Microsoft Word - 04H22研究報告岡久.doc

Similar documents
スライド 1

豚丹毒 ( アジュバント加 ) 不活化ワクチン ( シード ) 平成 23 年 2 月 8 日 ( 告示第 358 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した豚丹毒菌の培養菌液を不活化し アルミニウムゲルアジュバントを添加したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株 名称豚丹

DNA/RNA調製法 実験ガイド

京都府中小企業技術センター技報 37(2009) 新規有用微生物の探索に関する研究 浅田 *1 聡 *2 上野義栄 [ 要旨 ] 産業的に有用な微生物を得ることを目的に 発酵食品である漬物と酢から微生物の分離を行った 漬物から分離した菌については 乳酸菌 酵母 その他のグループに分類ができた また

NEWS RELEASE 東京都港区芝 年 3 月 24 日 ハイカカオチョコレート共存下におけるビフィズス菌 BB536 の増殖促進作用が示されました ~ 日本農芸化学会 2017 年度大会 (3/17~

2017 年 2 月 27 日 Myco Finder バリデーションデータ 日水製薬株式会社 研究部

( 一財 ) 沖縄美ら島財団調査研究 技術開発助成事業 実施内容及び成果に関する報告書 助成事業名 : 土着微生物を活用した沖縄産農作物の病害防除技術の開発 島根大学生物資源科学部 農林生産学科上野誠 実施内容及び成果沖縄県のマンゴー栽培では, マンゴー炭疽病の被害が大きく, 防除も困難となっている

研究成果報告書

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

埼玉県調査研究成績報告書 ( 家畜保健衛生業績発表集録 ) 第 55 報 ( 平成 25 年度 ) 11 牛呼吸器病由来 Mannheimia haemolytica 株の性状調査 および同定法に関する一考察 中央家畜保健衛生所 荒井理恵 Ⅰ はじめに Mannheimia haemolytica


Microsoft Word kokuritu-eiken.doc

Bacterial 16S rDNA PCR Kit

No. 1 Ⅰ. 緒言現在我国は超高齢社会を迎え それに伴い 高齢者の健康増進に関しては歯科医療も今後より重要な役割を担うことになる その中でも 部分欠損歯列の修復に伴う口腔内のメンテナンスがより一層必要となってきている しかし 高齢期は身体機能全般の変調を伴うことが多いため 口腔内環境の悪化を招く

Bacterial 16S rDNA PCR Kit

2006年9月29日

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

目 次 1. はじめに 1 2. 組成および性状 2 3. 効能 効果 2 4. 特徴 2 5. 使用方法 2 6. 即時効果 持続効果および累積効果 3 7. 抗菌スペクトル 5 サラヤ株式会社スクラビイン S4% 液製品情報 2/ PDF

DNA 抽出条件かき取った花粉 1~3 粒程度を 3 μl の抽出液 (10 mm Tris/HCl [ph8.0] 10 mm EDTA 0.01% SDS 0.2 mg/ml Proteinase K) に懸濁し 37 C 60 min そして 95 C 10 min の処理を行うことで DNA

テイカ製薬株式会社 社内資料

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

鶏大腸菌症 ( 組換え型 F11 線毛抗原 ベロ細胞毒性抗原 )( 油性アジュバント加 ) 不活化ワクチン平成 20 年 6 月 6 日 ( 告示第 913 号 ) 新規追加 平成 25 年 9 月 26 日 ( 告示第 2480 号 ) 一部改正 1 定義組換え型 F11 線毛抗原産生大腸菌及びベ

<4D F736F F D E8E6D985F95B6817A D B835882CC8FA48BC B38BDB90AB82F08A6D95DB82B782E BD82C889C

■リアルタイムPCR実践編

<4D F736F F D CF68A4A977082C992B290AE817A B838A83938CA48B8695F18D DB D88D81816A>

Gen とるくん™(酵母用)High Recovery

PanaceaGel ゲル内細胞の観察 解析方法 1. ゲル内細胞の免疫染色 蛍光観察の方法 以下の 1-1, 1-2 に関して ゲルをスパーテルなどで取り出す際は 4% パラホルムアルデヒドで固定してから行うとゲルを比較的簡単に ( 壊さずに ) 取り出すことが可能です セルカルチャーインサートを

