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北見市特別支援教育の指針 平成 25 年 11 月

第 2 部 東京都発達障害教育推進計画の 具体的な展開 第 1 章小 中学校における取組 第 2 章高等学校における取組 第 3 章教員の専門性向上 第 4 章総合支援体制の充実 13

教育と法Ⅰ(学習指導要領と教育課程の編成)

学力向上のための取り組み

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持続可能な教育の質の向上をめざして ~ 教員の多忙化解消プラン に基づく取組について ~ 平成 30 年 3 月 愛知県教育委員会

教員の専門性向上第 3 章 教員の専門性向上 第1 研修の充実 2 人材の有効活用 3 採用前からの人材養成 3章43

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Ⅲ 目指すべき姿 特別支援教育推進の基本方針を受けて 小中学校 高等学校 特別支援学校などそれぞれの場面で 具体的な取組において目指すべき姿のイメージを示します 1 小中学校普通学級 1 小中学校普通学級の目指すべき姿 支援体制 多様な学びの場 特別支援教室の有効活用 1チームによる支援校内委員会を

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

(2) 国語 B 算数数学 B 知識 技能等を実生活の様々な場面に活用する力や 様々な課題解決のための構想を立て実践し 評価 改善する力などに関わる主として 活用 に関する問題です (3) 児童生徒質問紙児童生徒の生活習慣や意識等に関する調査です 3 平成 20 年度全国学力 学習状況調査の結果 (

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訂されている 幼稚園 小 中学校学習指導要領改訂の基本的な考え方として 次の 3つがあげられる 1. 子供たちに求められる資質 能力を明確にし それらを社会と共有していくという社会に開かれた教育課程を実現していく 2. 現行学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で 知識の理解の質を高めていく 3

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基本方針1 小・中学校で、子どもたちの学力を最大限に伸ばします

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平成27年度公立小・中学校における教育課程の編成実施状況調査結果について

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資料4-4 新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について 審議のまとめ(参考資料)

17 石川県 事業計画書

1 発達とそのメカニズム 7/21 幼児教育 保育に関する理解を深め 適切 (1) 幼児教育 保育の意義 2 幼児教育 保育の役割と機能及び現状と課題 8/21 12/15 2/13 3 幼児教育 保育と児童福祉の関係性 12/19 な環境を構成し 個々 1 幼児期にふさわしい生活 7/21 12/

2 教科に関する調査の結果 (1) 平均正答率 % 小学校 中学校 4 年生 5 年生 6 年生 1 年生 2 年生 3 年生 国語算数 数学英語 狭山市 埼玉県 狭山市 61.4

平成23年度全国学力・学習状況調査問題を活用した結果の分析   資料

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参考資料5:諸外国におけるインクルーシブ教育システムの構築状況

第 1 章総則第 1 教育課程編成の一般方針 1( 前略 ) 学校の教育活動を進めるに当たっては 各学校において 児童に生きる力をはぐくむことを目指し 創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で 基礎的 基本的な知識及び技能を確実に習得させ これらを活用して課題を解決するために必要な思考力 判

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教育実践研究論文集 第 6 巻 平成 30 年度教育学部プロジェクト推進支援事業 附属学校改革専門委員会 第 3 期中期目標中期計画 ; 平成 年度中間報告 小規模 複式教育に資する教育実習カリキュラムの開発 ( 経過報告 ) 附属学校改革専門委員会 : 田代高章 ( 教育学部 ) 阿部真一( 教職

教育公務員特例法等の一部を改正する法律について

はじめに 我が国においては 障害者の権利に関する条約 を踏まえ 誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い 人々の多様な在り方を相互に認め合える 共生社会 を目指し 障がいのある者と障がいのない者が共に学ぶ仕組みである インクルーシブ教育システム の理念のもと 特別支援教育を推進していく必要があります

2 教科に関する調査の結果 ( 各教科での % ) (1) 小学校 国語 4 年生 5 年生 6 年生 狭山市埼玉県狭山市埼玉県狭山市埼玉県 平領均域正等答別率 話すこと 聞くこと 書くこと

参考資料 文科初第 49 号 中央教育審議会 次に掲げる事項について, 別添理由を添えて諮問します 新しい時代の初等中等教育の在り方について 平成 31 年 4 月 17 日 文部科学大臣 柴山昌彦

