てんかんと妊娠 要旨 妊娠適齢期の女性に対する抗てんかん薬治療で注意することは,1) 結婚以前から催奇性を含めた情報を伝える,2) 挙児希望するときは早期から投薬の調整を行う,3) 安全な妊娠の継続 出産ができるよう発作の抑制に留意し, 産科医と連携する,4) 母乳の授乳は可能である,5) 催奇性, 低 IQ(intelligence quotient) 児 自閉症スペクトラム障害の頻度が増加するため, できる限りバルプロ酸は避ける,6) 産後うつに注意し, 周囲の協力を助言する. 溝渕雅広濵内朗子佐光一也 日内会誌 105:1388~1394,2016 Key words てんかん, 妊娠, 先天奇形, 自閉症スペクトラム障害 はじめにてんかんは長期にわたって抗てんかん薬を服用することが多く, 妊娠 出産適齢期にも治療を継続することがある. てんかん発作がなければ通常の社会生活を送っている人でも, 結婚 妊娠 出産に慎重になっている人が多く, 妊娠を諦める人もいる. これは当事者が妊娠 出産に発作が影響するのか, 抗てんかん薬が影響するのか, その後の子育てが可能であるのか不安に思うことが多いためであり, 加えて, 医療者側も詳しい知識がないため, 適切な助言ができないことも一因である. 本稿では, 専門医に相談する前に, 内科臨床医の助言により, 最良の選択を当事者ができることを目的とした. まず, 内科臨床医が知っておきたいポイント, つまり患者によく尋ねられることを列挙し, その後, 参考となる内容を述べる. なお, 知識の整理のためには, ガイドラ イン 1,2) 3~5) および総説があるので参照されたい. 抗てんかん薬の略語は, 以下の通り ; バルプロ酸 (valproic acid:vpa), フェノバルビタール (phenobarbital:pb), カルバマゼピン (carbamazepine:cbz), ラモトリギン (lamotrigine: LTG), レベチラセタム (levetiracetam:lev), トピラマート (topiramate:tpm), フェニトイン (phenytoin:pht), ゾニサミド (zonisamide: ZNS). 1. 基本的な事項 1) 説明のタイミング いつ, 抗てんかん薬の妊娠に対する影響を説明するのかについて定まった見解はない. 結婚するとき に, という意見があるが, 日本でも半数程度が計画外妊娠である事実からは遅いように思われる. 思春期以降 であれば, 抗て 中村記念病院神経内科, てんかんセンター Recent Advances in the Medical Care and Treatment of Epilepsy. Topics:VI. Pregnancy in women with epilepsy. Masahiro Mizobuchi, Akiko Hamauchi and Kazuya Sako:Department of Neurology, Epilepsy Center, Nakamura Memorial Hospital, Japan. 1388 日本内科学会雑誌 105 巻 8 号
特集 てんかん : 内科医が知っておくべき診療ポイントと治療の最前線 表 1 時期別のマネジメント 治療開始 副作用の説明の一環として催奇性などの説明 大学生 社会人計画妊娠の重要性と薬剤調整には時間がかかることを説明定期的に結婚 妊娠予定の確認希望があれば薬剤の変更の開始病気そのものや妊娠 出産について夫を含めて話し合い挙児希望の確認結婚前後計画妊娠の重要性を確認抗てんかん薬調整の開始発作の抑制 ( 生活環境の変化があり, 発作増悪に注意する ) 夫 家族とサポートを含めた話し合い妊娠準備葉酸の服用開始発作の抑制 ( 発作の抑制が重要であり, 休薬しないように説明 ) 定期的受診時に発作状態の確認, 必要に応じて血中濃度測定妊娠中 16 週以内であればEURAPに登録 (http://eurapjp.umin.jp/) 産科医に情報提供 出産に向けて連携 ( 帝王切開の希望など ) 通常分娩可能である出産長時間の出産であれば, 抗てんかん薬の服用を行う発作により出産継続ができない場合は帝王切開母乳は投与可能である ( 薬によって児の観察は必要 ) 睡眠不足を回避する ( 夜間の授乳の代行など ) 出産後育児に対して家族の協力を助言する発作の状態 精神状態の確認 EURAP:European Register of Antiepileptic Drugs and Pregnancy んかん薬の服用開始時に簡単に話をしてよい. その際は, 親 ( できれば母親 ) にも同席してもらい, まだ先の話ですが, このお薬を飲みながら妊娠したときは, 少し赤ちゃんに影響があるかもしれません 程度の説明でよい. 