無細胞タンパク質合成試薬キット Transdirect insect cell

バイオロジカル・インジケータの製造に関するISO11138シリーズの改訂事項についてレビュー.docx

資料2発酵乳

馬ロタウイルス感染症 ( アジュバント加 ) 不活化ワクチン ( シード ) 平成 24 年 7 月 4 日 ( 告示第 1622 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した馬ロタウイルス (A 群 G3 型 ) を同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を不活化し アジュバント

液体容器の蒸気滅菌について 当社の EZTest 高圧蒸気用バイオロジカル インジケータ (BI) の長年のユーザーで 最近自社の増殖培地培地 ( 液体 ) の殺菌を始めました 彼らは以前サプライヤーから準備された生培地を購入していましたが コスト削減策として開始されました 粉末培地の指示書には 1

1. 腸管出血性大腸菌 (EHEC) の系統解析 上村健人 1. はじめに近年 腸管出血性大腸菌 (EHEC) による食中毒事件が度々発生しており EHEC による食中毒はその症状の重篤さから大きな社会問題となっている EHEC による食中毒の主要な汚染源の一つとして指摘されているのが牛の糞便である

PowerPoint プレゼンテーション

組織からのゲノム DNA 抽出キット Tissue Genomic DNA Extraction Mini Kit 目次基本データ 3 キットの内容 3 重要事項 4 操作 4 サンプル別プロトコール 7 トラブルシューティング 9 * 本製品は研究用です *

遺伝子検査の基礎知識

< F2D FAC909B2E6A7464>

Taro-SV02500b.jtd

Taro-kv12250.jtd

1,透析液汚染調査の狙い

RGR _56145.pdf

日本脳炎不活化ワクチン ( シード ) 平成 24 年 7 月 4 日 ( 告示第 1622 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した日本脳炎ウイルスを同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を不活化したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株 名称日本脳炎ウイル

2 (1) (2) SCI 2 SCI

池田町特産品を用いた加工食品の開発第二報 公益財団法人とかち財団四宮紀之 共同研究 : 池田町ブドウ ブドウ酒研究所齋藤良市大渕秀樹 1. 目的および概要近年 食や健康に対する意識の高まりもあり 食酢に根強い人気があるのはよく知られている また食品に対する嗜好性の多様化もありワインヴィネガーの消費量

Microsoft PowerPoint - 4_河邊先生_改.ppt

酵素の性質を見るための最も簡単な実験です 1 酵素の基質特異性と反応特異性を調べるための実験 実験目的 様々な基質を用いて 未知の酵素の種類を調べる 酵素の基質特異性と反応特異性について理解を深める 実験準備 未知の酵素溶液 3 種類 酵素を緩衝液で約 10 倍に希釈してから使用すること 酵素溶液は

はじめに

豚繁殖 呼吸障害症候群生ワクチン ( シード ) 平成 24 年 3 月 13 日 ( 告示第 675 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した弱毒豚繁殖 呼吸障害症候群ウイルスを同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を凍結乾燥したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株

(Microsoft Word - \202\205\202\2232-1HP.doc)

4. 加熱食肉製品 ( 乾燥食肉製品 非加熱食肉製品及び特定加熱食肉製品以外の食肉製品をいう 以下同じ ) のうち 容器包装に入れた後加熱殺菌したものは 次の規格に適合するものでなければならない a 大腸菌群陰性でなければならない b クロストリジウム属菌が 検体 1gにつき 1,000 以下でなけ

SS

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

化学療法2005.ppt

( 別添 ) ヒラメからの Kudoa septempunctata 検査法 ( 暫定 ) 1. 検体採取方法食後数時間程度で一過性の嘔吐や下痢を呈し, 軽症で終わる有症事例で, 既知の病因物質が不検出, あるいは検出した病因物質と症状が合致せず, 原因不明として処理された事例のヒラメを対象とする

遺伝子検査の基礎知識

PowerPoint プレゼンテーション

HVJ Envelope VECTOR KIT GenomONE –Neo (FD)

714 植 物 防 疫 第 63 巻 第 11 号 2009 年 岡山県で発生した Rhizobium radiobacter Ti による ブドウ根頭がんしゅ病 岡山県農業総合センター農業試験場 は じ め かわ ぐち あきら 川 口 章 12 月のサンプルから AT06 1 AT06 8 株 を

