くらぶち草の会の野菜、畑作栽培技術

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取組の詳細 作期の異なる品種導入による作期分散 記載例 品種名や収穫時期等について 26 年度に比べ作期が分散することが確認できるよう記載 主食用米について 新たに導入する品種 継続使用する品種全てを記載 26 年度と 27 年度の品種ごとの作付面積を記載し 下に合計作付面積を記載 ( 行が足りない

平成 26 年度補正予算 :200 億円 1

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3 園芸作物 < 果菜類 > 1-1 トマト [ ハウス ] ア導入すべき持続性の高い農業生産方式の内容 トマトは主に道央 道南および道北の施設で栽培され 作型は促成 ( ハウス加温 マルチ ) 半促成 ( ハウス マルチ ) 抑制 ( ハウス ) などである 品種は 桃太郎 ハウス桃太郎 桃太郎

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1. 取組の背景射水市大門地域は 10a 区画の未整備な湿田が多く 営農上の大きな障害となっていた 昭和 62 年に下条地区で県内初の大区画圃場整備が実施されたのを皮切りに 順次圃場整備が進んでいる 大区画圃場整備事業が現在の 経営体育成基盤整備事業 になってからは 農地集積に加えて法人化等の担い手

表 30m の長さの簡易ハウス ( 約 1a) の設置に要する経費 資材名 規格 単価 数量 金額 キュウリ用支柱 アーチパイプ ,690 直管 5.5m 19mm ,700 クロスワン 19mm 19mm ,525 天ビニル 農 PO 0.1mm

失敗しない堆肥の使い方と施用効果

圃場試験場所 : 県農業研究センター 作物残留試験 ( C-N ) 圃場試験明細書 1/6 圃場試験明細書 1. 分析対象物質 およびその代謝物 2. 被験物質 (1) 名称 液剤 (2) 有効成分名および含有率 :10% (3) ロット番号 ABC 試験作物名オクラ品種名アーリーファ

チャレンシ<3099>生こ<3099>みタ<3099>イエット2013.indd

速報

2 作物ごとの取組方針 (1) 主食用米本県産米は 県産 ヒノヒカリ が 平成 22 年から平成 27 年まで 米の食味ランキングで6 年連続特 Aの評価を獲得するなど 高品質米をアピールするブランド化を図りながら 生産数量目標に沿った作付けの推進を図る また 平成 30 年からの米政策改革の着実な

ウ WCS 用稲本市は県内最大の酪農地帯であるため 需要に応じた生産確保に努め 多収品種の推進 病害虫防除や雑草管理など適切な圃場管理を行う また についても実施する エ加工用米実需者の要望に対応できるよう 産地交付金を活用して複数年契約を進めることにより安 定的な供給を目指し 担い手の作付維持 (

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目 的 大豆は他作物と比較して カドミウムを吸収しやすい作物であることから 米のカドミウム濃度が相対的に高いと判断される地域では 大豆のカドミウム濃度も高くなることが予想されます 現在 大豆中のカドミウムに関する食品衛生法の規格基準は設定されていませんが 食品を経由したカドミウムの摂取量を可能な限り

新規前年度継続 ( 変更あり ) 前年度継続 加工用米助成 ( 基幹作物 ) 豊郷町農業再生協議会整理番号 2 加工用米 ( 基幹作物 ) 1,079 円 /10a 参考となる 3 1,300 円 /10a 豊郷町では加工用米を地域振興作物に位置付けている 一定品質を確保するために 種子更新を行って

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江府町地域協議会活用明細

長野県主要農作物等種子条例 ( 仮称 ) 骨子 ( 案 ) に関する参考資料 1 骨子 ( 案 ) の項目と種子の生産供給の仕組み 主要農作物種子法 ( 以下 種子法 という ) で規定されていた項目については 長野県主要農作物等種子条例 ( 仮称 ) の骨子 ( 案 ) において すべて盛り込むこ

15 表 1 平成 7 野菜の 1a 当たり収量 及び ( 全国 ) 計 品目 1 a 当たり収量 対前比 1 a 当たり収量 474,7 1,654, 11,66, 99 nc nc 根 菜 類 164,7 5,11, 4,49, nc だ い こ ん,9 4,6 1

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野菜 成分分析値による品質評価_xlsx

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「公共工事の品確法と今後の建設業《山形県の・・・

Ⅲ-3-(1)施設花き

PC農法研究会

1 課題 目標 山陽小野田市のうち 山陽地区においては 5 つの集落営農法人が設立されている 小麦については新たに栽培開始する法人と作付面積を拡大させる法人があり これらの経営体質強化や収量向上等のため 既存資源の活用のシステム化を図る 山陽地区 水稲 大豆 小麦 野菜 農業生産法人 A 新規 農業

