対象と方法 本研究は 大阪医科大学倫理委員会で承認を受け 対象患者から同意を得た 対象は ASA 分類 1 もしくは 2 の下肢人工関節置換術が予定された患者で 術前に DVT の存在しない THA64 例 TKA80 例とした DVT の評価は 下肢静脈エコーを用いて 術前 術 3 日後 術 7

Similar documents
( 様式甲 5) 氏 名 渡辺綾子 ( ふりがな ) ( わたなべあやこ ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲 第 号 学位審査年月日 平成 27 年 7 月 8 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 学位論文題名 Fibrates protect again

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

平成 29 年 8 月 31 日 ( 木 ) 発売の週刊文春 (9 月 7 日号 ) 誌上において当院人工関節セン ターの活動内容が取り上げられることになりました 人工関節センターの概要をご案内させて頂きます はじめに近年の高齢化社会の到来により また人工関節自体の耐久性 精度が向上した事により本邦

( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

Microsoft PowerPoint 古川杉本SASWEB用プレゼン.ppt

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

PDFfl[ŁiŠp_Œ{Ł¶…g…fi…{Łt‡«.pdf

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

日本版敗血症診療ガイドライン2016 CQ17 静脈血栓塞栓症(VTE: venous thromboembolism)対策

日本血栓止血学会誌 第18巻 第6号

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

Effect of a Retrievable Inferior Vena Cava Filter Plus An9coagula9on vs An9coagula9on Alone on Risk of Recurrent Pulmonary Embolism A Randomized Clini

博士の学位論文審査結果の要旨

PowerPoint プレゼンテーション

50% であり (iii) 明らかな心臓弁膜症や収縮性心膜炎を認めない (ESC 2012 ガイドライン ) とする HFrEF は (i)framingham 診断基準を満たす心不全症状や検査所見があり (ii) は EF<50% とした 対象は亀田総合病院に 年までに初回発症

学位論文審査結果報告書

15 氏 名 し志 だ田 よう陽 すけ介 学位の種類学位記番号学位授与の日付学位授与の要件 博士 ( 医学 ) 甲第 632 号平成 26 年 3 月 5 日学位規則第 4 条第 1 項 ( 腫瘍外科学 ) 学位論文題目 Clinicopathological features of serrate

第21回 肺塞栓症研究会 ディベート1 静脈血栓塞栓症予防 アスピリンは是か非か あくまでピンチヒッターでしかないアスピリン 藤田 悟 いて実証された報告は Pulmonary Embolism Preven- はじめに 6) tion(pep)試験 と The Warfarin and Aspir

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

2019 年 2 月 9 日 ( 土 ) 関西支部症例検討会 ( マンスリー ) スケジュール 関西支部症例検討会 ( マンスリー ) (1)~(5) 10:00~16:50 発表時間番号演題発表者 10:00~11:00 (1) 共通講習 ( 医療安全 ) モニターから医療安全を考える 大阪市立大

「周術期肺塞栓症の予防」についての取り組み~当院で術後静脈血栓塞栓症(VTE)をきたした症例から学ぶ


1. 多変量解析の基本的な概念 1. 多変量解析の基本的な概念 1.1 多変量解析の目的 人間のデータは多変量データが多いので多変量解析が有用 特性概括評価特性概括評価 症 例 主 治 医 の 主 観 症 例 主 治 医 の 主 観 単変量解析 客観的規準のある要約多変量解析 要約値 客観的規準のな

日本臨床麻酔学会 vol.35

スライド 1

課題名

Title [ 症例報告 ] 一時留置型下大静脈フィルターにより肺動脈塞栓症を防止し得た 2 例 Author(s) 仲栄真, 盛保 ; 佐久田, 斉 ; 比嘉, 昇 ; 井手上, 隆史 ; 伊波金津, 浩二 ; 國吉, 幸男 ; 古謝, 景春 Citation 琉球医学会誌 = Ryukyu Me

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

下肢静脈血栓症のマネージメント

現況解析2 [081027].indd

用語 略語の確認 VTE: Venous thromboembolism 静脈血栓塞栓症 DVT: Deep Vein Thrombosis 深部静脈血栓症 PE: Pulmonary Embolism 肺塞栓症 UFH: unfrac<onated heparin 未分画ヘパリン LMWH: Lo

