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1. 取組の背景射水市大門地域は 10a 区画の未整備な湿田が多く 営農上の大きな障害となっていた 昭和 62 年に下条地区で県内初の大区画圃場整備が実施されたのを皮切りに 順次圃場整備が進んでいる 大区画圃場整備事業が現在の 経営体育成基盤整備事業 になってからは 農地集積に加えて法人化等の担い手

5 事務局 審査会の事務局は 福島県農林水産部農業振興課におく 第 5 奨励品種決定調査の実施県は 奨励品種の決定に当たっては 奨励品種決定調査を行うものとする 1 奨励品種決定調査の種類 (1) 基本調査供試される品種について 県内での普及に適するか否かについて 栽培試験等によりその特性の概略を明

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2 図微小要素の流体の流入出 方向の断面の流体の流入出の収支断面 Ⅰ から微小要素に流入出する流体の流量 Q 断面 Ⅰ は 以下のように定式化できる Q 断面 Ⅰ 流量 密度 流速 断面 Ⅰ の面積 微小要素の断面 Ⅰ から だけ移動した断面 Ⅱ を流入出する流体の流量 Q 断面 Ⅱ は以下のように

平成 30 年産一番茶の摘採面積 生葉収穫量及び荒茶生産量 ( 主産県 ) - 一番茶の荒茶生産量は前年産に比べ 12% 増加 - 調査結果 1 摘採面積主産県の摘採面積 ( 注 1) は2 万 7,800ha で 前年産に比べ 400ha(1%) 減少した 2 10a 当たり生葉収量主産県の 10

11 表 1 平成 5 野菜の 1a 当たり収量 及び ( 全国 ) 計 1 a 当たり収量 対前比 1 a 当たり収量 ( 参考 ) 対平均収量比 481,1 1,551, 11,451, 99 nc nc 根 菜 類 169,5 5,144, 4,6, 98 nc nc

イネは日の長さを測るための正確な体内時計を持っていた! - イネの精密な開花制御につながる成果 -

附則この要領は 平成 4 年 1 月 16 日より施行する この要領は 平成 12 年 4 月 3 日より施行する この要領は 平成 30 年 4 月 1 日より施行する 2

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愛媛県農林水産研究報告第 8 号 (2016) 可動式光反射シートの取付け位置が イチゴ あまおとめ の収量及び品質に及ぼす影響 中川建也 Effects of the mounting position of the Adjustable Light Reflecting Sheet on yield and quality of Strawberry cultivar Amaotome NAKAGAWA Tatsuya 要旨イチゴ あまおとめ の着色, 収量及び品質の向上のため, 高設ベッド側面から通路中央に光反射シートを設置し, 反射光により受光を改善する可動式光反射シートについて, 効果的な取付け位置等の検討を行った. その結果, 高設ベッドの栽培槽側面の上端から光反射シートを栽培槽に沿って下垂させ,25cm 下を回転軸にして展張させる方法が, 受光が改善されたことにより, 高単価である早期の収量に優れた. キーワード : イチゴ, あまおとめ, 可動式光反射シート, 取付け位置 1. 緒言愛媛県における 2013 年産イチゴの栽培面積は 84.6ha( うちハウス 80.3ha) であり ( 愛媛県農産園芸課,2015), 生産者の高齢化等の影響でその面積は年々減少しているが, 本県の野菜類の中で産出額が高いイチゴは, 単価の変動が少なく安定した収益が見込まれるため, 重要な基幹品目の一つとなっている. 全国的には各県が独自開発した品種のブランド化を図る中, 本県が育成した あまおとめ ( 品種登録 17391 号,2009.2.24)( 伊藤 松澤, 2008) は, 大玉で糖度が高く, 多収で春以降も品質が良好なことから市場や消費者から高い評価を得ている. しかし, 果実部分に光が当たりにくい高設栽培において厳寒期の果皮色が薄いことが問題となっている. これを解決するために, 弓達ら (2011) により, 鋼管等を利用した長方形の架台を高設ベッドの側面と平行に取付け, 上端の取付け部分を回転軸にして架台上の果房を持ち上げ, 受光体勢を改善し, 着色を向上させる可動式果実架台 ( 特許 4935722) が考案された. 一方, 本県の大洲市や西予市では, この地域特有の朝霧や季節風による雪雲の流入により, 冬季に寡日照であるため, あまおとめ の着色不良が県内の他の地域と比べて問題となっており, 着色向上対策が特に急がれ, 現場では光反射シートを高設ベッドの側面に下垂あるいは斜めに設置することで受光を改善し, 着色を向上させる方法が導入され始めていた. そうした中, 可動式果実架台の動作システムを応用し, 高設ベッド側面に取り付けて下垂させた光反射シートの裾を高設ベッド間の通路中央まで展張することにより, 果実の受光状態を改善する可動式光反射シートを愛媛県と地元農業協同組合が共同で開発し,2014 年に特許登録された ( 特許 5521163). その後現場での実証が進む中で, この方法が着色の改善のみならず, 収量や果実糖度をも向上させる可能性が次第に明らかになり始め, 現在, 現場の普及指導機関が中心となって技術の組み立てが進んでいる. ここでは, 光反射シートの取付け位置等の違いが, 光環境や受光を遮られることによる培地温度への影響, イチゴの収量, 品質に与える影響を調査し, 最適な取付け方法を検討したので報告する. 2. 材料および方法 - 24 -

