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平成19年度 法人の減価償却制度の改正のあらまし

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

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給与所得控除額の改正前後の比較 改正前 改正後 給与等の収入金額給与所得控除額給与等の収入金額給与所得控除額 180 万円以下 収入金額 40% 65 万円に満たない場合は 65 万円 180 万円以下 収入金額 40%-10 万円 55 万円に満たない場合は 55 万円 180 万円超 360 万

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平成 20 年度 税制改正の実務ポイント 2 年連続の大改正となった減価償却制度など 主なポイントを解説します 矢ケ崎清税理士事務所業務推進チーム 386-0012 長野県上田市中央 2-17-4 Mail: info@yagasaki.co.jp 1

Ⅰ 法人関連税制 1 減価償却制度 2 年連続の大改正になった背景 減価償却制度については 平成 19 年度税制改正により 残存価額および償却可能限度額の取扱いが廃止される大改正が行われ 定率法はいわゆる 250% 定率法 と呼ばれる従来にない新しい計算の仕組みが採用されました そして平成 20 年度税制改正では 耐用年数の抜本的な見直しが行われました これらの改正の背景には 減価償却制度を抜本的に見直すことで 日本企業の国際競争力の強化を図る目的があります 平成 19 年度の改正についてみれば 海外の税制では残存価額ゼロとしている国が多く また 取得価額の全額を償却できる制度になっている国が多いのが実情です 平成 19 年度税制改正 (1) 新規取得資産につき法定耐用年数経過時点で取得価額の全額 (100%) ( を償却可能とした (2) 既存資産につき 償却可能限度額 (95%) ( を撤廃した 平成 20 年度税制改正 (1) 機械及び装置を中心に 資産区分の大括り化が図られ 法定耐用年数が見直された (2) 耐用年数の短縮特例制度について 承認申請の事務負担に配慮し 手続きの簡素化が行われた 2

Ⅰ 法人関連税制 1 減価償却制度 (1) 法定耐用年数の大幅簡素化 耐用年数の見直しの中心は耐用年数省令別表第二の 機械及び装置の耐用年数表 です これまでの 390 区分が 55 区分に簡素化されました 同時に耐用年数についても見直され 使用実態調査の結果に基づき 耐用年数区分ごとの平均使用年数と 1 資産当たりの平均取得価額を使用し 加重平均の方法により算定 法定耐用年数区分の比較 ( 機械 装置 ) 国名 アメリカ イギリス 韓国 中国 日本 機械 装置の区分 48 区分 ( 業種ごと ) 1 区分 ( 償却率 25% のみ ) 26 区分 ( 業種ごと ) 1 区分 ( 耐用年数ごと ) 390 区分 ( 設備の種類ごと ) 経済産業省 平成 20 年度税制改正について より一部抜粋 55 区分に大括り化し 使用実態等を踏まえて耐用年数を見直し! 3

Ⅰ 法人関連税制 1 減価償却制度 < 主要業種における耐用年数区分の見直し例 > 主要業種 改正前の区分 改正後の区分 主要設備 ( 例 ) 輸送用機械器具製造業 15 区分 1 区分 自動車製造設備 (10 年 9 年 ) (7~13 年 ) (9 年 ) 航空機製造設備 (10 年 9 年 ) 電子部品 デバイス 電 6 区分 1 区分 ( 細目あり ) 電気通信機器製造設備 (10 年 8 年 ) 子回路製造業 (6~12 年 ) (8 年 ) 半導体デバイス製造設備 (7 年 5 年 ) 鉄鋼業 12 区分 1 区分 ( 細目あり ) 鉄鋼圧延設備 (14 年 14 年 ) (11~15 年 ) (14 年 ) 表面処理鋼材製造設備等 (7 年 5 年 ) 生産用機械器具製造業 9 区分 1 区分 ( 細目あり ) 金属加工機械製造設備 (10~13 年 ) (12 年 ) (10 年 9 年 ) 化学工業 93 区分 1 区分 ( 細目あり ) エチレン製造設備 (9 年 8 年 ) (3~13 年 ) (8 年 ) 半導体フォトレジスト設備 (5 年 5 年 ) 石油製品 石炭製品 6 区分 1 区分 石油精製設備 (8 年 7 年 ) 製造業 (7~14 年 ) (7 年 ) * なお 電気業 ガス業については改正されていません 4

Ⅰ 法人関連税制 1 減価償却制度 (2) 耐用年数の短縮特例の承認手続きの簡素化 従来からある耐用年数の短縮特例の承認手続きについて簡素化されました 申請事務が煩雑で使いづらいといった指摘を配慮した改正で より多くの利用を促進することが狙いといえます 具体的には この特例を受けた減価償却資産について軽微な変更があった場合に これと同一の減価償却資産を取得した場合には その変更点を届出さえすれば 改めて承認申請することなく特例の適用を受けられることになります 改正前申請事務が煩雑 申請にコストがかかる 平成 20 年度税制改正短縮特例の承認を受けた設備と同種の設備を取得した場合は 承認不要 ( 届出制 ) 5

Ⅰ 法人関連税制 1 減価償却制度 < 適用期日 > 法人については平成 20 年 4 月 1 日以降開始する事業年度から 個人については平成 21 年分から既存の減価償却資産も含めて適用されます < ここがポイント!> 耐用年数の見直しはあくまでも実態に合わせたものであり おおむね短縮されましたが 設備によっては現状維持ないし 逆に長くなったものも少なくありません 保有資産の耐用年数を 逐一確認する必要があります < 注意点 > また 固定資産税については 平成 21 年 1 月 1 日を賦課期日とする平成 21 年度申告から新耐用年数によることとなります したがって 平成 21 年 1 月期決算および平成 21 年 2 月期決算については 法人税の申告は改正前の耐用年数適用 固定資産税の申告は改正後の耐用年数適用となります 6

