当初セフトリアキソン (CTRX) 投与にて改善なく 細菌学的検査陰性より器質化肺炎と診断し PSL30mg/ 日で治療開始した しかし炎症反応ならびに肺浸潤影の増悪を認め クリプトコッカス抗原陽性より真菌症の合併と考え フルコナゾール (FLCZ)400mg/ 日を開始した 炎症反応 画像所見に軽

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入した場合には 経気道的な散布巣として臓側胸膜から 2-3mm 離れた内側に小葉中心性粒状影や tree-in-bud といわれる小葉中心性病変を呈しますが この所見をみた場合には呼吸器感染症を強く疑います 汎小葉性病変は 小葉間隔壁に囲まれた ほぼ 1, 2cm 四方の小葉内が細胞浸潤や滲出物ある

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

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により IgG 抗体も産生されⅠ 型アレルギーだけでなくⅢ 型 IV 型アレルギー反応も来す疾患とされている 1) 喘息患者に特有の粘稠な喀疾と閉塞した気道中に Af が定着増殖し 患者がアトピー素因を有するため Af 特異的 IgE 抗体が産生されⅠ 型アレルギー機序により喘息が増悪する また I

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平成20年度 大学院シラバス(表紙)

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結核 第 84 巻 第 8 号 2009 年 8 月 586 肺結核 経気道散布性病変 の鑑別診断 ) 2) 臨床現場で診断を急がなければならない症例は活動性 結核である 滲出期の肺結核は一般細菌による肺炎と同 有無に対する問診が重要となる 表 2 次の増殖期で は融合傾向のある小葉中心性の粒状陰影

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15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit

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2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

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て 弥生時代に起こったとされています 結核は通常の肺炎とは異なり 細胞内寄生に基づく免疫反応による慢性肉芽腫性炎症であり 重篤な病変では中が腐って空洞を形成します 結核は はしかや水疱瘡と同様の空気感染をします 肺内に吸いこまれた結核菌は 肺胞マクロファージに貪食され 細胞内で増殖します 貪食された

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通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

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( 参考文献 2 より引用 ) 注意点であるが 参考文献 1 によると 測定の時期 マイコプラズマの既往が重要のようだ enzyme immunoassay (ELISA) tests for M. pneumoniae-specific IgM positive in up to 80% afte

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1 研究の背景市中肺炎は我が国はもちろん 世界中で死亡の主要な原因となっている (1) 市中肺炎患者は発熱 胸部レントゲン写真での浸潤陰影 白血球や CRP の上昇を示すが 特発性器質化肺炎 特発性肺線維症急性増悪 薬剤性肺炎などの急性非感染性炎症性肺実質疾患も同様な所見を呈し 鑑別に難渋することも

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改訂後改訂前 << 効能 効果に関連する使用上の注意 >> 関節リウマチ 1. 過去の治療において 少なくとも1 剤の抗リウマチ薬 ( 生物製剤を除く ) 等による適切な治療を行っても 疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与すること 2. 本剤とアバタセプト ( 遺伝子組換え ) の併用は行わな