可動式光反射シートの取付け位置がイチゴ あまおとめ の収量及び品質に及ぼす影響 2.1 可動式光反射シートの構造図 1 に構造を示した. 高設ベッドの側面に光反射シート ( タイベック : デュポン社 ) を張り, その下端の裾を一定間隔につけた支持棒材を介して, 高設ベッド側面の下部に沿って取り付けた針金と連結する. 針金を牽引することにより, 支持棒材が牽引された長さ分斜め上にせり上がり, 光反射シートの裾を持ち上げて取付け位置を回転軸にして高設ベッド間の通路中央まで展張する ( 図 2 の右 ). 収穫や栽培管理作業時には, 展張時に固定していた針金を解くと, 牽引方向と反対側に設置した滑車装置により針金が引き戻されて光反射シートが下垂する ( 図 2 の左 ). 可動式光反射シートの設置にはタイベックの他に設置材料として針金, ダブルクリップ等, 滑車装置としてロープ, 滑車, 重り等の市販されているものを用い, 材料費は 10 a(25mの高設ベッドを 32 列配置 ) 当たりタイベックシートが約 136 千円, 設置材料が約 117 千円, 滑車装置 ( 高設ベッドの列の片側ごとに必要で 1 組約 900 円 ) が 57 千円で, 計 310 千円であった. 2.2 可動式光反射シートの取付け位置光反射シートの設置は, 反射光量を多く確保するために, 光反射シートを栽培槽側面の上端 から取付けて下方へ展張するのが望ましいが, このとき光反射シートにより栽培槽への光が遮断されることで培地温度の低下による生育への影響が懸念される. そこで, 光反射シートの栽培槽への取付け位置等を変え, 培地温度や光環境を確認するとともに, イチゴの収量, 着色程度及び糖度への影響を調査した. 可動式光反射シートは,2013 年 10 月 30 日に, 次のように取付け位置等を変えて設置した ( 図 3).1 栽培槽側面の上端から幅 85 cmのシート長端を 25 cm下まで栽培槽に沿って垂直に垂らし,25 cm下を回転軸にして展張 ( 以下, 上部から取付け区 ).2 幅 60 cmのシートを栽培槽側面の上端から 25 cm下の位置に取付けて展張 ( 以下,25 cm下取付け区 ).3 栽培槽側面の上端に幅 60 cmのシート長端を取付け, さらにシートの裾を約 10 cm通路側に針金等を支えに張り出して固定 ( 以下, 固定区 ). 固定区以外の可動式の取付けで展張した時のシートの角度はどれも同じ約 45 度である ( 図 4). 固定区については, 光反射シートの導入農家では多く採用されていたことから参考のために設けた. これらの可動式の区では試験期間を通じて収穫や栽培管理作業時以外は通路中央へ展張した状態を維持した. また, 光反射シートをつけない対照区を設けた. [ 側面図 ] [ 断面図 ] ( 取付け位置 ) 栽培槽 ( 滑車装置 ) 栽培槽直管 滑車 重り タイベック 針 牽引 [ 上面図 ] 栽培槽 支持棒材 牽引 持ち上げる力 ダブルクリップで タイベックを装着 図 1 可動式光反射シートの構造 - 25 -