排水対策の実施例 暗渠がある場合排水がよいほ場 排水が悪いほ場 周囲明渠 弾丸暗渠 心土破砕は 2 ~5m おきに行う 周囲明渠は深さ 30 cmを確保する 周囲明渠は排水口に確実に接続する 弾丸暗渠本暗渠 暗渠がない場合排水がよいほ場 排水がよく 長辺が長いほ場 100m 以 ほ場内排水溝は4 ~

問 2. 現在 該当区域内に居住していますか 1. 居住している % 2. 居住していない % 無回答 % % 単位 : 人 1.9% 32.7% 65.4% 1. 居住している 2. 居住していない無回答 回答者のうち 居住者が約 65

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唐津市農業委員会 農地等の利用の最適化の推進に関する指針 平成 2 9 年 11 月 8 日 唐津市農業委員会 第 1 基本的な考え方農業委員会等に関する法律 ( 昭和 26 年法律第 88 号 以下 法 といいます ) の改正法が平成 28 年 4 月 1 日に施行され 農業委員会においては 農地

日本の農業の現況 就農人口 100 万人減 /10 年 耕作放棄地 424 千 ha 農家の平均年齢 67 歳 農業法人 1 万 8 千 10 年で倍増 1

コシヒカリの上手な施肥

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農家圃場における    メタン発酵消化液を用いた              栽培実証試験

Taro-農業被害の概要

H30年産そば方針

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材料および方法

宮城県 競争力のある大規模土地利用型経営体の育成 活動期間 : 平成 27~29 年度 ( 継続中 ) 1. 取組の背景震災により多くの生産基盤が失われ, それに起因する離農や全体的な担い手の減少, 高齢化の進行による生産力の低下が懸念されており, 持続可能な農業生産の展開を可能にする 地域営農シス

Ⅰ 収穫量及び作柄概況 - 7 -

目次 はじめに 1 液肥を使うための畑の準備 2 液肥のまきかた 2 液肥の散布は 少量で多回数 が効果的 2 液肥は野菜の株元へ散布する 2 天気が良い時に液肥を散布しましょう 3 液肥の成分 4 液肥の効果を補いたい場合 4 野菜への使い方 こまつな 5 レタス 6 ほうれんそう 7 ちんげんさ


画面遷移

めに必要な情報を提供するとともに 2 関係者一体となった契約栽培等の需要と直結した生産を推進していく また 生産者の収益性向上につながる地域の気候風土を活かした特色ある野菜等園芸作物への作付を促進し 産地づくりを進めていくため 生産者への作付誘導のインセンティブとなる産地交付金を戦略的に活用していく

第 2 章 栗山農業 農村 農家の 現状と課題

温度 平成 23 年平均平成 23 年最高平成 23 年最低平均気温 ( 平年値 ) 最高気温 ( 平年値 ) 最低気温 ( 平年値 ) 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 図 1 生育期間中の気温推移 ( 淡路農技内 ) 降水 3 量

2018 年度 ( 平成 30 年度 ) 1 せんばつ福山市立福山中学校入学者選抜 適性検査 検査 1 問題 ( 時間 45 分 ) じこう 注意事項 1 指示があるまで, 中を見てはいけません 2 問題用紙に, 受検番号と名前を記入しなさい ( 受検番号は入学者選抜受検票の番号です ) 3 2 枚

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様式集

資料 4 農地情報公開システムの概要 ( 通称 : 全国農地ナビ ) 平成 2 7 年 5 月

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スプレーストック採花時期 採花物調査の結果を表 2 に示した スプレーストックは主軸だけでなく 主軸の下部から発生する側枝も採花できるため 主軸と側枝を分けて調査を行った 主軸と側枝では 側枝の方が先に採花が始まった 側枝について 1 区は春彼岸前に採花が終了した 3 区 4 区は春彼岸の期間中に採

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4 農林業 経営耕地面積割合 ( 農家数 ) ( 平成 27 年 ) 畑 63.4% (171 戸 ) 田 11.3% (53 戸 ) 樹園地 25.3% (102 戸 )

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「白神ねぎ」と園芸メガ団地の取組み

収入保険制度と既存の類似制度と の比較のポイント 平成 30 年 6 月

活動して良かったこと 追加支援 促進費 にてグランドカバープランツによる除草対策に取組んだため 要件である自主施工の達成に向けて地域住民が一体となり本対策に取組めた また 地域内の水路 農道の維持管理の省力化へ向けた活動を自らの手で行うことにより 地域住民による共同活動への自信が生まれ 更なる意識の

