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ットワーク構築の観点等を盛り込み, 太平洋側港湾の代替機能の確保, 及び, 防災機能の確保についても併せて求められることとなった. 表 -2 日本海側拠点港計画書記載項目 ( 国際海上コンテナ, 国際フェリー 国際 RORO 船 ) (2) 目的と目標日本海側拠点港の募集にあたり, 日本海側港湾のあ

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調査の目的 概要 1. 調査の目的 南海トラフ巨大地震の発生時にも円滑に支援物資輸送を行うため 中国 四国 九州地域における広域連携を通じ 鉄道 海運 ( 船舶 ) トラックなど多様な輸送モードの活用による支援物資物流システムの構築を目的として行ったもの 国 ( 中国 四国 九州の各運輸局 ) が主


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数値目標 事業開始前 ( 現時点 ) 平成 28 年度 (1 年目 ) 平成 29 年度 (2 年目 ) 平成 30 年度 (3 年目 ) 港湾取扱貨物量 556 万トン 4 万トン 0 万トン 20 万トン 観光入込客数 2,899.4 万人回 -9.5 万人回 1.9 万人回 1.9 万人回 7

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年齢 年齢 1. 柏 2. 名古屋 3. G 大阪 4. 仙台 5. 横浜 FM 6. 鹿島 -19 歳 0 0.0% 0 0.0% 2 2.7% 1 1.4% 3 4.0% 3 4.6% 歳 4 5.0% 5 6.7% 7 9.6% 2 2.7% 2 2.7% % 25-2

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地震被害予測システムにより建物被災度を予測 また 携帯電話と地図を利用した 被害情報集約システム では GPS 機能と地理情報システムとの連係により 現在位置周辺にある同社施工済物件を検索し 物件や周辺の被害状況を文字 静止画 動画を添付して報告することができる これら被害情報を地理情報システムに集

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東海 東南海 南海地震発生時に北陸管内港湾が担うべき役割と課題について - 東日本大震災を事例として - 浅見尚史 舟川幸治 渡邉理之 斎藤学 河野真典 港湾空港部港湾物流企画室 ( 950-8801 新潟市中央区美咲町 1-1-1) 東日本大震災後, 高速道路や港湾等の社会資本を中心として, 自然災害に対する社会システムの冗長性が注目されている. 港湾についても, 東海 東南海 南海地震による被災可能性のある太平洋側港湾に対する代替機能は十分でないと考えられる. 本論文は, 東日本大震災での日本海側港湾による代替輸送等の事例に基づき, 太平洋側の地震 津波リスクを整理するとともに, 太平洋側港湾の被災時に日本海側港湾が果たすべき役割と課題を示した. 具体策として, 太平洋側港湾に入港する船舶データなどをもとに, 日本海側港湾に水深 14m 岸壁を整備することや鉄道輸送網との接続等を提案した. キーワード東日本大震災, 冗長性, 東海 東南海 南海地震, 支援物資輸送, 物流ネットワーク 1. はじめに 東日本大震災後, 自然災害に対する社会システムの冗長性 ( リダンダンシー ) や代替機能が注目されており, 企業の中には生産拠点やデータセンターを分散化させる動きが見られる. また, 日本海側港湾が支援物資の輸送拠点や被災港の代替港として重要な役割を担ったことで, 代替機能や防災拠点としての役割が再認識されている. 北陸地方整備局管内の港湾 ( 以下, 管内港湾 という ) は, 地勢を考えれば, 近畿圏, 中京圏, 関東圏の代替機能を確保する上で重要な役割を求められることが考えられるが, 東日本大震災後の担った役割を踏まえると, 今後, 想定される東海 東南海 南海地震により太平洋側港湾が被災した場合には, 広域的な港湾間の連携による高度な代替機能の確保が必要である. 