愛媛県農林水産研究報告第 8 号 (2016) タイベック 図 2 可動式光反射シートの動作状況 反射シートを展張したところ ( 右 ) と収穫時等に下垂させたところ ( 左 ) ( 上部から取付け区 )(25 cm下取付け区 ) ( 固定区 ) 図 3 可動式光反射シートの試験区 図 4 光反射シートの取付け状況 左 ) 手前 : 上部から取付け区, 奥 :25 cm下取付け区, 右 ) 固定区 2.3 調査方法照度計 ( ミノルタデジタル照度計 T-1M) を用いて, 晴天 (12 月 5 日 ) の 9:30,12:00,14:00, 16:30, 曇天 (12 月 9 日 ) の 10:00,13:00,16:00 に照度を測定した. イチゴ草冠付近及び果房付近に向かう光を, 照度計のセンサー部を図 5 で示した目的の測定箇所で図中の矢印に向けて値を読み取り, ハウス内照度はイチゴの草冠最上部でセンサー面を水平上向きで測定し, これを 2 回繰り返した. 自記温度計 ( おんどとり TR-71U) を用いて, 温度センサー (TR-0106) を栽培槽の中央でイチゴの株間となる培地表面から 15 cm下に埋め毎正時で測定した値の日平均から月平均を算出した. 果実の着色は, 全ての商品果について, 目視して着色の濃い面を栽培槽と反対側を表, その裏面の着色の薄い面を裏とし, 色彩色差計 ( ミノルタ CR-200) で測定して得られるデータ (L*, a*,b*) から, 高野ら (1995) らの方法を参考にした計算式 a* 1000/(L* b*) により 果実の赤さの程度 ( 赤色指数 ) を算出した. 収穫は 11~5 月まで 1~3 日おきに行い,1 区 10 株ごとに, 商品果と規格外の果実 (5g 未満の果実, 果皮障害, 不受精果, 病害果等 ) を選別し, それぞれの果実数と重量を測り, 月毎の収量を求めた. 試験区ごとに全ての商品果を搾汁し, 屈折糖度計を用いて糖度を測定した. 2.4 耕種概要本試験の栽培は, 愛媛県農林水産研究所のビニールハウス内の愛媛農試方式高設栽培システム ( 玉置 角田,2003) に 2013 年 9 月 17 日に定植して実施した. 高設ベッドは高さ 95 cm, 幅 25 cmで, 設置間隔は 120cmとし, シルバーマルチを被覆して株間 20cmで千鳥植えした. 基肥はロング肥料 (180 日タイプ ) を窒素成分で 1 株当たり 1.3g を定植前の高設ベッドの表面に散布し,12 月に追肥としてロング肥料 (100 日タイプ ) を窒素成分で 1 株当たり 1.3g を網状の袋に詰めて給水タンク内に投入した.12~3 月まで高設ベッド - 26 -

