神経系 Pharmaceutical education for the general public. Advanced level text to learn medicine. 深井良祐 [ 著 ] 1
目次 第一章. 神経系とは P. 3 1-1. 神経系の仕組み P.3 1-2. 神経系の分類 P.4 第二章. 中枢神経 ( 脳で働く神経伝達物質 ) P. 6 第三章. 自律神経 ( 交感神経と副交感神経 ) P. 7 3-1. 交感神経 P.7 3-2. 副交感神経 P.8 3-3. 自律神経と効果器の働き P.9 3-4. 自律神経に作用する薬 P.10 2
第一章. 神経系とは 私たちは 60 兆個の細胞で構成されています ただし これら細胞が存在していたとしても互いに 連結していなければ意味がありません この情報伝達の役割をする組織として神経系があります この神経系によって 私たちはさまざまな事を実行することができます 例えば 物を見るや痛 みを感じるなどは シグナルとして神経系を伝わることで脳が感知します これによって 映像と して感知したり ズキズキした痛みを感じたりします 同じように 力を入れるなどの指令も神経系を伝わることで実行することができます このよう に 神経系はシグナルを伝えるための連絡網として重要な役割を果たしています 1-1. 神経系の仕組み前述の通り 神経は痛みを感じたり命令を実行したりするための信号 ( シグナル ) を伝える役割を果たしています そのため もし神経が切断されれば全く痛みを感じなくなります それと同時に運動などもできなくなります これは信号が脳まで送られなくなるからです この神経系は神経細胞がたくさん繋がることで 神経を形成しています 例えば 脳は 1000 億以 上の神経細胞が密に形成することで複雑な回路を形成しています そして重要なのは 神経細胞と神経細胞との間には隙間がある という事です 隙間があるため そのままの状態ではシグナルとして神経を伝わりません そこで 神経細胞と神経細胞との情報伝 達を行うための物質が必要となります このような物質を神経伝達物質と言います 3
この神経伝達物質にも様々な種類があり それぞれ役割が異なります 例えば 運動時など興奮 した時に分泌されるアドレナリンがあれば その逆に体を休めている時に活発に分泌されるアセチ ルコリンなどがあります それぞれの役割については後述するため 現段階では完全に理解できなくても問題ありません 1-2. 神経系の分類 神経系はいくつかの種類に分けることができます それぞれのポイントを分解して解説していき ます 中枢神経と末梢神経 神経系において最初の分類分けとして中枢神経と末梢神経があります 中枢神経は脳と脊髄のことを指します 中枢には 中心となる大切な部分 という意味がありま す 同じように 脳は物事を考えたり指令を出したりする司令塔としての役割を果たしています そのため これら人の体の中枢を担っている脳と脊髄を併せて中枢神経と呼びます それに対して 末梢神経は 中枢神経以外の神経系 を指します 例えば 手や足に存在する神 経 や 心臓 肺などの臓器に存在する神経 などがこれに該当します これらの神経は脳や脊髄 以外の神経であり これら全て含めて末梢神経と言われます 末梢神経は中枢神経に繋がり そこから全身に伸びています 脳や脊髄などの中枢からのシグナ ルを体全体に伝えるため 末梢神経はとても重要な役割を果たしています 4
自律神経と体性神経 中枢神経からの命令を全身に伝える末梢神経は さらに二つに分けられます この二つとして 自律神経と体性神経があります この二つを見極めるのは簡単であり 自分の意思によって動かせるかどうか で判断することが できます 例えば 自律神経としては消化管運動や心機能亢進などに関与しています 食べ物を食べた後の 消化液分泌は意識せずに行われ 自分の意思で心臓の動きを止めることはできません このように 本人の意思とは全く関係なしに働く機能調節 が自律神経です これに対し 体性神経は 自分の意思に関わって働く機能 に関与しています 例えば 手を動 かす や 足を曲げる などは脳で意識することで実行することができます 体性神経は 運動神経 と 知覚神経 に分けられますが 重要度がかなり低く理解しなくても 問題ないため説明を省きます 交感神経と副交感神経 さらに 自律神経系は二つの神経に分けられます この神経として交感神経と副交感神経があり ます 前述の通り 自律神経は自分の意思で動かすことのできない神経です この 意思と関係なく働 く神経 としては臓器の働きを調節する神経が分かりやすいです 心臓や肝臓 腎臓などの働きを 自分の意思で調節することはできません そして 実はこの自分の意思とは無関係に働く神経が二種類あります この二種類が交感神経と 副交感神経です 5
第二章. 中枢神経 ( 脳で働く神経伝達物質 ) 脳は物を考えて指令を出す中枢としての働きをします この脳からの指令は脊髄を通る必要があ ります シグナルが脊髄を通った後 全身に伝わる末梢神経へと伝達されます この時 中枢神経においてさまざまな神経伝達物質のやり取りが行われます このような神経伝 達物質としてはノルアドレナリン セロトニン ドパミン アセチルコリンがあります 神経伝達物質の種類 機能 ノルアドレナリン (NA) セロトニン (5-TH) 神経の興奮に関与 意欲 不安 恐怖と関係 集中力や記憶力を高める 精神を安定させる作用をもつ 食欲や体温調節 運動 睡眠など様々な体の機能に関与 ドパミン (DA) 快感や学習 意欲に関わる 脳の覚醒や集中力を高める アセチルコリン (ACh) 学習 記憶に関わる 眠りや目覚めにも関与 6