1

岐阜県手話言語の普及及び障害の特性に応じた意思疎通手段の利用の促進に関 する条例 目次前文第一章総則 ( 第一条 - 第八条 ) 第二章基本的施策の推進 ( 第九条 - 第十六条 ) 附則 ( 前文 ) 手話が言語であることは 障害者の権利に関する条約において世界的に認められており わが国においても

(2) 施設の状況 幼稚園施設は 昭和 50 年前後に建築され 築 30 年以上が経過しています ( 表 2) ( 表 2) 公立幼稚園施設一覧 施設名称 竣工年月 構造 階数 酒匂幼稚園 昭和 48 年 2 月 鉄筋コンクリート造 ( 一部鉄骨造 ) 地上 2 階 東富水幼稚園 昭和 46 年 3

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「標準的な研修プログラム《

各教科 道徳科 外国語活動 総合的な学習の時間並びに特別活動によって編成するものとする 各教科 道徳科 総合的な学習の時間並びに特別活動によって編成するものとする

資料 4 医療等に関する個人情報 の範囲について 検討事項 医療等分野において情報の利活用と保護を推進する観点から 医療等に関する個人情報 の範囲をどのように定めるべきか 個別法の対象となる個人情報としては まずは 医療機関などにおいて取り扱われる個人情報が考えられるが そのほかに 介護関係 保健関

13 Ⅱ-1-(2)-2 経営の改善や業務の実行性を高める取組に指導力を発揮している Ⅱ-2 福祉人材の確保 育成 Ⅱ-2-(1) 福祉人材の確保 育成計画 人事管理の体制が整備されている 14 Ⅱ-2-(1)-1 必要な福祉人材の確保 定着等に関する具体的な計画が確立し 取組が実施されている 15

工業教育資料347号

Ⅰ 評価の基本的な考え方 1 学力のとらえ方 学力については 知識や技能だけでなく 自ら学ぶ意欲や思考力 判断力 表現力などの資質や能力などを含めて基礎 基本ととらえ その基礎 基本の確実な定着を前提に 自ら学び 自ら考える力などの 生きる力 がはぐくまれているかどうかを含めて学力ととらえる必要があ


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3. 分析と結果 公表に対する配慮事項 公表に際しては 文部科学省が定めた平成 29 年度全国学力 学習状況調査実施要領に基づき 次の点に配慮して実施します 1) 本調査は 太子町の子どもたちの学力や学習状況を把握し分析することにより 全国 大阪府の状況との関係において教育及び教育施策の成果と課題を

第2節 茨木市の現況

教育支援資料 ~ 障害のある子供の就学手続と早期からの一貫した支援の充実 ~ 平成 25 年 10 月 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課

必要性 学習指導要領の改訂により総則において情報モラルを身に付けるよう指導することを明示 背 景 ひぼう インターネット上での誹謗中傷やいじめ, 犯罪や違法 有害情報などの問題が発生している現状 情報社会に積極的に参画する態度を育てることは今後ますます重要 目 情報モラル教育とは 標 情報手段をいか

研究内容 2016 年 9 月時点 自治体の協力を得つつ 国立教育政策研究所や外部の研究者 有識者により実証研究を実施 関連施策の費用と効果について把握 分析 研究テーマ実施主体研究内容 ( 学力 非認知能力等 ) 国立教育政策研究所 埼玉県 大阪府箕面市等 国立教育政策研究所等 都道府県 :6 程

教科書の電子化について 平成 23 年 2 月 24 日

子育て支援事業要件事業例就学前の子どもに関する教育 保育等の総合的な提供の推進に関する法律施行規則(内閣府 文部科学省 厚生労働省令)第2条第1号に掲げる事業第2号に掲げる事業第3号に掲げる事業第4号に掲げる事業第5号に掲げる事業取扱基準別表 ( 第 7 条関係 ) 地域の子ども及びその保護者が相互

教育学科幼児教育コース < 保育士モデル> 分野別数 学部共通 キリスト教学 英語 AⅠ 情報処理礎 子どもと人権 礎演習 ことばの表現教育 社会福祉学 英語 AⅡ 体育総合 生活 児童家庭福祉 英語 BⅠ( コミュニケーション ) 教育礎論 音楽 Ⅰ( 礎 ) 保育原理 Ⅰ 英語 BⅡ( コミュニ

学習指導要領の領域等の平均正答率をみると 各教科のすべての領域でほぼ同じ値か わずかに低い値を示しています 国語では A 問題のすべての領域で 全国の平均正答率をわずかながら低い値を示しています このことから 基礎知識をしっかりと定着させるための日常的な学習活動が必要です 家庭学習が形式的になってい

