Vol.1.77 2015.11.9 PMDA 使用上の注意 改訂安全性情報 2015.10.20 平成調剤薬局医薬品情報 便秘薬使用に伴う高 Mg 血症で 3 年に死亡 4 例 DI 室長 : 朝倉恵美子 医薬品医療機器総合機構 ( PMDA) は本日 ( 10 月 20 日 ), 使用上の注意 改訂を発表 便秘症などに適応を有する酸化マグネシウム製剤の高マグネシウム ( Mg) 血症に関する情報 の追加が発表された 直近 3 年度で, 同薬使用に伴う高 Mg 血症の報告が 29 例, うち死亡 4 例が報告されたため 高齢者, 腎機能正常の便秘症で症例が集積 添付文書改訂の対象となる酸化マグネシウム製剤は医療用医薬品の 酸化マグネシウム原 末 錠 細粒 重質酸化マグネシウム マグラックス細粒 錠 重カマ マグミッ ト細粒 錠 など 国内で多数の企業が同成分を医療用医薬品, および一般用医薬品として 販売している PMDA によると, 直近 3 年度で同薬使用例での高 Mg 血症が 29 例 ( うち, 因果関係が否定 できない症例が 19 例 ), 死亡 4 例 ( 同 1 例 ) が集積 症例検討の結果, 1 高齢者での集積 が多く, 重篤な転帰をたどる例が多かった,2 便秘症の患者での集積が多く, 腎機能が正常 な場合や通常用量以下の使用でも重篤な転帰をたどる例が報告されていた,3 定期的な血清 Mg 濃度の測定が行われておらず, 意識消失などの重篤な症状が現れるまで発症に気付かれ ない症例が多く見られた そのため, 添付文書の改訂を行い, 同薬の高 Mg 血症に関する注 意喚起を行うこととした 一般用医薬品でも同様の改訂が行われる見通し 同製剤を製造 販売する企業は連名で適正使用情報を発表 処方は必要最小限にとどめる こと, 特に長期投与例あるいは高齢者では, 定期的な血清 Mg 値を測定すること, 症状が現 れた場合には使用を中止し直ちに医療機関を受診するといった指導を行うよう求めている 高 Mg 血症の初期症状は, 吐き気や嘔吐, 立ちくらみ, めまい, 徐脈, 皮膚の発赤, 力が入 りにくくなる, 傾眠など 今回, 使用上の注意の改訂が指示された その他の医薬品と概要は次の通り アルツハイマー型認知症治療薬ガランタミン : 横紋筋融解症を追加 : ガランタミン ( 商品名レミニール ) の重大な副作用に 横紋筋融解症 を追加 5α 還元酵素阻害薬 前立腺肥大症治療薬, 男性型脱毛症治療薬デュタステリド : 肝機能障害, 黄疸を追加 : デュタステリド ( アボルブ, ザガーロ ) の重大な副作用に 肝機能障害, 黄疸 を追加 セフェム系抗生物質製剤セフトリアキソン : 急性汎発性発疹性膿疱症を追加 : セフトリアキソン ( ロセフィン他 ) の重大な副作用に 急性汎発性発疹性嚢胞症 を追加 酸安定性 持続型マクロライド系抗生剤ロキシスロマイシン : 偽膜性大腸炎, QT 延長 心室頻拍 ( torsades de pointes を含む ) を追加 : ロキシスロマイシン ( ルリッド他 ) の慎重投与に QT 延長を起こすおそれのある患者, 重大な副作用に 偽膜性大腸炎 QT 延長, 心室頻拍 ( torsades de pointes を含む ) を追加 抗ウイルス薬ダクラタスビル, アスナプレビル : 間質性肺炎を追加 : ダクラタスビル ( ダクルインザ ), アスナプレビル ( スンベプラ ) の重大な副作用に 間質性肺炎 を追加
以下は メディカルトリビューンの解説記事 酸化マグネシウム使用例の高 Mg 血症はどのように起きているのか 先日, 便秘症などに適応を有する酸化マグネシウム使用に伴う高マグネシウム ( Mg) 血症に関する添付文書の記載強化が行われた ( 関連記事 ) 直近 3 年度で因果関係を否定できない症例を含め 29 例, うち死亡 4 例が報告されていたためだ 実は過去にも同様の事例があり, 添付文書の記載強化や注意喚起が行われている 関連情報などを探ってみた 年間使用例 4,500 万人, 発売から 58 年目に 高 Mg 血症 の記載が追加 酸化マグネシウムは日本で 1950 年から便秘薬や制酸薬として使用されており, 年間の累計使用者数は約 4,500 万人に上ると推計されている 厚生労働省の 医薬品 医療機器等安全性情報 