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相互行為における接触場面の構築接触場面の言語管理研究 vol.13 (2016) pp.19-36 研究論文 接触場面における終助詞 ね よ よね の機能分析 発話連鎖の視点から A functional analysis of sentence-final particles ne, yo, and yone in contact situation conversations from a speech sequence perspective 崔英才 ( 千葉大学, 人文社会科学研究科 ) Yingcai CUI (Chiba University, Graduate School of Humanities and Social Sciences) Abstract This study focused on the sentence-final particle ne, yo, and yone in contact situation conversations to clarify the selected functions between the learners (non-native speakers) and the native speakers and to investigate the various problems arising in the learners usage during conversations. As a new perspective, based on speech sequence results we also compared the functions of ne and yo selected by the native speakers and the learners to identify the functions of sentence-final particles in contact situation conversations from the point of speech sequence. 1. はじめに 終助詞は日本語の大きな特徴の一つで, その役割は非常に大きい. その中でも ね よ よね は最も使用頻度が高く, 聞き手に対して話し手が発話の状況をどのように認識し, 聞き手にどのように伝えようとしているのかを表す伝達態度のモダリティ ( 益岡 1991) として, コミュニケーションにおいて重要とされる. そのため, 日本語教育においても, 初級の早い段階から教科書の会話文を中心に指導が行われている. しかし, 日本語学習者にとって多様な種類と機能を持つ終助詞は, 上級レベルになっても適切に使い分けることは難しく ( ナズキアン 2005), 不自然な使用や, 配慮に欠けた使用がなされることから, 習得が遅れる学習項目の一つとして指摘されている ( 野田 2006). 学習者の終助詞の使用に関する先行研究をみると, 学習者の用例を集め, 文法的側面からの誤用分析が多く, 実際の接触場面の会話データを基に, 学習者の終助詞の使用問題を取り上げた研究は, まだまだ少ないのが現状である. 本研究では, 高 崔 (2015) に引き続き, 接触場面における終助詞 ね よ よね を取り上げ, 日本語母語話者と日本語学習者の使用を比較しながら, 談話上における機能分析を行う. 高 崔では中国人学習者のみ扱っていたが, 本研究では多様な国籍の学習者の接触場面の会話データを分析し, 学習者の母国語に関わらず見られる終助詞の使用問題を探っていく. 本研究では, 従来の日本語教育の立場から主に行われてきた終助詞の誤用分析も行う一方で, 母語話者と学習者の比較を通し, 接触場面という 相互行為の場 において, 母語話者と学習者にそれぞれどのような使用上の特徴があるのかについても追及していきたい. 19

相互行為における接触場面の構築 2. 先行研究 2.1 接触場面における学習者の終助詞の研究 日本語学習者の終助詞に関する先行研究は, 学習者の用例を集めて行う誤用分析が主で, 実際の接触場面の会話データを扱った研究は少ない. 近年見られる接触場面の会話データを基に分析した研究を挙げると, 台湾人日本語学習者の終助詞 ね のコミュニケーション機能の使用を母語話者と比較して分析した張 (2005), 中国人日本語学習者の終助詞 ね を共感構築の観点から分析した楊 (2008a), 言語管理理論の視点から学習者の終助詞の生成と管理の問題を分析した高 (2008) 等がある. また, 本研究とも繋がる高 崔 (2015) では, 中国人学習者のみに焦点を当て, 国内外の学習環境の違いに注目しながら, 学習者の終助詞 ね よ よね の使用と習得問題を分析している. しかし, 高 崔の研究を含め, これらの研究は全て母語話者の視点から出発し, 学習者の終助詞の使用における問題を, 誤用または逸脱として捉えようとしたものである. 例えば, 高 崔では学習者の終助詞の逸脱のタイプとして,⑴ 種類の逸脱,⑵ 付加による逸脱,⑶その他の逸脱,⑷ 不使用による逸脱, といった四つのタイプに分類している. この中の ⑴と⑶の逸脱は, 終助詞の使用が必須となる場合の文法面における逸脱で,⑵と⑷は, 終助詞の使用が必須ではなく, 任意の場合の運用面における逸脱である. ところが, これらの終助詞の逸脱は, その全てが母語話者に不自然さや配慮に欠けた印象を与え, 留意されるものではない. 従来の学習者の終助詞の誤用や逸脱を取り上げた先行研究は, 終助詞が使用される発話文に主に焦点が当てられがちだったため, 母語話者と異なる使い方をすると, 誤用または逸脱と判断する傾向があったと言える. しかし, 文レベルを超えた複数の発話連鎖から, 学習者の終助詞の使用を捉えると, 学習者の終助詞の逸脱は, 単なる逸脱ではなく, 会話の相互行為やある発話行為を達成するために行った, いわゆる学習者の 独自の使い方 であると解釈することもできる ( 高 崔 2015:297). そこで, 本研究は学習者の終助詞の使用に関する研究は, 従来の母語話者の視点からの分析だけではなく, 学習者の視点からの考察も必要であると考え, 学習者の立場から学習者独自の用法を明らかにすることを目的とする. また, 接触場面において母語話者は母語場面と, どのような異なった用法をしているかについても明らかにすることを試みる. 2.2 終助詞 ね よ よね の機能従来から終助詞 ね よ よね は多様な機能を持つと指摘され, 様々な視点から機能の説明がなされてきた. これまでの終助詞研究の流れに沿って概観すると, 文法的次元から捉えるモダリティ機能の研究 ( 大曽 1986; 陳 1987; 益岡 1991 等 ) と, 終助詞の対話性に注目した談話管理の機能 ( 金水 田窪 1998) や対話調整の機能の研究 ( 片桐 1995, 加藤 2001 等 ) といった, 二つの大きな流れがあったと言える ( 西郷 2012). 崔 (2015c) ではこれらの先行研究に残された問題点として, 終助詞 ね よ よね の使い分けにおいて明確な記述が十分になされていないことを挙げ, その問題を解決するアプローチとして, 文法的モダリティ機能と発話連鎖効力の機能を統合し, 談話上における機能の分類を提案している. 本研究では崔 (2015c) による終助詞 ね よ よね の談話上における機能を分析の枠組みとし, 接触場面の分析を行う. 20