3-1. 新学習指導要領実施後の変化 新学習指導要領の実施により で言語活動が増加 新学習指導要領の実施によるでの教育活動の変化についてたずねた 新学習指導要領で提唱されている活動の中でも 増えた ( かなり増えた + 少し増えた ) との回答が最も多かったのは 言語活動 の 64.8% であった

高齢者福祉施設でのみんなの体操等実演会 講師派遣実施要領 1 目的社会福祉法人等が運営する高齢者福祉施設に入所されているみなさんや当該施設でケアにあたる皆さんの健康の維持 向上のために みんなの体操等を活用して健康の保持増進等のため みんなの体操等実演会を実施するもの 2 スキーム施設に入所されてい

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参考資料 障害者の生涯を通じた多様な学習活動の充実について(1/2)

2.調査結果の概要

市町村における住民自治や住民参加、協働に関する取組状況調査

p.1~2◇◇Ⅰ調査の概要、Ⅱ公表について、Ⅲ_1教科に対する調査の結果_0821_2改訂

聴覚障害特別支援学校(聾学校)で取り扱われる特徴的な自立活動の内容に関する調査

参考資料 校区別小中連携 一貫教育スケジュール表

本年度の調査結果を更に詳しく分析するため 本道の課題となっている質問紙の項目について 継続して成果を上げている福井県 秋田県 広島県と比較した結果を示しています ( 全国を 100 とした場合の全道及び他県の状況をレーダーチャートで示したもの ) 1 福井県との比較 (~P51) 継続的に成果を上げ

 

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1 国の動向 平成 17 年 1 月に中央教育審議会答申 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について が出されました この答申では 幼稚園 保育所 ( 園 ) の別なく 子どもの健やかな成長のための今後の幼児教育の在り方についての考え方がまとめられています この答申を踏まえ

3 調査結果 1 平成 30 年度大分県学力定着状況調査 学年 小学校 5 年生 教科 国語 算数 理科 項目 知識 活用 知識 活用 知識 活用 大分県平均正答率 大分県偏差値

回数テーマ学習内容学びのポイント 2 過去に行われた自閉症児の教育 2 感覚統合法によるアプローチ 認知発達を重視したアプローチ 感覚統合法における指導段階について学ぶ 自閉症児に対する感覚統合法の実際を学ぶ 感覚統合法の問題点について学ぶ 言語 認知障害説について学ぶ 自閉症児における認知障害につ

教育調査 ( 教職員用 ) 1 教育計画の作成にあたって 教職員でよく話し合っていますか 度数 相対度数 (%) 累積度数累積相対度数 (%) はい どちらかといえばはい どちらかといえばいいえ いいえ 0

介護保険制度改正の全体図 2 総合事業のあり方の検討における基本的な考え方本市における総合事業のあり方を検討するに当たりましては 現在 予防給付として介護保険サービスを受けている対象者の状況や 本市におけるボランティア NPO 等の社会資源の状況などを踏まえるとともに 以下の事項に留意しながら検討を

周南市版地域ケア会議 運用マニュアル 1 地域ケア会議の定義 地域ケア会議は 地域包括支援センターまたは市町村が主催し 設置 運営する 行政職員をはじめ 地域の関係者から構成される会議体 と定義されています 地域ケア会議の構成員は 会議の目的に応じ 行政職員 センター職員 介護支援専門員 介護サービ

2 平成 27 年度に終了した研究課題について 研究成果報告書サマリー集や研究成果 ( 別紙 1 参照 ) の内容は 例えば下記のような場面で用いられ 貴機関や学校等での課題の改善に活用できましたか? 活用の場面研修会やセミナー所管する学校 教職員への情報提供関係機関 ( 医療 保健 福祉 教育 労

小・中学校における学校選択制等の実施状況について(平成24年10月1日現在)

目 次 平成 29 年度島根県公立高校入試の改善方針について 1 Ⅰ 改善方針の概要 2 1 基本的な考え方 2 改善方針の内容 3 実施の時期 Ⅱ 選抜制度の具体的内容 3 1 選抜の機会 2 検査の時期 3 選抜資料 学力検査 3-2 個人調査報告書 3-3 面接 3-4 その他の資

別紙(例 様式3)案

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福祉科の指導法 単位数履修方法配当年次 4 R 2 年以上 科目コード EC3704 担当教員佐藤暢芳 ( 上 ) 赤塚俊治 ( 下 ) 2017 年 11 月 20 日までに履修登録し,2019 年 3 月までに単位修得してください 2014 年度までの入学者が履修登録可能です 科目の内容 福祉科

