病などにより筋たんぱく分解因子である炎症性サイトカインが増加し その結果 サルコ ペニアが発症すると考えられる この中で 我々が介入できうるものとしては 合成因子 の運動と栄養が挙げられる サルコペニアのアルゴリズムと有病率我々はサルコペニアの診断について SSCWD(Society on Sarc

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高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

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2. 栄養管理計画のすすめ方 給食施設における栄養管理計画は, 提供する食事を中心とした計画と, 対象者を中心とした計画があります 計画を進める際は, それぞれの施設の種類や目的に応じて,PDCA サイクルに基づき行うことが重要です 1. 食事を提供する対象者の特性の把握 ( 個人のアセスメントと栄

日本内科学会雑誌第104巻第12号

宅ベースでの 10 週間のトレーニング ウォーキングのみ 筋内脂肪指標 (a.u.) 80 * ウォーキング群 ウォーキング + レジスタンス運動 * ウォーキング + レジスタンス群 トレーニング前トレーニング後 トレーニング前後の筋内脂肪指標の低下率

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

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Ⅰ 目的わが国は世界一の超高齢社会を構成しており 筋骨格系の健康を保つことが要介護 要支援を予防するうえで重要となってきている 約 1200 万人といわれる骨粗鬆症は高齢者の疾患であり 1) 骨折は寝たきりにつながる原因疾患であり 骨折患者の介護費 医療費などは年々増加の一途であるばかりでなく 生命

保健機能食品制度 特定保健用食品 には その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をすることができる 栄養機能食品 には 栄養成分の機能の表示をすることができる 食品 医薬品 健康食品 栄養機能食品 栄養成分の機能の表示ができる ( 例 ) カルシウムは骨や歯の形成に 特別用途食品 特定保健用

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高齢者の筋肉内への脂肪蓄積はサルコペニアと運動機能低下に関係する ポイント 高齢者の筋肉内に霜降り状に蓄積する脂肪 ( 筋内脂肪 ) を超音波画像を使って計測し, 高齢者の運動機能や体組成などの因子と関係するのかについて検討しました 高齢男性の筋内脂肪は,1) 筋肉の量,2) 脚の筋力指標となる椅子

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2 11. 脂肪 蓄 必 12. 競技 引退 食事 気 使 13. 日 練習内容 食事内容 量 気 使 14. 競技 目標 達成 多少身体 無理 食事 仕方 15. 摂取 16. 以外 摂取 17. 自身 一日 摂取 量 把握 18. 一般男性 ( 性. 一日 必要 摂取 把握 19. 既往歴 図

11.【最終版】プレスリリース修正  循環器内科泉家

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(3) 摂取する上での注意事項 ( 該当するものがあれば記載 ) 機能性関与成分と医薬品との相互作用に関する情報を国立健康 栄養研究所 健康食品 有効性 安全性データベース 城西大学食品 医薬品相互作用データベース CiNii Articles で検索しました その結果 検索した範囲内では 相互作用

(2) 高齢者の福祉 ア 要支援 要介護認定者数の推移 介護保険制度が始まった平成 12 年度と平成 24 年度と比較すると 65 歳以上の第 1 号被保険者のうち 要介護者又は要支援者と認定された人は 平成 12 年度末では約 247 万 1 千人であったのが 平成 24 年度末には約 545 万

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カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

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資料編

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

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11 平成 21 年度介護予防事業実施状況について 平成 22 年 7 月 大阪市健康福祉局健康づくり担当

問 2 次の文中のの部分を選択肢の中の適切な語句で埋め 完全な文章とせよ なお 本問は平成 28 年厚生労働白書を参照している A とは 地域の事情に応じて高齢者が 可能な限り 住み慣れた地域で B に応じ自立した日常生活を営むことができるよう 医療 介護 介護予防 C 及び自立した日常生活の支援が

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第6号-2/8)最前線(大矢)

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メ夕ボリック症候群と筋骨格系疾患との関連 ( 日本の研究 2015 年 ) 筋骨格系疾患とメ夕ボリック症候群の関連につき 30~80 歳代の男性 466 人 女性 918 人を対象に検討した 膝関節症があると高血圧 脂質異常になりやすく 高血圧 耐糖能異常があると膝関節症になりやすい また肥満がある

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

01. 表紙

要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

相模女子大学 2017( 平成 29) 年度第 3 年次編入学試験 学力試験問題 ( 食品学分野 栄養学分野 ) 栄養科学部健康栄養学科 2016 年 7 月 2 日 ( 土 )11 時 30 分 ~13 時 00 分 注意事項 1. 監督の指示があるまで 問題用紙を開いてはいけません 2. 開始の

