所得は,1 消費にあたって行使された権利の市場価値と,2 問題の期間の始期と終期との間での蓄えられた財産権の価値変化との算術的合計として定義できる (Simons1938, p.50) 1( 消費 ) 2( 貯蓄 ) ( 問題の期間中の ) 個人の経済力を示唆! 2014 年度 ( 香川大学 ) 8
Henry C. Simons の所得定義 包括的所得 個人所得は,1 消費にあたって行使された権利の市場価値と,2 問題の期間の始期と終期との間での蓄えられた財産権の価値変化との算術的合計として定義できる (Simons1938, p.50) 源泉 ( 何処から ) による区別は不合理! 1( 消費 ) 2( 貯蓄 ) ( 問題の期間中の ) 個人の経済力を示唆! 2014 年度 ( 香川大学 ) 9
具体例 包括的所得 給料を 50 万円貰って, そのうち 10 万円を貯金し, 残りを使った 岡村他 2013, 64 頁 2014 年度 ( 香川大学 ) 10
具体例 包括的所得 給料を 50 万円貰って, そのうち 10 万円を貯金し, 残りを使った 岡村他 2013, 64 頁 50 万円 40 万円 10 万円 包括的所得 : 消費と貯蓄との算術的合計 2014 年度 ( 香川大学 ) 11
具体例 包括的所得 所得が何もないのに, 生活費に 20 万円使った 岡村他 2013, 64 頁 0 円 20 万円 マイナス 20 万円 包括的所得 : 消費と貯蓄との算術的合計 2014 年度 ( 香川大学 ) 12
貯蓄の構成要素 純資産増加なし 1,000 万円 1,500 万円 -(1,000 万円 )=500 万円 購入 売却 0 年目 1 年目 2014 年度 ( 香川大学 ) 13
貯蓄の構成要素 純資産増加なし 1,000 万円 1,500 万円 純資産増加あり? なし? 購入 0 年目 1 年目 2014 年度 ( 香川大学 ) 14
貯蓄の構成要素 純資産増加なし 1,000 万円 1,500 万円 -(1,000 万円 )=500 万円 購入 売却なしでも貯蓄を構成! 0 年目 1 年目 2014 年度 ( 香川大学 ) 15
貯蓄の構成要素 純資産増加なし! 1,500 万円 -(1,000 万円 )=500 万円 1,500 万円 保持 -(1,500 万円 )=0 万円 売却 1 年目 2 年目 2014 年度 ( 香川大学 ) 16
現実の所得税 : 実現主義 課税所得 ( 譲渡所得 ) 課税所得 ( 譲渡所得 ) 500 万円 ( 貯蓄 ) は発生済だが 0 円 500 万円 1,000 万円 ( 取得費 ) 1,500 万円 ( 時価 ) 保持 1,000 万円 ( 取得費 ) 1,500 万円 ( 時価 ) 1,500 万円 ( 売却収入 ) 売却 1 年目 2 年目 2014 年度 ( 香川大学 ) 17
消費の構成要素 1,000 万円 ( 預金 ) 100 万円 ( 預金利子 ) 100 万円 ( 家賃 ) 100 万円の借家価値を消費 借家 2014 年度 ( 香川大学 ) 18
消費の構成要素 100 万円の借家価値を消費 1,000 万円 ( 現金 ) 持家の購入 持家 ( 貸し付ければ, 賃料 100 万 ) 2014 年度 ( 香川大学 ) 19
現実の所得税 : 帰属所得非課税 1,000 万円 ( 預金 ) 課税所得 ( 利子所得 ) 100 万円 ( 預金利子 ) 収入から所得を把握 100 万円 ( 家賃 ) 100 万円の借家価値を消費 借家 2014 年度 ( 香川大学 ) 20
現実の所得税 : 帰属所得非課税 課税所得 ( 利子所得 ) 収入なしのため, 課税所得なし 100 万円の借家価値を消費 1,000 万円 ( 現金 ) 持家の購入 持家 ( 貸し付ければ, 賃料 100 万 ) 2014 年度 ( 香川大学 ) 21
具体例 所得課税への批判 A は給料を 40 万円貰って, そのうち 20 万円を貯金し, 残りを使った 40 万円 20 万円 20 万円 包括的所得 : 消費と貯蓄との算術的合計 2014 年度 ( 香川大学 ) 22
具体例 所得課税への批判 A は貯金 21 万円 ( 利子 1 万円含む ) を下ろし, すべて生活費として使った 1 万円 21 万円 マイナス 20 万円 包括的所得 : 消費と貯蓄との算術的合計 2014 年度 ( 香川大学 ) 23
具体例 所得課税への批判 B は給料を 40 万円貰って, すべて使った 40 万円 40 万円 0 円 包括的所得 : 消費と貯蓄との算術的合計 2014 年度 ( 香川大学 ) 24
所得課税への批判 A B 所得 消費 所得 消費 第 0 期 40 万円 20 万円 40 万円 40 万円 第 1 期 1 万円 21 万円 0 円 0 円 合計 41 万円 41 万円 40 万円 40 万円 2014 年度 ( 香川大学 ) 25