大学生 社会人 になると, 子供をつくるときは計画的に, そのときはできるだけ早く, 少なくても半年から3カ月前までにご相談ください. 妊娠に気づいたときにはすでに赤ちゃんの体はつくられてきているので, 妊娠前に薬の調整 変更を終えなければなりません と伝えておく. また, 1~2 年に1 回程度, 結婚の予定を確認する. 結婚したとき にはさらに詳しい説明が必要で, 具体的な方法の相談が必要となる ( 表 1). 2) 妊娠はできるのですか? 端的な質問であるが, 何から答えればよいか戸惑うことが多い. できます と答えるが, この質問で何を不安に思っているかを考える必要 がある. てんかんの遺伝性を心配して, 子供をつくれないと思っているのであれば, 明らかに家族性の症例を除き, 遺伝する可能性は低いことを伝える. 抗てんかん薬の影響で子供をつくれないと考えているのであれば, 催奇性などについて正しい情報を説明する. 妊娠 出産による発作の増悪を心配しているのであれば, 妊娠中に発作が増悪する可能性は低い ( 頻度が変わらない症例は60~80%, 減少は5~10%, 増加は10~20% に過ぎない ) ことを説明する. てんかん発作自体の胎児への影響を心配しているのであれば, 二次性全般化を含む強直間代発作では, 低酸素による胎児への影響, さらに周産期の発作は切迫早産 胎盤剝離などの可能性があるので, 発作の抑制が大切であることを伝える. 3) 薬の影響はありますか? 抗てんかん薬によって影響が異なるので, 具体的に説明する必要がある. いくつかの大規模 日本内科学会雑誌 105 巻 8 号 1389
表 2 大規模妊娠登録研究の催奇性 monotherapy VPA PB CBZ LEV LTG TPM control 文献 North American UK 9.0% (30/333) 6.7% (82/1,220) 6.0% (12/201) 3.1% (33/1,078) 2.6% (43/1,657) DENMARK Australian EURAP 13.8% (35/253) 9.7% (98/1,010) 7.4% (16/217) 2.6% (8/302) 5.6% (79/1,402) 2.2% (15/684) 0.7% (2/304) 0% (0/58) 2.4% (2/82) 1.6% (2/126) 2.0% (36/1,812) 2.3% (49/2,098) 3.7% (38/1,019) 4.6% (14/307) 2.9% (37/1,280) 4.5% (19/425) 1.2% (6/495) 2.4% (13/541) 4.6% (5/108) 2.4% (1/42) 3.3% (5/153) 6) 7) 8) 9) 10) 6~10) 妊娠登録研究 ( 表 2) によると, 大奇形の発症率は対照群が1.2~3.3% に対して, 単剤では VPA 6.7~13.8%,PB 6.0~7.4%,CBZ 2.6~ 5.6%,LTG 2.0~4.6%,LEV 0~2.4%,TPM 2.4 ~4.6% である. このうち,VPAは用量依存性に発症率が高くなり,LTGも同様の報告がある. 多剤になるとさらに増加する. 説明する際には, % といっても理解しにくいので, 例えば 5% であれば, 20 人産むと1 人 というように説明すると理解できることが多い. 最近, 母親が高用量のVPAを服用した子供のIQ(intelli gence quotient) が低いと報告されており, さらに自閉症スペクトラム障害の発症率も高いと報告されている ( 後述 ). 