高等学校における個々の能力・才能を伸ばす特別支援教育モデル事業 成果報告書(要約)

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第 2 部 東京都発達障害教育推進計画の 具体的な展開 第 1 章小 中学校における取組 第 2 章高等学校における取組 第 3 章教員の専門性向上 第 4 章総合支援体制の充実 13

Ⅲ 目指すべき姿 特別支援教育推進の基本方針を受けて 小中学校 高等学校 特別支援学校などそれぞれの場面で 具体的な取組において目指すべき姿のイメージを示します 1 小中学校普通学級 1 小中学校普通学級の目指すべき姿 支援体制 多様な学びの場 特別支援教室の有効活用 1チームによる支援校内委員会を

Taro-自立活動とは

教員の専門性向上第 3 章 教員の専門性向上 第1 研修の充実 2 人材の有効活用 3 採用前からの人材養成 3章43

第 1 章 通級による指導 ~ 開始前に知っておくべき基礎知識 ~ 1 通級による指導とは 通級による指導とは 通常の学級に在籍する障がいのある児童生徒が 各教科等の大部分の授業を通常の学級で受けながら 一部の授業について 障がいに応じた特別の指導を 通級指導教室 といった特別な場で受ける指導形態の

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P5 26 行目 なお 農村部は 地理的状況や通学時 間等の関係から なお 農村部は 地理的状況や通学時 間等から P5 27 行目 複式学級は 小規模化による学習面 生活面のデメリットがより顕著となる 複式学級は 教育上の課題が大きいことから ことが懸念されるなど 教育上の課題が大きいことから P

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

県立学校職員 ( 趣旨 ) 第 1 条この要綱は 地方公務員法 ( 昭和 25 年法律第 261 号 ) 第 15 条の2 第 1 項第 5 号の規定に基づき 山形県教育委員会における職員 ( 学校教育法 ( 昭和 22 年法律第 26 号 ) 第 7 条に規定する校長及び教員等 ) の標準職務遂行

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5 単元の評価規準と学習活動における具体の評価規準 単元の評価規準 学習活動における具体の評価規準 ア関心 意欲 態度イ読む能力ウ知識 理解 本文の読解を通じて 科学 について改めて問い直し 新たな視点で考えようとすることができる 学習指導要領 国語総合 3- (6)- ウ -( オ ) 1 科学

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4 選抜方法 (1) 選抜の方法 本校の 期待する生徒像 に基づき, 学力検査の成績, 調査書, 面接の結果 等を総合的に判定して入学者の選抜を行う ア 学力検査の成績 による順位と 調査書の得点 による順位が, ともに次のパーセント以内にある者は, 入学許可候補者として内定する ( ア ) 受検者

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(2) 国語 B 算数数学 B 知識 技能等を実生活の様々な場面に活用する力や 様々な課題解決のための構想を立て実践し 評価 改善する力などに関わる主として 活用 に関する問題です (3) 児童生徒質問紙児童生徒の生活習慣や意識等に関する調査です 3 平成 20 年度全国学力 学習状況調査の結果 (

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教育 学びのイノベーション事業 ( 平成 23~25 年度 ) 総務省と連携し 一人一台の情報端末や電子黒板 無線 LAN 等が整備された環境の下で 教科指導や特別支援教育において ICT を効果的に活用して 子供たちが主体的に学習する 新たな学び を創造する実証研究を実施 小学校 (10 校 )

はじめに 我が国においては 障害者の権利に関する条約 を踏まえ 誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い 人々の多様な在り方を相互に認め合える 共生社会 を目指し 障がいのある者と障がいのない者が共に学ぶ仕組みである インクルーシブ教育システム の理念のもと 特別支援教育を推進していく必要があります

2 教科に関する調査の結果 (1) 平均正答率 % 小学校 中学校 4 年生 5 年生 6 年生 1 年生 2 年生 3 年生 国語算数 数学英語 狭山市 埼玉県 狭山市 61.4

ウ実施期日等平成 28 年 3 月 8 日 ( 火 ) 時限教科検査時間 1 国語 9:00~ 9:50 ( 50 分 ) ( 休憩 ) 2 数学 10:10~11:00 ( 50 分 ) ( 休憩 ) 3 英語 11:20~12:10 ( 50 分 ) ( 昼食 ) 4 社会 13:00~13:5

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教育調査 ( 教職員用 ) 1 教育計画の作成にあたって 教職員でよく話し合っていますか 度数 相対度数 (%) 累積度数累積相対度数 (%) はい どちらかといえばはい どちらかといえばいいえ いいえ 0