所得課税への批判 A B 所得 消費 所得 消費 第 0 期 40 万円 20 万円 40 万円 40 万円 第 1 期 1 万円 21 万円 0 円 0 円 合計 41 万円 41 万円 40 万円 40 万円 合計額を見る限り, 所得 消費で差異なし 2014 年度 ( 香川大学 ) 26
所得課税への批判 A 貯蓄があると, 把握の時期に差異が発生 所得消費所得消費 第 0 期 40 万円 20 万円 40 万円 40 万円 第 1 期 1 万円 21 万円 0 円 0 円 合計 41 万円 41 万円 40 万円 40 万円 B 合計額を見る限り, 所得 消費で差異なし 2014 年度 ( 香川大学 ) 27
所得課税への批判 第 0 期 20 万円 20 万円 40 万円 0 円 第 1 期 21 万円 マイナス 20 万円 2014 年度 ( 香川大学 ) 28
所得課税への批判 第 0 期 20 万円 20 万円 40 万円 0 円 第 1 期 21 万円 マイナス 20 万円 二期間合算ではプラスマイナス 0 第 0 期間の消費 20 万円の代替に過ぎないのでは? 2014 年度 ( 香川大学 ) 29
消費 ( 第 1 期 ) 消費時期選択としての消費 貯蓄 45 42 40 35 30 25 20 21 15 10 5 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 消費 ( 第 0 期 ) 0 2014 年度 ( 香川大学 ) 30
消費 ( 第 1 期 ) 消費時期選択としての消費 貯蓄 45 42 40 35 30 25 20 21 A が選んだ配分 15 10 5 0 同一直線で表現可能な等価な選択では? 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 消費 ( 第 0 期 ) B が選んだ配分 0 2014 年度 ( 香川大学 ) 31
消費時期選択の歪曲 ( 所得課税 ) A B 所得 資金 消費 貯蓄 所得 資金 消費 貯蓄 第 0 期 40 40 20 20 40 40 40 0 第 1 期 1 21 21-20 0 0 0 0 合計 41 0 40 0 所得課税 ( 税率 50 パーセント ) を導入 A は, 課税後の資金も消費 貯蓄 ( 第 1 期の消費 ) に 1:1 で配分 A B 所得 資金 消費 貯蓄 所得 税引 消費 貯蓄 第 0 期 40 20 10 10 40 20 20 0 第 1 期 0.5 10.25 10.25-10 0 0 0 0 合計 20.25 0 20 0 2014 年度 ( 香川大学 ) 32
消費時期選択の歪曲 ( 所得課税 ) 課税前後での消費量の変化に着目 B と比べ,A の減少額が大 第 1 期の消費は第 0 期と比較して不利 A B 所得 資金 消費 貯蓄 所得 資金 消費 貯蓄 第 0 期 40 40 20 20 40 40 40 0 第 1 期 1 21 21-20 0 0 0 0 合計 41 0 40 0 A B 所得 資金 消費 貯蓄 所得 税引 消費 貯蓄 第 0 期 40 20 10 10 40 20 20 0 第 1 期 0.5 10.25 10.25-10 0 0 0 0 合計 20.25 0 20 0 2014 年度 ( 香川大学 ) 33
消費 ( 第 1 期 ) 消費時期選択の歪曲 ( 所得課税 ) 45 42 40 35 30 税率 50 パーセントの所得課税を実施 25 20.5 20 21 15 10 5 0 10.25 0 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 消費 ( 第 0 期 ) 2014 年度 ( 香川大学 ) 34
消費 ( 第 1 期 ) 消費時期選択の歪曲 ( 所得課税 ) 45 42 40 35 30 25 20.5 20 税率 50 パーセントの所得課税を実施 21 水平移動ではなく, 第 1 期の消費の価値がより多く減少 15 10 10.25 5 0 0 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 消費 ( 第 0 期 ) 2014 年度 ( 香川大学 ) 35
処方箋 1: 支出税 第 0 期 20 万円 20 万円 40 万円 0 円 第 1 期 21 万円 マイナス 20 万円 課税ベースを所得ではなく消費支出に限定 2014 年度 ( 香川大学 ) 36
具体例 処方箋 1: 支出税 A は給料を 40 万円貰って, そのうち 20 万円を貯金し, 残りを使った 40 万円 預金増, 現金減 ( 流出 ) 20 万円 20 万円 キャッシュ フローによる把握 : 流入 - 流出 ( 貯蓄 ) が可能 2014 年度 ( 香川大学 ) 37