接触場面における終助詞 ね よ よね の機能分析 ( 崔 ) 2.2.1 終助詞 ね よ よね モダリティ機能終助詞 ね よ よね は多様なレベルから, 様々な機能を持つが, その中でも最も基本的機能は, 文法的側面における発話 伝達態度のモダリティ機能である. このモダリティ機能の体系的分類を目指した先行研究 ( 大曽 1986 益岡 1991, 陳 1987, 神尾 1990 等 ) はいくつかあるが, 本研究では神尾 (1990), 鈴木 (1997) の 情報理論 や 聞き手のテリトリー の観点を参考に, 終助詞には命題内容の事柄を聞き手に示すモダリティ機能があると捉える. 命題内容の事柄の領域が, 話し手, 聞き手, 中立のどちらの領域に属しているかによって 聞き手領域の事柄,, 話し手領域の事柄, 中立領域の事柄 に分類し, ね よ よね の機能をこれらの領域によって分類する ( 高 2011, 崔 2015c, 高 崔 2015). 2.2.2 終助詞 ね よ よね 発話連鎖効力以上挙げた終助詞 ね よ よね の命題内容の事柄の領域によるモダリティ機能は, 文法的側面から捉えた文レベルにおける機能である. 本研究ではこの文レベルにおけるモダリティ機能に加え, 文を超えた発話連鎖レベルにおける機能として発話連鎖効力を挙げる. 西郷 (2012) では終助詞 ね よ よね は聞き手に適切な発話での応答を指令する 発話連鎖効力 を持つとし, その発話連鎖効力による後続発話の連鎖を中心に機能の記述を行っている. 崔 (2015a,b,c) では西郷が提案する 発話連鎖効力 の概念を参考に, 終助詞 ね よ よね の先行発話 後続発話の連鎖の特徴を分析し, 以下の三つのタイプの発話連鎖効力に分類し, まとめている. 発話連鎖効力 Ⅰ: 聞き手の後続発話を導く 特徴 : 終助詞 ね よ よね による発話連鎖効力が直後の聞き手の後続発話にかかる. 発話連鎖効力 Ⅱ: 話し手自身の現在の連鎖を管理する 特徴 : 終助詞 ね よ よね による発話連鎖効力が直後の話し手自身の発話にかかり, 話 し手が発話権を管理する. 発話連鎖効力 Ⅲ: 先行連鎖に区切りを付ける 特徴 : 終助詞 ね よ よね による発話連鎖効力が直前の ( 聞き手 / 話し手 ) 発話, または一 連の先行連鎖 ( やり取り ) にかかり, 先行連鎖を終了させる. 2.2.3 本研究の分析の枠組み以上のように, 崔 (2015c) では終助詞 ね よ よね の機能を, 命題内容の事柄の領域から捉えるモダリティ機能と, 発話連鎖の特徴から捉える発話連鎖効力の機能を統合し, 談話上における機能として, 分類してまとめている. 次の表 1 の通りである 1. 21

相互行為における接触場面の構築 表 1: 終助詞 ね よ よね の談話上における機能 ね確認要求のね 1 2 コメントの受け入れ要求のね 2 情報 意思受け入れ要求のね 3 同意 共感要求のね 4 同意 共感表明のね 5 よ ( 行動要求を求める ) 情報提示のよ 1 ( テーマとしての ) 情報提示のよ 2 ( 結論としての ) 情報提示のよ 3 よね共有の表明のよね 1 共有の受け入れ要求のよね 2 共有の提示のよね 3 当然ながら, この機能分類表は, 終助詞 ね よ よね が持つ多様な機能を全て網羅するものではない. 本研究で目指した機能分類表は, 従来はっきり区別されなかった終助詞 ね よ よね の機能を, 領域の概念と発話連鎖効力を統合することで, 全て区別可能にした点を押さえておきたい. そして, 相互区別可能になった機能分類表を用いて, 接触場面における学習者の誤用または逸脱の問題, 及び接触場面における終助詞の働きを, 文法的側面と発話連鎖の視点から明らかにするために応用する目的がある. 表 1 にまとめた ね よ よね のそれぞれの機能のラベルには発話連鎖効力を反映し, 要求 3, 提示, 表明 の用語を用いている. つまり, 終助詞 ね よ よね はそれぞれの領域による機能の分類がなされ, 更に, 発話連鎖効力により, 要求系の終助詞, 提示系の終助詞, 表明系の終助詞の三つのタイプにまとめることができた. しかし, 要求, 提示, 表明 の用語だけでは, それぞれの機能の終助詞が, 具体的にどのような発話連鎖効力を持つか, 明確に捉えにくい問題点がある 4. そこで, 本研究では,2.2.2 の三つのタイプの発話連鎖効力と, 表 1 の機能分類表の関連性を明確に示しておきたい. つまり, 表 1 における要求系の終助詞は発話連鎖効力 Ⅰを持ち, 提示系の終助詞は発話連鎖効力 Ⅱを持ち, 表明系の終助詞は発話連鎖効力 Ⅲを持つことを, あらためて指摘しておく. 更に, 話し手が志向する発話連鎖の展開, 即ち談話進行の視点から,2.2.2 の三つのタイプの発話連鎖効力に対し, より具体的な説明となる記述を行い, 表 1 のそれぞれの機能が, どのタイプの発話連鎖効力を持つ終助詞に属するかも示しておく. 次の表 2 の通りである. 終助詞要求系の終助詞ね1ね2ね3ね4 よ1よね2 提示系の終助詞よ2よね3 表明系の終助詞ね5よ3よね1 表 2: 終助詞 ね よ よね の発話連鎖効力発話連鎖効力要求系の発話連鎖効力 Ⅰ 命題内容に不確実性 疑問性を付与し, 聞き手の応答を求めることで, 後続する談話進行を協調的に展開する提示系の発話連鎖効力 Ⅱ 命題内容にテーマ性を付与し, 後続する談話進行を一方的に展開する表明系の発話連鎖効力 Ⅲ ( 先行発話を基に ) 命題内容に結論性を付与し, 談話進行に結束性をもたらす 本稿では, 以上で挙げた表 1 と表 2 を分析の枠組みとし, 以下の三つの研究課題を設定して 分析 考察を行う. 22