No.252 (2008 年 11 月発行 ) によると, 添付文書の使用上の注意に初めて高 Mg 血症に関する記載が追加されたのは 2008 年 9 月 この際も, 直近約 4 年の集計で同薬使用例の高 Mg 血症が 15 例, うち死亡 2 例が報告された これを受けて厚労省は, 販売企業に対し重大な副作用として高 Mg 血症を追加するなどの指示を行った 当時の症例概要によると,15 例中 6 例が長期投与を行っていたと報告され, 投与期間不明は 6 例 死亡した 2 例は 80 歳代,90 歳代でいずれも女性だった 併用薬はなしとの記載で, 90 歳代の女性は慢性腎機能低下を合併していた 投与期間は長期投与 ( 少なくとも 1 年以上 ), または不明であった 1 例は施設入所者, もう 1 例は, 認知症などはなく自力歩行も可能であったが近医の定期的往診を受けていたなどと記されている ( 表 ) 表. 20 08 年添付文書改訂時の酸化マグネシウムによる高 Mg 血症の症例概要
( 厚生労働省 2 008 年 11 月 医薬品 医療機器等安全性情報 No. 252 ) いずれも意識消失などを契機に搬送されており, 受診時の血清 Mg 値 ( 基準値 1.8~ 2.4mg/dL) は 17.0mg/dL, 6.1mg/dL であった この他, 高 Mg 血症の報告例には 統合失調症や認知症を合併している患者への長期投与や高 Mg 血症と気付かれないまま重篤な転帰に至った症例が含まれていた と分析されている
今回は 高齢者 必要最小限の投与にとどめる 記載が強化 今年 10 月の新たな添付文書改訂では 慎重投与 に高齢者が, 重要な基本的注意 の 高 Mg 血症に関する項目に 必要最小限の使用にとどめる 症状が現れた場合には医療機 関を受診する が追加 高齢者への使用や長期投与に関する注意の記載がさらに強化された 若年患者でも救急搬送の事例.. 共通するのは 頑固な便秘への長期使用 同薬使用による重篤な高 Mg 血症は高齢者以外でも報告されている 大阪府立泉州救命救急センターのグループが同薬長期内服による重度の高 Mg 血症で救急搬送された 3 症例について報告した うち 2 例は, 30 歳代の女性と男性 30 歳代の女性は統合失調症で入院中, 同じく 30 歳代の男性と残る 1 人の 80 歳代女性はそれぞれ脳梗塞後遺症, 脳性麻痺の既往があり施設入所中であった 全例ともに高 Mg 血症の危険因子である消化管潰瘍や出血の既往はなく, 発症前の腎機能はほぼ正常であったと評価されている 重度の高 Mg 血症を発症した原因として報告者らは 3 例ともに頑固な便秘症に対し, 1 カ月以上漫然と同薬が投与されていた と指摘 腎機能異常がなくても, 頑固な便秘症では Mg の吸収率が上昇しており, 同薬の長期投与により高 Mg 血症を発症する危険性があると考えられた と考察している この他, 高 Mg 血症の症状 ( 悪心 嘔吐, 口渇, 血圧低下, 徐脈, 皮膚潮紅, 筋力低下, 傾眠など ) が非特異的であるため, 積極的に疑わない限り早期診断は困難とも述べられている 入院患者を対象とした検討でも早期に症状が把握されることが少ないとの報告もあるようだ ( 日救急医会誌 2010; 21: 365-371) Mg の定期検査, あまり行われていない 複数の薬剤師に酸化マグネシウムの処方実態やリスク管理について聞いてみた 病院で Mg を定期的に測定している診療科は, 腎臓内科以外にあまりないと思う 自分の経験では, 内科でも酸化マグネシウムの処方前や使用中に検査を行う事例はない 医師から相談があれば, まず同薬を提案することも多い ( 病院薬剤師 ), 高齢の便秘患者への処方が多い 自分の担当ではないが, これまでに高 Mg 血症を生じたケースを 1~ 2 件聞いている ( 在宅療養支援に従事する薬剤師 ), 院内の救急専門医から, 搬送患者の CT 画像を取ったところ便が大量に貯留しており, 問診の結果, 同薬使用歴があった 血液検査により高 Mg 血症と診断された それ以降, 同薬使用中の患者には排便状況を確認するようにしている ( 病院薬剤師 ) 広く処方されていることもあり, リスク管理の程度はさまざまのようだ 便秘治療における酸化マグネシウムの評価は?