MedicalStatisticsForAll.indd

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

U50068.indd

<4D F736F F D E9197BF33817A90C396AC8C8C90F0975C D836A B2E646F6378>

<4D F736F F D204E AB38ED2976C90E096BE A8C9F8DB88A B7982D1928D88D38E968D >


Microsoft Word - 日本語要約_4000字_.docx

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

その人工知能は本当に信頼できるのか? 人工知能の性能を正確に評価する方法を開発 概要人工知能 (AI) によるビッグデータ解析は 医療現場や市場分析など社会のさまざまな分野での活用が進み 今後さらなる普及が予想されています また 創薬研究などで分子モデルの有効性を予測する場合にも AI は主要な検証

心房細動1章[ ].indd

study のデータベースを使用した このデータベースには 2010 年 1 月から 2011 年 12 月に PCI を施行された 1918 人が登録された 研究の目的から考えて PCI 中にショックとなった症例は除外した 複数回 PCI を施行された場合は初回の PCI のみをデータとして用いた

背景 急性大動脈解離は致死的な疾患である. 上行大動脈に解離を伴っている急性大動脈解離 Stanford A 型は発症後の致死率が高く, それ故診断後に緊急手術を施行することが一般的であり, 方針として確立されている. 一方上行大動脈に解離を伴わない急性大動脈解離 Stanford B 型の治療方法


<4D F736F F D D8ACC8D6495CF82CC96E596AC8C8C90F08FC782CC8EA197C32E646F6378>

H26_大和証券_研究業績_C本文_p indd

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 庄司仁孝 論文審査担当者 主査深山治久副査倉林亨, 鈴木哲也 論文題目 The prognosis of dysphagia patients over 100 years old ( 論文内容の要旨 ) < 要旨 > 日本人の平均寿命は世界で最も高い水準であり

内因性疾患の VTE 予防 慈恵 ICU 勉強会

4氏 すずき 名鈴木理恵 り 学位の種類博士 ( 医学 ) 学位授与年月日平成 24 年 3 月 27 日学位授与の条件学位規則第 4 条第 1 項研究科専攻東北大学大学院医学系研究科 ( 博士課程 ) 医科学専攻 学位論文題目 esterase 染色および myxovirus A 免疫組織化学染色

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

H29_第40集_大和証券_研究業績_C本文_p indd

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

平成 28 年度感染症危機管理研修会資料 2016/10/13 平成 28 年度危機管理研修会 疫学調査の基本ステップ 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース (FETP) 1 実地疫学調査の目的 1. 集団発生の原因究明 2. 集団発生のコントロール 3. 将来の集団発生の予防 2 1

Chapter 1 Epidemiological Terminology

氏 名 下村 淳子 学位の種類 博士 ( 健康科学 ) 学位記番号 甲第 2 号 学位授与年月日 平成 26 年 3 月 31 日 学位授与の要件 学位規則第 3 条第 2 項該当 学位論文題目 Study on the risk factors of injuries resulting in h


わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

帝京大学 CVS セミナー スライドの説明 感染性心内膜炎は 心臓の弁膜の感染症である その結果 菌塊が血中を流れ敗血症を引き起こす危険性と 弁膜が破壊され急性の弁膜症による心不全を発症する危険性がある 治療には 内科治療として抗生物質の投与と薬物による心不全コントロールがあり 外科治療として 菌を

微小粒子状物質曝露影響調査報告書

博士学位申請論文内容の要旨

Microsoft Word - No2-7血栓症医師.doc

博士の学位論文審査結果の要旨

頻度 頻度 播種性血管内凝固 (DIC) での使用 前期 後期 PLT 数 大半が Plt 2.5 万 /ml 以下で使用 使用指針 血小板数が急速に 5 万 /μl 未満へと低下 出血傾向を認