接触場面における終助詞 ね よ よね の機能分析 ( 崔 ) ⑴ 接触場面の各会話の発話総数, 話者交替回数, 終助詞 ね よ よね が文末で占める割合を集計し, 母語話者と学習者を比較しながら, 終助詞の使用実態を明らかにする. 同時に学習者の終助詞使用における機能選択の逸脱 5 を取りあげ, 学習者の終助詞の使用問題を考察する. ⑵ 接触場面における終助詞 ね よ よね を聞き手領域, 話し手領域, 中立領域の領域別にみた時に, どの領域の機能が多く使用されるのか, また, それぞれの領域においてどの機能が多く使用されるのかを, 母語話者と学習者を比較しながら分析し, 機能選択における傾向を捉える. ⑶ 課題 ⑵の分析結果に基づき, 母語話者と学習者に最も多く使用された終助詞を取り上げ, 発話連鎖の視点から, 母語話者と学習者の 独自な用法 として捉え, 接触場面における終助詞の働きと使用上の特徴を考察する. なお, 高 崔では終助詞の逸脱を, 実際に使用された終助詞の逸脱と, 使用されなかったことで生じた逸脱に分けて, 逸脱のタイプを分類している. 本研究では実際に使用された終助詞のみ取り上げる. 本研究の課題 ⑴の機能選択の逸脱は, 高 崔では逸脱のタイプのうちの⑴ 種類の逸脱と,⑶その他の逸脱に当たるもので, 終助詞の使用が必須の場合に, 文法的知識に問題があって生じた逸脱を分析して集計する. 一方で, 高 崔による実際に使用された終助詞の逸脱のうちの,⑵ 付加による逸脱, つまり母語話者に比べ使用頻度において過剰に使用したことに起因する運用面における逸脱は, 一概に逸脱と処理せず, 学習者が何のためにそのような過剰使用をしているのか, といった学習者の視点に立った分析を試み, 課題 ⑶の中で扱う. 3. 調査の概要本研究では日本語母語話者と学習者の接触場面における 2 者間の初対面場面の会話を 4 組調査し, 宇佐美 (2011) の基本的な文字化の原則に基づき, 文字化したデータを分析した.4 ペアの学習者は全員旧日本語能力試験 1 級に合格しているが, そのうちのペア 1~3 の学習者 (NNS1 ~NNS3) は日本滞在歴が長いのに対し, ペア 4 の学習者 (NNS4) は日本に来て 2 カ月しか経っておらず, まだ母語話者との接触経験が浅く, 日本語の会話能力も他の 3 名の学習者に比べて劣る. 高 崔では中国人学習者のみに対して調査を行ったが, 本研究では中国, モンゴル, ネパールの多様な国籍の学習者に対して調査を行った. 学習者の母国語に関わらず, 終助詞の使用に共通して見られる問題や特徴を把握するためである. ペアとなる母語話者と学習者は年齢的に同じ年代に設定したが, 性別に関しては統一していない. 性別要因は終助詞の使用に影響を与える要因の一つとしてよく指摘されるが, 本研究では接触場面における終助詞の使用実態を調べることが目的で, 性別要因が具体的に接触場面の会話にどのような影響を及ぼすかは, 扱わないことを断っておく. 会話収録においては, 会話参加者に自由会話であることだけを伝え, 研究目的は明かさなかった. 収録した会話は文字化し, その中から学習者による終助詞 ね よ よね の使用が見られた発話文と, その前後の発話のやりとりを抽出し, 分析対象とした. なお, 今回は, 間投詞の ね, 文頭に使用されるフィラーの機能を果たす ね, 質問に対する応答として そうですね の ね は分析の対象としない. 調査協力者の内訳は表 3 の通りである. 23

相互行為における接触場面の構築 表 3: 調査協力者の内訳 ペア 協力者 国籍 年齢 性別 日本語能力 滞在歴 会話時間 ペア 1 NS1 日本 20 代男 NNS1 中国 20 代女上級 3 年約 20 分 ペア 2 NS2 日本 40 代女 NNS2 モンゴル 40 代女上級 5 年約 12 分 ペア 3 NS3 日本 20 代男 NNS3 ネパール 20 代男上級 8 年約 7 分 ペア 4 NS4 日本 20 代男 NNS4 中国 20 代女上級 2 か月約 20 分 4. 分析結果 4.1 接触場面における終助詞の使用回数 本研究では発話文の認定において, 宇佐美 (2011) に従い, 話者交替 と 間 の 2 つの要素を基に行った.4 ペアの会話における発話総数と話者ごと発話数,1 分当たりの話者交替回数, 終助詞の合計と終助詞が文末の中で占める割合, 話者ごと使用回数と ね よ よね のそれぞれの使用回数を集計し, 表 4 にまとめた. 表 4 で示す使用回数は正用 逸脱を問わず, 全て集計した結果である. また, 表 1 の機能分類表を基に, 機能選択の逸脱と判断した逸脱の回数を ( ) に入れて示した. 表 4: 発話文と終助詞の使用回数 ペア 話者ごと話者ごと終助詞別の使用回数発話 1 分当たり終助詞の合計発話数使用回数ねよよね総数話者交替回数 文末の割合 NS NNS NS NNS NS NNS NS NNS NS NNS ペア1 240 131 109 約 11 回 45 19% 25 20 18 4 0 12 7 4 ペア2 95 39 56 約 6 回 21 22% 4 17(2) 2 11(2) 0 5 2 1 ペア3 96 49 47 約 12 回 19 20% 10 9(1) 4 2 1 5 5 2(1) ペア4 389 193 196 約 19 回 27 7% 22 5(3) 8 1(1) 10 3(1) 4 1(1) 合計 820 412 408 平均約 12 回 112 14% 61 51(6) 32 18(3) 11 25(1) 18 8(2) まず, 発話総数と会話時間を割った 1 分当たりの話者交替回数をみると, ばらつきがある. ここで話者交替回数が 19 回の一番多いペア 4 に関しては, 母語話者の NS4 が学習者の会話能力がそれほど高くないことを意識し, ゆっくりとしたペースで話し, 一発話文を短くして終わらせるとともに, 発話と発話の間にはっきり間を作ることで, 学習者にもなるべく発話をさせる機会を作る等, フォリナー トークの日本語となったためである. 話者交替回数が 6 回の一番少ないペア 2 に関しては, 学習者の NNS2 が主に自分の国に関する情報提供を行い,NS2 はその情報を受けるのみの会話のやり取りになったためである.NNS2 の情報提供の発話は一発話文が長く, 長い説明が続く会話となっており, 順番交替も少なく起きていた. 終助詞の合計と文末で使用される割合をみると, 全体で 112 回使用され, 接触場面の文末の 14% が終助詞 ね よ よね で終わることが分かった. ペアごとにみると, 日本滞在歴が長く, 接触経験が多い学習者のペア 1~3 においては 20% 前後と多く使用されるが, 日本に来 24