可動式光反射シートの取付け位置がイチゴ あまおとめ の収量及び品質に及ぼす影響 の栽培槽から下の支持脚部分を透明ビニール で包んで保温し, 夜間は加温機を 8 設定とし, 11 月 20 日から 2 月 25 日にかけて 2~3 時間の 日長延長による電照を行い, その他の管理は一 般的な促成栽培方法によった. 3. 結果 可動式光反射シートを展張した状態でイチ ゴの草冠や果実周辺の照度を, 図 5 に示した 1 ~4 の位置で晴天と曇天日の朝から夕にかけ て測定した平均値を表 1 に示した. いずれの天 候条件や測定位置でも上部から取付け区,25 cm 下取付け区, 固定区, 対照区の順で照度が高く, 上部から取付け区では対照区より照度が約 40 ~90% 向上した. 12~5 月の培地温度を図 6 に示した. 栽培槽 が光に当たる 25 cm下取付け区と対照区が, 光 が遮断される上部から取付け区と固定区と比 べて生育期間を通じて高く推移した. 果実の着色は図 7 に示すように調査期間を通 じて果実の表面は上部から取付け区が最も優 れ, 次いで 25 cm下取付け区, 固定区, 対照区 の順で照度の測定値の強さにしたがって着色 W 1 2 N 4 3 E も優れた. 裏面は 3 月に固定区が 25 cm下取付 け区を上回ったが, それまでの期間は表面と同 様の順で光反射シートの設置区の着色が優れ た. なお, 赤色指数の差がおよそ 5 以上あれば, その違いが目視で判別できる程度である. 月別の糖度を図 8 に示した.12~2 月の冬期 に光反射シートの設置区すべてが対照区より も高く推移したが, 期間を通じて取付け位置等 の違いによる差に一定の傾向はなかった. 月別の収量を表 2 に示した. 全期間の合計は, 4,5 月の収量が多かった固定区が全収量, 商品 果収量ともに最大となった.11~2 月の収量で は, 上部から取付け区が全収量, 商品果収量と もに多く, 特に商品果収量は対照区と比べて約 27% 増収した. 培地温度 ( ) 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 上部から取付け区 25 cm下取付け区固定区対照区 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 S 図 5 照度の測定位置 図 6 光反射シートの取付け位置が高設ベッドの培地温度の推移に及ぼす影響 注 ) 毎正時の 1 日平均の期間平均 表 1 光反射シートの取付け位置が草冠及び果房周辺の照度に及ぼす影響単位 :klux 晴天 (12/5,9 時半 ~16 時半平均 ) 曇天 (12/9,10~16 時平均 ) 1 2 3 4 1 2 3 4 上部から取付け区 21.1 12.5 10.7 13.0 5.2 4.1 3.9 4.2 25 cm下取付け区 18.1 9.3 8.8 11.0 5.0 3.2 3.0 3.8 固定区 17.0 5.7 5.2 10.4 3.9 1.4 1.3 3.3 対照区 15.0 1.5 1.4 6.7 3.6 0.4 0.4 2.7 注 ) ハウス内照度 : 晴天 22.6klux, 曇天 8.2klux - 27 -

糖度 (Brix)(%) 愛媛県農林水産研究報告第 8 号 (2016) 図 7 光反射シートの取付け位置が あまおとめ の果実の着色に及ぼす影響 15 14 13 12 上部から取付け区 25 cm下取付け区固定区対照区 表 2 光反射シートの取付け位置が あまおとめ の月別収量に及ぼす影響 単位 :g/ 株 区分試験区 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月合計 11~2 月 全収量上部から取付け区 26 109 87 51 136 90 117 616 273 上記のうち商品果収量 11 10 9 8 7 6 5 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 図 8 光反射シートの取付け位置が あまおとめ の月別糖度に及ぼす影響 25 cm下取付け区 21 98 66 30 168 64 117 564 215 固定区 21 97 83 50 133 95 154 633 251 対照区 13 101 73 33 100 71 102 493 220 上部から取付け区 24 108 85 45 120 71 107 560 262 25 cm下取付け区 20 91 64 28 143 58 113 517 203 固定区 19 95 80 46 114 81 127 562 240 対照区 11 98 70 27 82 55 85 428 206 4. 考察 あまおとめ の着色向上対策を目的に現場で導入されつつある可動式光反射シートが, 栽培槽への受光を妨げる懸念があることから, 反射シートの取付け位置を変えたときに収量や品質に及ぼす影響について検討した. 受光を確保し培地温度の低下を避けるために栽培槽の 上端から光反射シートを下げて取付けた方法 (25 cm下取付け区 ) は, 栽培槽への光が遮断される取付け方法 ( 上部から取付け区, 固定区 ) に比べて培地の温度は確保されたものの, 収量は劣る結果となった. 培地を加温することでイチゴの収量が増加することは知られており, 金ら (2009) の報告では頂花房と第 2 腋花房の異なる花房発達期から培地温度を 4 高くなるよ - 28 -