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平成 28 年 2 月以降に認定更新等により要支援認定を受けた方が介護予防訪問介護 介護予防通所介護を利用される場合 これまでの予防給付サービスから総合事業のサービスに変わります 要支援者の認定有効期間は現在最長 12か月ですので 大川市は平成 28 年 2 月から1 年かけて移行します 更新の場合

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ン投与を組み合わせた膵島移植手術法を新たに樹立しました 移植後の膵島に十分な栄養血管が構築されるまでの間 移植膵島をしっかりと休めることで 生着率が改善することが明らかとなりました ( 図 1) この新規の膵島移植手術法は 極めてシンプルかつ現実的な治療法であり 臨床現場での今後の普及が期待されます

(Pantothenic acid, C 9 H 17 NO 5, MW: CH 3 OH HOCH 2 C CHCONHCH 2 CH 2 COOH CH 3 (Calcium pantothenate, C 18 H 32 CaN 2 O 10, MW: ) CH 3

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 庄司仁孝 論文審査担当者 主査深山治久副査倉林亨, 鈴木哲也 論文題目 The prognosis of dysphagia patients over 100 years old ( 論文内容の要旨 ) < 要旨 > 日本人の平均寿命は世界で最も高い水準であり

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結果の概要

( 国内流通製品 ) XMプロテインモリンガ +ホエイプロテインサプリメントシェイクタンパク質は アミノ酸の基本構成から成る複雑な分子です 人間のからだはこのタンパク質を必須アミノ酸に分解し 細胞に吸収させています その後 細胞内でアミノ酸が筋肉の構築や効果的な酵素反応を起こすタンパク質に再構築され

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

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平成 20 年度版 健康生活応援モデル事業 健康づくりのための Health Foods 運動と肥満 理論から実践へ 岡山大学スポーツ教育センター岡山県

利用者基本情報 基本情報 作成担当者 : 相談日年月日 ( ) 来 所 電話 その他 ( ) 初回 再来 ( 前 / ) 本人の現況在宅 入院又は入所中 ( ) フリガナ 本人氏名 男 女 M T S 年月日生 ( ) 歳 Tel ( ) 住 所 Fax ( ) 日常生活 障害高齢者の日常生活自立度

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[ 原著論文 ] メタボリックシンドローム該当者の年齢別要因比較 5 年間の健康診断結果より A cross primary factors comparative study of metabolic syndrome among the age. from health checkup resu

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

Transcription:

サルコペニアと介護予防 山田実 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 元気な高齢者であっても 無為に過ごせばサルコペニア さらには要介護状態になってゆく可能性は非常に高い 現在我が国としては 要介護を上手く予防しながら健康に老いていくこと (successful aging) を目指している そこで今回はサルコペニアの発症メカニズム 要因 評価基準を概説するとともに その予防 治療における運動 栄養 特にビタミン D の効果を述べる サルコペニアの発症メカニズムと要因サルコペニアとは 筋肉が著しく萎縮し脂肪量が増えている状態であり 転倒 骨折 移動能力の低下 ADL( 日常生活動作 ) 制限 死亡 各種疾病発症などの様々な悪影響を及ぼし 要介護の主要な原因となっている 筋肉は骨代謝と同様に 筋たんぱくの合成と分解とのバランスで維持されているが サルコペニアは加齢に伴い 筋たんぱく合成因子 (IGF-1: インスリン様成長因子 運動 テストステロン ビタミン D アミノ酸など) が減少する一方で 各種疾病の増加により炎症性サイトカイン (TNF-α IL-6 など ) が増加し 筋たんぱく分解が合成を上回ることで発症すると考えられる ( 図 1) この中で 加齢とともに筋たんぱく合成因子が減少し 疾 運動 分泌調整 GH 成長ホルモン IGF-1 インスリン様成長因子 増殖 サテライト細胞 テストステロン 男性ホルモン 蛋白合成 蛋白分解 VDR ビタミン D レセプター TNF-α 蛋白合成 炎症性サイトカイン IL-6 アミノ酸 Vitamin D 図 1. サルコペニアのメカニズム