接触場面における終助詞 ね よ よね の機能分析 ( 崔 ) たばかりで, また接触経験が浅い学習者のペア 4 においては 7% と少ない. この結果から接触経験は終助詞の使用回数に影響することが言える. 話者ごと終助詞の使用回数をみると, ペア 1 とペア 3 は母語話者と学習者にあまり差がないが, ペア 2 とペア 4 は大きな差が見られる. ペア 2 では学習者が母語話者より多く使用し, 学習者の過剰使用の問題が予想される. ペア 4 では学習者の使用が少く 6, 母語話者が多く使用している. ペア 2 の学習者の過剰使用の問題と, ペア 4 の母語話者の 過剰使用 の問題は, それぞれ 5.2.2 と 5.2.3 で接触場面の 独自の用法 として事例を取り上げる. 母語話者と学習者の ね よ よね の使用回数をみると, 母語話者の場合は ね が 32 回, よ が 11 回, よね が 18 回となっている. この結果は, 一般的に母語場面の日常会話において ね が最も多く使用され, その次 よね, よ の順で使用されるという指摘が, 今回の接触場面の母語話者においても確認されたことになる. しかし, 学習者の場合は ね が 18 回, よ が 25 回, よね が 8 回となり, よ の使用が ね をかなり上回り, よね の使用は最も少ない. これは日本語教育でよく指摘される学習者の よ の過剰使用の問題と, よね の習得が遅れる問題が浮き彫りになった結果である. また, これは中国人学習者を対象に調べた高 崔においても同様の結果が見られた. 本研究の多様な国籍の学習者においても再確認されたことは, 母国語を関わらず, 学習者の終助詞の使用と習得に共通する現象であることが言える. ( ) で示した, 学習者の機能選択の逸脱を見ると, 全体の 51 回のうち 6 回確認され, その数は決して多くはなかった. 中でも特に多く見られた逸脱は ね との区別ができなくて生じた よね の逸脱で, よね の使用回数が少ないことも含め, 学習者の よね の習得問題が見えてきた. とはいえ, 機能の逸脱が少なかったことは, 学習者の終助詞の逸脱は, 文法面における逸脱より, 運用面における逸脱のほうに, より問題を抱えている可能性が示唆され, 重視していく必要がある. 逸脱の事例分析については 5.1 で取り上げる. 4.2 接触場面における終助詞の機能接触場面における終助詞 ね よ よね を聞き手領域, 話し手領域, 中立領域の領域別に, 母語話者と学習者に使用された機能を比較して集計し, 表 5 としてまとめた. 表 5 で集計した学習者の使用回数は, 正用となった終助詞の数であり, 逸脱となった使用は含まれていない. 領域聞き手領域話し手領域中立領域 表 5: 使用された終助詞の機能 機能 ペア1 ペア2 ペア3 ペア4 機能別使用回数領域別使用総数 NS1 NNS1 NS2 NNS2 NS3 NNS3 NS4 NNS4 合計 NS NNS 合計 NS NNS ね1 1 3 4 4 ね2 2 2 1 5 3 2 よ1 1 1 1 29 24 5 よね1 6 1 2 5 1 4 19 17 2 ね3 12 2 1 3 2 2 5 27 20 7 よね2 1 1 1 よ2 5 1 2 1 9 3 6 62 31 31 よ3 6 5 5 8 1 25 8 17 ね4 1 1 1 よね3 1 2 1 4 1 3 16 6 10 ね5 3 7 1 11 4 7 25

相互行為における接触場面の構築 まず, 三つの領域別にみると, 話し手領域に関わる機能の使用が最も多く,62 回使用され, その次が聞き手領域の 29 回, 中立領域の 16 回の順で使用されている. 領域ごとにみると, 聞き手領域の機能において, 母語話者は 24 回使用しているのに対し, 学習者は 5 回しか使用しておらず, 大きな差が見られた. 話し手領域の機能においては, 両方同じく 31 回使用している. 中立領域においては, 学習者のほうが多く使用しているが, それは NNS2 が一人で 7 回も使用したためであって, 全体の使用は少ない. 三つの領域のうち, 一番多く使用された話し手領域の機能について見てみよう. 初対面場面の会話において, 話し手領域の機能が多く使用されることは, 高 崔でも指摘している. ここで注目したいのは, 話し手領域において母語話者と学習者が多く使用する機能がまったく異なる点である. 母語話者は情報 意思受け入れ要求のね3を 20 回も使用し, 一番多く使用しているのに対し, 学習者は ( 結論としての ) 情報提示のよ3を 17 回も使用し, 一番多く使用している. ね3とよ3は文レベルにおいては, どちらも話し手領域に関わる機能であるが, 発話連鎖効力においては異なる. ね3は要求系の発話連鎖効力を持ち, よ3は表明系の発話連鎖効力を持つ. 即ち, 表 5 で示された結果から, 母語話者は要求系の発話連鎖効力を持つね3を好んで使用するのに対し, 学習者は表明系の発話連鎖効力を持つよ3を好んで使用することになる. また, 個人差はあるものの, 学習者は ( テーマとしての ) 情報提示のよ2も母語話者より多く使用しており, 母語話者と異なる使用傾向が見られた. 母語話者の使用においても興味深い点があり, 接触経験が浅く, 会話能力が劣る学習者のペア 4 の母語話者 NS4 は, 学習者と同じくよ3を多く使用している. 以上の話し手領域の機能の使用結果から見える母語話者と学習者の終助詞の使用については,5.2 でね3, よ3, よ2を取り上げ, 事例を基に分析 考察する. 5. 分析と考察 5.1 逸脱の事例分析 以下の事例 1 は, 学習者の NNS4 が よね を使用すべきところに ね を使用し, 文脈上不自然な印象を与える事例である. 本研究に掲載する会話データは, 分析対象となる終助詞を太字にし, その終助詞を含む発話に下線を引いて表示する. 事例 1 行 発話番号 話者 発話内容 236 229 NS4 甲府と埼玉は遠いですね. 237 230 NNS4 はー, そっか, じゃー, なるほど. 238 231 NNS4 でも, 先の, こうふん ( 甲府の発音の間違い ) がありますね?, こうふん, こうふん [ ]. 239 232 NS4 古墳?. 240 233 NNS4 うん. 241 234 NS4 は, 埼玉県にあります. 242 235 NNS4 ああ. 243 236-1 NS4 で, あの古墳, 先言った古墳, 古い, 墳,, 244 237 NNS4 墓 [ ]. 26

