Microsoft Word - カイロプラクティック全体論についての考察(論文)

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カイロプラクティック全体論についての考察 * ~ 全身的メカニズム分析の必要性 ~ *1 高橋克典 Consideration of Chiropractic Holism ~Necessity of Systemic Analysis on Mechanism~ Katsunori TAKAHASHI 抄録カイロプラクティックの創始者 D.D. パーマーが外傷 毒 自己暗示の 3 つ ( カイロプラクティック トライアングル ) をあげて全体論的発想の必要性を提唱したように カイロプラクティックに携わる者にとって カイロプラクティック全体論に立脚して病理解析をし 施術を施すということは当然のことであると思う しかし実際の臨床の場で全体論的カイロプラクティック施術を実践しておられる方が最近少なくなってきているのではないか ついつい局所の症状に目を奪われ局所対症療法的アプローチに走っているように思われてならない そこで全体論的アプローチ ( 全身根本療法 ) の必要性について考察してみたので報告する キーワード ; カイロプラクティック トライアングル カイロプラクティック全体論 全身根本療法 1. はじめにカイロプラクティック全体論を論証するに当たり D.D. パーマーの全体論を検証し 我々人間が四足歩行から二足歩行に進化したことによる我々の身体に課せられた弊害 そしてその弊害によって生じた諸問題を論証し あわせてカイロプラクティック理論の仮説と施術方法についても簡単に紹介する 2. カイロプラクティック トライアングル D.D. パーマーは 病気を決定する原因は外傷 毒 自己暗示である (1) と述べている しかし彼の言う病気の原因はサブラクセーションであり サブラクセーションを起こす原因が外傷 毒 自己暗示と言うことである ここで外傷は骨格に作用した外力であり 言うも及ばず直接サブラクセーションの原因となる 毒とは薬物であり 毒が筋肉や神経のトーンを変えてサブラクセーションを引き起こす また自己暗示は精神的要因でやはり筋肉や神経のトーンを変えてサブラクセーションを引き起こすと言うのである また彼は 病気の真の原因は緊張である 緊張の原因は神経に対する圧力である 病的状態の 95% における圧力の原因はサブラクセーションを起こした椎骨である (1) カイロプラクターはただアジャストするのみである (1) とも述べている 3. サブラクセーションだけが病気の原因か? カイロプラクティック理論はホメオスタシスを拠り所とし ホメオスタシスを制御している神経系がサブラクセーションによって障害されることが病気の原因であるとしている だからサブラクセーションをアジャストメントして神経インパルスを正常にすることによって身体のホメオスタシスが改善されて自然治癒力が高まり病気が治ると言えるだろう しかし我々の命令伝達系には神経系だけでなくホルモン系もあり 神経インパルスやホルモンの伝達によって 身体の機能を制御している 確かに椎骨サブラクセーションは椎間孔において神経に障害を引き起こす事が十分考えられるが 椎間孔でだけ神経が障害を受けるわけではない 神経の経路におけ

る神経絞扼障害や脳脊髄そのものにも障害が生じることも当然考えられる 同様に循環に問題がありホルモンの伝達障害が起きると やはり身体の機能に障害を引き起こしてしまうだろう またサブラクセーションには一次性サブラクセーション 二次性 三次性 があり 一次性であればサブラクセーションを矯正すれば良いのだが 二次性 三次性 ともなると サブラクセーションを引き起こした根本原因を取り除かなければ正しい施術とは言えず本当の治癒はあり得ない 平方向に循環していたが 二足になって垂直方向へ循環するようになり 心臓の負担が増すと同時に下肢では鬱血 頭部では虚血による問題が生ずるようになった ( 図 1) 後壁腹膜への内臓の付着 4. 四足歩行から二足歩行へ我々人間の祖先もかつては四足で歩行をしていたが 身体を起し後ろ足 ( 下肢 ) で立つことをおぼえると二足歩行するようになった 自由になった前足 ( 上肢 ) を使うようになり脳が飛躍的に発達し やがて未曾有の文明を築くこととなった しかしその反面 人間はその身体に様々な力学的問題とそれに伴った神経学的問題を抱え込むこととなった 5. 