病などにより筋たんぱく分解因子である炎症性サイトカインが増加し その結果 サルコ ペニアが発症すると考えられる この中で 我々が介入できうるものとしては 合成因子 の運動と栄養が挙げられる サルコペニアのアルゴリズムと有病率我々はサルコペニアの診断について SSCWD(Society on Sarcopenia, Cachexia and Wasting Disorders) の基準を参考に BIA(bioelectrical impedance analysis: バイオインピーダンス法 ) による1 筋肉量 (SMI: 骨格筋指数 = 四肢筋肉量 (kg)/ 身長 (m) 2 ) と 2 歩行速度を基に判定し 1) この 2 項目に該当した者をサルコペニア 筋肉量低下のみに該当した者をサルコペニア予備群と定義している BIA を用いたサルコペニアの SMI 基準値は 我々のデータ調査 (16 ~ 100 歳 約 8 万人 ) では女性で 4.88kg/m 2, 男性で 6.61 kg/m 2 以下となっている このアルゴニズムに基づくサルコペニア有病率は 一般高齢者 1,100 名中 サルコペニア 20% サルコペニア予備群 23% に対して 要支援 要介護認定者 636 名では サルコペニア 89% サルコペニア予備群 8% に達した また 近年特に問題視されている肥満 (BMI25 以上 ) を伴うサルコペニアは 一般高齢者で 3% に過ぎなかったが 要介護高齢者では 21% に及んだことから 肥満を伴うサルコペニアは要介護リスクが高いと考えられる 我々はサルコペニアをより簡便にスクリーニングできる方法も考案中である サルコペニアに関連した約 30 の質問項目とサルコペニアの関連性を調べたところ 1 BMI<21 2 年齢 75 歳 3 以前と比べて手足が細くなってきたと感じる の 3 項目との関連性が強く この 3 項目中 2 項目に該当する場合 サルコペニアに該当する可能性は 81.9% であった また 1 項目該当でサルコペニア予備群と評価すべきとの結果を得ている 未だ完成途上ではあるが こうした極めて簡便な指標を用いることで 今後誰もが容易にサルコペニアを判定できるシステムを構築できればと考えている ( 表 1) 表 1. サルコペニア簡便判定法 ( 案 ) 1. BMI < 21 2. Age 75 3. 以前と比べて手足が細くなってきたと感じる 2 項目該当でサルコペニアに該当する可能性 81.9% 1 項目該当でも予備具として扱うべき 0 項目該当ではサルコペニアの該当者なし サルコペニアへの運動および栄養介入の効果 高齢者における筋肉トレーニングによる筋肉量や筋力の増大効果についての報告が増え つつある 2)3)4)

要介護支援者 (75.8±4.5 歳 n=324) を対象に 我々が実施した筋肉トレーニング ( 週 3 回 ) では 3 ヵ月後では筋肉量の増加は認められず 9 ヵ月後 2.7% 1 年後 5% の増加が認められた 5) ( 図 2) 要介護者は一般高齢者に比べ筋肉量が概ね 5% 少ない ( 図 3) ことから 1 年間のトレーニングで一般高齢者に近づくことになるが かなり長期間の介入が必要といえる 75.8±4.5yr N=324 6.00 5.50 ** 5.5% up ** 2.7% up * 1.3% up n.s 5.00 4.50 4.53 4.56 4.59 4.64 4.78 4.00 3.50 1 2 3 4 5 pre 3M 6M 9M 12M Yamada M, et al. Age Ageing 2011 図 2. 筋肉量の増加速度 female male ** ** 4 % 6 % 一般高齢者 n=1531 要介護者 n=483 一般高齢者 n=480 要介護者 n=886 図 3. 一般高齢者と要介護者の SMI