授業概要と課題 第 1 回 オリエンテェーション 授業内容の説明と予定 指定された幼児さんびか 聖書絵本について事後学習する 第 2 回 宗教教育について 宗教と教育の関係を考える 次回の授業内容を事前学習し 聖書劇で扱う絵本を選択する 第 3 回 キリスト教保育とは 1 キリスト教保育の理念と目的

資料4_1いじめ防止対策推進法(概要)

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2. 子ども人口の推計について 人口推計は 今後の教育 保育の量の見込みを算出する上で非常に重要であるため 改めて平成 30 年度及び平成 31 年度の人口推計値を算出しました 当初計画値と実績値を比較すると 人口は計画値ほど減少しないことから平成 30 年度以降も人口減少は緩やかなものとして見直し

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調査結果の概要

子ども・子育て支援新制度における教育委員会の役割について 3

西ブロック学校関係者評価委員会 Ⅰ 活動の記録 1 6 月 17 日 ( 火 ) 第 1 回学校関係者評価委員会 15:30~ 栗沢中学校 2 7 月 16 日 ( 水 ) 学校視察 上幌向中学校 授業参観日 非行防止教室 3 9 月 5 日 ( 金 ) 学校視察 豊中学校 学校祭 1 日目 4 9

情報コーナー用

資料3-1 特別支援教育の現状について

「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて

①H28公表資料p.1~2

鎌倉市関谷小学校いじめ防止基本方針 平成 26 年 4 月 鎌倉市立関谷小学校

Transcription:

1 本研究の目的 イタリアにおいては 1947 年に制定されたイタリア憲法において 学校はすべての者に開かれる と 完全統合教育の原理が掲げられ 1971 年から法律第 118 号により 統合教育 が導入された 1975 年には ファルクッチ内閣委員会の勧告により 分離された特殊教育施設を廃止し 障害の種類 程度を問わず 障害児を通常の学級で教育するようになった さらに 90 年代に入って 1992 年の法律 104 号 障害者の援助 社会的統合および諸権利に関する基本法 の下 障害児 者の社会的完全統合を目指した施策が実施されつつある 笹本 大内 石川 武田 (2000) は イタリア北部地域の都市を中心に2 回の実地調査を行い 統合教育の実際について 次のような知見を得ることができた 1イタリアの インテグレーション の概念には すでにインクルージョンの概念が包括されている 2 障害のある児童生徒に対する学校の教育活動は 教育活動 + 訓練 + 障害に対する配慮 という図式ではなく 教育活動 + 障害に対する配慮 であり 訓練 の部分は他の機関によって分担されている 3 各学校には 支援教師(Insegnanti di sostegno ) が配置され 通常の学級に在籍する障害児の育的支援に指導的な役割を果たしてきた 支援教師はインクルーシブ教育の推進に重要な役割を担っている 4 各地域ごとに置かれたUSL( 地域保健機構 ) は出生から18 歳までの子どもを対象に 障害の認定 治療 訓練などの医療的サービスを行う機関であり 特に 学校と密接な連携を図りながら 特別な教育的ニーズのある児童生徒の教育的インテグレーションを支える重要な役割を果たしている 5 学校は教育年度ごとに 人間形成計画 (Piano Offerta Formativa ) を作成し 教師の主体的な発案による複数のプロジェクトが展開され インテグレーションを推進する目的をもつプロジェクトが含まれる 6 小学校の授業は 日本において新学習指導要領に導入された 総合的学習 の概念に近い指導や合科的な授業が多く取り入れられ その内容や方法には様々な工夫が活発にされている 本研究では これまでの実地調査の結果を踏まえた上で イタリアの小学校の教育実践において 授業の実際を観察し 特別な教育的ニーズのある児童への支援教師の対応及び校内での役割 人間作成計画の内容と実践との関連 地域社会における学校の在り方を分析し 授業実践の背景となる教師がもつ教育理念 学校観 カリキュラムに対する考え方等を考察することを目的とする 2 本研究の特色及び期待される成果と意義先進国の中で1970 年代から統合教育を国の施策として取り組んできたイタリアの統合教育に焦点を当て 単にその制度面ではなく インクルーシブ教育に先進的な取り組みを進めるイタリア北部地域の小学校の教育現場に協力を依頼し 授業実践の定期的かつ継続的な観察をチームで行うことに特色がある 日本においては2001 年 1 月 21 世紀の特殊教育のあり方に関する調査研究協力者会議の 21 世紀の特殊教育の在り方について ( 最終報告 ) によって 今後の特殊教育の在り方について基本的な考え方が示された この基本的な考えを実現する上で 日本の現在の特別な教育的ニーズのある児童生徒に係わる盲 聾 養護学校及び小 中学校の特殊学級の在り方 特殊教育の教師の果たす役割が大きな鍵を握っている 今後日本が教育のノーマライゼーションを具体化していく際に 1970 年代からイタリアがこれまでインテグレーションを推進してきた中での経験から とりわけ多様な教育的ニーズのある児童生徒に対して学校がいかなる教育理念をもって いかに指導内容 方法に創意工夫をしていくか インクルーシブな教育を推進する教師の資質 専門性について多くの学ぶべきことがあると考える この研究によって 障害のある児童生徒も含めた多様な教育的ニーズに対応する教師の資質 専門性 インクルーシブな教育の基本となる初等教育における教育課程の在り方など多くの示唆が得られるであろう 1