二足歩行による弊害我々の背骨は本来は梁 ( 横木 ) の構造として創られているが それを柱として使用している 二足歩行に適応すべく様々な進化を遂げてはいるが今尚十分に完成したものとはなっていない 腰部には体重の負荷が加わり 仙腸関節には関節面が垂直なために剪断力が掛かり 頸部には上肢の荷重と重くなった頭部の荷重が掛かるようになった 下肢には全体重が掛かり下肢への負担も著しく増した また骨格系を支えている筋肉を始めとした膜系は 二足歩行になったことにより以前にも増して緊張を強いられることとなり その結果膜系に過緊張や伸長性にアンバランスが生ずると骨格系を歪ませてしまう 腹部内臓に関しては その多くが後壁腹膜に付着している (2) ( 図 1) ため 身体を起したことによりその位置をずらすこととなった ( 主に下垂 ) そして腹膜系の緊張が生じると内臓自体の運動を制限すると共に腰部を始めとし運動器の可動性にも影響を及ぼすようになった その他 循環に関しては四足では水 6. サブラクセーションや歪みに関連した神経学的 (1) 問題の仮説 1 神経圧迫仮説には 脊椎サブラクセーションによる椎間孔での圧迫や椎間板ヘルニアによる神経根圧迫 胸郭出口症候群を始めとした神経絞扼障害などが該当するだろう 椎間孔の圧迫によって 過剰であれ過少であれ神経障害が引き起こされるという考えは患者にとって理解しやすい 実際 腰椎部では椎間孔の縦の直径は 12~19mm であるが 横の直径はわずか 7mm で神経根の直径が 7mm にちょっと欠けるくらいなので 椎骨サブラクセーションや椎間孔周囲の結合組織の病変が起きると容易に神経を障害することが考えられる 2 固有感覚侵害仮説とは 脊椎にある固有受容器が椎間関節に変性を生じたことにより神経の活動を過剰にし 平衡が崩れると同時に内臓 体性 脳の

組織の反射活動に異常を引き起こすというものである 特に頚椎の固有受容器が平衡の維持にとって重要である 3 体性交感神経反射仮説とは メリックシステムの初期の頃からカイロプラクティックにお馴染みの仮説である 佐藤昭夫 M.D. の 体性自律神経反射の生理学的研究 という論文では 動物の適当な脊髄の髄節の皮膚や筋肉を適当に刺激すれば 全てのこれらの器官 ( 心臓 胃 胆嚢 ) の機能は皮膚や筋肉の刺激に対する反射によって影響を受けると結論付けている カイロプラクティックの脊椎アジャストメントもいわば体性刺激であり また鍼灸や指圧も体性刺激であり 交感神経を介して内臓に影響を及ぼすことが推測できる 4 体性 体性反射仮説とは 身体のある部位からの求心性の刺激が反射によって身体の他の部位に影響を及ぼすというものである 歩行反射や緊張性頸反射などの姿勢反射 伸長反射や拮抗筋の反射などが該当するであろう 5 内臓 体性反射仮説とは 内臓の受容器の神経終末を刺激するのに十分な刺激が内臓にもたらされると その刺激は内臓の求心性線維を逆戻りして脊髄に伝えられ 前角細胞とのシナプス連結が起こり 体性の筋肉が過緊張を起こす 特に内臓の関連筋にスパズムが現れる これによって生じた筋のアンバランスがサブラクセーションを引き起こす原因となることが考えられる D.D. パーマーが唱えた薬物や食物 飲み物に含まれた毒によって反射的に脊椎のサブラクセーションを引き起こすという根拠がここにある 6 体性 精神性仮説とは 体性刺激が精神性活動に影響を及ぼすということで 例えばサブラクセーションのアジャストメントによる体性刺激が網様賦活系に影響を及ぼすと眠気を引き起こすことがこれに当てはまる 7 神経ジストロフィー仮説とは 何らかの要因によって長期にわたり軸索輸送が阻害されると 神経が異栄養症となり神経の機能障害を引き起こすというものである もちろんサブラクセーションによっても神経ジストロフィーが引き起こされることが考 えられる 8 歯状靭帯 脊髄の歪み仮説とは 上部頚椎がサブラクセーションを起こすと歯状靭帯が緊張して脊髄 特に外側皮質脊髄路にストレスが掛かり 脊髄特に白質の外側柱が歪み なかでも四肢の機能障害が生じるというものである とりわけ上部頚椎に対するホール イン ワン テクニックの根拠の一つとなっている 9 心因性仮説とは ストレスなどによる心の緊張が筋の緊張をもたらすというものである 心因性ストレスの影響は脳と直結した脳神経に影響が現れやすく 副神経に現れると胸鎖乳突筋や上部僧帽筋に緊張が生じ肩こりになったり 頚椎のサブラクセーションの原因となるであろう また顔面神経に現れるとチックとなり 迷走神経に現れると内臓の機能異常を引き起こす その他 ストレス性難聴やストレス性構音障害なども当てはまるであろう 7. 