生物学に関する実験例 - 生化学 / 医療に関する実験例 ラジオアッセイ法によるホルモン測定 [ 目的 ] 本実習では, 放射免疫測定 (Radioimmunoassay,RIA) 法による血中インスリンとイムノラジオメトリックアッセイ ( 免疫放射定測定 Immunoradiometric ass

大学院委員会について

Microsoft Word - FMB_Text(PCR) _ver3.doc


PowerPoint プレゼンテーション

H26_大和証券_研究業績_C本文_p indd

目について以下の結果を得た 各社の加熱製品の自主基準は 衛生規範 と同じ一般生菌数 /g 以下 大腸菌 黄色ブドウ球菌はともに陰性 未加熱製品等の一般生菌数は /g 以下であった また 大腸菌群は大手スーパーの加熱製品については陰性 刺身などの未加熱製品については

0702分

Taro-O104.jtd

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

Hi-level 生物 II( 国公立二次私大対応 ) DNA 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造 ア.DNA の二重らせんモデル ( ワトソンとクリック,1953 年 ) 塩基 A: アデニン T: チミン G: グアニン C: シトシン U

TaKaRa PCR Human Papillomavirus Typing Set


Microsoft PowerPoint - 長浜バイオ大学で受けた理系教育_幸得 友美

2011 年度森基金研究成果報告書 巨大 DNA を接合伝達で伝播する枯草菌ベクターの開発 政策 メディア研究科博士課程 2 年一之瀬太郎 Introduction 遺伝子組み変え技術は分子生物学研究において必須の技術である しかし, ゲノムサイズの巨大な DNA を大腸菌の遺伝子工学的手法で取り扱

蛋白質科学会アーカイブ メチオニン要求株を使わないセレノメチオニン標識蛋白質のつくりかた

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST

pdf エンドトキシン試験法

胞壁の薄さからmeso-ジアミノピメリン酸の検出が困難な例 細菌由来凝乳酵素を用いて新しいタイプのチーズを開発す も報告されており3 より慎重な分析が必要と考えられる ることを目的とするものである 3 16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列に基づく同定 本分担研究では この凝乳酵素の大量生産方法の検

研究要旨 研究背景研究目的 意義研究手法結果 考察結論 展望 研究のタイトル 研究要旨 ( 概要 ) あなたの研究の全体像を文章で表現してみよう 乳酸菌を用いてハンドソープの殺菌力を上げる条件を調べる手を洗う時に どのくらいの時間をかければよいのかということと よく薄めて使うことがあるので薄めても効

プロトコール集 ( 研究用試薬 ) < 目次 > 免疫組織染色手順 ( 前処理なし ) p2 免疫組織染色手順 ( マイクロウェーブ前処理 ) p3 免疫組織染色手順 ( オートクレーブ前処理 ) p4 免疫組織染色手順 ( トリプシン前処理 ) p5 免疫組織染色手順 ( ギ酸処理 ) p6 免疫

白金耳ご購読者各位

Xanthomonas arboricola A G Xanthomonas Vitis vinifera X. campestris pv. viticola bacterial canker NAYUDU, 1972 Xanthomonas arboric

バイオロジカル インジケータ (BI) 2019 年 02 月製品一覧表 輸入代理店 レーベン ジャパン株式会社 埼玉県越谷市川柳町 3 丁目 110 番地 8 号 TEL: FAX: R

改訂履歴 登録 発行 年月日 文書番号 ( 改訂番号 ) 改訂内容 改訂理由 年月日 エンドトキシン簡便法 2 / 9 日本核医学会

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

井上先生 報告書 清水

ISOSPIN Plasmid

トケン10.14.indd

4. 方法今回の実験にはトウモロコシを用い 糖度と見た目の腐敗度合いの 2 つを鮮度とした 糖度は 減少の幅が小さいほど鮮度が大きいとする 見た目の腐敗の度合いは カビの生え方 痛み方などから判断した 保存中のトウモロコシの粒を採取し その搾出液の糖度を測定する 1 回目の実験 まず トウモロコシを

BKL Kit (Blunting Kination Ligation Kit)


実験操作方法

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

Kumamoto University Center for Multimedia and Information Technologies Lab. 熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI 宮崎県美郷