04 栽培履歴管理表(別添B)岩農H30 A科

どうして GAP を導入するの? 産地や農家が安定した経営を続けるためには 次のような取組が必要です 産地の信頼を守るための体制を作りましょう 安全な農産物の生産は農家の責務です また 産地の農家のうち 1 人でも問題を起こせば 産地全体で出荷停止や商品回収を行わなければならず その後の取引にも影響

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11 表 1 平成 5 野菜の 1a 当たり収量 及び ( 全国 ) 計 1 a 当たり収量 対前比 1 a 当たり収量 ( 参考 ) 対平均収量比 481,1 1,551, 11,451, 99 nc nc 根 菜 類 169,5 5,144, 4,6, 98 nc nc

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営農計画策定支援システム Z-BFM 操作マニュアル JA 全農営農販売企画部農研機構経営管理プロジェクト

Message for Tomorrow 有機農業を仕事にしようとする皆様へ 市民農園で趣味程度に栽培をはじめるだけ 農産物は 販売できてはじめてその価値が なら 農業はそれほど難しいものではありま 発揮され 生活の糧となります その価格の せん しかし 生計をたてていこうと考える 中には 土づくり

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インドネシア・ジャワ島西部 地震・津波災害に緊急援助物資供与 ~約1300万円の物資を19日に空輸~

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< アンケート集計結果 > 問 1 あなたの世帯構成は次のうちどれに該当しますか? 1 1 人世帯 4 人 2 2 人世帯 11 人 3 3 人世帯 9 人 4 4 人世帯 5 人 5 5 人世帯 2 人 6 6 人世帯 2 人 問 2 お住まいの形態は次のうちどれに該当しますか? 1 一戸建て 3

0.45m1.00m 1.00m 1.00m 0.33m 0.33m 0.33m 0.45m 1.00m 2


リン酸過剰の施設キュウリほ場(灰色低地土)における基肥リン酸無施肥が収量に及ぼす影響

茨城県 消費者ニーズに応えるイチゴ産地の育成 活動期間 : 平成 22 年度 ~ 継続中 1. 取組の背景鉾田地域は, メロン, ピーマン, イチゴ, トマト, 葉菜類などの野菜類の生産が盛んな, 県内有数の野菜園芸産地である 経営体の多くが複数の園芸品目を組み合わせ, 大規模な複合経営を行っている

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AI IoTを活用したスマート農業の加速化 人手不足への対応や生産性の向上を進めるためには ICTを活用したスマート農業の推進が重要 今後人工知能やIoT等の先進技術により 生産現場のみならずサプライチェーン全体にイノ ベーションを起こし 生産性向上や新たな価値創出を推進 1

第二次 浪江町農業再生プログラム     ~平成29年度から3か年での営農再開を目指して~

( 別記 ) 大玉村地域農業再生協議会水田フル活用ビジョン ( 案 ) 1 地域の作物作付の現状 地域が抱える課題 当該地域は 水田面積に占める主食用水稲の割合が 69% で 転作作物に占める割合としては飼料作物が多く 次にそば 野菜がある しかしながら 主食用米の需要が減少する中で さらに他の転作

附則この要領は 平成 4 年 1 月 16 日より施行する この要領は 平成 12 年 4 月 3 日より施行する この要領は 平成 30 年 4 月 1 日より施行する 2

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資料 3-1 人工知能や IoT によるスマート農業の 加速化について ( 案 ) 平成 28 年 11 月

4 奨励品種決定調査 (1) 奨励品種決定調査の種類ア基本調査供試される品種につき 県内での普及に適するか否かについて 栽培試験その他の方法によりその特性の概略を明らかにする イ現地調査県内の自然的経済的条件を勘案して区分した地域 ( 以下 奨励品種適応地域 という ) ごとに 栽培試験を行うことに