3 調査結果 1 平成 30 年度大分県学力定着状況調査 学年 小学校 5 年生 教科 国語 算数 理科 項目 知識 活用 知識 活用 知識 活用 大分県平均正答率 大分県偏差値

西ブロック学校関係者評価委員会 Ⅰ 活動の記録 1 6 月 17 日 ( 火 ) 第 1 回学校関係者評価委員会 15:30~ 栗沢中学校 2 7 月 16 日 ( 水 ) 学校視察 上幌向中学校 授業参観日 非行防止教室 3 9 月 5 日 ( 金 ) 学校視察 豊中学校 学校祭 1 日目 4 9

今年度は 創立 125 周年 です 平成 29 年度 12 月号杉並区立杉並第三小学校 杉並区高円寺南 TEL FAX 杉三小の子

目 次 1 設置の目的 1 2 設置の基本的枠組み (1) 課程 (2) 学科 (3) 入学定員 (4) 設置予定 3 教育理念 育てたい人物像 (1) 教育理念 (2) 育てたい人物像 4 教育課程について (1) スポーツマネジメント科教育課程編成の基本方針 2 (2) 教育課程表 4 5 その

鎌倉市関谷小学校いじめ防止基本方針 平成 26 年 4 月 鎌倉市立関谷小学校

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回答結果については 回答校 36 校の過去 3 年間の卒業生に占める大学 短大進学者率 現役 浪人含む 及び就職希望者率の平均値をもとに 進学校 中堅校 就職多数校 それぞれ 12 校ずつに分類し 全体の結果とともにまとめた ここでは 生徒対象質問紙のうち 授業外の学習時間 に関連する回答結果のみ掲

資料4 高等学校における「通級による指導」の導入について

学習意欲の向上 学習習慣の確立 改訂の趣旨 今回の学習指導要領改訂に当たって 基本的な考え方の一つに学習 意欲の向上 学習習慣の確立が明示された これは 教育基本法第 6 条第 2 項 あるいは学校教育法第 30 条第 2 項の条文にある 自ら進んで学習する意欲の重視にかかわる文言を受けるものである

学力向上のための取り組み

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問 3 問 1 で複数種目を回答した場合 指導形態について該当するものを選んでください ( 問 1 で複数種目回答していない場合は回答不要 ) 1 学校が選択した複数種目をすべての生徒に履修させている 2 学校が提示した複数種目から生徒が選択して履修できるようにしている 3 その他 ( 具体的な指導

41 仲間との学び合い を通した クラス全員が学習に参加できる 授業づくり自分の考えを伝え 友達の考えを聞くことができる子どもの育成 42 ~ペア グループ学習を通して~ 体育における 主体的 対話的で深い学び を実現する授業づくり 43 ~ 子どもたちが意欲をもって取り組める場の設定の工夫 ~ 4

スライド 1

1 発達とそのメカニズム 7/21 幼児教育 保育に関する理解を深め 適切 (1) 幼児教育 保育の意義 2 幼児教育 保育の役割と機能及び現状と課題 8/21 12/15 2/13 3 幼児教育 保育と児童福祉の関係性 12/19 な環境を構成し 個々 1 幼児期にふさわしい生活 7/21 12/

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目次 Ⅰ 福島県教育委員会経験者研修 Ⅰ 実施要項 1 Ⅱ 高等学校経験者研修 Ⅰ 研修概要 1 研修体系 2 研修の目的 研修の内容等 4 研修の計画及び実施 運営等 4 5 研修の留意点 4 表 1 高等学校経験者研修 Ⅰ の流れ 5 表 2 高等学校経験者研修 Ⅰ 提出書類一覧 5 Ⅲ 高等学

2 教科に関する調査の結果 ( 各教科での % ) (1) 小学校 国語 4 年生 5 年生 6 年生 狭山市埼玉県狭山市埼玉県狭山市埼玉県 平領均域正等答別率 話すこと 聞くこと 書くこと

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学習指導要領の領域等の平均正答率をみると 各教科のすべての領域でほぼ同じ値か わずかに低い値を示しています 国語では A 問題のすべての領域で 全国の平均正答率をわずかながら低い値を示しています このことから 基礎知識をしっかりと定着させるための日常的な学習活動が必要です 家庭学習が形式的になってい