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症例検討間質性肺炎合併 RA 患者で空洞形成を来した症例 国立病院機構九州医療センター膠原病内科末松栄一 (2015 年第 16 回博多リウマチセミナー ) 関節リウマチ (RA) 患者は間質性肺炎を始め 呼吸器疾患を合併することが多い その中でも空洞形 成を来した場合 確定診断ならびに治療方針の判断に苦慮することがある 今回経過中に肺の空洞病変 を認めた RA 症例を経験したので経過を含めて報告する 症例 1 患者 60 歳代 女性 主訴 咳嗽 多関節痛 既往歴 両膝変形性関節症 家族歴 特記事項なし 現病歴 2013 年 6 月多関節腫脹 疼痛出現 またこの頃より咳嗽あり 当院入院 胸部 CT 検査にて浸潤影指 摘され RA および器質化肺炎の診断にてステロイド治療受ける 8 月胸部レ線にて空洞病変出現 入院時細菌検査喀痰 ; 塗抹 培養陰性 尿中肺炎抗原陰性 尿中レジオネラ抗原陰性 β-d グルカン <11pg/ml マイコプラズマ抗体 <40 倍 プロカルシトニン 0.11ng/ml T-SPOT.TB 陰性 Tb 培養陰性 (8W) 第 1 回気管支鏡検査 (2013.7.2) 気管支洗浄液 ; 細菌培養陰性 Tb-PCR 陰性 レジオネラ PCR 陰性 Tb 培養陰性 (8W) クリプトコッカス抗原陽性 (2013.7.18) 第 2 回気管支鏡検査 (2013.8.7) Tb-PCR 陰性 M.avium PCR 陰性 M.intracellulare PCR 陰性 Tb 培養陰性 (8W) 1

当初セフトリアキソン (CTRX) 投与にて改善なく 細菌学的検査陰性より器質化肺炎と診断し PSL30mg/ 日で治療開始した しかし炎症反応ならびに肺浸潤影の増悪を認め クリプトコッカス抗原陽性より真菌症の合併と考え フルコナゾール (FLCZ)400mg/ 日を開始した 炎症反応 画像所見に軽快傾向ないためアムホテリシン (L-AMP)250mg/ 日 続いてイトラコナゾ-ル (ITCZ)400mg/ 日による治療を行った 器質化肺炎の増悪も疑い mpsl pulse 療法 TAC 追加した 徐々に炎症反応は軽快し 9 月 CRP0.29mg/dl と低下した 10 月転院となる しかしながら 2014 年 1 月空洞病変の増悪 炎症反応高値にて再入院となる 診断 ; 非結核性抗酸菌症 (M.intracellulare) 問題点 1. 器質化肺炎の診断は妥当であったか? 2.8 月に出現した空洞病変の原因は何であったか? 3. 非結核性抗酸菌症 (M.intracellulare) の診断はもっと早くできなかったか? 2

症例 2 患者 70 歳代, 女性 主訴 咳嗽 既往歴 胆石症 狭心症 家族歴 母 RA 父糖尿病 生活歴 喫煙 20 本 / 日 現病歴 糖尿病 高血圧症 心房細動にて加療中であった 2013 年 2 月 RA 発症 近医にてブシラミン (BUC) 開始された 2014 年 4 月より咳嗽 喀痰出現 胸部レ線で間質性陰影指摘され 胸部 CT にて NSIP 型の間質性肺炎と診断された 5 月当科紹介受診 6 月入院 薬剤性肺炎 (BUC) の診断にて PSL25mg/ 日による治療開始 治療抵抗性で 7 月より PSL50mg/ 日に増量 徐々に軽快した 経過中肺空洞病変出現 アスペルギルス抗原 1.2(0-0.4) より肺アスペル ギローマの診断を受ける 呼吸器症状なかったため 経過観察の方針で 9 月転院となる 11 月咳嗽 胸部レ線にて浸潤影ならびに空洞指摘され当院第 2 回入院 T-SPOT. TB 陰性 β-d グルカン 18.28pg/ml(<11pg/ml) クリプトコッカス抗原陰性 喀痰検査 ;Tb-PCR 陰性 M.avium PCR 陰性 M.intracellulare PCR 陰性 気管支鏡検査 ;Tb-PCR 陰性 M.avium PCR 陰性 M.intracellulare PCR 陰性肺アスペルギローマ増悪の診断にて VRCZ 300mg/ 日による治療開始し軽快 問題点肺アスペルギローマと診断していたが 経過観察したのは妥当だったか? 3