胎児死亡率は単剤であれば8.2% で, どの薬剤も差はないが, 多剤では 12.1% と増加する 11). 4) 薬はどうしたらよいですか? 抗てんかん薬の影響を説明した後に, どのような方法があるのかを説明する必要がある. 方法としては,(1) 休薬する : 発作が抑制されて 12) おり, 休薬の基準に合う症例で可能である場合がある. その際の注意としては, 発作が強直間代発作でないこと, 特発性全般てんかんで休止により容易に発作が再発するてんかんでないことである. 妊娠 3カ月を過ぎて妊娠中 後期からは服用再開することが望ましい.(2) 変更 する : 比較的催奇性の少ないLTG,LEV に変更する. この際の注意として, 変更しても変更前と発作抑制効果が同等かは服用前には不明であること, 高価であること,LTGは調整に時間がかかり, 薬疹などの可能性があることなどがある.(3) 減量する : 多剤であれば単剤に, 発作を抑制可能な最少量とし, なるべく血中濃度の変動が少ない徐放錠を使用する. 5) 自然分娩は可能ですか? 多くの場合, 自然分娩は可能である. 注意することは, 周産期に薬をきちんと服用すること, もし出産中に発作が起こっても対応できる体制を整えてもらうことである. 無論, 自然分娩に不安があり, 本人が希望すれば計画出産となる. 事前に産科医の十分なカウンセリングが必要であるとともに, 担当の産科医に最終発作時期 発作頻度, 発作症状, 分娩時に発作が起きたときの対応などの情報を伝える必要がある. 6) 母乳を与えても大丈夫ですか? 現在のところ, 母乳は与えてよいという見解である 1~5). 抗てんかん薬の乳汁移行率 ( 表 3) 13) は様々で, おおむね分子量が小さく蛋白結合率が少ない薬剤ほど, 乳汁移行率が高いようである. また, 新生児の薬剤代謝は不完全であり, 排泄に時間がかかるので, 影響を心配する考え 1390 日本内科学会雑誌 105 巻 8 号
特集 てんかん : 内科医が知っておくべき診療ポイントと治療の最前線 表 3 母乳への抗てんかん薬移行率 抗てんかん薬 母乳内移行率半減期 ( 時間 ) ( 母乳の濃度 / 母体の血中濃度 ) 成人新生児 クロナゼパム 1.0~3.0 18~50 13~33 エトスクシミド 0.86~1.36 32~60 32~38 レベチラセタム 0.8 ~1.3 6~8 16~18 ガバペンチン 0.7~1.3 7~9 14 ゾニサミド 0.41~0.93 63 61 ~109 トピラマート 0.86 21 24 ラモトリギン 0.5~0.77 30 24 プリミドン 0.72 4~12 7~60 オキシカルバゼピン 0.5~0.65 19.3 17~22 ジアゼパム 0.5 20~100 31 フェノバルビタール 0.36~0.46 75~125 100~500 カルバマゼピン 0.36~0.41 8~25 8~36 クロバザム 0.13~0.36 25 17~31 フェニトイン 0.06~0.19 12~15 15~105 バルプ口酸 0.01~0.1 6~20 30~60 ( 菊池 隆, 他著, 兼子直編 : 抗てんかん薬の母乳内移行を介した曝露による児への 影響, てんかん教室改訂第 3 版. 新興医学出版社,2012,218より許可を得て転載 ( 表 XII5 抗てんかん薬の胎盤通過率, 母乳内移行率, 児における半減期 )) もあり, 議論になることもあった. しかし, 現在では, 母乳に移行する抗てんかん薬の量は少なく, 初乳の免疫的な作用や母乳を与える精神的な作用がより有用であると考えられている. ただし, ベンゾジアゼピン系薬剤,LEV,PBについては傾眠, 哺乳力低下などに注意が必要である 1). 2. 参考となる事項 1) 妊娠希望の患者のマネジメント妊娠希望の患者には, 十分に時間をかけて催奇性のリスクや投薬の変更を含めて説明する必要がある. 妊娠するかどうか, 本人や夫を含めて意思決定できるように情報を与えて, 選択 決定は当事者に行ってもらう. なお, 妊娠以前の問題であるが, 薬剤の影響により生理不順などになる可能性がある. 