栄養 生化学的問題我々は食事によって栄養を摂取し エネルギーを生み出したり 体内で起こっている生化学的反応によって身体を健全な状態に維持している しかし栄養に問題があったり 体内での生化学的反応に問題が生ずると様々な症状を引き起こしてしまう 例えば 関節痛が構造的障害のほか副腎の機能異常による抗炎症作用の低下や腎臓の機能異常による尿酸値の増加 肝臓や膵臓の異常による消化酵素の血中への漏出など 内臓の機能異常に起因している場合も多く見受けられる 8. 精神的問題 病は気から とよく言われるが 多かれ少なかれ殆どの患者は気 ( 心 ) が病んでいる 心身一如 心は身体と直結しているのである これが顕著になると TMS や心身症 うつ病となり構造的問題が無いにもかかわらず症状を引き起こしてしまう 我々は患者とのカウンセリングを通じて患者の心のケアにも努める必要がある 9. 全体論的施術

直接外力が加わったり 不良姿勢の習慣などにより一次性にサブラクセーションが生じた場合は サブラクセーションをアジャストメントすれば良いのであるが 筋を始めとした膜系のアンバランスによって生じた二次性サブラクセーションの場合は 膜系のアンバランスの原因を調べて施術をしなければ サブラクセーションは改善されない 筋のトーンの変化を引き起こす問題としては 1 起始停止の問題 2 拮抗筋や共働筋 リアクティブ筋の問題 3 筋の筋紡錘やゴルジ腱器官の問題 4 様々な反射 ( 歩行反射 姿勢反射 内臓体性反射 ) の問題 5 栄養や毒物 循環など生理 生化学的問題 6クラニアルの問題 7 精神的問題などが考えられる 膜系の問題では 緊張や固着を起こした線維の滑動が制限されると同時に並行に走っている筋の緊張を引き起こし ( 図 2) その方向にサブラクセーションが生ずると共に反対方向への可動性が制限されることが多くみられる ( 表 1) ( 図 2) 膜の受容器から筋への反射 ( 仮説 ) ( 表 1) 膜系の障害による運動制限 膜系の障害側 運動制限側 屈曲側 伸展運動 伸展側 屈曲運動 外転側 内転運動 内転側 外転運動 右側面 左側屈運動 左側面 右側屈運動 右回旋側 左回旋運動 左回旋側右回旋運動しかしこの反射は姿勢保持にとって必要な反射であると考えられる 例えば屈曲方向に体が傾くと伸展側の膜が伸長され膜の受容器が興奮し 同側の筋が収縮を起こし姿勢を元に戻す しかし膜に緊張や固着がある場合は過剰に興奮を起こし問題となる 筋膜の連続性のラインについてはアナトミートレイン (3) で興味深く述べられている 障害があるラインへの施術は膜に固着や緊張があった場合は直接ストレッチしたりカウンターストレインを施し ライン上の関節のサブラクセーションを施術すると改善する また腹膜系の連続性も臨床上とても重要である 腹膜で特に問題となるのは後壁腹膜と骨盤隔膜の緊張である 後壁腹膜の内臓の付着部に圧痛がある場合は それをモニターしながら付着内臓を動かし圧痛の取れる方向に内臓を動かすと緊張が改善される 以上のように膜系の問題があった場合は それぞれの原因に応じて 骨格に対するアジャストメントや頭蓋骨調整 筋や膜処理 内臓に対する施術など より根本的な施術が必要であろう 10. 考察 D.D. パーマーが人間を部品の寄せ集めではなく 一つのユニットとして捉えたことでカイロプラクティック全体論という概念が生まれたと思う しかし彼は病気の原因を脊椎サブラクセーションに求めたことで全体論が不完全なものになっていると思う

脊椎サブラクセーションが一次性のものであれば それが直接的な原因であろう しかし二次性 三次性 ともなれば サブラクセーションを引き起こす原因となった真の原因を探求し それに施術を施すことが大事であろう D.D. パーマーの時代は 未だ医学的研究が十分なされていなかったのでそれも止むを得なかったと思う 現在は医学の研究も進み様々なことが解明されてきている 我々カイロプラクターもただ脊椎サブラクセーションをアジャストメントするだけでなく 多方面から病理を解析して施術を施していく姿勢が必要であろう 私は日ごろ二足歩行で生じた弊害を解析して身体にどのような問題が生ずる可能性があるかを考えて施術に当たるようにしている 