解説 1. 肺の空洞性陰影の鑑別診断 感染性一般細菌によるものは肺化膿症と呼ばれる嫌気性菌 ( 主体 ) Peptostreptococcus sp,bacteroides,fusobacterium sp. など好気性菌 Staphylococcus aureus,klebsiella pneumoniae,pseudomonas aeruginosa などその他抗酸菌 真菌 放線菌 Nocardia 寄生虫 非感染性肺癌 肺梗塞 Hodgkin リンパ腫 多発血管炎性肉芽腫症 (Wegener 肉芽腫症 ) サルコイドーシス リウマトイド結節 2. 肺の空洞性陰影のレ線上の特徴 疾 患 レ線上の特徴 肺結核 両側上肺野の浸潤影 ( しばしば空洞を伴う ) が典型的酸素濃度の高い上肺野の発育環境が整う また肺血流は重力の関係で中肺野 下肺野に多いので上肺野は免疫が届きにくい 空洞 破壊型 ; 肺尖や上肺野に多発性の空洞を形成 非結核性抗酸菌症結節 気管支拡張型 ; 中葉 舌区 (S4,S5) の気管支拡張と小結節が特徴 (NTM) 右第 2 弓 左第 4 弓のシルエットサインが陽性になる 非区域性の浸潤影, 上肺野に多い アスペルギルス症 初期には周囲にすりガラス様の濃度上昇を伴う結節影 (halo sign) 続いて空洞 の中に病変を形成する三日月サイン (air crescent sign) を呈する 陰影は単発 時に多発で 円形から類円形を呈する 肺化膿症 初期には区域性の境界不鮮明な限局性陰影 気管支との交通が生じ 内部の膿がドレナージされると niveau を形成する 肺癌 肺門腫瘤 閉塞性肺炎 無気肺を合併腫瘤のノッチング スピキュラ 血管集束や巻き込み 胸膜陥入陰影内の細気管支透亮像 扁平上皮癌は壁が厚く 空洞を伴う 3. 非結核性抗酸菌症 (NTM:nontuberculous mycobacteriosis) NTM 症は以前 非定型抗酸菌症と呼ばれていた NTM は現在約 150 種類程度が報告されている ヒトに病気を起こすのは 15~20 種類程である 結核は毎年約 20000 人発病しているが NTM 症は毎年約 2000~8000 人が発病していると考えられる 重要なものは M.avium と M.intracellulare 両者を併せて M.avium complex(mac) と呼ぶ MAC 症は NTM 症の約 70% を占め 次いで M.kansasii 症が約 15~20% 程度を占める 4

多くの NTM 症の感染源は土壌あるいは水と考えられ ヒト-ヒト感染はしない MAC は通常の抗結核薬に対する反応が乏しく 肺 MAC 症では徐々に肺の破壊が進行する 早い段階で発見されれば外科的切除が最も効果的 結核菌より病原性は弱いが 結核よりはるかに治療抵抗性である 4. 肺 NTM 症の診断基準 A) 臨床的基準 ( 以下の 2 項目を満たす ) 1. 胸部画像所見 (HRCT を含む ) で 結節状陰影 小結節状陰影や分枝状陰影の散布 均等性陰影 空洞性陰影 気管支または細気管支拡張所見のいずれか ( 複数可 ) を示す ただし 先行肺疾患による陰影がすでにある場合は この限りではない 2. 他の疾患を除外できる B) 細菌学的基準 ( 菌種の区別なく 以下のいずれか 1 項目を満たす ) 1. 2 回以上の異なる喀痰検体での培養陽性 2. 1 回以上の気管支洗浄液での培養陽性 3. 経気管支肺生検または肺生検組織の場合は 抗酸菌症に合致する組織学的所見と同時に 組織 または気管支洗浄液 または喀痰での 1 回以上の培養陽性 4. まれな菌種や環境から高頻度に分離される菌種の場合は 検体種類を問わず 2 回以上の培養陽性と菌種同定検査を原則とし 専門家の見解を必要とする 以上の A,B を満たす ( 日本結核学会, 日本呼吸器学会 : 肺非結核性抗酸菌症診断に関する指針 -2008 年 ) 5. 肺アスペルギルス症原因菌 ;Aspergillus fumigatus が主であるが A.flavus や A. niger でも発生する アスペルギルスは環境常在菌で室内空中浮遊菌 ( 分生子 ( 胞子 ) の直径 5μm 以下 ) 病型 1. 肺アスペルギローマ (pulmonary aspergilloma) 肺結核 肺気腫 気管支拡張症などの基礎疾患がある患者の空洞や嚢胞にアスペルギルスが侵入し病変 ( 菌球 ) をつくる 基本的に進行性 気道出血をおこす 2. 慢性壊死性肺アスペルギルス症 (chronic necrotizing pulmonary aspergillosis) 閉塞性肺疾患 糖尿病 少量ステロイド長期使用患者に 肺に壊死を伴う慢性感染を生じる 数週間から数ヵ月の間に亜急性に肺病変が拡大し 時に呼吸不全に陥る 3. 侵襲性肺アスペルギルス症 (invasive pulmonary aspergillosis) 白血病などの血液疾患 免疫抑制療法中の患者に比較的急速に発症 肺組織を破壊し拡大する 時に全身に播種する 1 血管侵襲型 2 気道侵襲型 4. アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 (allergic bronchopulmonary aspergillosis) アスペルギルスに対するアレルギー反応により 気管支喘息 好酸球性肺炎を繰り返す 症状 ; 咳嗽 痰 血痰 喀血 発熱 るい痩 5