19シリーズ特集Dr.山田.indd

監修 愛知医科大学病院 肝胆膵内科 准教授 角田圭雄先生

補足 : 妊娠 21 週までの分娩は 流産 と呼び 救命は不可能です 妊娠 22 週 36 週までの分娩は 早産 となりますが 特に妊娠 26 週まで の早産では 赤ちゃんの未熟性が強く 注意を要します 2. 診断 どうなったら TTTS か? (1) 一絨毛膜性双胎であること (2) 羊水過多と羊

Microsoft Word - 44-第4編頭紙.doc


(別紙様式1)

本扉.indd


<様式2> 個人情報ファイル簿(単票)

07シリーズ特集Dr.北島.indd

試験デザイン :n=152 試験開始前に第 VIII 因子製剤による出血時止血療法を受けていた患者群を 以下のい ずれかの群に 2:2:1 でランダム化 A 群 (n=36) (n=35) C 群 (n=18) ヘムライブラ 3 mg/kg を週 1 回 4 週間定期投与し その後 1.5 mg/k

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

参考 9 大量出血や急速出血に対する対処 2) 投与方法 (1) 使用血液 3) 使用上の注意 (1) 溶血の防止 参考 9 大量出血や急速出血に対する対処 参考 11 慢性貧血患者における代償反応 2) 投与方法 (1) 使用血液 3) 使用上の注意 (1) 溶血の防止 赤血球液 RBC 赤血球液

褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

1. はじめに ステージティーエスワンこの文書は Stage Ⅲ 治癒切除胃癌症例における TS-1 術後補助化学療法の予後 予測因子および副作用発現の危険因子についての探索的研究 (JACCRO GC-07AR) という臨床研究について説明したものです この文書と私の説明のな かで わかりにくいと

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 中谷夏織 論文審査担当者 主査神奈木真理副査鍔田武志 東田修二 論文題目 Cord blood transplantation is associated with rapid B-cell neogenesis compared with BM transpl

エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02 - コピー.docx

「             」  説明および同意書

2. 診断 どうなったら TTTS か? 以下の基準を満たすと TTTS と診断します (1) 一絨毛膜性双胎であること (2) 羊水過多と羊水過少が同時に存在すること a) 羊水過多 :( 尿が多すぎる ) b) 羊水過少 :( 尿が作られない ) 参考 ; 重症度分類 (Quintero 分類

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

直腸癌における壁外浸潤距離の臨床的意義に関する多施設共同研究

様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 神﨑光子 ) 論文題名 周産期における家族機能が母親の抑うつ 育児自己効力感 育児関連のストレス反応に及ぼす影響 論文内容の要旨 緒言 女性にとって周産期は 妊娠 分娩 産褥各期の身体的変化だけでなく 心理的 社会的にも変化が著しいため うつ病を中心とした気分障害

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

満 ) 測定系はすでに自動化されている これまで GA を用いた研究は 日本 中華人民共和国 (PRC) および米国で実施され GA 値が糖尿病の診断に有用という結果が日本とアメリカで報告された 本研究ではその普遍性を追求するため 台湾人での検討を行った 同時に台湾における GA の基準範囲を新規に

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

対象 :7 例 ( 性 6 例 女性 1 例 ) 年齢 : 平均 47.1 歳 (30~76 歳 ) 受傷機転 運転中の交通外傷 4 例 不自然な格好で転倒 2 例 車に轢かれた 1 例 全例後方脱臼 : 可及的早期に整復

HITの診断


Microsoft Word - (Web) URA修正プレスリリース案

静脈血栓塞栓症診断を目的としたDダイマーのカットオフ値設定およびその運用について

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

Transcription:

( 様式甲 5) 氏 名 下山雄一郎 ( ふりがな ) ( しもやまゆういちろう ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲 第 号 学位審査年月日 平成 24 年 6 月 9 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Perioperative risk factors for deep vein thrombosis 学位論文題名 after total hip arthroplasty or total knee arthroplasty ( 下肢人工関節置換術後における深部静脈血栓症の 発症因子の検討 ) 論文審査委員 ( 主 ) 教授勝間田敬弘 教授石坂信和 教授内山和久 学位論文内容の要旨 目的 肺血栓塞栓症 (pulmonary embolism: PE) では 下肢などの静脈に形成された血栓が遊離し肺へ運ばれ肺動脈を閉塞し 肺血管抵抗 肺動脈圧上昇により急激な右心負荷をきたす 急性右心不全 両心不全が生じ ショック状態に進展し突然死を起こすこともある その原因の大部分は深部静脈血栓症 (deep vein thrombosis: DVT) によるものである ACCP (American College of Chest Physicians) ガイドラインによると 人工股関節置換術 (total hip arthroplasty:tha) または人工膝関節置換術 (total knee arthroplasty: TKA) の周術期 PE 発生率は高率であり ほとんどの原因が下肢 DVT である 今回われわれは 下肢人工関節置換術後の DVT 発症と 周術期の DVT 発症因子について前向きに検討した - 1 -