Bacterial 16S rDNA Clone Library Construction Kit

伝統的黒酢製造時に生成される膜状堆積物中の細菌

cDNA cloning by PCR

リアルタイムPCRの基礎知識

Transcription:

報文 和菓子の賞味期限予測のための耐熱性芽胞菌増殖予測モデルの開発 Development of Bacterial Spore Growth Predictive Model for Predictive at Best-Before Date of Japanese-Style Confection 岡久修己 * Naoki Okahisa 抄録市販の和菓子等から分離した耐熱性芽胞菌 42 株から, 耐熱性や高浸透圧ストレスへの耐性が最も高い B.subtilis を 高浸透圧ストレス耐性株 として選抜した. 選抜菌を用いて, スクロース, グルコース, フルクトースの各糖について, 各種水分活性における菌の増殖挙動を調べた結果, スクロースと比較してグルコースやフルクトースは, より高い水分活性で B.subtilis の増殖を抑制することが確認できた. この内, スクロースで水分活性を調整した際に得られたデータについて解析を行い, 水分活性から, 菌の増殖時間を予測するモデルを構築した. 1 はじめに近年, 消費者の嗜好の変化, 健康志向の高まりから, 食品に対して低甘味化を求める傾向が強まっており, 和菓子においても低糖度の製品開発が求められている. しかし, 和菓子の製造における加熱条件では,Bacillus 属等の耐熱性芽胞菌が最終製品に残存する場合があり, 常温流通している製品が多いことからも, 低糖度化により耐熱性芽胞菌による変敗の危険性が高まっている. こうしたことから, 従来品よりも低糖度の和菓子を開発するためには, 水分活性と耐熱性芽胞菌の増殖性の関係を把握しておく必要がある. そこで本研究では, 幅広い水分活性で増殖する 高浸透圧ストレス耐性芽胞菌 を用いて, 液体培地中での各種水分活性における菌の増殖性を調べ, 得られたデータを解析し, 和菓子の賞味期限を予測する際の判断基準となる, 耐熱性芽胞菌の増殖予測モデルの開発を行った. 2 実験方法 2 1 耐熱性芽胞菌の分離市販和菓子等から標準寒天培地 ( 日水製薬社 ) を用いた混釈平板培養法により菌を分離した. コロニーの色や形状をもとに, 代表的なコロニーを標準寒天培地に移植し, 純培養した菌について, 定法どおりグラム染色および顕微鏡観察を行ない, コロニーや 細胞の形態, 芽胞の有無等から耐熱性芽胞菌と推定される菌を分離した. 2 2 分離菌の同定分離菌については, 生化学的手法および16S rrna 遺伝子の塩基配列の解析により同定を行った. 生化学的手法は, アピ50CHB(bioMerieux 社 ) を使用した.16S rrna 遺伝子の塩基配列は, 菌体より抽出したDNAを鋳型としてPCRにより5' 末端側約 500 bp の領域を増幅し, サイクルシークエンス法で決定した. 得られた配列についてBLASTを用いてDNA 塩基配列データベース (GenBank/DDBJ/EMBL) に対して相同性検索を行った. 2 3 芽胞の調製供試菌を Schaeffer s sporulation medium 1) に接種し,37 で 7 日間振盪培養後, 顕微鏡により芽胞の形成を確認した. 遠心分離 ( 冷却下 7000rpm 15 分 ) により集菌し, 上清を捨てペレットを滅菌水で 3 回洗浄した後, 滅菌水で懸濁し芽胞懸濁液とした. 2 4 糖添加培地の調製試験に使用した糖添加培地は, メイラード反応を避けるため,121 で 15 分間加熱した Nutrient Broth (Difco 社 )(ph7.2) にあらかじめ調べておいた, 培地の水分活性が所定の値となる量の糖を加え調製した. 水分活性は, 水分活性計 ( デカゴン社製, アクアラブ CX-2) により測定した. * 食品技術課