接触場面における終助詞 ね よ よね の機能分析 ( 崔 ) 245 236-2 NS4 墓, あれは古いお墓なんですよ. 246 238 NNS4 ああ. 247 239 NS4 もう何年前かな, 本当 2 千年ぐらい前の ( ああ ), 王様のお墓なんですよ. 事例 1 の NNS4 は日本に来たばかりで, 日本の地名についてあまり知識がない.NNS4 は日本に来て甲府に行ったことがあると話し, 事例 1 は甲府が話題になっている場面である.238 行目の NNS4 の発話に ね が用いられている. ところが, この発話における NNS4 の甲府の発音が こうふ ではなく こうふん になったため,NS4 は埼玉県の古墳を言っているのではないかと誤解し, その後からずっと古墳の話になってしまう. ここで 238 行目の NNS4 の発話に注目したい. この発話には でも, さきの といった談話標識が用いられ, その後 こうふん ( 甲府 ) がありますね となっている. 文脈から捉えると NNS4 はこの発話において 甲府という場所は確かにある ことを確認しようとしており, そこに ね が用いられている. ここで 甲府 は日本人である NS4 がより詳しい情報で, 聞き手領域の事柄である. 従来の文レベルの領域だけによる機能分類 ( 高 2011) だと, 聞き手領域の事柄について確認要求の機能として ね と よね を区別していなかった. しかし, 事例 1 の 238 行目の NNS4 の発話は, ね より よね のほうがより適切に感じる. やはり聞き手領域の確認要求の ね と よね は区別されるべきである. 本研究では領域の概念に発話連鎖効力を加えることで区別可能にした. まず,NNS4 の ね の使用が不自然に感じるのは, でも, 先の という談話標識との関係である. もし, ここで よね を使い, でも, 先の, こうふん ( 甲府 ) がありますよね であったら 7, 不自然さは無くなる. 本研究では聞き手領域に関わる よね は, 表明系の発話連鎖効力を持つ終助詞であるとし, 共有の表明のよね1とラベルづけしている. 同じ聞き手領域に関わる機能ではあるが, 確認要求のね1と, 共有の表明のよね1は, それぞれ持つ発話連鎖効力が異なる. 確認要求のね1は要求系の終助詞で, 命題内容に不確実性 疑問性を付与し, 聞き手に応答を求めることで, 後続する談話進行を協調的に展開する発話連鎖効力を持つ. それに対し, 共有の表明のよね1は, 表明系の終助詞で ( 先行発話を基に ) 命題内容に結論性を付与し, 談話進行に結束性をもたらす発話連鎖効力を持つ. つまり, 共有の表明のよね1は先行発話において, 自らが聞き手領域に対して認識したことが正しいかを確認するのに用いられる. 言い換えれば, ね1を使った確認より, よね1を使った確認のほうがより自然に感じる場合は, 一連の先行発話をベースした確認の場合である. 話し手はよね1を用いる時は, 先行発話の内容に投射しつつ, 自分の中でできつつある 結論の 確認 を行う時である. そして, このような 結論の 確認 は先行発話に対し, 一括りまとめることになり, 談話進行に対しても切れ目を入れることになる. 以上のような発話連鎖の特徴から, 本研究ではよね1は 確認要求 ではなく, 共有の表明 と捉え, 確認要求のね1と区別する. 事例 1 で NNS4 は でも, さきの といった談話標識を用いていることから,NNS4 は先行発話において, 自らが聞き手領域に対して共有した認識の確認を行おうとしていると捉えることができる. また, ここで共有の表明のよね1が適切であることは, その後の NS4 の発話から 27

相互行為における接触場面の構築 も読み取れる.NS4 の 241 行目で は, 埼玉県にあります. と返答を返してから,243 行目以降から で, あの古墳, 先言った古墳, 古い, 墳 墓, あれは古いお墓なんですよ. と, 古墳の説明をするといった新たな談話の展開を作っている. ここからも NNS4 が 238 行目の発話には, 談話進行に結束性をもたらす表明系の発話連鎖効力を持つ共有の表明のよね1が適切であったことを示している. 以上のように本研究では, 命題内容の事柄の領域と発話連鎖効力を統合した終助詞の機能分類を基に, 学習者の逸脱の分析を行った. 表 4 で示す通り,6 回の逸脱のうちには, 特に事例 1 のような ね と よね の区別ができず, 文脈上に不自然さを与える逸脱が多かった. ね と よね の逸脱に関しては, 従来の文レベルの機能分類ではその使い分け, 例えば, 事例 1 のような確認を行う発話において, なぜ ね は不自然で, よね だとより自然に感じるのかといった指摘が十分にできなかった. 本研究では発話連鎖効力の視点を取り入れることで, 文レベルで説明できない逸脱の説明が可能になった. 5.2 情報提供場面における ね と よ の使用ここでは, 情報提供場面の事例を挙げ, 話し手領域の機能の使用において, 母語話者に多く使用された情報 意思受け入れ要求のね3と, 学習者に多く使用された ( 結論としての ) 情報提示のよ3,( テーマとしての ) 情報提示のよ2を中心に, 母語話者と学習者を比較しながら, 接触場面における終助詞の働きを探っていく. 5.2.1 母語話者の情報 意思受け入れ要求のね 3 以下の事例 2 は, 母語話者が自分の進路について情報提供する場面で, 母語話者の発話には 情報 意思受け入れ要求のね 3 が使用されている. 事例 2 行 発話番号 話者 発話内容 155 138 NNS1 じゃ, 講師, 志望?. 156 139 NS1 そうですね, まだ決まってないんけど, 一応希望, なんか登録みたいのがあるんですけど, それをやって, みたいなところですね. 157 140 NNS1 じゃ, な, 何を教えるんですか?. 158 141 NS1 あっ, と, 専門は国語ですね, 国語. 159 142 NNS1 お. 160 143 NS1 難しいです, 教えるの, ははは. 161 144 NS1 NNS1 さんは, 修士が終わったら, 就職なんですか?. 事例 2 の NS1 と NNS1 はぞれぞれ学部 4 年生と, 修士 2 年生で, 二人とも卒業と修了を迎えている.NS1 の 156 行目の発話の 一応希望, なんか登録みたいのがあるんですけど, それをやって, みたいなところですね. と,158 行目の発話の あっ, と, 専門は国語ですね, 国語. に, ね3が用いられている. 28