不妊であれば産科での 診察を受ける必要がある. また, 経口避妊薬や低用量ピルと抗てんかん薬の相互作用 ( 血中濃度を低下させる, 作用を減弱させる ) も留意が必要である. 2) 妊娠した患者のマネジメント妊娠を予定している場合は, 葉酸の服用をする. 服用量は400~500 μg/ 日程度である. 妊娠中に葉酸は消費されるが, 抗てんかん薬により葉酸血中濃度がさらに低下する. 葉酸補充により大奇形を予防できるかについての見解は一定していない. 妊娠中は体液量が増加して血中アルブミンが低下するため, 結合型の抗てんかん薬濃度 ( 通常測定する血中濃度 ) が低下する. また,LTGは妊娠中に代謝が亢進するため, 血中濃度がさらに低下するといわれている. 妊娠中のLTG 濃度を妊娠前の65% 以上に維持した方がよいという意見もある. 血中濃度が低下した場合, 発作があるときは増量する必要がある 日本内科学会雑誌 105 巻 8 号 1391
図 15 歳 ~ 45 歳の女性 6 カ月以上経過 111 例 中止 3 例 新規 12 例 9 例 26 例 妊娠 8 例 LTG 単剤 42 例 追跡可能 95 例切り替え 48 例 7 例 中止 17 例 LTG 継続率 69% ラモトリギンを投与し,6 カ月以上経過した 15 歳から 45 歳女性 111 例 が, 発作がなく安定している場合は増量不要なことが多い. その他, 産科医に必要な情報提供を行い, 妊娠の維持や分娩に向けて連携を図っていく. 3) 現在服用中の薬の調整 脱落 非てんかん 16 例 追加 35 例 5 例 19 例 LTG 併用 24 例 中止 9 例 最も推奨されている薬剤はLTGであるが, 変更にはいくつかの注意点がある. (1) 約 5% にアレルギー症状が出現し, 稀に重篤な皮膚症状が出現する. あらかじめ, アレルギー症状に注意するように説明し, 症状がある場合は直ちに連絡して中止するように指導する.(2) 定められた投与量以下で漸増投与する. また,VPAから変更する場合は隔日投与から開始する.(3)VPA 併用症例の最大投与量は 200 mg/ 日である. もし, さらに増量が必要な場合はVPA 中止後に漸増する.(4)VPA 中止後に血中濃度が低下するので, 発作が出現する場合は増量を検討する.(5)CBZ,PHT からの切り替えでは, 初期から連日投与可能であるが, できるだけ少量から投与を開始する.(6)CBZ, PHT 併用中に血中濃度は上がらないが, 発作症 状などを勘案して最少量とする.(7)CBZ,PHT 中止後 2 週間ほどでLTGの血中濃度が上昇するので注意する. 次に使用される可能性のある薬剤はLEVである. 投与法が簡便であり, 変更に時間がかからない. また, 他剤との相互作用も少なく, 重篤な副作用はない. このため, 他剤からの変更は容易である. 現在までの報告数は催奇性について結論を出すには十分ではないが, 少なくても従来薬よりも催奇性は少ないようである 6~10). 今後, さらに服用症例の増加が見込まれる. 4) 当院での変更経験当院で2008 年 ~2014 年 10 月までにLTGを投与し6カ月以上経過した,15~45 歳までの女性 111 例の後方視的検討では, 追跡可能であったてんかん95 例 ( 前頭葉てんかん27 例, 側頭葉てんかん26 例, 頭頂葉てんかん7 例, 後頭葉てんかん2 例, 多焦点性てんかん2 例, 特発性てんかん31 例 ) のうち, 新規にLTGを投与した症例は12 例, 他剤から変更した症例は48 例, 併用療法として追加投与した症例は35 例であった. 新規に処方した12 例のうち9 例でLTG 単剤の継続が可能であり, 多剤から変更した48 例中 26 例がLTG 単剤となった. また, 併用療法として追加処方した35 例でも観察時点で7 例がLTG 単剤となった. 最終的に66 例 (69%) が継続可能で,42 例 (44%) がLTG 単剤になり, そのうち8 例が妊娠 出産に成功している ( 図 ). 継続率は側頭葉てんかん81%, 前頭葉てんかん 74%, その他の焦点性てんかん63%, 特発性てんかん58% と特発性てんかんで低い傾向があった.LTG 投与前に処方していた薬剤別では, CBZ 85%,ZNS 67%,PHT 57%,VPA 55% と CBZが有意に高かった.LTG 中止理由として, 発作抑制を目的にした症例では発作改善せず15 例, ミオクローヌスの増悪 5 例, 薬疹 4 例, 頭痛 2 例, 発熱 搔痒各 1 例であった. 他に高価であることで2 例が中止している. しかし, 懸 1392 日本内科学会雑誌 105 巻 8 号