平成23年度船橋市立船橋高等学校第一学年入学者選抜要項

(3) その他 全日制高校進学率の向上を図るため 更に公私で全体として進学率が向上するよう工夫する そのための基本的な考え方として 定員協議における公私の役割 を次のとおり確認する 公立 の役割: 生徒一人ひとりの希望と適性に応じて 多様な選択ができるよう 幅広い進路先としての役割を担い 県民ニーズ

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茨城県における 通級による指導 と 特別支援学級 の現状と課題 IbarakiChristianUniversityLibrary ~ 文部科学省 特別支援教育に関する調査の結果 特別支援教育資料 に基づいて茨城キリスト教大学紀要第 52 ~号社会科学 p.145~ 茨城県における 通

Q1 診断書等がない子どもへの合理的配慮はどう考えたらよいのか A1 診断書や障がい者手帳等の有無が 合理的配慮の提供に関する判断の基準ではありません 教育支援資料 ( 文部科学省平成 25 年 10 月 ) において 各障がいは以下のように定義されています ( 参考 ) 教育支援資料における各障が

国語の授業で目的に応じて資料を読み, 自分の考えを 話したり, 書いたりしている

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の間で動いています 今年度は特に中学校の数学 A 区分 ( 知識 に関する問題 ) の平均正答率が全 国の平均正答率より 2.4 ポイント上回り 高い正答率となっています <H9 年度からの平均正答率の経年変化を表すグラフ > * 平成 22 年度は抽出調査のためデータがありません 平

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系統的で一貫性のあ評価指標 評価指標による達成度 総合評価 るキャリア教育の推進に向けて 小 中 1 卒業後の生活につながる客観的 < 評定 > 学部段階での客観的アセスメントに基づいた指導計画 指標に基づいた卒業を立案することができる A B C 後の生活を見据えた教育活動につながる 2 立案され

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5 所要資格 基礎 免許 在職年数 有することを必要とする学校の免許状高等学校教諭普通免許状 1 基礎免許取得後 当該免許で良好な成績で勤務したことを必要とする最低在職年数以下に掲げる高等学校等における教員経験 高等学校 3 年 中等教育学校の後期課程 特別支援学校の高等部 基礎免許取得後 大学等に

履修規程

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特別支援教育 教育経営研修班個人研究テーマ 教職員研修における特別支援教育に関する調査研究 高等学校教職員研修実施状況や意識調査を通して 指導主事仲本邦也 Ⅰ テーマ設定の理由 平成 19 年 4 月に 学校教育法等の一部改正に関する法律 が施行され 盲学校 聾学校 養護学校 ( 以下盲 聾 養護学

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Transcription:

6 山形県立新庄北高等学校 全日制定時制 普通科 27~29 平成 28 年度高等学校における個々の能力 才能を伸ばす特別支援教育研究開発実施報告書 ( 要約 ) 1 研究開発課題高等学校 ( 普通科 ) に在籍する特別な支援を要する生徒が 心理的に安定し より豊かな人間関係や社会生活を手に入れ 生涯を通じた QOL( クオリティーオブライフ ) を高めることができようにするための 特別の教育課程及び生徒の学力や多様な能力 才能を伸ばす指導に関する研究開発 2 研究の概要対象生徒の障がい等に応じた特別の指導 ライフスキル を教育課程に位置付け 自立活動の 心理的な安定 人間関係の形成 コミュニケーション に関する指導を中心に週 2 時間 ( 年間 70 単位時間 ) の通級による指導を行う ライフスキル の運用にあたっては 生徒の詳細なアセスメント ( 実態把握 ) をもとに 対象となる生徒とその保護者に対する丁寧な説明や相談により合意形成を図るとともに 成果と課題を丁寧に検証する さらに 年度途中からの通級による指導の開始 状態の改善による年度途中の通常の学級への復帰など 様々な状況を想定した出欠席の扱い及び単位認定 進路指導上不利益とならない指導要録 調査書への記入方法についても研究を行う また 長い期間取り組んできたユニバーサルデザイン ( 以下 UD) の考え方で一次支援の充実と生徒の情報交換を定期的に行ってきた その土台作りをさらに広げていく支援を行う そして ICT( タブレット型端末等 ) を活用した一斉授業の改善工夫を進めるほか 大学教員等の外部専門家による出張講義等により障がいのある生徒の学力や多様な能力 才能を伸ばす指導を実施する 特別支援学校のセンター的機能を活用して地域の特別支援学校と連携し 教職員の特別支援教育力向上を目的とした校内研修を実施するほか 個別の教育支援計画 や 個別の指導計画 を作成し 対象生徒個々の実態に即した適切な支援を行う 3 研究の目的と仮説等 (1) 研究開始時の状況と研究の目的 1 研究開始時の状況 山形県立新庄北高等学校は 全日制普通科 定時制普通科の 2 つの課程と全日制普通科の分校 ( 最上校 ) が設置されている高等学校である 研究の中心となる最上校は 普通科 3 学級 ( 各学年 1 学級 ) からなる小規模な学校である 様々な経歴 特徴をもつ生徒が集まるようになっており 自閉症や情緒障がい 学習障がい (LD) 注意欠陥多動性障がい (ADHD) 等をもつ