接触場面における終助詞 ね よ よね の機能分析 ( 崔 ) 情報 意思受け入れ要求のね3が命題内容の事柄が話し手領域に関わるもので, 要求系の発話連鎖効力, 即ち命題内容に不確実性 疑問性を付与し, 聞き手の応答を求めて, 後続する談話進行を協調的に展開する機能がある. 156 行目の発話の命題内容の事柄は 講師になるための登録を行った ことで,158 行目の発話の命題内容の事柄は 専門は国語である ことで, いずれも話し手領域の事柄である. ここで,NS1 の 156 行目の発話に注目すると, それをやって, みたいなところですね. と みたいな が用いられている. みたいな は, 話し手が断定をせず, 不確実さを表す助動詞である. 話し手の自分自身に関する情報提供にも関わらず, みたいな とともに用いられるね 3は, 命題内容に不確実性 疑問性を付与していると考えられる. また, ね3の直後の NNS1 の 157 行目の発話は じゃ, な, 何を教えるんですか?. といった質問が来ている. つまり, NS1 はね3を用いることで, 聞き手の応答の発話を求め, 聞き手にも相互行為に参加できるように機会の場を提供している. このように一方的な情報提供ではなく, 聞き手とともに, 協調的に談話を展開しようとするために, ね3がよく用いられている. このようなね3は, 発話緩和の効果 ( 宇佐美 1997) を生み出し, 円滑なコミュニケーションを行う機能があるとされているが, 本研究で指摘するね3が持つ要求系の発話連鎖効力と通じる部分である. また, 共話 ( 水谷 1993) の特徴を持つとされる日本語は, 初対面場面のように配慮が必要な場面において, 話し手は自らに関する情報を一方的に進めるのではなく, 聞き手とより協調的に進めることが好まれると言える. 発話連鎖の視点で終助詞の機能を捉えた際に, 母語話者において要求系の発話連鎖効力を持つね3が最も多く使用されたのも, こういった共話の特徴を持つ日本語の会話スタイルに由来する部分が大きいと考えられる. 5.2.2 学習者の ( 結論としての ) 情報提示のよ 3 以下の事例 3 では, 学習者が自分の国について情報提供する場面で,( 結論としての ) 情報提 示のよ 3 が複数回使用されている. 事例 3 行 発話番号 話者 発話内容 もちろん頑張れば, あの, うまくいけるっていう, あの, 資本主義 [ ], あの, 民主化されて一番いいところはそうですね, 社会主義 の時は, 皆頑張っても頑張らなくても, 平等だったので, ある意味 ではいいところもあるんですけれども, 平等というのはもちろん, 12 10 NNS2 そうですね ( うん ), うーん, 今でなると, 例えば私たち頑張って社会主義の時勉強してても, 一番優秀だって, だったとしても, 例え ば私は普通の [ ], あの 人 [ ], 私の母親とか, 父親は, 医者, お 医者さんだったり, 先生だったりしないので, そういう時は, 社会 主義のよくないところは, 私優秀して, 優秀でも, あのー, 中学卒 業したら, なんか成績レベルでならべるんですよ. 13 11 NS2 うんうんうん. 14 12 NNS2 一番, 一, 二, 三番に並んでいても, じゃ一番いい学校に行けそう 29

相互行為における接触場面の構築 って言って入ったら, ああ, 例えば私あのー中学卒業して, ヨーロッパ [ ], ヨーロッパのほうで留学するそういう学校もあったので, じゃ私三番目なので, ぜひ外国行きたい, そのヨーロッパの学校に行きたい, あれだめ, 文部省からもう指定されていますよ ( おお ), と言っても三番目の私行けなくても 17 番目の行っちゃうんですよ. 15 13 NS2 なんでなんで? 平等じゃなくない?. 16 14 NNS2 そうです, そういう意味では, 見る目でもちろん平等のようなんですけど, その行ってる子は, なんというか先生 [ ] 学校の先生の子供だったんですよ. 17 15 NS2 ああ, 有力者の子供ってこと. 18 16 NNS2 そうですね. 19 17-1 NS2 じゃ社会主義の中にも, よく,, 20 18 NNS2 よくある, それは本当によくありますよ. 21 17-2 NS2 よく言われるけど, 本当にあるんだね. 22 19-1 NNS2 はい, ある意味で, だから私普通の学校に入っ, 普通のあのー, こ, モンゴルの国内の学校に入って, 卒業してるんですけど, それで, 民主化されたら, あの, 私立大学ができた, ヨーロッパで入って, 本当に大学卒業して, 頑張っていけばいくほど, もちろん,, 23 20 NS2 ああ, そうかそうか ###. 24 19-2 NNS2 価値があるので, 頑張った価値が見えてくるので, もしかしたらそのまま社会主義だったらもう私, 普通の生活, というか, あのー, そうですね. 25 21 NS2 < なるほど >{<}. 26 22 NNS2 < 日本にも >{>}< 来られないと思いますよ >{<}. 27 23 NS2 <NNS2 のお子さんは >{>}, 上のお子さんはモンゴルに,15 歳ぐらいまでいたっていうことでしょう?. 事例 3 で NNS2 は母国のモンゴルが社会主義だった時代のことを述べている. 当時, 高校生だった NNS2 は成績が優秀だったにも関わらず,NNS2 より成績は良くないが, 良い社会背景を持つ同級生が留学のチャンスを得たと話している.NNS4 の情報提供の発話は長く続いている. よ3が使用された発話を挙げると,12 行目の 私優秀して, 優秀でも, あのー, 中学卒業したら, なんか成績レベルでならべるんですよ,14 行目の 三番目の私行けなくても 17 番目の行っちゃうんですよ.,16 行目の なんというか先生 [ ] 学校の先生の子供だったんですよ.,20 行目の よくある, それは本当によくありますよ.,26 行目の < 日本にも >{>}< 来られないと思いますよ >{<}. となり,5 回使用されている. ( 結論としての ) 情報提示のよ3は命題内容の事柄が話し手領域に関わるもので, 表明系の発話連鎖効力, 即ち, 命題内容に結論性を付与し, 談話進行に結束性をもたらす機能がある. 30