対象と方法 本研究は 大阪医科大学倫理委員会で承認を受け 対象患者から同意を得た 対象は ASA 分類 1 もしくは 2 の下肢人工関節置換術が予定された患者で 術前に DVT の存在しない THA64 例 TKA80 例とした DVT の評価は 下肢静脈エコーを用いて 術前 術 3 日後 術 7 日後と術 14 日後に行った 全症例に対して術前に D-dimer 値の測定 ( ラテックス凝集法 ) を行った 全身麻酔の導入は プロポフォール フェンタニル ベクロニウムの静脈内投与で行い その後気管挿管した 全身麻酔の維持は セボフルランの吸入と硬膜外麻酔で行った 術後の抗凝固療法は 全例に術翌日より未分画ヘパリンの皮下注射と術 4 日目よりワルファリンの内服を開始した 術後 DVT 発症症例は ワルファリンの適宜増量投与した 術後 DVT と診断された群 (D 群 ) と DVT 認めなかった群 (N 群 ) に分け比較検討した さらに D 群を 近位部 ( 大腿部 ) に DVT が発生した群と遠位部 ( 膝窩以下 ) に DVT が発生した群に分け比較検討した 年齢 性別 肥満度指数 高血圧の有無 脂質異常症の有無 糖尿病の有無 術前抗凝固療法の有無 術前 D-dimer 値 術前 PT-INR 値 術前ヘマトクリット値 術前血小板数 手術時間 術中輸液量 術中尿量 術中出血量および術中水分バランスの項目を検討した 統計学的手法は 患者に関する因子 手術に関する因子それぞれの 2 群間の比較 ( 単変量解析 ) において Mann Whitney s U 検定 χ 2 乗検定および Fisher の直接確率計算法を行った 単変量解析において p<0.2 であった因子を独立変数とし 術後 DVT 発症の有無を目的変数として 多重ロジスティック回帰分析を用いて検討した 多重ロジスティック回帰分析はp<0.05 を有意とした 術前血清 D-dimer 値による術後 DVT 予測能として 受信者動作特性曲線 (receiver operating characteristic curve: ROC 曲線 ) を作成し 血清 D-dimer カットオフ値 感度および特異度を求めた 数値は平均値 ± 標準偏差で示した 結果 術後 DVT の発症率は 42% (n=61) であり 近位部 DVT の発症率は 1.4% (n=2) であっ た 単変量解析では 高年齢 脂質異常症 糖尿病 術前 D-dimer 高値 術前 PT-INR 低 - 2 -