生徒も各学級に複数名在籍する状況となっている 特別な支援を要する生徒に対しては 特別支援教育コーディネーターを中心に 校内委員会やケース会議を開催しながら個別の指導や支援について検討し 県教育委員会の事業により配置されている特別支援教育支援員を最大限に活用しながら 全教職員態勢で指導 支援にあたっている 一斉授業においては ユニバーサルデザインの考え方を取り入れた授業改善にも 6 年間にわたった取組みに加え 国語 数学 英語 情報の授業にはチームティーチング ( 以下 TT) で授業に臨んでいる 教員の意識変革や指導技術の向上により 生徒の基礎学力の定着に一定の成果が得られた一方で 幅広い学力層への対応や 思考力 応用力を高めるための取組みが不足しているという反省が出されている また 新庄北高等学校本校 ( 全日制 定時制 ) においても 発達障がいの傾向があるなど 支援の必要な生徒が在籍しており 必要に応じて本校と分校が連携し 新庄北高等学校全体としての支援の充実や教職員の専門性の向上を図る必要がある 2 研究の目的 障がいのある生徒が増えている中で 他の生徒と共に学び 共に活動することを学校生活の基本形態としながら 特にコミュニケーションの基礎的能力に課題があり 特別な支援が必要な場合は 本人及び保護者の理解を十分に得た上で通級による指導を実施する 本人の自尊感情に配慮しながら 学習上 生活上の困難を改善 克服し 社会で自立するための資質 能力を身に付けるための研究を行う (2) 研究仮説特別の教育課程を編成し 通級による障がいに応じた指導が行えるようにすること 加えて一斉授業の改善工夫や能力 才能を伸ばす重点指導を行うことにより 障がいのある生徒の学力や多様な能力 才能を効果的に引き出し 伸ばすことが可能になることが期待できる (3) 必要となる教育課程の特例 教育課程の特例の内容 指導内容 授業時間数 単位数等 障がいに応じた特別の指導として 通級による自立活動等の指導を実施するための科目 ライフスキル の開設 個々の実態を自立活動の 6 区分で把握し 一人一人の障がいに応じて自立活動の 26 項目の中から必要な内容を選び指導を行う また 卒業までに特に身につけさせたい力を WHO 世界保健機関の定義による ライフスキル などを参考にしながら重点的に取り組む 1 学年 70 時間 (2 単位 ) 2 学年 70 時間 (2 単位 ) 3 学年 70 時間 (2 単位 )

(4) 個々の能力 才能を伸ばす指導 ( 現行指導要領における一斉指導の改善工夫等 ) 1 UD の考え方を取り入れた分かりやすい授業づくり特に 幅広い学力層への対応として すべての生徒の力を伸ばす指導のあり方や 思考力 応用力を高めるための指導のあり方について研究を行う また 国語 数学 英語 情報の授業には TT の体制をとり きめ細やかな指導にあたる 2 ICT 等の活用による焦点化 視覚化 共有化による分かりやすい授業づくり特に ICT を活用した障がい特性や生徒の特徴に応じた個別の学習方法の提供について研究を行う (5) 研究成果の評価方法 運営指導委員会による研究成果及び研究運営の評価 学校評価 ( 生徒 保護者 教職員 地域住民 学校関係者 ) による研究成果の評価 定期試験 学力検査 実態把握等の前年度比較等による分析 教職員対象のアンケートの実施 個別の指導計画の作成及び活用の状況並びにその他の記録 対象生徒のアンケート等 4 研究計画等 (1) 教育課程の内容等特別の指導 ライフスキル ( 学校教育法施行規則第 85 条に基づき設定する特別の指導 ) を実施 教育内容 生徒の実態を自立活動の 6 区分で把握し 一人一人の障がいに応じて自立活動の 26 項目の中から必要な内容を選び指導を行う また 卒業までに特に身につけさせたい力を 世界保健機関 (WHO) の定義による ライフスキル ( 日常の様々な問題や要求に対し より建設的かつ効果的に対処するために必要な能力 ) などを参考にしながら その能力の向上に向けた指導に取組む 教育方法 特別支援教育の経験のある自立活動担当教員 ( 非常勤 ) を 1 名雇用し 生徒一人ひとりの必要に応じて以下の方法等を用いて指導を行う 心理の安定 人間関係の形成 コミュニケ ション