接触場面における終助詞 ね よ よね の機能分析 ( 崔 ) 事例 3 で NNS1 のよ3が使用された発話をみると, 一連の長い情報提供の発話を, 少しずつ区切って, 結論付けて, 聞き手に受け入れさせている. よ3の直後で聞き手の NS2 は,13 行目 うんうんうん.,17 行目 ああ, 有力者の子供ってこと.,21 行目 よく言われるけど, 本当にあるんだね. と,NNS2 の情報提供を受けるのみである.NS2 の発話の後,NNS2 は再び情報提供を再開しており, 最後の 26 行目の < 日本にも >{>}< 来られないと思いますよ >{<} という情報提供の発話を持って, 一連の情報提供を終結している. ここで, 前節で分析した事例 2 における NS1 が用いるね3と比較をしてみよう. 同じ話し手領域に関わる情報提供であっても, 事例 3 でよ3を用いる NNS2 の情報提供と, 事例 2 でね3 を用いる NS1 の情報提供は, 聞き手に対する働きかけが大きく異なる. その違いは, よ3を用いる時と, ね3を用いる時の, 談話上における発話連鎖効力が異なるためである. では, 学習者はなぜ表明系の発話連鎖効力を持つよ3を多く使用しているのか. 事例 3 のよ 3が用いられる 12 行目の NNS2 の発話に注目したい.12 行目における NNS2 の発話は, まずは あの 人 [ ], 私の母親とか, 父親は, 医者, お医者さんだったり, 先生だったりしないので と自分の両親の職業について話している. その後は そういう時は, 社会主義のよくないところは, 私優秀して, 優秀でも, と社会主義の良くない面について話している. 更にその後は あのー, 中学卒業したら, なんか成績レベルでならべるんですよ. と成績の付け方について話している. つまり,NNS2 の一連の発話はよくまとまっておらず,NNS2 が情報提供の発話を産出にするに当たり, いろいろ調整を試みながら行っていることが推測される. このように発話の産出がうまくいかない時に,NNS2 はよ3を使用していることが, ここで確認できる. ここでは, よ3の表明型の発話連鎖効力を利用し, 取りあえず自分の情報提供の発話をいったんまとめることで結論づけ,NS2 に受け入れさせてから, 次の展開に持っていこうとしていたのではないだろうか. 実際 13 行目の NS2 の うんうんうん の反応を受け,14 行目で NNS2 は 一番, 一, 二, 三番に並んでいても と情報提供を再開していることが見られる. 前述の事例 2 を通して, 母語話者の場合は情報提供の場面において, 要求系の発話連鎖効力を持つね3を多く使用することを述べた. 学習者の場合は, 表明系の発話連鎖効力を持つね3 を多く使用していることから, 母語話者の使用と異なる傾向がみられた. このような違いを発話連鎖の視点で捉えると, 母語話者と学習者は談話進行における志向性がそれぞれ異なることが示唆される. つまり, 母語話者は要求系の発話連鎖効力による談話進行を志向し, 学習者は表明系の発話連鎖効力による談話進行を志向すると考えられる. こうして生まれた学習者の よ の過剰使用の現象は一概に逸脱と処理すべきではなく, 談話進行における学習者独自の用法として捉えるべきではないだろうか. 5.2.3 母語話者の ( 結論としての ) 情報提示のよ3 接触場面の情報提供場面において,( 結論としての ) 情報提供のよ3の機能は, 学習者にだけではなく, 母語話者にも頻繁に使用されるケースがあり, 興味深い. 以下の事例 4 は, 母語話者が出身地の古墳について情報提供する場面で,( 結論としての ) 情報提示のよ3が複数回使用されている. 事例 4 は事例 1 の会話データの続きである. 31

相互行為における接触場面の構築 事例 4 行 発話番号 話者 発話内容 243 236-1 NS4 で, あの古墳, 先言った古墳, 古い, 墳,, 244 237 NNS4 墓 [ ]. 245 236-2 NS4 墓, あれは古いお墓なんですよ. 246 238 NNS4 ああ. 247 239 NS4 もう何年前かな, 本当 2 千年ぐらい前の ( ああ ), 王様のお墓なんですよ. 248 240 NNS4 ほー. 249 241-1 NS4 小学校の頃, い, 行かされて, 僕,, 250 242 NNS4 ああ. 251 241-2 NS4 でも, 全然おもしろくなくて. 252 243 NNS4 < 笑い >. 253 244-1 NS4 で, 古墳って, なんか, 公園みたいなところに,, 254 245 NNS4 うん. 255 244-2 NS4 なんか, 土がこう掘ってあるだけなんですよ. 256 246 NNS4 はい. 257 247 NS4 画像あります, みます? 古墳の画像, 全然おもしろくないですよ. 258 248 NNS4 < 笑い >. 259 249 NS4 僕, 小学校の時連れて行かれたんですけど, 友達と, ずっとおにごっこしました. 260 250 NS4 ( スマートフォンで動画を探す ) ああ, これです. 事例 4 で NS4 は 243 行目から埼玉の古墳について一連の説明を行っている.NS4 の発話の 245 行目の 墓, あれは古いお墓なんですよ,247 行目の 王様のお墓なんですよ,255 行目の なんか, 土がこう掘ってあるだけなんですよ,257 行目の 古墳の画像, 全然おもしろくないですよ に使われる よ は,( 結論としての ) 情報提示のよ3に当たる.NS4 はこれらの発話を よ で終わるとともに, はっきりとした間を作る特徴があった. そのため, よ で終わる直後には NNS4 のあいづち的発話である 246 行目の ああ,248 行目の ほー, 255 行目の はい,258 行目の 笑い が見られ,NS4 の発話を受けている. このように NNS4 は情報提供を行うに当たり, よ3を用い, 自分の情報提供を少しずつまとめながら, 結論性を付与することで, より明確に聞き手に伝達しようとしている. 前述の事例 3 では, 学習者の NNS2 が情報提供をするに当たり, 説明がうまくまとまらず, 発話の産出に困難を感じた時に, 言いかけた発話を取りあえずまとめて結論づけるのに, よ3 が使用されたことを指摘した. 言い換えれば, 学習者の NNS2 は自らの言語能力を補うために, 談話を少しずつ区切って, まとめながら進めることに表明系のよ3を用いたと捉えることができる. そうすると, 事例 4 において母語話者の NS4 は, 滞在歴が短く, まだ接触場面の会話に慣れていない学習者 NNS4 に対し, 学習者の言語能力を補うために, 表明系のよ3を頻繁に用 32