Ⅱ ベンチャー 中小企業関係 1 情報基盤強化税制 情報基盤強化税制の延長 拡充 企業の IT 投資を促進する情報基盤強化税制の対象設備の拡大と その適用期限が 2 年間延長されました 情報基盤強化税制とは 情報基盤強化税制は 一定の IT 投資に対してその取得価格の 35% の特別償却か 7% の税額控除を認めるものです 中小企業を中心として対象拡充 (1) 対象設備の拡大 部門間 企業間で分断されている情報システムを連携するソフトウエアを対象に追加 SaaS ASP 事業者が適用対象に追加 7

Ⅱ ベンチャー 中小企業関係 1 情報基盤強化税制 (2) 中小企業への緩和措置 資本金 1 億円以下の中小企業について この税制の対象となる設備の取得価格の合計額の下限がこれまでの 300 万円から 70 万円に引き下げられました < 適用期日 > 平成 20 年 4 月 1 日以降に終了する事業年度から 適用されます ( 期限 : 平成 22 年 3 月 31 日までに取得 ) < ここがポイント!> 対象設備となる連携ソフトの一つずつでなく それらの合計額によって 70 万円以上かを判定することになります 8

Ⅱ ベンチャー 中小企業関係 1 情報基盤強化税制 その他対象設備 サーバ用の OS( これと同時に設置されるサーバ用電子計算機を含む ) データベース管理ソフトウエア ( これと同時に設置されるアプリケーションソフトウエアも含む ) ファイアウォールソフトウエア ( インターネット対応のもの ) 又はファイアウォール装置 ( インターネット対応のもの ) 9

Ⅱ ベンチャー 中小企業関係 2 人材投資促進税制 人材投資促進税制の拡充 人材投資促進税制が中小企業に限定して 簡素化されつつ拡充されました 過去に支出した教育訓練費と比較することなく 当期の教育訓練費の総額から一定の割合に相当する額を税額控除することが認められることになりました < 改正前 > 前 2 期平均額 増加することが要件! 教育訓練費の総額 増加率の 2 分の 1 ( 最大 20%) 税額控除 前々期前期当期 10

Ⅱ ベンチャー 中小企業関係 2 人材投資促進税制 人材投資促進税制の拡充 具体的には 中小企業において当期の労働費用に占める教育訓練費の割合が 0.15% 以上の場合には その教育訓練費の総額の 8%~12% に相当する額を税額控除することができます 税額控除の算定方法 税額控除は以下の算式により計算します 税額控除額 = 当期の教育訓練費の総額 税額控除率 ( 注 ) ( 注 ) 税額控除率 =8%+( 教育訓練費 労働費用 -0.15%) 40 税額控除率の上限は 12% です したがって労働費用に占める教育訓練費の割合 ( 教育訓練費 労働費用 ) が 0.25% 以上の場合はそこで頭打ちとなります また 労働費用とは給与や法定福利費 教育訓練費の合計をいいます 11

Ⅱ ベンチャー 中小企業関係 2 人材投資促進税制 < 適用期日 > 法人については平成 20 年 4 月 1 日以降開始する事業年度から 個人については平成 21 年分から適用されます < ここがポイント!> これまでの人材投資促進税制は 前 2 期分の教育訓練費の平均額より当期の教育訓練費が増加することが税額控除の要件でした 改正後は 単に当期の教育訓練費の総額を基に税額控除を算定することになりますので比較をする必要がなくなりました 12

Ⅲ 事業承継関係 1 非上場株式の納税猶予 今年度税制改正では 事業承継制度の抜本的な見直しの方向性が示されました ただし 実際の改正は 中小企業経営承継円滑化法 の制定を待って 来年度 ( 平成 21 年度 ) 税制改正で行われることになります 事業承継制度の概要 事業承継をする相続人が 代表者であった被相続人から相続等によりその会社の株式を取得し その会社を運営していく場合には その事業承継相続人が納付すべき相続税額のうち 相続した株式に係る課税価格を現行の 10% 減額から 80% に対応する相続税の納税を猶予することとなります < 適用期日 > 中小企業経営承継円滑化法は 平成 20 年 10 月 1 日から施行される見込みとなっています よって平成 21 年度税制改正で創設し 10 月 1 日以降の相続に遡って適用 13

中小企業者等のみ( 残存価額なし ) その他Ⅳ その他 1 少額減価償却資産の即時償却の上限規制 少額減価償却資産の特例延長 < 適用期日 > 平成 22 年 3 月末の取得 供用まで2 年延長 取得価格 30 万円未満 20 万円未満 10 万円未満 償却方法全額損金不算入 ( 即時償却 ) 3 年間で均等償却 ( 残存価額なし ) 全額損金算入 ( 即時償却 ) 改正 合計で 300 万円まで 14

Ⅳ その他 2 交際費の損金算入の特例の延長 中小企業の事業活動を円滑化するため 交際費について 中小企業に限って認められている損金算入の特例措置の適用期限を 2 年間延長する < 適用期間 > 資本金 1 億円以下の中小法人に対して 400 万円までの交際費のうち その 90% を損金算入することを認める特例は 平成 18 年 4 月 1 日から平成 22 年 3 月末までの間に開始する事業年度に適用します 15