本論文は, 東日本大震災の教訓を踏まえ, 災害に強い物流ネットワークの構築により, 我が国の自然災害への対応力の更なる向上に資するため, 太平洋側港湾が被災した場合の管内港湾が果たすべき役割と課題を明確にし, 今後の港湾施策の方向性を提案することを目的とする. そのため, まず東日本大震災後, 管内港湾の果たした役割を整理する. その上で, 我が国の地震 津波リスクについて整理し, 太平洋側港湾の被災可能性や被災した場合に起こりうる物流関係の影響を考察する. 最後に, 太平洋側港湾の被災と東日本大震災での管内港湾の実際の動向を合わせて考察することで, 自然災害 に強い物流ネットワークの構築に向けて, 管内港湾の果たすべき役割とその役割を果たす上での課題を明らかにし, 課題解決に向けた具体策を提案する. 2. 東日本大震災時に管内港湾の果たした役割 (1) 東日本大震災による港湾およびその周辺の被災状況 a) 港湾の被災状況東日本大震災では, 東北および北関東沿岸の港湾が全て一時的に使用できない状況となった. 震災直後は, 大量の漂流物により船舶の進入もままならず,3/13 の津波警報 注意報解除後, 順次航路啓開作業が行われた. 被災の少ない公共岸壁の一部は迅速に暫定供用されたものの,2011 年 5 月 30 日現在で暫定供用された水深 4.5m 以深の公共岸壁は全体の 40% となっている 1). コンテナの取扱については,4 月 23 日に内貿航路,5 月 19 日に外貿航路が再開した八戸港及び 6 月 8 日に内貿航路が再開した仙台塩釜港以外は,6 月 20 日時点で再開していない. b) 企業等の被災状況港湾周辺に立地していた生産施設や貯蔵施設, さらにタンクローリーも被災した. 東北地方に集中していた自動車部品工場の生産停止は日本国内のみならず海外の関連する企業に影響を及ぼすこととなった. 石油製品については, 製油所 油槽所からの出荷停止や道路の被災による配送の遅れのため, 被災地周辺を中

心に供給量が減少した. 我が国における製油所は図 -1 のように太平洋側を中心に配置され, 今回の震災による製油所の稼働停止により, 全国の精製能力 (4,516 千 BD) の約 30% にあたる 1,398 千 BD の生産能力が一時的に失われた 2). 単位 : バレル / 日 帝石ト ( 頸城 )4,724 JX エネルギー ( 室蘭 ) 180,000 出光 ( 北海道 )140,000 被災して新潟東港に立地する発電所の発電量が増えたことや LNG 受入基地が被災した仙台塩釜港の代替として新潟港からパイプラインで仙台市ガス局に天然ガスが供給されたことが要因と考えられる.3 月は在庫による対応であったが,4 月は前年同月比 1.41 倍,5 月も同 1.67 倍, 6 月以降も同様に増加する見込みとなっており, 電力関係の動向次第では今後更に受入量が増加する可能性がある. JX エネルギー ( 水島 )380,200 JX エネルギー ( 麻里布 )127,000 JX エネルギー ( 仙台 )145,000 出光 ( 徳山 )120,000 西部 ( 山口 )120,000 南西 ( 西原 )100,000 鹿島 ( 鹿島 )252,500 コスモ ( 千葉 )220,000 極東 ( 千葉 )175,000 出光 ( 千葉 )220,000 富士 ( 袖ヶ浦 )140,000 東燃ゼネラル ( 川崎 )335,000 東亜 ( 京浜 )185,000 JX エネルギー ( 根岸 )270,000 出光 ( 愛知 )160,000 JX エネルギー ( 大分 )136,000 太陽 ( 四国 )120,000 コスモ ( 坂出 )110,000 東燃ゼネラル ( 和歌山 )170,000 コスモ ( 四日市 )125,000 昭和四日市 ( 四日市 )210,000 コスモ ( 堺 )100,000 東燃ゼネラル ( 堺 )156,000 大阪国際石油精製 ( 大阪 )115,000 3) 図 -1 製油所の所在地と原油処理能力 また, 福島原発被災による放射性物質放出も物流へ大きな影響を及ぼしている. 航行船舶が放射能の影響範囲を避けるため沖合へ大きく迂回したり, 輸出品への放射線検査など, 輸送コストの増加要因となる対応が生じている. 国土交通省では放射線測定ガイドラインを策定し, 京浜港を中心としたコンテナの放射線量測定が実施されているが, 日本海側港湾からロシア向けに輸出された中古車が, 通常よりも高い放射線量が測定されたとして積み戻される事態も発生した. ( 千 kl) 300 250 200 150 100 50 図 -2 緊急物資 ( 燃料油 ) の輸送状況出典 : 国土交通省港湾局資料 重油 (LSA) 重油 (A) 軽油灯油ガソリン ( レキ ュラー ) ガソリン ( ハイオク ) (2) 日本海側港湾を活用した支援物資輸送東日本大震災では, 日本海側港湾が支援物資輸送や代替機能の面で一定の役割を果たした. 