具体例 処方箋 1: 支出税 A は貯金 21 万円 ( 利子 1 万円含む ) を下ろし, すべて生活費として使った 1 万円 預金減, 現金増 ( 流入 ) マイナス 20 万円 21 万円 キャッシュ フローによる把握 : 流入 - 流出 ( 貯蓄 ) が可能 2014 年度 ( 香川大学 ) 38
処方箋 1: 支出税 A B 流入 流出 差引 消費 流入 流出 差引 消費 第 0 期 40 20 20 20 40 0 40 40 第 1 期 21 0 21 21 0 0 0 0 合計 41 41 40 40 支出税 ( 税率 50 パーセント ) を導入 A は, 課税後の資金も消費 貯蓄 ( 第 1 期の消費 ) に 1:1 で配分 A B 流入 流出 差引 消費 流入 流出 差引 消費 第 0 期 40 20 20 10 40 0 40 20 第 1 期 21 0 21 10.5 0 0 0 0 合計 41 20.5 40 20 2014 年度 ( 香川大学 ) 39
処方箋 1: 支出税 課税前後での消費量の変化に着目 消費量の減少の程度は, 第 0 期 第 1 期で相違なし A B 流入 流出 差引 消費 流入 流出 差引 消費 第 0 期 40 20 20 20 40 0 40 40 第 1 期 21 0 21 21 0 0 0 0 合計 41 41 40 40 A B 流入 流出 差引 消費 流入 流出 差引 消費 第 0 期 40 20 20 10 40 0 40 20 第 1 期 21 0 21 10.5 0 0 0 0 合計 41 20.5 40 20 2014 年度 ( 香川大学 ) 40
消費 ( 第 1 期 ) 処方箋 1: 支出税 45 42 40 35 30 25 20 21 21 15 10 5 0 10.5 0 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 消費 ( 第 0 期 ) 2014 年度 ( 香川大学 ) 41
消費 ( 第 1 期 ) 処方箋 1: 支出税 45 42 40 35 30 25 20 21 税率 50 パーセントの支出税を実施 21 第 1 期の消費の価値も同程度に減少し, 直線は水平に移動 15 10 10.5 5 0 0 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 消費 ( 第 0 期 ) 2014 年度 ( 香川大学 ) 42
具体例 処方箋 2: 労働賃金税 A は給料を 40 万円貰って, そのうち 20 万円を貯金し, 残りを使った 40 万円 消費, 貯蓄の配分はこの資金を巡るもの 遺産の存在を無視すれば, 労働賃金にだけ課税することにしても, 選択は歪まない 2014 年度 ( 香川大学 ) 43
処方箋 2: 労働賃金税 A B 賃金 資金 消費 貯蓄 賃金 資金 消費 貯蓄 第 0 期 40 40 20 20 40 40 40 0 第 1 期 0 21 21-20 0 0 0 0 合計 41 0 40 0 労働賃金税 ( 税率 50 パーセント ) を導入 A は, 課税後の資金も消費 貯蓄 ( 第 1 期の消費 ) に 1:1 で配分 A B 賃金 資金 消費 貯蓄 賃金 資金 消費 貯蓄 第 0 期 40 20 10 10 40 20 20 0 第 1 期 0 10.5 10.5-10 0 0 0 0 合計 20.5 0 20 0 2014 年度 ( 香川大学 ) 44
消費 ( 第 1 期 ) 処方箋 2: 労働賃金税 45 42 40 35 30 25 20 21 21 15 10 5 0 10.5 0 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 消費 ( 第 0 期 ) 2014 年度 ( 香川大学 ) 45
消費 ( 第 1 期 ) 処方箋 2: 労働賃金税 45 42 40 35 30 25 20 21 税率 50 パーセントの労働賃金税を実施 21 消費, 貯蓄に割り振る資金が減るため, 水平に移動 15 10 10.5 5 0 0 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 消費 ( 第 0 期 ) 2014 年度 ( 香川大学 ) 46
今回のまとめ 包括的所得概念 使途 ( 消費, 貯蓄 ) に着目することで, 源泉による区別 ( 源泉所得説 ) を克服 値上がり益や帰属所得も含まれる 現実の所得税では捕捉されず 所得課税への批判 消費時期の選択を歪曲 貯蓄 =( 現在消費を代替する ) 将来消費, を前提 支出税, 労働賃金税なら選択に中立的 2014 年度 ( 香川大学 ) 47