生物化学概論 Ⅰ シケプリ セントラルドグマ DNA は情報を担っている分子ではありますが それ自体は何の機能も持ちません 情報は RNA に写し取られ rrna やtRNA のように RNA として機能するか あるいは mrna として情報が写し取られ リボソームがこの情報をもとにタンパク質を合成して はじめて機能を持った分子が作られます 情報の流れは常に DNA RNA タンパク質と流れていき この流れの経路は逆向きがないことから セントラルドグマと名づけられました アミノ酸タンパク質を構成するアミノ酸は 20 種類で それぞれα- 炭素に結合している側鎖が異なります アミノ酸の化学的な多様性はこの側鎖に由来します タンパク質の生合成に用いられる 20 種類のアミノ酸のそれぞれについての名称 3 文字略号 1 文字略号 構造式 および二つ以上の特徴 を示せ という問題が過去に出題されています http://lussa-yassan.hp.infoseek.co.jp/shiken_kankei/shikepuri/namakiso/amino-practice-2.pdf にすばらしいアミノ酸練習問題がありますので使わせていただきましょう さすがです アミノ酸側鎖アミノ酸側鎖 アスパラギン酸 Asp D グルタミン酸 アルギニン リシン ヒスチジン アスパラギン グルタミン セリン トレオニン チロシン 特徴 Glu E Arg R Lys K His H Asn N Gin Q Ser S Thr T Tyr Y 負電荷をもつ 負電荷をもつ 正電荷をもつ 正電荷をもつ 正電荷をもつ 1 酸性側鎖 ( 強い酸性にしないと電荷を失わない ) アスパラギン酸 親水性がある グルタミン酸 疎水的部分 ( CH CH 2 2 塩基性側鎖 リシン 2 1 アラニン グリシン バリン ロイシン Ala A Gly G Val V Leu L イソロイシン Ile I プロリン Pro P フェニルアラニン Phe F メチオニン トリプトファン システイン Met M Trp W Cys C CH ) と親水的部分 (-COO) がある 疎水的である 強い塩基性にしないと電荷を失わない アルギニン 疎水的である =C- NH 2 の部分は正電荷が共鳴で安定化するので強い塩基性を示す 強い塩基性にしないと電荷を失わない ヒスチジン 環状部分の N 原子は H に対する親和性が比較的弱く 中性 ph では部分的に正電荷 3 電荷をもたない極性側鎖 をもっているだけである アスパラギン 親水性がある アミドの N 原子は中性 ph では電荷をもたないが極性をもつ グルタミン アミドの N 原子は中性 ph では電荷をもたないが極性をもつ
セリン OH 基は極性をもつ 親水的である トレオニン OH 基は極性をもつ 親水的である チロシン OH 基は極性をもつ 親水的である 解離してマイナスの電荷を帯びる 4 側鎖 アラニン 疎水的である グリシンの次に単純 グリシン もっとも単純な構造のアミノ酸 α 炭素が不斉炭素でないので唯一立体異性体のないアミノ酸である バリン 炭素鎖のために疎水性をもつ 分岐鎖アミノ酸 BCAA(Branched Chain Amino Acids) の一つ ロイシン 疎水性をもつ かさ高い BCAA の一つ イソロイシン 疎水性をもつ BCAA の一つ プロリン 第二級アミンである 水素結合を作れない シス体をとることができる フェニルアラニン かさ高い ベンゼン環上で共鳴しているπ 電子の反応が見られる メチオニン Sが金属に配位する タンパク質の翻訳は通常 リボソームにおいてmRNA 上の開始コドンAUGに対応して メチオニンから開始される トリプトファン ベンゼン環上で共鳴しているπ 電子の反応が見られる 水素結合をつくる ( 環状のNHの部分 ) システイン ジスルフィド結合はタンパク質の2つのシステイン側鎖間でつくられる メチオニンより強く金属に配位する 親水性をもつ ペプチド結合 ペプチド結合は平面 ( 水色 ) を作り その周りで回転できませんが C C 結合と N- C 結合は回転で きます 前者の回転角を ψ 後者の回転角を φといいます タンパク主鎖の原子のコンホメーション ( ポリペプチド鎖の最終的折りたたみ構造 ) は それぞれのアミノ酸についてψ φ 角から定まります 例えば 隣のアミノ酸残基のカルボニル酸素とアミド水素が衝突するので φ=60 度 ψ=30 度は不可能といった具合です アミノ酸内の立体的衝突が原因でψ φ 角の多くは成り立ちません 上の右図で示したラマチャンドランダイアグラムでは タンパク質 ( ポリ-L-アラニン ) に見られるψ φ 角の組み合わせを示しています 通常許される範囲は空色 限界範囲は緑色で示されています この図からポリペプチドがとりうる構造が マップの 25% に限られることがわかります プロリンの場合側鎖が環状であるためさらに 2
制限されて自由度が最も小さくなります 逆にグリシンだけは C 立体的自由度が大きくなります がないため 他のアミノ酸残基より αへリックス αへリックスは1 本のポリペプチド鎖がよじれた円筒構造で 各ペプチド結合のN-H 基は同じペプチド鎖にある4つ離れたペプチド結合のC =O 基と水素結合をしています (4つ離れたところで水素結合をするというαへリックスが最も安定な構造です これ以上近い間での水素結合ではらせんはきつくなり不安定になるからです ) ポリペプチドの骨格は親水性ですが αへリックスでは内側で水素結合を作って 外側にはの側鎖を出しています これにより周りの水との水素結合を避け 主鎖はらせん状を保っています β シート 図のように隣接ポリペプチド鎖が同じ方向を向いている ( 平行鎖 (a)) 場合でも ポリペプチド鎖が行ったりきたりして鎖の一部が隣と逆方向を向いている ( 逆平行 (b)) 場合でも βシートはできます どちらも隣接ポリペプチド鎖のペプチド結合を結ぶ水素結合に支えられており きわめて固い構造になります タンパク構造についてタンパク構造は4つの階層に区別されます アミノ酸配列は一次構造 αヘリックスやβシートを作っている部分は二次構造 ポリペプチド鎖が作る三次元のコンホメーションは三次構造 タンパク分子が複数のポリペプチド鎖の組み合わせでできている場合の全体構造は四次構造です 3
繊維状タンパク 繊維状タンパク分子は長い分子で 伸びた二次構造が基本です 細長いタンパク質 ( 爪や表皮のケラチンや筋肉のミオシン分子など ) では 棒状のより合わせコイル構造がその枠組みとなっていることが多いです αヘリックス2 本が巻きついて作るコイルドコイルが特に安定なのは ヘリックスにある ( 疎水性 ) 側鎖が鎖の片側に集まり 互いに内向きになって巻きつき合うからです 一方 親水性側鎖は周囲の水に露出します 左の図で示されているように αヘリックスはa -b-c-d-e-f-gという7 残基の繰り返し構造を成していて a dはアミノ酸が多くなっています また コラーゲン分子は三本ののびたタンパク分子の鎖が互いによじれあった三重らせん構造をしています 3 個のアミノ酸残基で 1 周し 3 番目ごとにグリシンのある左巻きらせんとなっています つまり α 鎖は Gly-X-Y という一連のトリペプチドからなります X と Y は任意のアミノ酸ですが 通常は X はプロリンで Y はヒドロキシプロリンです ヒドロキシプロリンは左図のような構造をしています OH 基があるため親水性をもち 水分子を仲介とする分子内水素結合を作り コラーゲンを安定化します 球状タンパク球状タンパクの三次構造は 各種の二次構造が組み合わさり 側鎖が空間的に配置してできます タンパク質の折りたたみを支配する重要な要因は アミノ酸の極性側鎖と側鎖の分布です バリン ロイシン イソロイシン メチオニン フェニルアラニンなどの ( 疎水性 ) 側鎖は 分子の内側に集まる傾向があり 細胞内の水と接触しないようになっています このように側鎖が内部に埋め込まれている中心部を疎水性コアと呼びます 一方 アルギニンやグルタミン酸 ヒスチジン リシン アスパラギン酸の極性側鎖は分子の外表面近くに配置されることが多く 水などの極性分子との間に水素結合を作ります 極性無電荷アミノ酸であるセリン トレオニン アスパラギンなどはふつうタンパク分子表面にありますが内部のことも多くあります 極性アミノ酸が内側に埋め込まれた構造では たいてい別の極性アミノ酸かポリペプチド主鎖と多数の水素結合を形成して三次構造を安定化させています 4
