身近な地域の調査 の指導について 練馬区立開進第一中学校教諭池下誠 身近な地域の調査 では 13 時間で指導計画をたてるとともに 表 1のように 地図の見方 課題の設定 課題の追究 課題の解決 というように 地図の見方を学習した上で 問題解決的な視点を取り入れた指導を行った まず学区域周辺の身近な地域の2 万 5 千分の一の地形図を使って 縮尺の概念や8 方位を理解させた 次に 学区域周辺のランドマークとなる鉄道や駅 河川 主な公園や道路などを学校との位置関係でとらえさせた 次に地図記号の試験を行うとともに 学区域周辺の新旧の地形図 ( 昭和 7 年と昭和 34 年 ) を使って 地域がどう変化したかをとらえさせた 現在の環八通りは かつては冨士街道だったこと 昭和 7 年の地形図には 隣接の開進第一小学校は存在しているが 本校はまだできていなかったこと 石神井川沿いが水田で 中学校のある場所が茶畑だったこと 東武東上線や西武池袋線沿いの都心に近い方から住宅地が増えていったことをとらえさせた 3 時間目は 学区域周辺を巡検した 学区域は台地と低地とから成り立っており その間が坂になっていた 標高 34mの台地上に学校が建っており 学校から徒歩 5 分の所に 旧石器時代 縄文時代 弥生時代 平安時代の住居跡などが出土した東早淵遺跡があり 早宮史跡公園と呼ばれていた 13) 次に なぜこの地域に 旧石器 縄文 弥生 平安と長きにわたって 古代の人々が住居を構えたのかを考えさせた 生徒は 台地上にあるため水はけがよく 日当たりがよいこと 石神井川に近く 水や食料が得やすいことなどをあげていた また 東早淵遺跡から石神井川に向かうと急な坂で 等高線の間隔が狭くなっていた 石神井川沿いは かつて低地で水田が多かったが 昭和 34 年の地形図を見ると 水田はほとんど見られなくなったことを気づかせた 学校があるのは台地上で 近隣の建物がなければ かつては東早淵遺跡や校庭の南の端から石神井川が眺 めることができたのではないかということを想像させた 4 時間めは 日頃学区域周辺に住んでいたり 前時に巡検をしたりしたことから 地域的特色 地域のよい点 地域の課題などを考えさせた 生徒は 地域的特色を住宅地であること 日当たりが良いことをあげた 一方 地域の問題は 道幅が狭く複雑なこと 坂が多いことなどを指摘した 地域のよさについては 緑が多いこと 交通の便がよいことなどをあげた 5 時間めは 前時に考えた地域的特色や課題 地域のよい点がみられるのは どのあたりか また なぜそのような特色や課題 よさがみられるのかを予想させ 仮説を立てさせた 6 時間目は 地域調査を行う際の持ち物や注意事項を確認させるとともに 班ごとに一人一人の役割を分担させた 7 時間目は調査地域を6つに分け 班ごとに調査する地域のコースを考えさせ ルートマップを作成させた 8 9 時間目は 班ごとにそれぞれの箇所を調査させた 10 時間目は 調査した結果が それぞれ仮説に対してどうなっているのか ということを検証し まとめさせた 11 時間目は 班ごとにそれぞれ調べた地域調査の結果を発表させた 次に各班が調べた6つの地域を合わせてみて 地域全体としては仮説に対してどうなっているのかを検証し 表 2のように考察させた 調査中の生徒たち - 1 -
表 1 身近な地域の調査 の学習計画 地図の見方 第 1 時 第 2 時 主な問い 目標 ( 知識 理解 ) 資料 学区域周辺の地形図を使って 学区域周辺の地形図を使って 縮尺や8 方 学区域周辺の2 万 5 分 地形図の決まりを理解しよう 位を理解しよう の1の地形図 ランドマークとなる場所に着色し 定規 それらの位置をとらえよう 学区域周辺の古い地形図から 地図記号を覚えよう 昭和 7 年の学区域周辺 当時の地域の様子をとらえよ 学区域周辺の昭和 7 年の地形図をみて の5 万分の1 地形図 う 学区域周辺がどのような土地利用だった のかをとらえよう 第 3 時 学区域周辺を巡検し 地域的特 色を見つけよう 学区域周辺を巡検し 学区域周辺の地域的 