評価方法 生徒の実態把握をもとに自立活動の 6 区分 26 項目に応じた目標を設定し その目標に向けた取組み状況や達成度等について 指導者が行動観察による評価を行うとともに 生徒自身による自己評価を行い 総合的に判断する 留意事項 通級による指導を実施するにあたり 年度途中からの通級による指導の開始 状態の改善による年度途中の通常の学級への復帰など 様々な状況を想定した出欠席の扱い及び単位認定 進路指導上不利益とならない指導要録 調査書への記入方法 その他課題となることについて検討する (2) 全課程の修了認定の要件対象生徒ごとの個別の指導計画等に通級による指導の目標を定め 週 2 回の通級による指導を行い 十分にその目標が達成できたと校長が判断した場合には単位の認定を行う (3) 年次研究計画 第一年次 (27 年度 ) ア研究組織の整備 運営指導委員会の設置 全職員による校内組織体制づくりイ教育相談 あすぱら委員会 ( 個々の生徒について情報を共有し対応するための校内組織 ) 対象生徒の選定ウ職員研修 定期的な校内職員研修会 様々な研修会への参加 視察校訪問エ授業改善 授業の UD 化の推進 国語 数学 英語 情報の TT による授業 ソーシャルスキルトレーニング ( 以下 SST) の実践オ教育課程の特例に向けた準備カ保護者への理解啓発 第二年次 (28 年度 ) ア運営指導委員会の設置イ教育課程の特例の実施 自立活動担当教員 ( 非常勤 ) の配置ウ職員研修 定期的な校内職員研修会

様々な研修会への参加エ授業改善 授業の UD 化の推進 国語 数学 英語 情報の TT による授業 SST の実践オ通級に入る要件 通級を修了する要件の確立カ保護者への理解啓発ケ成果の普及 特別支援教育コーディネーター養成研修会において 取組を発表 発達障害に係る講演会を実施 (2 回 ) 第三年次 (29 年度 ) ア運営指導委員会の設置イ教育課程の特例の検証と改善 自立活動担当教員 ( 非常勤 ) の配置ウ職員研修 定期的な校内職員研修会エ授業改善 授業の UD 化の推進 国語 数学 英語 情報の TT による授業 SST の実践オ進路実現に向けた取組カ保護者への理解啓発キ成果の普及 特別支援教育コーディネーター養成研修会において 成果を発表 研究発表会を実施 (4) 年次評価計画 第一年次 (27 年度 ) 第二年次 (28 年度 ) 運営指導委員会による研究成果及び研究運営の評価 学校評価 ( 生徒 保護者 教職員 地域住民 学校関係者 ) による研究成果の評価 授業の UD 化の検証 実態把握等のあすぱら委員会の設置やチェックリストの分析 保護者面談を実施し 個別の教育支援計画 個別の指導計画の内容について確認 教職員対象のアンケートの実施 運営指導委員会による 2 年次の研究成果及び研究運営の評価 学校評価 ( 生徒 保護者 教職員 地域住民 学校関係者 ) による研究成果の評価 授業の UD 化の検証

ICT を活用した授業の研究と及び実践における検証 あすぱら委員会の検証やチェックリストの分析 保護者面談を実施し 個別の教育支援計画 個別の指導計画の内容について確認 教職員対象のアンケートの実施 第三年次 (29 年度 ) 運営指導委員会による 3 年次の研究成果及び研究運営の評価 学校評価 ( 生徒 保護者 教職員 地域住民 学校関係者 ) による研究成果の評価 30 年度から制度化される 通級 の教育課程の評価と検証 通級による指導対象生徒の進路実現に関する検証 ICT を活用した授業の研究及び実践における検証 あすぱら委員会の検証やチェックリストの分析 保護者面談を実施し 個別の教育支援計画 個別の指導計画の内容について確認 教職員対象のアンケートの実施 5 研究の成果 (1) 実施による効果 1 対象生徒への効果通級による指導を進めていく中で 個々の障がいを持つ生徒に対して丁寧な指導を実施できた 一定のテーマを授業の中で設定し 具体的なイメージを持たせることで 時間はかかるものの自分の言葉で説明したりまとめたりすることができるようになるなど 思考力 表現力についても成長が見られた 2 教員への効果最上校は普通科の高等学校であり 所属する教諭 養護教諭 9 名は特別支援学校教員免許や特別支援学校での指導経験を有していない 今年度は特別支援学校勤務経験のある自立活動担当教員 ( 非常勤 ) を迎え 定期的に校内外での研修会を設定したり 職員一人ひとりが役割を担いこの事業を推進したりしていく中で 高等学校における特別支援教育に対する一定の理解が深まり それに向き合う意識改革が徐々になされてきている また 改めてユニバーサルデザインの視点で全体に対する指導を丁寧に行うことで 個々に必要な指導を充実させることができている 3 保護者への効果通級による指導を受けている生徒の保護者からは 不安感の軽減やアサ ションスキルの取得 自己理解 取組み方のスキル取得など 一定の評価を得られている また 家族 特に父親との会話が増えた事例もある