可動式光反射シートの取付け位置がイチゴ あまおとめ の収量及び品質に及ぼす影響 う処理したところ最大で約 10% 増収し, 福元ら (2003) の報告では根圏温度を 5,9,13,17, 21,25 に設定したときに 5 から 21 まで処理温度が上昇するにつれ収量が上昇したとしている. 本試験では光反射シートによって光を遮られた培地とそうでない培地の温度差は期間を通じて 1 程度であったものの, 今回の培地温度の低下によって, ある程度の収量への影響があったものと推察された. 光の強さと光合成の関係について織田ら (1974) は古いイチゴ品種である 宝交早生 や ダナー などを用いた研究で照度の上昇にともない光飽和点 18~20klx 付近まで光合成速度が増大することを報告し, さらに和田ら (2010) は あまおとめ の交配親でもある とちおとめ を供試して同様の報告をしており, 再検討する必要があるとしながらも, 織田らが測定した 宝交早生 や ダナー と比べて光飽和点が高く, そのときの光合成速度も著しく高かったとしている. 光反射シートの取付け位置を変えることにより確保される程度の培地温度の差がもたらした収量への影響以上に, 光の強さによる差がもたらす影響が大きいと考えられ, 光反射シートを受光がより向上するよう取付けて光強度を増して光合成速度を増大させる方法が収量の確保につながると推察された. また, 光反射シート設置区で冬期の糖度が高く推移したのは, 光合成速度が増して光合成産物量が増加したことが要因と考えられ, 光反射シート設置が果実品質の向上に有効であると考えられた. 可動式光反射シートの取付け位置については, 上部から取付け区が, 受光がより改善することで着色が最も良く, 単価が高く収益が見込まれる 11~2 月の収量が多いことから, 最も適当と判断された. 普及にあたっての課題として, 本試験では 1 棟のビニールハウス内に, 高設ベッド約 3~4 m 分の複数の光反射シートの試験区を設けたが, 実際に農家で光反射シートを導入する場合は, ハウス内で全面的に設置することとなり, 可動式光反射シートが展張しているときはハウス内の床面への光や空気の流れがシートを境に遮断される状態となる. このことがハウス内の環境にどう影響してくるか調査し, さらに 効果的な設置方法を明らかにする必要がある. 今後, 可動式光反射シートを活用した栽培が あまおとめ への適用だけにとどまらず, 県内で栽培される他のイチゴ品種に対する効果も検証され, 農家の収益を向上させるための技術として広く定着することを期待する. 謝辞本試験の実施にあたり, 可動式光反射シートの特許発明者である伊藤博章氏 ( 現南予地方局産業振興課 ) には可動式光反射シートの設置方法を始め試験設計についてご指導をいただいた. また, 本試験は県南予地方局による あまおとめ収益力向上事業 の一環として行ったものであり, 事業担当者の薬師寺亮児氏 ( 現八幡浜支局産地育成室 ) には多大なご協力をいただいた. ここに記して感謝の意を表する. 引用文献伊藤博章, 松澤光 (2008): イチゴ新品種 あまおとめ の育成, 愛媛農試研報,41,16-19. 愛媛県農林水産部農業振興局農産園芸課 (2015): 平成 25 年産野菜類の生産販売状況に関する調査. 織田弥三郎, 川田訓平 (1974): イチゴ品種の光合成特性について ( 第 1 報 ) 光 温度 - 光合成曲線ならびに葉の形態. 園芸学要旨. 昭 49 春,174-175. 金泳錫, 遠藤昌伸, 切岩祥和, 陳玲, 糠谷明 (2009): 固形培地耕における異なる生育段階での日中の培地加温がイチゴ 章姫 の開花, 生育, 収量に及ぼす影響, 園芸学研究,8 (3), 315-320. 庄下正昭 (1985): イチゴの立体栽培に関する研究, 三重農技センター研報,13,7-19. 高野浩, 沢田真之輔 (1995): 色彩色差計利用によるイチゴ果実の着色指標. 近畿中国農業研究成果情報,195-196. 玉置学, 角田和利 (2003): イチゴのハンモック式簡易高設栽培システムの開発. 愛媛農試研報,37,13-19. 福元康文, 西村安代, 島崎一彦, 藤本友紀 (2003): イチゴの生育, 収量および無機成分に及ぼす根圏温度の影響, 農業生産技術管理学会誌,10(2), 99-106. - 29 -

愛媛県農林水産研究報告第 8 号 (2016) 弓達隆, 伊藤博章, 石々川英樹, 安西昭裕 (2011): イチゴ あまおとめ の着色改善のための可動式果実架台の開発, 愛媛農林水研報,3,13-19. 和田義春, 添野隆史, 稲葉幸雄 (2010): 促成, 半促成栽培におけるイチゴ品種 とちおとめ の高 CO2 濃度下の葉光合成速度促進に及ぼす光と温度の影響, 日本作物学会紀事,79 (2), 192-197 - 30 -