値 術前血小板数の低値 手術時間 術中尿量高値が術後 DVT 発症の因子であった 多重ロジスティック回帰分析では 脂質異常症 (p=0.0453 オッズ比 6.92 95% 信頼区間 1.04-46.00) と術前 D-dimer 高値 (p=0.0131 オッズ比 1.54 95% 信頼区間 1.10-2.17) が術後 DVT の有意な因子であった 術前 D-dimer 値の ROC 曲線下面積は 0.625 であった 感度 87% 特異度 42% での D-dimer 値は 0.85 μg/ ml だった 近位部 DVT が発生した群と遠位部 DVT が発生した群の多重ロジスティック回帰分析では 統計学的有意差はなかった 考察 術後血栓予防を行わなかった場合の 整形外科大手術 7~14 日における静脈造影上での DVT および近位型 DVT の発生頻度は それぞれ約 40~60% および約 10~30% であることが示されている 本研究では 術後抗凝固療法の施行にもかかわらず術後 DVT 発生率は血栓予防を施行しなかった場合と同等程度であった その理由として TKA ではターニケットを使用したことにより 血流の停滞が起こり DVT の発生が増加した可能性がある 実際 術後 DVT 発生のうち 67% はターニケットを使用する TKA 後で発生している しかしながら 近位型の DVT 発生率は過去の報告と比較して低値を示した これは DVT が確認された場合のワルファリン投与量を増加させたことに起因すると考えられる 一方 血清 D-dimer 値は DVT に対する陰性的中率の高さから DVT の除外診断に有用とされる 実際 陽性尤度比は 1.5 陰性尤度比は 0.309 であり 術前 D-dimer 値は除外診断に有用であると考えられたが 特異度 42% と低いため DVT の確定診断には有用でないことも同様に示唆された しかしながら 今回の結果では 術前 D-dimer 高値は 術後 DVT 発症の危険因子の一つであった その理由として 1) 術前から静脈内に潜在的な血栓が存在していた可能性や術前から凝固系が亢進していた可能性 2) 下肢静脈エコー検査による DVT 検出の精度や 検者による検出力の違いの可能性が考えられる - 3 -

術前高脂血症は もう一つの術後危険因子であった その理由として 1) 組織因子経路 インヒビター (tissue factor pathway inhibitor; TFPI) の減少の可能性 2) プロテイン C 活性の阻害による凝固線溶系のバランス異常の可能性が考えられる D 群内の 2 群間の比較検討により 術後近位部 DVT 発症の危険因子を明らかにするこ とはできなかった 近位部 DVT の危険因子を明らかにするには 今後 症例数を増やす など さらなる研究が必要と思われる 結語 術前高脂血症と術前 D-dimer 高値が下肢人工関節術後の DVT 発症の有意な因子であった 本研究により DVT 発生の危険因子を有する THA または TKA 手術予定患者の術前評価の重要性が示唆された 早期に患者の DVT 発症の危険因子を認識し 抗凝固療法を迅速に開始することにより 周術期の DVT の発症率および死亡率を低下させることが期待される - 4 -

( 様式甲 6) 論文審査結果の要旨肺血栓塞栓症 (pulmonary embolism: PE) は重篤な術後合併症であり その原因の大部分は深部静脈血栓症 (deep vein thrombosis: DVT) によるものである 周術期の PE による突然死を予防するには DVT の予防と早期診断が重要である 申請者らは 下肢人工関節置換術後における術後 DVT 発症の危険因子を検討した 大阪医科大学附属病院において ASA 分類 1 もしくは 2 の下肢人工関節置換術が予定された患者で術前に DVT の存在しない THA64 例 TKA80 例を対象とした DVT の評価は 血清 D-dimer 値および下肢静脈エコーを用いて行った 術後 DVT と診断された群 (D 群 ) と DVT 認めなかった群 (N 群 ) に分け DVT の危険因子を検討した 血清 D-dimer 値の DVT 診断能に関しては受信者作動 (ROC) 曲線を作成した 術後 DVT の発症率は 42% (n=61) であり 近位側 DVT の発症率は 1.4% (n=2) であった 多重ロジスティック回帰分析では 術前脂質異常症 (p=0.0453 オッズ比 6.92 95% 信頼区間 1.04-46.00) と術前血清 D-dimer 高値 (p=0.0131 オッズ比 1.54 95% 信頼区間 1.10-2.17) が術後 DVT の有意な因子であった 術前 D-dimer 値の ROC 曲線下面積は 0.625 感度 87% 特異度 42% での血清 D-dimer 値は 0.85 μg/ ml だった 術前高脂血症と術前 D-dimer 高値が下肢人工関節術後の DVT 発症の有意な因子であった 早期に患者の DVT 発症の危険因子を認識し 抗凝固療法を迅速に開始することにより 周術期の DVT の発症率および死亡率を低下させることが期待される 以上により 本論文は本学大学院学則第 11 条に定めるところの博士 ( 医学 ) の学位を授与するに値するものと認める ( 主論文公表誌 ) Journal of Clinical Anesthesia 24(7): 531-536, 2012-5 -