最近 栄養介入による効果が注目されてきている中で 炭水化物と必須アミノ酸からなるアミノ酸補助食品摂取による筋力および歩行能力の改善が報告されている 6) 一方 70 歳以上の施設入所高齢者を対象に 栄養群 運動 ( 週 3 回 ) 群 栄養 + 運動群の 10 週間の介入効果を調べた研究では 栄養 + 運動群に最も筋力 運動機能の向上が認められ 栄養 運動併用の重要性が示唆された 7) ビタミン D の筋力増加と転倒抑制効果近年 ビタミン D 投不による筋力増加および転倒抑制効果が無作為化比較対照試験において報告されている Bischoff HA らは 高齢女性 122 例を無作為にカルシウム+ビタミン D(Ca+VD) 補充群とカルシウム (Ca) 補充群に割付け 12 週間投不したところ Ca+VD 群では Ca 群に比べ転倒回数が 49% 減少し (p<0.01) 骨格筋機能も有意に改善することを認め (P=0.0094) ビタミン D の転倒抑制効果が骨格筋機能改善によるものと示唆した 8) Neelemaat F らも 高齢者を対象とした無作為化試験において 栄養 +ビタミン D 補充により転倒件数が対照群に比べ有意に減少したことを報告している 9) ビタミン D は日光に当たることにより皮膚から合成される経路と 食物摂取からの経路とがあるが 加齢に伴う皮膚のビタミン D 前駆体の合成能低下や 肝臓 腎臓経由で生成される活性型ビタミン D の合成能低下も報告されている 10) 日本人のビタミン D の食餌摂取基準は 5.5μg/ 日であるが よりビタミン D 摂取が必要と考えられるサルコペニアで 1 日のビタミン D 摂取量が 6.5μg 以下の者が多いことも調査で明らかにされている 高齢者におけるビタミン D 丌足が懸念され 食物からの摂取量を増やす必要があると考えられる 要介護者における栄養補助食品の効果高齢者ではたんぱく質やビタミン D などを豊富に含む食事を摂取することが望ましいが 特に独居の多い高齢者が日々摂取するのはなかなか困難であると予想される こうした高齢者の栄養の観点から リソース ペムパルアクティブ ( ネスレ日本社 ) などの栄養補助食品が非常に有用と考えられ 最近注目が集まっている 本品は 1 パック 200 kcal(125 ml) 中 ビタミン D 12.5μg たんぱく質 10.0g(BCAA: 分岐鎖アミノ酸 バリン ロイシン イソロイシン 2,500 mg) の他 主要ミネラル ビタミンを含む そこで 栄養補助の効果を調べるため 筋力低下が認められる要介護者 77 名を運動 + 栄養補助群 (n=38) と運動のみ群 (n=39) に分け 3 ヵ月間介入を行った 運動は筋肉トレーニングを週 3 回 栄養補助はリソース ペムパルアクティブ 1 パックを週 3 回服用とした その結果 運動 + 栄養補助群では 運動のみ群に比べ筋肉量が有意に上昇し (5.4%) 歩行速度も改善した 11) ( 図 4) 既に図 2 図 3 でも見たように 要介護者は一般高齢者に比べ筋肉量が概ね 5% 少ないが 運動のみの場合はその 5% の筋肉量増加に 1 年間を要している 本試験において 3 ヵ月間で 1 年分相当の筋肉量増加を観察できたことは特筆すべき

である Skeletal muscle mass 6.00 5.50 5.00 4.50 4.00 3.50 ** n.s. 5.4% up Group time interaction F=8.61 P=0.004** 3.00 1 2 Pre Post S/Ex group Pre Post Ex group Yamada M, et al. Journal of Frailty & Aging 2012 図 4. 栄養補助の効果 おわりにサルコペニアにおけるアミノ酸 たんぱく質 ビタミン D などの成分の効果が次第に明らかになってきており これらの成分を含む栄養補助食品は運動との併用により より高い効果が期待される 今後我が国では 医療費 介護費の急速な増大が予想されることから その抑制の意味でも こうした予防介入が介護現場だけでなく 一般高齢者にまで広く展開されることを願いたい 参考文献 1. Morley JE, et al. Sarcopenia with limited mobility : an international consensus. J Am Med Dir Assoc. 12 (6) : 403-409 (2011). 2. American College of Sports Medicine Position Stand. Exercise and physical activity for older adults. Med Sci Sports Exerc. 30 (6) : 992-1008 (1998). 3. Hunter GR, et al. Effects of resistance training on older adults. Sports Med. 34 (5) : 329-348 (2004). 4. Peterson MD, et al. Resistance exercise for muscular strength in older adults : a meta-analysis. Ageing Res Rev. 9 (3) : 226-237 (2010). 5. Yamada M, et al. Effect of resistance training on physical performance and fear of falling in

elderly with different levels of physical well-being. Age Ageing. 40 (5) : 637-641 (2011). 6. Scognamiglio R, et al. The effects of oral amino acid intake on ambulatory capacity in elderly subjects. Aging Clin Exp Res. 16 (6) : 443-447 (2004). 7. Fiatarone MA, et al. Exercise training and nutritional supplementation for physical frailty in very elderly people. N Engl J Med. 330 (25) : 1769-1775 (1994). 8. Bischoff HA, et al. Effects of vitamin D and calcium supplementation on falls : a randomized controlled trial. J Bone Miner Res. 18 (2) : 343-351 (2003). 9. Neelemaat F, et al. Short-term oral nutritional intervention with protein and vitamin D decreases falls in malnourished older adults. J Am Geriatr Soc. 60 (4) : 691-699 (2012). 10. Yamada M, et al. in preparation. 11. Yamada M, et al. Nutritional supplementation during resistance training improved skeletal muscle mass in community-dwelling frail older adults. The Journal of Frailty & Aging. 1 (2) : 64-70 (2012). 略歴 2005 年 神戸大学医学部保健学科卒業 2007 年 神戸大学大学院医学系研究科博士前期課程修了 2008 年 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻助手 2010 年 神戸大学大学院医学系研究科博士後期課程修了 ( 保健学博士 ) を経て 同年から京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻助教