2 研究計画 方法 1 調査方法先行研究において調査対象となったイタリアの教育委員会等に研究協力を依頼し 特別な教育的ニーズのある児童の授業を定期的かつ継続的に観察し 学年の進行に応じた学校のカリキュラム 授業形態 授業内容 児童及び教師間及び児童間の相互作用等の変化について追跡的に調査を行う 各校において授業を観察し VTRに記録する 各学校の人間形成計画を翻訳 分析し 校長 学級担任 支援教師 保護者等へのインタビュー等により 人間形成計画の背後にある教育理念 学校観 児童観 年度ごとの人間形成計画の改善の視点等について明らかにする 併せて 該当の小学校の地域を管轄する教育委員会及び地域保健機構 障害児を支援する民間団体を訪問し 学校との連携の状況について調査する 調査については 予備調査 1 回 本調査 2 回 補充調査 1 回の計 4 回とし 各調査ごとに訪問人数 3 名で 滞在期間は約 2~3 週間の予定で調査を行う 2 調査内容 イタリアの小学校等における授業方法及び内容 人間形成計画に基づく授業の追跡的分析 授業における特別な教育的ニーズのある児童への具体的な配慮事項及び対象児童と周囲の児童の変容 校長 教師のもつ教育理念 学校観について 特別な教育的ニーズのある児童の保護者の学校教育への願いについて 教育委員会 地域保健機構 障害者を支援する民間団体の学校への関与について 3 研究計画平成 14 年度 ( 調査対象学校との連絡 調整 小学校の人間形成計画の把握 ) 4 月 ~5 月資料収集 質問紙作成 研究協力機関 ( 県教育委員会 該当の小学校との連絡調整 ) 6 月予備調査の実施 ( モデナ県教育委員会 モデナ市教育委員会及び学校の訪問 資料収集 ) 7 月 ~8 月人間形成計画等資料の翻訳 整理 VTR 記録の分析 10 月本調査の実施 ( 小学校等の訪問 授業観察 資料収集 ) 11 月 ~12 月資料の整理 VTR 記録の分析 1 月 ~3 月研究成果のまとめ平成 15 年度 ( 小学校における授業分析 人間形成計画との照合 ) 4 月 ~5 月資料収集 研究協力機関 ( 県教育委員会 該当の小学校との連絡調整 ) 6 月本調査の実施 ( 小学校等の訪問 授業観察 資料収集 ) 7 月 ~8 月人間形成計画等資料の翻訳 整理 VTR 記録の分析 9 月特殊教育学会において平成 14 年度の研究成果を発表 11 月 ~12 月人間形成計画等資料の翻訳 整理 VTR 記録の分析研究成果のまとめ 中間報告書の作成 1 月 ~3 月資料収集 研究協力機関 ( 県教育委員会 該当の小学校との連絡調整 ) 平成 16 年度 ( 小学校における児童及び学校の変容 教師の教育理念等についての検証 考察 ) 2

6 月 補充調査の実施 ( 小学校等の訪問 資料収集 ) 7 月 ~9 月 収集資料の翻訳 整理 VTR 記録の分析 9 月 特殊教育学会において平成 15 年度の研究成果を発表 10 月 ~12 月 研究成果のまとめ 報告書の作成 提出 3 人権及び利益の保護の取扱についての配慮本調査研究において 調査の対象となる特別な教育的配慮を要する児童の授業場面の撮影等については 学校長を通して 本人及び保護者に本研究の趣旨を説明していただいた上で 承諾を得え 学校の指示に応じて撮影記録する また 支援教師及び担任に対しても 同様に学校長を通して研究の趣旨を説明し 承諾を得る 3