脊椎サブラクセーションのアジャストメントは私も好きである そして度々矯正しては思わぬ結果を体験しているのも事実である しかしその他 緊張性頸反射や歩行反射 姿勢反射 それに内臓の問題 ( 内臓 体性反射 ) などは少なくとも検査し 問題があれば施術するように心がけてる 緊張性頚反射の問題は頭部を一側にねじると 同側の前肢と後肢が伸展し 対側の肢は屈曲する ( 図 3-a) また頚部の後屈に対しては前肢の伸展と後肢の屈曲が ( 図 3-b) 前屈に対しては前肢の屈曲と後肢の伸展が ( 図 3-c) 起こる (4) ( 図 3) 緊張性頸反射 また足底の皮膚にある圧受容器などから様々な情報が脳に送られ その情報を元に全身の筋を制御してバランスをとりながら我々はあまり意識することもなく歩行している ところが足部にサブラクセーションや筋のトーンに問題が生じたりすると間違った情報が脳に送られ 全身の筋を巧みに制御できなくなり 身体の各部に障害を引き起こすことが考えられる 姿勢反射の問題では歩行反射同様 足部にある受容器から送られてきた情報を元に 姿勢を制御し保持している 特に距骨は前後の体動の情報を脳に送り 立方骨は側方の体動の情報を送っている (5) と言われている そのためこれらの骨にサブラクセーションが生じると間違った情報が送られ 全身の筋を巧みに制御できなくなり 身体の各部に障害を引き起こすことが考えられる 膜系の連続性の問題は筋膜や腹膜 脳脊髄硬膜などには連続性があり 一端を引っ張ると他端にその力が伝わる また連続性のどこかで膜の固着があると膜の部分的な緊張を作り出し全長に渡った正常な伸長を妨げてしまう 身体はその動きの中で膜に固着や緊張が無くスムーズに滑動しなければ可動性に障害を及ぼしたり 関節にサブラクセーションを作ったりすることが考えられる また栄養に問題があると予想される場合は 栄養指導やサプリメントの摂取も考えなければならない 生化学的問題に対しては内臓の機能異常に対して施術することも必要であろう 脊椎アジャストメントで交感神経の興奮を抑えたり 内臓に直接マニピュレーションを施すことも非常に効果が期待できる 心のケアに対しては細心の注意を払って 自分の力量をわきまえてカウンセリングするなり事に当たるべきである 異常の原因は上部頚椎のサブラクセーションであることが多いが この反射のループのどこかに問題を起こすと身体各部に筋のトーンのアンバランスを引き起こしてしまう 実際足関節のサブラクセーションをアジャストメントすると改善されることもある 歩行反射の問題は足関節の靭帯や関節包にある受容器 筋の筋紡錘やゴルジ腱器官といった受容器 11. 結び我々の身体は決して部品の組み合わせではない 一個の受精卵から始まり細胞分裂を繰り返してやがて全身が形作られる 全てが繋がっているのである 森は多くの動植物によって構成されていて そこには自然の様々な連鎖があり 巧みに全体としての森をコントロールしている 同様に我々の体も個々の細胞や臓器の間で様々な連鎖によって 巧みにコン

トロールされて体全体としての調和を保っている 局所対症療法では人間全体としての健康を取り戻すことは出来ないのである サブラクセーションが一次性でない限り なぜサブラクセーションが発生したのか? その原因を突き詰めていく姿勢が必要であると思う 本論文では分かりきったことを述べたが カイロプラクティック全体論について考え直すきっかけになれば幸いに思う 12. 参考図書 (1)Virgil V.STRANG 著 増田裕訳 : エッセンシャルカイロプラクティック哲学 :141 138 140 92-97 科学新聞社 1997. (2)Frank H.Netter 著 相礒貞和訳 : ネッター解剖学アトラス 原書第 3 版 :266 南江堂 2006. (3)THOMAS W.MYERS:ANATOMY TRAINS:61-220 CHURCHILL LIVINGSTONE 1995. (4) 本郷利憲 廣重力 豊田順一 熊田衛編集 : 標準生理学 第 3 版 :295 医学書院 1993. (5) 角野善則 : 臨床カイロプラクティック学講座 ~ 整形学 ( 足部 胸郭 ):35 日本カイロプラクティックアカデミー * 日本カイロプラクティック徒手医学会第 10 回学術大会 ( 平成 20 年 10 月 ) にて一部発表 *1 高橋カイロプラクティック全尽堂 ( 939-0275 富山県射水市八塚 488-6)