調査の仕様

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(2) 優良農家の有機農業技術現地調査結果 1 群馬県高崎市 くらぶち草の会の有機野菜への取組み ( 群馬県高崎市倉渕町代表佐藤茂氏 ) 1. 経営概要 ( 佐藤代表 ) 有機野菜 :7ha 有機栽培年数 :20 年 作付している野菜の種類 :16 種類ホウレンソウ 小松菜 水菜 青梗菜 レタス サニーレタス キャベツ ターサイ トマト ハーブ ( バジル等 ) 大根 インゲン キュウリ等 販売先 : 大地の会 生協 らでぃっしゅボーヤ 地元レストラン 地元病院等 2. 有機野菜取組の経過と考え方 (1) 有機野菜の取組動機と経過有機栽培に取り組む以前は慣行栽培でホウレンソウ チンゲンサイ キャベツ ブロッコリーを栽培していた 主体は高冷地であることを生かした夏のホウレンソウである 昭和 57 年からは品質の良いものを安定して生産するため雨よけホウレンソウに取り組んだ しかし 市場出荷では農家手取額が少なくかなり作付面積を増やさないと経営が苦しかったが 労力的に規模拡大は困難であった このため 直接消費者に農産物を販売することに取り組んだ 旧倉渕村と神奈川県横須賀市が姉妹提携していた関係で横須賀市の団地等に行き自分でビラを配って直接販売した 直接販売を行うと客のニーズがわかるようになり少量多品目生産するとともに 減農薬 減化学肥料栽培を行うようになった 直接販売していく中で消費者に有機農産物を専門に集荷 販売する業者があることを教えてもらった 経営として販売まで行うと規模拡大が図りにくいことから販売は大地の会 らでっしゅボーヤと契約出荷することにより農作物の生産に特化するようにした 有機農業に移行したのは昭和 63 年である 安定した価格で販売できるようになったので生産量を増やしていった 有機農業の栽培面積を拡大するに当たっては周辺地域で耕作放棄地が多く圃場を確保しやすい こうした中で標高 320m~800m と標高差を生かした栽培に取り組んでいる (2) 有機農業の考え方くらぶち草の会は現在 42 人のメンバーがいるが そのうち新規就農者は 27 人である 村の活性化を図るため積極的に新規就農者を受け入れてきた 地元には若い人が少なく 東京 神奈川 埼玉から研修に来て就農した人が多い また 旧倉渕村も新規就農者を受け入れしやすくするため 研修者用住宅を建設したり新規就農者用住宅を斡旋して支 1

援してきている 新規就農者が定着するためには 経営として成り立つ農業を目指す必要があり 一戸あたりの目標売り上げ金額を最低 600 万円としている このためには有機農業といえども規模拡大が必要であり 規模拡大を可能にする技術の確立に取り組んでいる くらぶち草の会のメンバーはこの売り上げ目標を 4~5 年で達成する人が多い こうしたことからくらぶち草の会でこれまで農業やめた人はいない なお 地域の活性化のために農協も必要な組織と考えてそのつながりを重視しており 現在でも代金決済は農協を通じて行っている 3. 有機野菜の栽培技術の特徴 (1) 土づくり雨よけホウレンソウ栽培は化学肥料により栽培してきたら連作障害が発生して作付出来なくなった 堆肥を用いるようになってからそれなりのもの作れるようになった 堆肥による土づくりは有機農業を行う上で欠かせない 堆肥は1 発酵鶏ふん 2なめこの廃菌床 3コーヒー粕を主な材料としており これらほぼ等量に米糠を少し加えて半年程熟成させて製造している 野菜では堆肥 3t/10a 程度を施用している チンゲンサイ等年 2 作のものは作付前の 1 月 ~2 月と 8 月の 2 回入れる ( 年間計 6t/10a) キュウリのように長期栽培するものは途中 有機配合肥料 (6-7-3) や発酵鶏ふんを追肥で施用する また ハウストマトのように肥沃であると樹が暴れやすいものは 堆肥を入れず米糠のみを基肥として施用している 水菜等葉菜類は生育期に窒素を効かせないと柔らかくならず 作物によって施肥法を変えていく必要がある 収穫期には窒素が切れるようにするのが理想である 土が肥沃になり過ぎると病害虫の発生が多くなってくるので 圃場条件によってその加減が必要である また 耕作放棄地を借りて有機栽培を新たに行うことが多いが 地力等土壌特性がわからないので失敗することがある 新しく借りた圃場は地力がなく生産量が上がらないことが多い 昨年新たに借りた畑の春作は肥料不足で売り物になるようなキャベツが出来なかった このため 発酵鶏糞 5t/10a 施用した結果 秋作の水菜は生育が良く品質の良いものが収穫できた 新たな圃場は地力がないことが多いので 初めは大量の堆肥で土づくりを行う必要がある 一作目の作物の生育を見ながら堆肥の施用量や肥料の施用量を加減している 新たな圃場については地力のみでなく 土壌の排水性がわからず失敗することがある 昨年 新たな圃場で人参の種子を播種したが湿害でだめになった 土壌の断面構造を見て耕盤が浅いか 深いかをチェックしておくことも必要である 2