ところで便秘治療における酸化マグネシウムのエビデンス評価はどのようなものだろうか 海外文献によると, プラセボ対照ランダム化比較試験による有効性の報告はなく, 長期使用に伴う重度の高 Mg 血症で血液透析治療の 1 例報告が見いだされた ( J Am Board Fam Med 2011; 24: 436-451), 薬剤同士の比較試験が存在せず, どの薬剤が優れているのかを判断するエビデンスがない ( Neurogastroenterol Motil 2011; 23: 697-710) といった評価が行われている 一般に推奨される食事や生活指導の併用が難しい緩和ケアの患者を対象に, 酸化マグネシウムを含む緩下剤の有効性を検討したレビューも存在する しかし, 現時点では メタ解析は不可能で, どの薬剤がベストかはエビデンスがない ( Cochrane Database Syst Rev 2015 May 13; 5: CD003448 ) と結論付けられている とは言え歴史の長い薬 多くの医師や患者が同薬に頼っており, エビデンスの不足が必ずしも有効性の欠如を示すわけではないことを示している ( Am Fam Physician 2009; 80: 157-162) との評価も見られる 2008 年の改訂当時に病院や診療所で行われた対策は? 2008 年の添付文書改訂後に発表された 医薬品安全性情報活用実践事例等の収集事業報告書 では, 安全性情報を受けた当時, 病院や診療所でどのような措置が取られたかを見ることができる それによると, 特に入院患者などでは, 身体機能が低下し排便管理に酸化マグネシウムが長期使用されることが多いだけでなく, 高齢や身体機能の低下に伴い体調の変化を訴えることが難しい要因などが分析されている 当時の改訂を受けて, 一部の医療機関では医師と薬剤師の連携による処方状況の調査や初期の兆候に関する情報共有の他, 高リスク例全例の血清 Mg 値測定 や 長期使用例への半年ごとの血清 Mg 値測定 などが行われるようになったと報告されている 検査の結果から高 Mg 血症が明らかになった場合には, 同薬の中止または減量, 処方の変更などの措置が行われたと記録されている 処方見直しを医師に相談するのはどんな時? 長期処方や高齢者といった背景因子以外に, 酸化マグネシウムの処方見直しはどういうケースでどのように提案されているのだろうか 末期腎不全患者や透析患者に酸化マグネシウムが処方された場合, 疑義照会を実施している センノサイドやピコスルファートなど他の薬剤への変更も提案する ( 病院薬剤師 ), センノサイドやピコスルファートは腹痛が出やすいのと, 下痢 便秘を繰り返しがちで量やタイミングに注意が必要 酸化マグネシウム使用例の死亡が報告されてからは, 2g/ 日を超える処方の場合には, 漢方薬 ( 大建中湯, 麻子仁丸, 大黄, 大黄甘草湯のいずれか 1 種 ) との併用をすることで, 酸化マグネシウムの減量を提案することもある ( 在宅医療支援に従事する薬剤師 ) といった対応が行われているとのことだ