昭和 7 年と昭和 34 年の特色を見つけよう 5 万分の1 地形図 第 4 時 学区域周辺の地域的特色や課題 地域のよさを考えよう 学区域周辺の地域的特色や課題 地域のよさを考えよう 調査に行く際の注意事項や持ち物を考える 第 5 時 地域を調査するテーマを考えよう 学区域周辺を調査するテーマを決めよう 2500 分の 1 の地形図 身近な地域を調査するテーマ 身近な地域を調査するテーマに基づいて 2500 分の1の地形図 課 第 6 時 に基づく仮説を立てよう 仮説を立てる 題の設 第 7 時 地域調査を行う際の決まりや持ち物を考えよう 地域調査を行う際の決まりや持ち物を考える 調査結果をまとめる 定 第 8 時 身近な地域を調査する際のルートマップを作ろう 身近な地域を調査する際のルートを考え 2500 分の1の地形図ルートマップを作成する 課題の追究 第 9 時 身近な地域の調査を行おう 班ごとに身近な地域の調査を行う 2500 分の1の地形図 身近な地域の調査結果をまと 班ごとに調べた身近な地域の調査結果を地 2500 分の1の地形図 第 10 時 めよう 図にまとめる 第 11 時 身近な地域の調査結果を班ごとに発表しよう 班ごとに調べた身近な地域の調査結果を発表する 2500 分の1の地形図 身近な地域の特色をとらえよ 班ごとに調べた地域の特色を より広い視 練馬区の副読本 課 第 12 時 野でとらえると どのような地域的特色の 2500 分の 1 の地形図 題 地域なのかを考察する の 身近な地域の地域的特色をま 調べた地域の全体をみて 身近な地域の地 班ごとに 事前に立て 解 第 13 時 とめよう 域的特色をまとめる た仮説を検証する 決 事前に立てた仮説を検証する ( 筆者作成 ) - 2 -
表 2 生徒が考えた学区域周辺の 地域的特色 地域の課題 地域のよさ の仮説と検証結果 生徒の考え仮説検証結果 地域的 住宅が多い 都心から遠くなく 都心よりは 都心から遠くなく 都心よりは地価が安 特色 地価が安いので 住宅地になっ いので 住宅地になった しかし もと た もとは交通の便が悪かったので 開発が 遅れた 日当たりがよい 台地だから 台地上に学校がある 坂は南向きの斜面 低地も遮る物がない 高い建物が少ない 地域の 道路が狭い 住宅が密集しているから スプロール状に開発が行われ 無秩序に 課題 都市化が進んだ 坂が多い 台地と低地があるから 石神井川に向かって坂がある 武蔵野台地が石神井川によって削られて 坂になっているから 地域の 交通の便がよい 駅から近い 有楽町線の駅ができてから交通の便が良 よさ くなったが もともとは交通の便は悪か った 緑が多い 公園や畑が多いから 公園や畑も少なくないが 住宅の周りに 生け垣や庭が多いから ( 筆者作成 ) - 3 -
住宅が多い のは 都心に近く交通の便がよいから ということが仮説だった 調べてみると 地下鉄有楽町線や副都心線の駅に近く 都心までわずかの時間で行けること 環状八号線や七号線にも近く交通の便がよいこと 交通の便がよい割に 比較的地価が安いことがわかった 交通の便がよくなったのは 地下鉄有楽町線や大江戸線が開通してからで それまでは西武池袋線の練馬駅からも 東武東上線の東武練馬駅からも遠く 交通の便があまりよくない地域であった しかし そのために開発が遅れ 農地や緑が多く残っていることがわかった 坂が多い のは 台地と低地とがあるから というのが仮説だった 調べてみると 坂はすべて学校のある台地面から石神井川の低地に向かって形成されていた 一方 石神井川の反対側にも坂があり 坂の上が台地上になっていることから 武蔵野台地が石神井川に浸食されることによって坂ができたことを気づかせることができた ( 図 1) 日当たりがよい ことに対しては 台地上にあるから というのが仮説だった 実際に 学校があるのは武蔵野台地上で しかも第一種住宅専用地域になっている地域が多いため 空間が広く高い建物の建築が制限されていること また 石神井川沿いは低地になっているものの 遮るものが少ないこと 台地と低地の境にある坂の多くは南向きの斜面になっているため 日当たりがよいことがわかった 図 1 台地と低地の様子 ( 生徒作品 ) 道路が狭い のは 住宅が密集しているから という仮説だった しかし それほど住宅が密集しているわけではなかった 街並みが計画的でないことなどから スプロール状に開発が行われた地域が多く 写真 1のように 道幅が狭い地域が少なくなく 無秩序に都市化が進んだことが原因であることがとらえられた 写真 1 道幅を測っている様子 - 4 -