2 5 高浸透圧ストレス耐性芽胞菌の選抜試験供試菌の芽胞懸濁液を80 で20 分間加熱処理し, 前述の方法でスクロースにより水分活性を0.94~0.91 に調整した液体培地に4.0logCFU/ml 前後となるように接種後,30 で20 日間振盪培養を行い増殖の有無を調べた. 増殖の有無は, 液体培地のOD 590 を測定することによって判定した. 予めOD 590 測定と同時に混釈平板培養法を行い生菌数を求め, 検量線を作製し,OD 590 を生菌数に換算することで, 生菌数が 6.0log CFU/mlを超える際のOD 590 =0.02を増殖の有無を判断する基準とした. 2 6. 高浸透圧ストレス耐性芽胞菌の耐熱性試験供試菌の芽胞懸濁液を8.0logCFU/ml 前後となるように調製し,80 および100 で20 分間加熱処理を行い, 混釈平板培養法によりそれぞれの生菌数を求めた.80 20 分加熱時の生菌数に対する100 20 分加熱時の生菌数の割合を芽胞生存率として求めた. 2 7 各種水分活性における耐熱性芽胞菌の挙動の把握供試菌の芽胞懸濁液を 100 で 20 分間加熱処理し, 糖無添加 ( 水分活性 1.00) および, スクロース, グルコース, フルクトースで水分活性を 0.99~0.90 に調整した液体培地に 3.0~3.7logCFU/ml となるように接種し,30 および 20 で振盪培養を行った. 接種直後から 3 時間毎に OD 590 を測定し, 生菌数が 6.0logCFU/ ml を超える OD 590 =0.02 に達するまでの時間を調べた. 2 8 増殖予測モデルの構築スクロースで水分活性を調整した液体培地中で, 菌が増殖した (6.0logCFU/ml に達した ) 場合を 1, 増殖しなかった場合を 0 とし, 従属変数とした. 次に, 水分活性と, 増殖時間の対数値を独立変数とし, ロジスティック回帰分析を行い増殖予測モデルを構築した. 解析には R var.2.8.1 2) を使用した. 3 結果および考察 3 1 高浸透圧ストレス耐性芽胞菌の選抜選抜の対象とする菌は, 市販の和菓子等から分離した耐熱性芽胞菌 42 株とした. 分離菌の同定結果と, スクロースを用いた場合の高浸透圧ストレスに対する選抜試験の結果を表 1 に示した. 菌種の内訳は, 42 株中 Bacillus 属が 40 株,Geobacillus 属が 2 株であり,Bacillus 属の内,B.subtilis が 18 株,B.cereus が 6 株,B.megaterium が 5 株,B.licheniformis が 2 株, B.firmus が 1 株, 種不明が 8 株であった. 菌種により, 高浸透圧ストレスへの耐性に大きな差がみられ, 特に B.subtilis が, 高浸透圧ストレスへの耐性が高い傾向がみられた. 分離菌の中から, 水分活性 0.92 以下で増殖可能な B.subtilis 9 株 (379,513,896,1147, 1150,1202,U-18,S-26,B-2) と,B.megaterium 1 株 (S-22) を選抜した. 選抜した 10 株について, 芽胞の耐熱性を調べた結果を表 2 に示した. 耐熱性試験により,100 20 分間処理後の芽胞生存率が最も高い B.subtilis S-26 株を以降の試験に用いる 高浸透圧ストレス耐性株 として選抜した. 表 1 分離菌の菌種と各種水分活性 ( スクロースで調整 ) における増殖の有無 No. 菌種 水分活性 0.94 0.93 0.92 0.91 88 Bacillus cereus - - - - 218 Bacillus sp. + + - - 256 Bacillus cereus + + - - 376 Bacillus sp. - - - - 379 Bacillus subtilis + + + - 384 Bacillus subtilis + + - - 462 Bacillus megaterium + + - - 464 Bacillus sp. - - - - 467 Bacillus sp. - - - - 513 Bacillus subtilis + + + + 540 Bacillus sp. - - - - 568 Bacillus megaterium + + - - 665 Bacillus cereus - - - - 731 Bacillus megaterium + - - - 734 Bacillus cereus - - - - 737 Bacillus subtilis - - - - 738 Bacillus firmus - - - - 740 Bacillus subtilis + + - - 830 Bacillus cereus - - - - 872 Bacillus licheniformis + + - - 881 Bacillus subtilis + + - - 896 Bacillus subtilis + + + - 956 Bacillus sp. - - - - 1147 Bacillus subtilis + + + - 1150 Bacillus subtilis + + + - 1202 Bacillus subtilis + + + + U-1 Bacillus subtilis - - - - U-4 Bacillus subtilis + + - - U-7 Bacillus subtilis - - - - U-8 Bacillus subtilis - - - - U-18 Bacillus subtilis + + + + S-3 Bacillus cereus - - - - S-6 Bacillus sp. - - - - S-8 Bacillus sp. - - - - S-12 Geobacillus stearothermophilius + + - - S-22 Bacillus megaterium + + + - S-26 Bacillus subtilis + + + + S-39 Bacillus megaterium + + - - S-50 Geobacillus thermoglucosidasius + + - - S-52 Bacillus subtilis + - - - B-1 Bacillus licheniformis + + - - B-2 Bacillus subtilis + + + - +: 増殖有 -: 増殖無