以下, 代表的な事例を示す. a) 緊急物資 ( 燃料油 LNG) の輸送燃料油は震災発生後, 政府の支援要請を受け, 秋田港, 酒田港, 新潟港を拠点に被災地への輸送が 3/12 に開始されている. 西日本の製油所から日本海側港湾へ移送し, タンクローリーにより陸送され, 被災港の一部復旧に従い, タンカーによる直接輸送も同時に行われるようになったが. 日本海側からの輸送は 4 月中まで継続されている ( 図 -2). 新潟港における震災後の石油受入量の推移を図 -3 に示す. 受入量全体では,3 月,4 月の受入量が前年同月比 2 ~3 割前年より多く,5 月には昨年と同程度の受入量となっている. 油種別で見ると, ガソリン, 軽油, 重油など, 被災地向けに燃料油を輸送していたことが伺える. また,LNG( 液化天然ガス ) についても, 新潟港での受入量が増加している. これは, 太平洋側の発電所が 0 2010 2011 2010 2011 2010 2011 3 月 4 月 5 月 図 -3 石油受入量の推移 (2010 年,2011 年の 3 月 ~5 月 ) 出典 : 石油元売企業ヒアリングより 写真 -1 震災直後におけるフェリーの活用状況 ( 秋田港 )

b) 支援物資等輸送におけるフェリーの活用フェリーによる支援物資や自衛隊 救急隊等の輸送が行われ, 秋田港等から太平洋側の被災地に展開した ( 写真 -1). 自衛隊については,4 月上旬時点で 11,100 人が輸送されている. c) 日本海側港湾による代替輸送東北地方の海岸近くに立地していた自動車部品工場や畜産用飼料工場の被災に伴い, 新潟港, 酒田港, 秋田港などを活用した代替輸送や輸出入が行われた ( 図 -4). 新潟港では被災港に入港予定であった船舶の受入や畜産用飼料の東北 北関東方面への出荷に利用されている. また, 直江津港や船川港では製品の原料となる鉱石を被災港に代わり荷揚げした. また, 震災後に外貿コンテナ取扱量が急激に伸びており, 一例として新潟港のコンテナ取扱量推移を図 -5 に示す. 震災後の 3 月 ~5 月にかけて月別での過去最高値を更新した. 被災港のコンテナ取扱施設の復旧に時間を要していることから, 東北地方の企業の輸出入にも利用されていると考えられる. 3. 東海 東南海 南海地震による太平洋側港湾の被災とその影響 (1) 我が国の地震 津波リスクと太平洋側港湾の被災可能性我が国は過去に多くの地震被害にあってきたが, 図 -6 に示すように今後も高い確率で発生することが予測されている. 特に東海地震については今後 30 年以内での発生確率が 80% 以上とされており, 東日本大震災における震源域も同程度の発生確率であったことを考えると, 太平洋側港湾が被災しうる地震はいつ発生してもおかしくない状況である. 東海地震や東南海地震については, 中央防災会議 東南海, 南海地震等に関する専門調査会 等で議論され, 東海 + 東南海 + 南海地震の同時発生ケース (M8.7) も 2003 年に同調査会で検討された.2003 年当時, 同時発生ケースはあくまで参考として検討されたものであったが, 今後相当期間東海地震が発生しない場合には 今後の観測データや学術的知見の蓄積を基に,10 年程度後には, 東海地震と東南海地震等との関係について再検討する必要があると考える. と指摘された 4). 2003 年時の想定津波高さは, 同時発生ケース ( 満潮時 ) で最大 4.0m 程度 ( 図 -7) と想定されている. しかし, 2011 年 4 月 27 日の中央防災会議において設置された 東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震 津波対策に関する専門調査会 において, 今後の地震 津波対策の方向性を秋頃を目途に提示することとされ, 同時発生による震度及び想定津波高さの見直しがなされた場合, 太平洋側港湾の被災想定規模が更に大きくなる可能性も高いと考えられる. TEU 22,000 20,000 18,000 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 図 -4 日本海側港湾を活用した代替輸送出典 : 国土交通省港湾局資料 