6. 真菌症に使われる抗真菌薬 アスペル ギルス カンジダ クリプト コッカス ムコール amphotericin B amphotericin B AMPH-B deoxycholate /L-AMB liposomal 殺菌的 殺菌的 殺菌的 殺菌的 FLCZ fluconazole 効力無 静菌的 静菌的 効力無 ITCZ itraconazole 殺菌的 静菌的 静菌的 効力無 VRCZ voriconazole 殺菌的 静菌的 静菌的 効力無 MCZ miconazole 効力無 静菌的 静菌的 効力無 5-FC flucytosine 効力無 静菌的 静菌的 効力無 MCFG micafungin 静菌的 殺菌的 効力無 効力無 CPFG caspofungin 静菌的 殺菌的 効力無 効力無 7. おわりに肺に空洞病変を来す疾患で特に注意すべきは結核 NTM 症 真菌症 肺化膿症 肺癌である 中には臨床症状を伴わない症例もあるので 免疫抑制剤等使用中は注意深い経過観察が重要と考えられる 文献 1) 日本結核学会, 日本呼吸器学会 : 肺非結核性抗酸菌症診断に関する指針 -2008 年 結核 83;525-526, 2008 2) 日本結核学会, 日本呼吸器学会 : 肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解 -2012 年改訂 結核 87;83-86, 2012 3) 北田清悟 : 肺 MAC 症の診断 医学のあゆみ 248;766-770, 2014 4) Kitada S, Kobayashi K, Ichiyama S, et al. Serodiagnosis of Mycobacterium avium-complex pulmonary disease using an enzyme immunoassay kit. Am J Respir Crit Care Med.177;793-797, 2008 5) 藤田次郎 : 肺炎と抗酸菌症の画像診断 内科 102;2860-2874, 2013 6) Lammas DA, De Heer E, Edgar JD, et al. Heterogeneity in the granulomatous response to mycobacterial infection in patients with defined genetic mutations in the interleukin 12-dependent interferon-gamma production pathway. Int J Exp Pathol 83;1-20, 2002 7) 倉島篤行 : 肺アスペルギルス症 ( 菌球型 ) 別冊日本臨床呼吸器症候群 147-152, 2008 8) 吉田耕一朗 : 抗真菌薬の進歩と使い分け 内科 102;2915-2921, 2013 9) 詫間隆博 : 最近の抗真菌薬とその使用 内科 103;2721-2727, 2014 6