表 2 100 20 分加熱における芽胞の生存率 No. 菌種 生存率 * 379 Bacillus subtilis <0.01% 513 Bacillus subtilis <0.01% 896 Bacillus subtilis <0.01% 1147 Bacillus subtilis 0.1% 1150 Bacillus subtilis <0.01% 1202 Bacillus subtilis 5% U-18 Bacillus subtilis 50% S-22 Bacillus megaterium <0.01% S-26 Bacillus subtilis 100% B-2 Bacillus subtilis 50% 3 2 各種水分活性における耐熱性芽胞菌の挙動の把握各糖を液体培地 (Nutrient Broth) に加えた際の水分活性と糖度 (Brix) の関係を図 1 に示した. グルコース, フルクトースは, スクロースと比較して, より低濃度で液体培地の水分活性を低下させた. 水分活性 *:80 20 分加熱時の生菌数に対する 100 20 分加熱時の 生菌数の割合 1.00 0.99 0.98 0.97 0.96 0.95 0.94 0.93 0.92 0.91 0.90 図 1 スクロースグルコースフルクトース 0 10 20 30 40 50 60 70 Brix % 各糖の水分活性と Brix の関係 各種水分活性における菌の増殖時間 ( 菌数が 6.0logCFU/ml に達するまでの培養時間 ) について, 30 培養時を表 3 に,20 培養時を表 4 に示した. 30 培養時は, スクロースで水分活性を調整した場合, 水分活性が低下するに従い増殖時間が長くなり, 水分活性 0.90 では, 培養 720 時間後でも菌数の増加が確認できず, 増殖が停止した. 一方, グルコースの場合は, 0.92 まではスクロースとよく似た挙動を示したが, 0.91 で増殖が停止し, フルクトースの場合は, 0.93 で増殖が停止した.20 培養時には,30 培養時と比較して, 各糖共に, 増殖時間が長くなり, スクロースは水分活性 0.91, グルコース, フルクトースは 0.93 で増殖が停止した. 以上より, スクロースと比較して, グルコースやフルクトースは, より高い水分活性で, つまりはより低濃度で,B.subtilis の増殖を抑制することが確認できた. 本結果は, 和菓子製造企業に限らず, 様々な食品製造企業で, 低糖度化商品の開発に有効利用可能である. 表 3 30 培養時における各糖による水分活性と増殖時間の関係 水分活性 6.0logCFU/mlに達するまでの培養時間 (hour) スクロース グルコース フルクトース 1.00* 12±0 12±0 12±0 0.99 12±0 15±0 12±0 0.98 15±0 18±0 12±0 0.97 18±0 20±1.5 18±0 0.96 27±2.1 24±0 24±2.4 0.95 39±2.7 32±1.5 55±8.8 0.94 65±4.5 54±7.5 85±22 0.93 92±13 94±24 >720 0.92 160±29 135±38 >720 0.91 249±29 >720 >720 0.90 >720 >720 >720 *: 糖無添加 表 4 20 培養時における各糖による水分活性と増殖時間の関係 水分活性 6.0logCFU/mlに達するまでの培養時間 (hour) スクロース グルコース フルクトース 1.00* 26±1.5 26±1.5 26±1.5 0.99 27±2.1 33±0 24±0 0.98 33±0 39±0 30±0 0.97 44±1.5 51±0 42±4.2 0.96 66±2.1 59±4.5 59±6.2 0.95 94±1.5 95±4.5 93±13 0.94 182±29 186±9.8 197±106 0.93 397±44 >720 >720 0.92 585±78 >720 >720 0.91 >720 >720 >720 0.90 >720 >720 >720 *: 糖無添加 3 3 増殖予測モデルの構築スクロースで水分活性を調整した際に得られた, 菌の増殖が確認された水分活性の範囲 (30 培養時は水分活性 1.00~0.91,20 培養時は水分活性 1.00 ~0.92) のデータについて, ロジスティック回帰分析を行い, 水分活性 (Aw) および増殖時間の対数値