(2) 作付け体系需要の多い作物を中心に作付けしていく必要はあるが 連作障害が発生しないよう極力連作は避けて栽培している 現在の主な作付体系は次のとおりである 1 露地栽培レタス 小松菜 大豆キャベツ レタス ターサイ 2ハウス栽培チンゲンサイ ホウレンソウ 水菜ホウレンソウ バジル ホウレンソウ作付けするときは 特にアブラナ科作物が連作にならないよう注意している また ハウスでは一年交替で作付け体系を変えている (3) 標高差栽培倉渕地区は標高約 800m のところにある こうした立地条件を生かし標高 320m~800m で標高差栽培を行っている ( 写真 ) レタスの標高差栽培春は標高の低い畑から高い畑へ 秋は標高の高い畑から低い畑へと少しづつずらして栽培し 同じ野菜の出荷期間を延ばしている 栽培する農地は耕作放棄地が多いことから確保に苦労することはない 近くに慣行栽培を行っている農地が少ないところなど有機栽培に適した農地を選んで借地している (4) 抑草と病害虫防除有機野菜の栽培で特に問題になるのは夏の雑草対策である これまで レタス等雑草にやられ収量が殆どないときもあった 雑草の生育スピードに手取り除草が追いつかなかった 特にマルチしなかったところの影響大きい 平成 4 年から全面マルチを導入した マルチすると保温だけでなく雨水の跳ね返り少なく病気でにくい 春の場合 生分解プラスチックのものを使っている 生分解プラスチックは春作のよう 3

に次の作までに余裕がないときに鋤込めるのが良い 秋の場合は風に飛ばされるので ( 写真 ) 全面マルチ栽培 生分解性プラスチック使えない そのため ポリマルチを使う 秋は次期作の定植や播種までに間があくので労力的にポリマルチの処理は問題ではない 露地栽培の面積が拡大できた要因としては全面マルチを導入したことが大きい これによって 雑草防除の労力かからなくなった 夏場は雑草の発生が盛んで早期除草を行うことが必要であるが 労力的に無理である 全面マルチではマルチを固定する意味もあって畝間に土を入れるがそれを行う管理機があるので さほど労力はかからない 保温したいとき黒マルチ (3 月 ~4 月定植 ) を用いる 中間はシルバーマルチ (5 月定植 ) を用いる 暑い時期は白黒ダブルマルチ (6 月 ~9 月定植 ) を用いる 夏はちょっとした空隙からも雑草生えてくる そのため 一部手取り除草を行っている (5) その他平成 19 年の夏は暑かった このため これまで見たこともない虫が発生した 異常気象により生態系のバランスが崩れることがある 有機農業は生態系バランスを基に成立している農業と言われるが 最近の異常気象が多発する中では病害虫が異常発生することがある こうしたリスクも考慮して作型や圃場を分散させるなどして栽培を行っている 5. 今後の課題大地の会は野菜の硝酸イオン濃度を測定していてそれが高い農家には注意喚起している ハウスで長年有機栽培してきた圃場はかなり肥沃になっている こうした圃場では施肥量を加減して栽培している また くらぶち草の会ではこれまで鶏糞を使い過ぎてきたきらいがある このため 一般に土壌診断すると Ca が多く ph が高い傾向にある 今後 圃場の来歴など考慮して土壌診断を行い それに基づく施肥を徹底していく必要がある 4

また 現在堆肥は個々の農家が製造している 作付面積の最も大きい佐藤氏で 7ha であり その他の有機栽培農家でも平均 1 戸当たり作付け面積が 2ha あるので堆肥の製造量はかなりの量にのぼり 労力的に大変である 今後 堆肥製造の労力節減とより品質の良い堆肥を大量に生産していくため堆肥センターの整備が必要である ( 参考 ) 新たな圃場で人参の発芽障害が発生した圃場と正常な圃場の要因調査 新たに借地した圃場について人参で発芽障害が発生した圃場と正常な圃場があるのでその要因を探るため 聞き取りした結果 排水不良の要因も考えられたため 貫入式硬度計でいくつかのポイントで測定してみた その結果 正常な圃場については深さ 30 cm以下でも土が軟らかかったが 発芽障害が起きた圃場は深さ 20 cm程度のところに耕盤が形成されていた 佐藤氏によれば 降雨続いた後発芽障害が発生したとのことなので 浅いところに耕盤が形成されたことによる障害と判断した 対策としては プラソイラーによる深耕と耕盤の破壊を行うこととしている ( 図 ) 正常な圃場 ( 左 ) と発芽障害が起きた圃場 ( 右 ) 5