4 研究成果の概要イタリア共和国は 国家 州 県及び市町村の4つのレベルに分けられている 19 の州と 84 県がある 教育に関わる国の省は 教育省 保健省 社会省などである イタリアの教育システムは中央集権的であり 州 県独自に教育課程の基準については設定する権限はない 我が国における学習指導要領のような国で定めた教育課程の基準であるに相当するものは 教育省が定める幼稚園 小学校 中学校 高等学校等各学校段階の教育指針である 例えば 教育省令で定められた 幼稚園のための指針 Dai Orientamenti Minisuteriali per la Scuola Marerna, 大統領令で定められた 小学校の教育プログラム Dai Programmi Didatti per la Scuola Primaria * 資料 5-2) がこれに相当する これらの指針等は 国立 私立すべての学校に適用される しかし イタリアでは特殊教育における教育指針はなく 障害児のための公立の特殊教育諸学校や特殊学級やリソースルームは存在しない 全ての子どもが通常の学級で学ぶというインクルージョン政策を実施してから 30 年近く経過し その過程で様々な法的根拠や教育システムを構築してきた よって イタリアでは特殊教育におけるナショナルカリキュラムは存在していない 障害のある幼児児童生徒 ( 以下 生徒と記述する ) のための特別学校が存在していた 1970 年代以前は障害のある生徒のためのカリキュラムは存在していたというが 1992 年に法律 104 号 障害者の援助 社会的統合および諸権利に関する基本法 が制定される この法令では 学習の困難性や障害に関係する能力的欠如から生ずるその他の困難性によってその権利は妨げられない と規定されており 大学を含む全ての学校段階で 障害のある生徒が通常の教育を受ける権利を補償されることになった 1977 年からすべての特殊教育学校が廃止され 1992 年の法律 104 号 障害者の援助 社会的統合 諸権利のための枠組み法 に基づいて 現在 通常の教育にすべての障害のある生徒が統合されている また この法律が根拠になり 地域保健機構 市町村当局 ( コムーネ ) 教育委員会がプログラム協定により連携しながら 支援教師 介助員の配置 動態 - 機能プロフィール (Profilo Dinamico Funzionale 以下 PDF と呼ぶ ) 個別教育計画 (Piano Educativo Individualizzato 以下 PEI と呼ぶ ) の作成等を行う 本稿では エミリア ロマーナ州モデナ県を例にとり紹介し 一人の障害のある子どもがどのような過程を経て教育を受けるかを述べる 過程の概略は 1 障害のある子どもの家族が地域保健機構に対して 機能診断書作成を申請 2( 新就学の場合 ) 家族が入学申請の際に学校へ機能診断書を提出 3( 進学 転校の場合 ) 在籍校から 生徒に関する情報 動態 - 機能プロフィール (PDF) 個別教育計画(PEI) を これから通う学校に提出 4 必要な人材を派遣するよう要求 5 教育委員会を通して 支援教師が派遣される 6 市からアシスタント 教育スタッフ コミュニケータが派遣される 7 関係者のミーティングが開かれ 8 学校と地域保健機構の関係者が 障害児の家族の協力の下で動態 - 機能プロフィールを作成 また 地域保健機構のスタッフが学校内での必要性について協議する 9 地域保健機構の専門家と 支援教師等の教員 から派遣されるスタッフにより 個別教育計画 (PEI) を作成 4

障害児の家族はその作成 評価に協力する 10 更に 地域保健機構の専門家は 就学後学校を定期的に訪問し 関係教師との協議 支援教師等の研修等によりフォローアップを行う である 本稿では ボローニャ県団体作業グループ GLIP 作成の保護者向けの統合教育ガイド プログラム協定 の翻訳 インクルージョン教育政策を実際に支えるエミリア ロマーナ州モデナ県のプログラム協定 ( 障害の認定 PDF,PEIの書式を含む ) の翻訳 アントーニオ エスポージト著 ハンディキャップ者の統合教育に関する規定 の翻訳 1992 年の法律 104 号 ( 障害者の援助 社会的統合 諸権利のための枠組み法 ) の翻訳 小学校組織改革および学習プログラム 1985 年共和国大統領令第 104 号小学校のための学習プログラムの翻訳 トレンティーノ州ボルツアーノ自治県における収集資料を紹介する 5