4 他の生徒今年度より実施している通級による指導に対しては 周囲の生徒も配慮している様子が窺え 肯定的な理解を示している ここ数年ソーシャルスキルが不足した生徒が増加傾向にあり 対人関係でトラブルや不適応を起こすケースが増えてきた 通級指導対象者や特別な支援が必要な生徒に対してだけでなく クラス内での新しい人間関係の築き方 適切なコミュニケーション方法や距離感の取り方 失敗した時の周囲からの声掛け 困り感を醸し出した友人への共感的 協力的な姿勢などを含め ソーシャルスキルを向上させていこうとするホームルーム単位での SST も積極的に行われてきている 5 その他 ( 地域の理解等 ) 最上町は以前から小 中学校の特別支援教育に力を入れてきたこともあり 最上校のこの度の取組みには 大きな期待と関心を寄せている 同様に地区内の中学校についても 最上校の取組みについて説明を伺いたいという問い合わせも複数あり 関心が高いことがうかがえる 11 月に実施した公開授業研修会においては 指定研究に対する中間発表も行うという情報発信をしたところ 県内各地より 30 名を超える参加があり 本事業の通級指導の取組み SST UD の視点を取り入れた授業の工夫等について研修を深めたいという教員が多くみられた (2) 実施上の問題点と今後の課題について 1 特別支援教育に対する専門性の担保最上校教員の特別支援教育に関わる専門的な知識やスキルをどのように向上させるかという課題と同時に この研究を通じて 最上校として培ったものをどう継承していくかということも大きな問題である 教頭 教諭 養護教諭で計 10 名という体制の中で 人事異動による転出 転入も想定され どのようにその専門性を引き継いでいくかについても検討していく必要がある 2 学力上位生徒への学習指導と進学指導最上校は最上町唯一の高等学校であり 家庭環境等の理由から長距離通学を避けて 地元の最上校に進学する生徒も存在する 一定の学力を有し リーダーシップに富む生徒に対して 特別支援教育とは別の観点から学びの場を提供し 進路希望を実現させることも地域から期待されている 特別支援教育と 上位層を伸ばす進学指導をどのように実現させていくかについて 地域に発信していくことが重要である 3 通級による指導枠拡大の可能性現在 通級による指導対象者は 3 名であるが それ以外にも 自立活動による特別の指導が必要ではないかと考えられる生徒が少なからず在籍している 現在の 1 対 1 という指導体制から 1 対複数というような指導が可能かどうか ということについても研究をしていく必要がある また 1 対複数という指導が困難な場合 自立活動による特別な指導が必要とされる生徒に対して どのような手立てを講じていくことができるかということについても検討していかなければならない

4 対象者の進路指導について最上校生の卒業後の進路は 8 割強が就職である 加えて その中でも約 7 割が管内就職を希望している このような状況にあって 通級対象者が 発達障がいを理由に就職できないということがないように 充実した進路指導を行ってもらいたいという願いが 生徒及び保護者にはある 今後 最上校の出口指導を考えた時に 地域の企業に対して丁寧な説明を行い 理解を求めていくことが大切である 5 履修 修得 学籍等の継続した研究 年度途中からの通級による指導の開始 状態の改善による年度途中の通常学級への復帰 さまざまな状態を想定した出欠席の扱い及び単位認定 進路指導上不利益とならない指導要録 調査書への記入方法以上のことについては 今年度も検討を行ったが 現行教育課程との関わりもあるため 教育課程の修正も念頭に入れた検討が次年度以降も必要である