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 図 -5 新潟港の月別外貿コンテナ取扱量の推移出典 : 新潟港統計年報,N-WTTホームページより H20 H21 H22 H23 三陸沖南部海溝寄り (M7.7 前後 ) 80~90% 与那国島周辺 (M7.8 程度 ) 30% 程度 日向灘 (M7.1 前後 ) 70~80% 東北地方太平洋沖地震の震源 (M7.0 以上 ) 南海 (M8.4 前後 ) 60% 程度 東南海 (M8.1 前後 ) 70% 程度 三陸沖北部 (M7.1~7.6) 90% 程度 安芸灘 ~ 豊後水道 (M6.7~7.4) 40% 程度 根室沖 (M7.9 程度 ) 40%~50% 宮城県沖 (M7.5 前後 ) 99% 同時被災の可能性は低い 東海 (M8 程度 ) 87%( 参考値 ) 南関東 (M6.7~7.2 程度 ) 70% 程度 M9.0 M7.7 茨城県沖 (M6.7~7.2) 90% 程度以上 M7.4 三陸沖 ~ 房総沖 津波地震 (Mt8.2 前後 ) 20% 程度 図 -6 海溝沿いの主な地震の今後 30 年以内の発生確率 M7.5 出典 : 地震調査研究推進本部 HP(2011 年 1 月 11 日現在算定基準日 2011 年 1 月 1 日 )

そのほぼすべてが太平洋側港湾に就航していることが分かる ( 表 -1). 日本海側では博多港に寄港しているのみで, 本州日本海側港湾には 1 便も寄港していない. 図 -7 東海 + 東南海 + 南海地震同時発生時の津波高さ 出典 : 中央防災会議, 東南海, 南海地震等に関する専門調査会 ( 第 16 回 ) 資料 (2) 太平洋側港湾が被災した場合の物流への影響ここでは, 太平洋側港湾, 特に三大湾の港湾が被災した場合, 我が国の物流にどの程度の影響が出るか検討を行うものとし, 三大湾主要港とその他港湾の 外貿コンテナ取扱量 と 北米 欧州航路数 の比較, そして 生産拠点の輸出入等への影響 について考察を行う. a) 外貿コンテナ輸送への影響まず, 外貿コンテナ取扱量については, 三大湾の港湾の占める割合が大きく,2010 年の速報値 ( 図 -8) では, 全国の外貿コンテナ取扱量 1,686 万 TEU のうち, 三大湾の港湾で約 80%( 約 1,338 万 TEU) を取り扱っている. 一方, 管内港湾 ( 新潟港, 直江津港, 伏木富山港, 金沢港, 敦賀港 ) は 1.7%( 約 28 万 TEU) であり, 三大湾の港湾の 1/50 に過ぎない状況である. 三大湾の港湾が同時に被災した場合, 全国の 80% もの貨物が影響を受け, しかも三大湾以外の港湾との能力差を考えれば, その多くは他の港湾からの輸出入も困難な状況となり得る. 北陸,28 万 TEU, 1.7% それ以外, 349 万 TEU, 21% 東京 23% 表 -1 我が国に寄港する北米 欧州航路数 ( 便 / 週 ) 5) 北米 欧州 東京 21.0 2.0 三横浜 16.0 1.0 名古屋 12.0 3.0 大湾四日市 1.0 大阪 7.0 神戸 12.0 3.0 小計 69.0 9.0 博多 0.5 1.0 苫小牧 0.5 そ八戸 0.2 の仙台塩釜 1.0 他茨城 0.5 清水 2.5 3.0 広島 0.2 小計 5.4 4.0 合計 74.4 13.0 太平洋側港湾が被災した場合, 我が国は外貿コンテナ取扱能力の大半を失うというだけでなく, 我が国に北米 欧州航路が寄港できない可能性についても考えなくてはならない. 阪神淡路大震災による神戸港の被災を契機に北米 欧州航路の我が国港湾の抜港が進行した実態を鑑みると, 我が国港湾の長期的な国際競争力の低下も懸念される. c) 生産拠点の輸出入等への影響中央防災会議における東海 東南海 南海地震の震度想定 ( 図 -9) では, 関東地方や近畿地方の一部都府県はそれほど震度が大きくない. 震度 5 強以下の範囲が大部分を占める都府県 ( 京都, 奈良, 神奈川, 東京, 埼玉, 群馬, 栃木, 千葉, 茨城 ) の製造品出荷額は, 関東地方, 東海地方, 近畿地方のうち約 50% を占めており 6), 震災後も相当の輸出入が行われると考えられる. 一方, これらの地域の発着貨物が通常利用している太平洋側港湾は津波等の影響により機能を喪失する可能性が高い. このように, 被害の少ない地域の経済活動にも大きな影響が出る可能性がある. 伊勢湾, 256 万 TEU, 15% 四日市 1% 名古屋 14% 全国 1,686 万 TEU 横浜 18% 東京湾, 681 万 TEU, 40% 大阪 12% 神戸 12% 大阪湾, 400 万 TEU, 24% 図 -8 全国の外貿コンテナ取扱量 (2010 年 : 速報値 ) 出典 : 国土交通省港湾局資料 b) 北米 欧米航路への影響次に, 外貿コンテナの北米 欧州航路に着目すると, 図 -9 東海 + 東南海 + 南海地震の震度分布図 出典 : 中央防災会議, 東南海, 南海地震等に関する専門調査会 ( 第 16 回 ) 資料