(ln(time)) から, 菌が増殖する ( 生菌数が 6.0log CFU/ml に達する ) 確率 (P) を予測するモデルが表 5 の計算式で定められた. また, 表 5 の計算式から,P=0.5 の際の Aw と ln(time) の関係が表 6 の計算式で定められた. 表 5 菌の増殖確率, 水分活性, 増殖時間の関係 30 培養時 ln{p/(1-p)}=-467+451aw+10.3ln(time) 20 培養時 ln{p/(1-p)}=-382+365aw+7.24ln(time) 表 6 水分活性と菌の増殖時間の関係 水水水水 0.92 0.94 0.96 0.98 1.00 30 培養時 Aw=-0.0228ln(time)+1.035 20 培養時 Aw=-0.0198ln(time)+1.045 図 2,3 に 30 および 20 培養時の水分活性と菌の増殖時間の実測値と, 表 6 の計算式から求められた計算値を示した. 両条件共に計算値は実測値とよ 100 200 300 400 500 600 菌菌が6.0logCFU/ml に達すすすすす培培培培 (hour) 図 3 20 培養時の水分活性と増殖時間の実測値と計算値の適合 : 実測値の平均実線 : 計算値 く一致したので, 表 6 で示された計算式はスクロースで水分活性を調整した際の耐熱性芽胞菌の増殖予測モデルとして, 十分利用可能であると考えられた. このモデルを利用することで, 水分活性から耐熱性芽胞菌が増殖するまでの時間を計算することができ, 賞味期限の予測が可能となる. 逆に, 耐熱性芽 水水水水 0.92 0.94 0.96 0.98 1.00 胞菌の増殖時間から, 必要な水分活性を求めることも可能である. こうしたことから, 本モデルは, 和菓子製造企業が, 新商品の開発や, 既存商品の賞味期限見直しを行う際に, 有効利用できると考えられる. なお, 本報告では和菓子の賞味期限予測に活用する目的で, スクロースを用いた場合の水分活性と菌の増殖時間の関係性に着目したが, 本試験で得られたデータからは, 温度, 水分活性, 培養時間, 糖の種類等の各種環境要因によって, 菌の増殖確率がどのように変化するか等, 他にも様々な情報を導き出すことが可能である. 50 100 150 200 250 菌菌が6.0logCFU/ml に達すすすすす培培培培 (hour) 4 まとめ (1) 市販の和菓子等から分離した耐熱性芽胞菌 42 図 2 30 培養時の水分活性と増殖時間の実測値と計算値の適合 : 実測値の平均実線 : 計算値 株から, 耐熱性や高浸透圧ストレスへの耐性が最も高い B.subtilis を 高浸透圧ストレス耐性株 として選抜した. (2) 選抜菌を用いて, スクロース, グルコース, フルクトースの各糖について, 各種水分活性におけ

る菌の増殖挙動を調べた結果, スクロースと比較してグルコースやフルクトースは, より高い水分活性で B.subtilis の増殖を抑制することが確認できた. (3) スクロースで水分活性を調整した際に得られたデータについて解析を行い, 水分活性から, 菌の増殖時間を予測するモデルを構築した. 謝辞本研究は平成 21 年度 JST シーズ発掘試験 和菓子の賞味期限予測のための耐熱性芽胞菌増殖予測モデルの開発 の助成を受けて実施した. また, データ解析手法について貴重なご助言を頂いた, 独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構食品総合研究所の小関成樹博士に深謝する. 参考文献 1)Schaeffer, P., J. Millet, and J.-P. Aubert. Catabolic repression of bacterial sporulation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.54(3), pp.704-711(1965) 2)R. Development Core Team (2008). R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria. ISBN 3-900051 -07-0, URL http://www.r-project.org