フォールディングこれらの相互作用の結果 タンパク質はアミノ酸配列で決まる特有の三次元構造を持ちます ポリペプチド鎖の最終的折りたたみ構造は 自由エネルギー最低になるのが普通です この正確な折りたたみ方のことをフォールディングといいます フォールド状態を保つ非共有結合を壊す溶媒を使って構造をほどき 変性させると タンパク質は本来の形を失い 柔軟になります 変性用の溶媒を除くと 自然に折りたたまれ 元の構造に戻ります よってタンパク質の三次元構造を決める情報はすべてアミノ酸配列の中に含まれているということです シャペロンタンパク質はおのずと安定な構造をとりますが 細胞内ではシャペロンとよばれるタンパク質の助けがあります これは 部分的に折りたたまれたポリペプチドに結合し エネルギー的に起こりやすい過程でフォールディングを進めます こうすることでアブリゲーション ( ミスフォールディングのことで 折りたたむ際にαヘリックスやβシートがからまり 親水的 疎水的な部分がむちゃくちゃになってしまうこと ) を防ぎます 細胞質のようにさまざまなタンパク質が存在する環境ではシャペロンが不可欠で 合成されたポリペプチド鎖同士がその疎水性領域で結合しタンパク集合体を作ってしまうことも シャペロン自身にアブリゲーションしてしまったものをくっつけることで 防いでいます ( シャペロンは左図のような七量体 2の構造をしています 一応シャペロンの機能を書いておくと 最初に シャペロンの樽型構造の縁が作る疎水性相互作用によって 誤って折りたたまれたタンパク質を内部に捕らえ 次に ATP とタンパク質でできたふたが結合すると樽の直径が広がり 中に入ったタンパク質を引き伸ばします こうして中にタンパク質を閉じ込め 新たに折りたたみ直す場を提供するのです ATP の加水分解によってタンパク質を放出し うまく折りたためたかどうかに関わらずこのサイクルが繰り返されます この種のシャペロンはシャペロニンとも呼ばれます ) ドメインタンパク質は通常アミノ酸 50 個から 2000 個くらいの大きさで形は多種多様です 大きなタンパク質は数個の互いにほぼ独立して折りたたまれるタンパクドメインという構造単位からなります ドメインは通常 アミノ酸 40 個から 350 個くらいで 大型タンパクを構築する規格単位となっています ドメイン1 個しかない小型のタンパク分子もあれば 大型で何十というドメインが含まれるものもあり ドメインの間の構造は短いポリペプチド鎖でつながれています ドメインを構築する際にも 疎水的な部分が長時間むき出しになっていると結合してしまうので シャペロンが手助けしています 四次構造タンパク質の表面にある 非共有結合を介して他の分子と結合する領域を結合部位といいます 結合部位が他のタンパク質の表面を識別し 折りたたまれた形のポリペプチド鎖同士がしっかりと結合して大型タンパク質を作ることがあります 最も単純なのは 同じポリペプチド鎖が2 個 同じ結合部位で連結した二量体です 有名なものとしては 赤血球中のタンパク質であるヘモグロビンがあります 5
細胞膜の構造 細胞膜は図のように脂質二重層となっています 細胞膜の脂質はすべて両親媒性で 親水性 ( 極性 ) 末端と疎水性 ( ) 末端を持っており 二重層の両面で親水性の頭部が水に接し 疎水性の尾部は内部にあって水に接触しないようになっています 細胞膜の最も重要な働きは外界との境界として内部物質の流出を防ぐことです 膜タンパク質上図からもわかるように 膜に存在するタンパク質の多くは脂質二重層を貫通しています このような膜貫通タンパクは二重層を構成する脂質と同じく両親媒性であって 疎水性領域と親水性領域があります 膜を通過する部分が疎水性で 脂質分子の二重層内部にある疎水性尾部と相互作用しており この部分は水にふれることがありません 親水性領域は膜の片側 あるいは両側に突き出して水と接しています αヘリックス1 本が二重層を横断しているもの (1 回貫通型タンパク ) のほかに 一連の αヘリックスや βシートが二重層を何回も横断しており ( 複数回膜貫通タンパク ) 膜を横断してイオンや小型の水溶性分子の輸送に関わるものもあります これをチャネルタンパクと呼びます 6