物流ネットワーク上の支障 東海 東南海 南海地震発生 三大湾の被災道路 鉄道の寸断製油所の停止工場の停止 発生しうる問題 支援物資の供給に支障 被災していない地域の物流に影響 燃料供給の停止 サプライチェーンの断絶 求められる対応 支援物資輸送拠点の確保 代替港湾機能の確保 多様な輸送モードの確保 製油所や工場の分散化 日本海側港湾の課題 大型フェリー ROR O 船着岸可能岸壁の不足 基幹航路の就航不可 内陸輸送をトラックに依存 太平洋側の事業場が日本海側港湾を利用していない 1 港では対応不能製油所が立地せず 工場も太平洋側より少ない 具体的な対策 水深 9m のフェリー RORO 船対応の岸壁確保 14m 岸壁の整備 鉄道輸送網と接続 平常時の物流網の多様化の促進 企業 BCP に日本海側港湾の利用を明記 港湾間連携体制の構築 立地環境の整備 施設面での対応 運用面での対応 図 -10 東海 東南海 南海地震発生時に管内港湾が果たすべき役割 4. 北陸管内の港湾が担うべき役割と課題 (1) 大規模震災を想定した場合の物流ネットワークに係る施策の方向性 3. で言及したとおり, 我が国は常に大規模な地震と津波にさらされる現実に直面しており, 特に東海 東南海 南海地震は同時発生も否定できないことから, 三大湾すべてが被災した場合の港湾を中心とした物流ネットワーク 7) に与える影響は計り知れない. 今後の我が国における港湾施策の方向性は, 平常時の効率性を追求する他に, 大規模災害発生時の全国規模の物流ネットワークの維持も目指したものでなければならない. 各港湾の防災機能の強化はもとより, 広範囲で被害が発生する想定の下で, 各港湾が果たすべき役割を明確化すべきと考える. (2) 太平洋側港湾が被災した場合に管内港湾に期待される役割 (1) に示した方向性を踏まえ, 東海 東南海 南海地震の同時発生時に管内港湾が果たすべき役割を, 物流ネットワーク上に生じる支障と問題 を想定した上で, 日本海側港湾に求められる対応と課題 及び 具体的な対策 として図 -10 に整理した. 以下に, 図 -10 における主要な論点について述べる. a) 支援物資等輸送拠点として必要な機能 2. で述べたように, 震災直後の支援物資や広域支援 隊の輸送にフェリーが活用されており, 東海 東南海 南海地震の発生時にも最も有効な輸送手段となることが想定される. ここで課題となるのは国内長距離フェリーにも大小様々な規格のものが使用されており, 震災時には臨時運航による複数社のフェリー受入を前提とした場合, 大型のフェリーを受け入れられなければ, 支援物資等の輸送に支障を来す点である. 長距離フェリー協会所属船社の船舶を対象とし, 満載喫水から算定した必要岸壁水深を図 -11 に示す. 必要岸壁水深は 必要岸壁水深 = 満載喫水 + 余裕高 ( 満載喫水 0.1) として算出した 8). 必要岸壁水深 7.5m を越える船舶も 3 割程度あることから, 支援物資等の受入を行う港湾には水深 9m 程度の岸壁が必要となる. ( 全 39 隻中 ) 70.0% 60.0% 50.0% 40.0% 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% 12.8% 59.0% 28.2% 5.5m~6.5m 6.5m~7.5m 7.5m~ 図 -11 フェリー受入のための必要岸壁水深 9)