第三章. 自律神経 ( 交感神経と副交感神経 ) 末梢神経は 自分の意思で動かすことが可能である体性神経 と 自分の意思ではコントロール が不可能である自律神経 の二つに分けることができます この中でも 自律神経はさらに交感神経と副交感神経の二つに分けられます つまり 自律神経 は二つの異なる神経系によって支配されています なお 交感神経と副交感神経は それぞれ反対の働きをする と考えれば良いです 3-1. 交感神経 運動をしている時 私たちは興奮している状態となります この時 心臓の拍動数は早くなり 汗が分泌されるようになります このように 体を活発に活動させる時に働く神経が交感神経です 交感神経は 闘争と逃走の神 経 と呼ばれています 闘争として相手と戦う時 体は緊張して心臓の鼓動は早くなり 血圧が上がります 相手をよく 見るために瞳孔は散大し 呼吸は激しくなります 同じように 自分を狙う相手から本気で逃げる 時も体は興奮した状態となります 体が活発に活動している時を想像すれば 交感神経が興奮した時の働きを容易に想像することが できます 交感神経を興奮させる神経伝達物質として アドレナリンやノルアドレナリンがあります これ らのシグナルが受容体に作用することで 血圧が上昇して瞳孔は散大します アドレナリンやノルアドレナリンが作用する受容体として α 受容体や β 受容体があります ただ し これらを厳密に理解する必要はありません アドレナリンやノルアドレナリンが α 受容体や β 受容体に作用することで 運動時のような興 奮状態となる という事が理解できれば良いです 7
3-2. 副交感神経 副交感神経は交感神経の逆の働きをする と考えれば良いです 交感神経は運動時などの興奮 した時に活発となるのに対して 副交感神経は体がゆったりとしている時に強く働きます 例えば 食事中は気分を落ち着かせて食べるのが基本です 睡眠中も同じように体を休めている 状態です このように 食事中や睡眠時など体を落ち着かせている時に強く働く神経が副交感神経 です これら体を休めている時の状態を想像すれば 副交感神経がどのような働きをするかを容易に理 解することができます 例えば食事をしている時 胃酸がたくさん分泌されて腸の運動は活発になります 副交感神経が 興奮することにより 食物の消化に関わる機能が活発になります また 副交感神経は交感神経と 逆の働きをするため 心臓の機能は抑制されます 副交感神経は神経伝達物質の一つであるアセチルコリンによって興奮します このとき アセチ ルコリンが作用する受容体をムスカリン受容体と呼びます 副交感神経が興奮するには アセチル コリンによってムスカリン受容体を刺激する必要があります 交感神経と副交感神経の違い 神経系の種類 交感神経 機能 働き アドレナリン ノルアドレナリンが作用する 運動時など 体が興奮している時に働く 副交感神経 アセチルコリンが作用する 食事中や睡眠時など 体がゆったりとしている時に働く 8
3-3. 自律神経と効果器の働き 自律神経を学ぶことで 多くの薬を理解することができます この表を下に示しますが 一見と ても複雑のように思えます しかし 実は当たり前の事を書いている表であることを理解することもできます 交感神経器官副交感神経 散大瞳孔縮小 分泌 ( 濃い粘りのある液 ) 唾液 分泌 ( 大量の薄い液 ) 拡張気管支収縮 収縮末梢血管拡張 亢進 ( 拍動数増加 ) 抑制 心機能 消化管運動 ( 胃腸の蠕動運動 ) 抑制 ( 拍動数減少 ) 亢進 分泌抑制胃液 膵液分泌増加 排尿を妨げる膀胱 ( 排尿 ) 排尿促進 交感神経興奮は運動時など体を活発に動かしている時を想像してもらえば良いです このとき心 臓の鼓動は早くなり 消化管の機能は抑制され 唾液は粘っこくなります それに対し 食事をしている時など副交感神経は体を休めている場面を想像すれば良いです 体 を休めているので心臓の鼓動はゆっくりで 食事の時は胃や腸などの消化管運動が活発になり 唾 液は比較的サラサラなものとなります 9
3-4. 自律神経に作用する薬 自律神経の作用を理解すれば 多くの薬の作用機序を理解することができます 以下に 自律神 経に作用する薬の例を示しています 例えば交感神経であれば α 受容体や β 受容体に作用して交感神経を興奮させれば気管支拡張や 血管収縮などの作用を得ることができます 他にも食事中など副交感神経が興奮している時は胃や腸などの運動が活発になっています つま り 副交感神経を刺激する薬を投与すれば消化器系 ( 胃や腸など ) の機能を改善できることが分か ります その反対に交感神経を抑制するように働けば 心臓の機能は抑制されて血管は拡張することが分 かります これらの作用によって 病気を治療することが可能となります このように 自律神経を理解することで薬に関しても応用することができます 10