特集 てんかん : 内科医が知っておくべき診療ポイントと治療の最前線 念していた重症薬疹はなく, どの症例も中止により症状は改善した. 5) 妊娠登録現在, いくつかの前方視的妊娠登録研究が進行中である. 日本ではEURAP(European Register of Antiepileptic Drugs and Pregnancy) 10) に参加可能であり, 登録は妊娠 16 週以前に報告された症例であれば誰でも可能である. 詳細については EURAP JAPAN のホームページ (http:// eurapjp.umin.jp/) に記載されており, 説明 同意書, 登録フォームもダウンロードできる. 2014 年 12 月までに登録された症例は284 例であり, 大奇形の発現率は出生 214 例中 8 例 (3.7%) であった. 薬剤別には, 多剤 3 例,VPA3 例,PHT,PB 各 1 例であった 14).2015 年 12 月末の時点で当院から登録している症例は58 例である. 妊娠時の服用薬は,2005 年まではCBZ, VPAであったが, 次第に減少し,2014 年からは LTG,LEVが従来薬を上回っている. 今後, さらに多くの症例が登録され, 日本人での大規模データが蓄積されることが期待される. 6) 不安 うつの合併妊娠中 産後のうつは健常人でも問題になるが, てんかん症例では頻度が高く ( 健常者 18.9% に比べ26.7%), 回復に時間がかかる. 他の慢性疾患の症例に比較して, 抗うつ薬を処方される割合は少ない. 発作があるという社会的なスティグマに加えて, うつ状態があると育児困難に陥る危険性があり, 注意が必要である 15). 7) 出生児のIQ, 自閉症スペクトラム障害 VPA 1,000 mg 以上服用していた妊婦から生まれた小児は,1,000 mg 以下およびその他の薬剤を服用していた妊婦の児に比べて3 歳児のIQ が低いという衝撃的な報告があり, 催奇性だけでなく, その後の発育に対する抗てんかん薬の影響に注目されることとなった. その後の4 歳半,6 歳の報告でもIQは追いついていないことから, 少なくとも高用量のVPAは避けるべきである. さらに最近,VPA 服用により自閉症スペクトラム障害の小児の割合が高くなることが報告されている 4). 催奇性については妊娠初期 (3 カ月まで ) が影響することが知られているが, IQや自閉症スペクトラム障害については, 妊娠のいつの時期に影響するのかは明らかではない. また, 催奇性のように用量依存性であるのかも不明である. 今後, これらの機序を含めて, 抗てんかん薬の胎児に対する影響が明らかにされていくことが期待される. おわりに てんかんと妊娠について概説した. 挙児の希望があれば, 可能な限りサポートすることが必要である. 家族計画は生き方にも関わる重要な要素であるので, 安易な助言で患者たちが考える機会を逸しないよう注意が必要であり, 決断は患者たちに委ねることが重要である. そのためには適切な助言が必要である. 妊娠中は比較的発作は安定していることが多く, 発作抑制に難渋する症例は少ない. むしろ, 出産後に寝不足などが誘因となって発作が多くなることがある. 妊娠 出産について相談を受けたときは, 夫など他の家族と一緒に, 夜間授乳の代行など, その後の育児の協力も含めて助言することが望ましい. 著者の COI(conflicts of interest) 開示 : 溝渕雅広 ; 講演料 ( 大塚製薬 ) 日本内科学会雑誌 105 巻 8 号 1393
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