b) 代替港湾として必要な機能太平洋側港湾の代替港として機能するためには, 北米 欧州航路に就航する大型コンテナ船を受け入れることが必要となる. 管内港湾のコンテナ取扱岸壁で最も水深の深い岸壁は敦賀の -14m 岸壁であるが, ガントリークレーンが大型船に対応していない. また, 新潟港及び伏木富山港のコンテナ取扱岸壁は, 岸壁構造は -14m で, ガントリークレーンも大型船に対応しているものの, 泊地等の水域施設が -12m の暫定供用となっている. 現在, 太平洋側港湾に入港している北米 欧州航路の満載喫水は図 -12 の通りであり,-14m 岸壁を整備することで対応できる本船は大幅に増えると考えられる. ( 全 234 隻 )(%) 40.0% 35.0% 30.0% 25.0% 20.0% 15.0% 10.0% 5.0% 0.0% ~11m 10.7% 11m~12m 4.3% 12m~13m 29.1% 13m~14m 37.6% 14m~15m 17.9% 15m~16m 0.4% 0.0% 17m~ 図 -12 我が国に寄港する北米 欧州航路本船の満載喫水 10) また, 東日本大震災で生じた発電所等稼働停止による一時的な電力供給停止や広域的な計画停電が実施された場合は, ガントリークレーンでのコンテナ荷役ができない事態も想定されるため, 非常用電源設備も代替港湾として備えるべき設備の一つとして考えておく必要がある. c) 多様な輸送モードとの接続港湾はあくまで 1 つのノードに過ぎず, 陸上輸送モードと組み合わされて初めて物流ネットワークが機能する. 東日本大震災では, 発災直後, 燃料不足によりトラックの運行に支障を来し, 東京港等でコンテナターミナルが混雑した原因となった. 他方, 日本列島を横断し日本海側を縦貫する鉄道については比較的復旧が早く, 関東 - 新潟 - 東北への貨物列車による燃料輸送も行われた. かつては, 港湾と鉄道の連携による輸送も盛んであったが, 現状は十分活用されていない状況にある. 今回の東日本大震災の教訓を踏まえると, 被災地へ支援物資等を迅速に供給することが重要である. また, 東海 東南海 南海地震が発生した場合, 被害が少ないと考えられる地域の輸出入貨物を大量に日本海側港湾に輸送する必要がある. 港湾と道路との連携に加え, 鉄道との連携強化を図り, 多様な輸送モードを確保することが, より災害に強い物流ネットワークの構築に必要不可欠であると考えられる. d) 運用面での対応大規模災害発生時に日本海側港湾を利用して我が国物流機能を維持するためには, 荷主や物流事業者, 港湾管理者の意識向上が不可欠である. このため, 荷主や物流事業者の BCP に日本海側港湾の利用を位置づけるとともに, 平常時からの利用を促進させる取り組みが必要である. また, 大量の貨物を 1 つの港湾で扱うことは不可能であることから, 複数の港湾で貨物を分担して代替港湾としての機能を果たす仕組み作りが求められる. さらに, 抜本的な対策として, 事業所立地を分散化する動きもあり, これに対応するため, 日本海側港湾の利便性向上により, 立地環境を整えることも必要である. 5. おわりに 本論文は, 東日本大震災での実際の物流動向を踏まえ, 東海 東南海 南海地震により, 太平洋側港湾の被災可能性が高いこと及び全国的に影響が及ぶことを示した. それらを踏まえた上で, 物流ネットワークを維持する上で管内港湾に求められる対応と具体的な対策として -14 m 岸壁の整備や鉄道輸送網との接続を提案した. 今後, 本提案の実現に向けて検討を進めて参りたい. 謝辞 : 本論文を執筆するにあたり, 多くの方々にヒアリングやデータ提供等の協力をしていただきました. ここに感謝致します. 参考文献 1) 国土交通省 HP:http://www.mlit.go.jp/,2011 年 6 月アクセス. 2) 石油連盟 HP:http://www.paj.gr.jp/from_chairman/data/2011/,2011 年 6 月アクセス. 3) 石油連盟 : 今日の石油産業 2011, 石油連盟,2011. 4) 中央防災会議 東南海, 南海地震等に関する専門調査会 : 東南海, 南海地震に関する報告,2003. 5) 国土交通省港湾局 ( 監修 ): 数字で見る港湾 2010,( 社 ) 日本港湾協会,2010. 6) 経済産業省経済産業政策局調査統計部 : 平成 21 年工業統計調査 [ 市区町村編 ],2011. 7) 武城正長 國領英雄 : 現代物流 - 理論と実際 -, 晃洋書房, 2005. 8) 国土交通省港湾局監修 : 港湾の施設の技術上の基準 同解説, ( 社 ) 日本港湾協会,2007. 9) ( 社 ) 日本海運集会所 :2011 年版日本船舶明細書 Ⅰ,( 社 ) 日本海運集会所,2010. 10) John Fossey, Jane Degerlund, Len Jones, Lefke Kerr:Containerisation International Yearbook 2010,Informa UK,2009.