交通の便がよい のは 駅に近いから というのが仮説だった 実際 有楽町線や副都心線など都心に向かう鉄道の最寄り駅に近いこと 環状七号線や環状八号線などの主要幹線道路に近く 環七と環八とを結ぶバイパスや川越街道に近いことがわかった しかし 地下鉄の2 路線や環状八号線の開通は比較的新しく これらができるまでは 交通の便があまりよくない地域であったことがとらえられた 緑が多い のは 公園や畑が多いから というのが仮説だった 実際 公園や畑も少なくなかったが 住宅の周りに生け垣が多いこと 庭に木が植えられている住宅が多いことがわかった ( 図 2) 図 2 緑の多い地域の様子 ( 生徒作品 ) - 5 -
以上のように 仮説に基づき それを検証するために 地域調査を行わせた 直接 地域を調べさせることによって なぜこのような地域的特色や課題 地域のよさが見られるのか ということをとらえさせることができた 単元の最後に 地域調査を通して明らかになった地域的特色や課題 地域のよさなどをまとめさせるとともに 地域の特徴を表すキャッチコピーを考えさせた 単元の初めの段階では 道が複雑で狭いことや坂が多くて大変だといったことが地域の問題であることを指摘する生徒が多かった しかし 地域調査を終えた段階では 地域の課題や問題点だけを指摘するなど 地域を否定的にとらえた生徒は 164 人中 1 人だけであった 一方 その中で道が複雑で狭いといったことや坂が多いといった課題はあるものの 緑が多いこと 日当たりがよいこと 都心に近い割に自然が多いこと など 地域のよさに気づき 身近な地域を肯定的にとらえた生徒が 99% と 圧倒的に多かった さらに この地域をよりよい地域にしたい といったことや 緑豊かな地域を守っていきたい といった 社会形成力の育成にかかわることに言及した生徒が 37% みられるなど 身近な地域 を直接調査するとともに 地域のよさに気付かせる指導を行うことが 地域の付加価値を高める意識を育てることになったといえる 都会に近い緑豊かな町私は いつも見ているこの地域の光景が なぜそうなっているのか ということを考えたことなどありませんでした 今回 身近な地域のフィールドワークを行ってみて なぜそうなっているのか ということを改めて考えるいい機会になりました 実際に地域を調べてみると これまで考えていた以上に 学校周辺の住宅地に緑が多いことがわかりました また 学校は台地にあり 校庭からはかつては石神井川が眺められであろうことが想像できました 学校周辺の台地は 高い建物を建てることに制限があること 住宅が密集しないように間隔を空けることなどが義務づけられていることを知り 日当たりがいいのには 規制もあることを知りました 私たちは 地域を築いてきた人々の思いを考えるとともに もっとよい地域にしていきたいと 今回の学習を通して 強く思いました 資料 1 生徒の感想文 1 緑が日光浴する町 早宮僕は 学校周辺は日当たりが良く 緑が多いことから 緑が日光浴する町 早宮 というキャッチコピーを考えました 学校周辺は道が細く複雑で 計画性のない町並みであるものの 日当たりが良く 緑豊かな良質の住宅地であることがわかりました 普段 何気なく見ているこの町が とてもいい町であることに気づきました 僕は この町がこれからも緑豊かな町でありつづけてほしいと思いました そして そのためにはこの緑豊かな町を守っていかなければならないと考えました 資料 2 生徒の感想文 2-6 -