接触場面における終助詞 ね よ よね の機能分析 ( 崔 ) いたと捉えることはできないだろうか. つまり,NS4 がよ 3 を多用する現象は, 接触場面にお いて相手の学習者の言語能力を考慮した母語話者の調整行動の結果である可能性が示唆される. 5.2.4 学習者の ( テーマとしての ) 情報提示のよ2 接触場面の情報提供場面において, 学習者は ( 結論としての ) 情報提示のよ3を頻繁に使用する点においては共通するが,( テーマとしての ) 情報提示のよ2の使用は個人差が大きかった. 今回の調査はデータの数が限られ,NNS1 の一人のみ,( テーマとしての ) 情報提示のよ2を使用する場面が確認された. 以下事例 5 は, 学習者が母語話者の研究内容について持つイメージを述べる場面である. 事例 5 行 発話番号 話者 発話内容 55 50 NS1 そうですね, えっと 具体的には, その, 翻訳, 有名な作品だとたくさん翻訳が出てるんですけど, まあ, 明治ぐらい初めから, 明治, 昭和, 昭和の初めごろと, 昭和の終わりごろと, あともっと最近のやつとか, たくさん何種類も出てるので, その, まあ, 比べて, まあ, 翻訳の文章もいろいろ変わってきているので, そういうところの特徴を, まとめられたらいいなぁーと思ったんですけれども, ふふふ, なかなか. 56 51 NNS1 えーじゃ, 例えばの ( はい ) 話ですよ. 57 NNS1 例えば, 少し間 今急に思い出せないんですけど, 例えば マクベス があったとして, それを明治の時に訳した日本語バージョンと, しょ, 昭和とか戦後に訳した日本語バージョンと, 現代 日本語訳 [ ], 的なものも比べて, その中で日本語がどういうふうに変わって, どういった特徴があるのかみたいな [ ]?. 58 52 NS1 はい, そうです, まさにそんな, 感じです. 59 53 NNS1 ああ. 事例 5 で,NNS1 は 56 行目の えーじゃ, 例えばの ( はい ) 話ですよ という発話に,( テーマとしての ) 情報提示のよ2を用いている. このよ2は提示系の発話連鎖効力を持ち, 命題内容にテーマ性を付与し, 後続する談話進行を一方的に展開する機能を持つ.56 行目で NNS1 はよ2 を用いることで, これから自分が展開する話は 例えばの話である といったテーマ性を与え, その 例えばの話 をテーマに, 引き続き 57 行目から, 一連の 例えばの話 を展開している. このように,( テーマとしての ) 情報提示のよ2の発話連鎖効力は, これから自分が提示する後続発話に直接機能している.( 結論としての ) 情報提示のよ3のように, 聞き手に受け入れさせることで, 談話進行をいったん区切ってから, 再度展開する様子はまったくない. 以上のような提示系のよ2と, 表明系のよ3の発話連鎖効力の違いを基に, 学習者に使用されるよ2とよ3を比較すると, よ2はこれから自分が産出する後続発話に機能するのに対し, よ3は既に産出された現在の発話をまとめて, 終結するのに機能すると捉えることができる.4 ペアの学習者のうち,NNS1 のみによ2の使用が見られたことは, よ2の機能は, よ3の機能 33

相互行為における接触場面の構築 に比べて, 習得が難しい可能性が予想される. つまり, 学習者にとっては, これから産出する一連の発話のための, 前置きの発話に用いられるよ2の機能より, 現在の一連の発話をまとめて, 結論づける発話に用いられるよ3の機能のほうが, より簡単に習得でき, 好んで使用していることが伺える. 一方で, 事例 5 の NNS1 の 例えばの話 の展開に, わざわざよ2を用いる用法は, 母語話者にはあまり見られない稀な用法とも言えよう.NNS1 は話し手としての発話権を維持し, 引き続き談話展開を図ることにおいて, 提示系の発話連鎖効力を持つよ2を活用したのではないだろうか. このように捉えると,NNS1 のよ2の使用も学習者が談話を進めていくうえで, 用いる独自な終助詞の用法かもしれない. 6. おわりに 本研究では接触場面における終助詞 ね よ よね を取り上げ, 多様な国籍の学習者の接触場面の会話データを基に, 分析を行った. 崔 (2015c) による談話上における機能分類と, 本研究で新たにまとめた発話連鎖効力の機能を分析の枠組みとし, 接触場面における終助詞の使用実態を量的に示すことができた. 更に, 接触場面における終助詞の働きを考察するために, 新しい試案として発話連鎖の視点から, 母語話者と学習者が使用する ね と よ を比較しながら, 接触場面における終助詞の 独自な用法 としてその働きを分析した. 分析の結果, 母語話者は要求系の終助詞を頻繁に使用するのに対し, 学習者は表明系の終助詞を頻繁に使用することが判明し, そこから母語話者と学習者はそれぞれ発話連鎖において志向するものが異なる可能性が示唆された. 今回は従来の文レベルによって判断された学習者の逸脱の問題を, 発話連鎖の視点を取り入れることで, 逸脱をより長い発話連鎖 談話レベルで捉え直す必要性を指摘したうえ, 学習者の よ の過剰使用に焦点を当て, 分析を試みた. 今後は分析の対象を広げ, 学習者の過少使用の問題や機能選択の逸脱にも注目し, これらの問題が実際の発話連鎖にどのような影響を与え, それによりどのような相互行為が構成されるかを追求することで, 接触場面における終助詞の働きを広く捉えていきたい. 今後も引き続きデータの数を増やし, 本研究で示唆されたことを検証していきたい. 文字化の記号凡例. 一発話文の終わりに付ける.? 疑問文につける. 疑問文が一発話文となった時には?. と付ける.,, 現在の発話が終わっていないことをマークし, 改行するときに付ける. ( ) 聞き手のあいづち的発話が発話文の途中に入った時はすべて, 聞き手の発話を ( ) で括る. 笑い 笑いや, 笑いを含んだ発話文の後ろに付ける. 少し間 話のテンポの流れで少し間を感じる場所に付ける. < >{<},< >{>} 発話が重なったところを, くくる. 34

接触場面における終助詞 ね よ よね の機能分析 ( 崔 ) 参考文献 陳常好 (1987). 終助詞 話し手と聞き手の認識のギャップをうめるための文接辞日本語学 6(10) pp.93-109 明治書院張鈞竹 (2005). 台湾人日本語学習者の終助詞 ね の使用 コミュニケーション機能を中心に 言語情報学研究報告 6 pp.281-299 東京外国語大学神尾昭雄 (1990). 情報のなわ張り理論 言語の機能的分析 大修館書店何桂花 (2008). 日本語教育における終助詞 ね の習得の特徴 インタビュ形式の会話における中国語を母語とする学習者を中心に日本語 日本文化研究 (18) pp.117-126 大阪大学日本語 日本文化研究編集委員会高民定 (2008). 接触場面における終助詞の言語管理 非母語話者の終助詞 ね と よ の使用を中心に言語生成と言語管理の学際的研究 接触場面の言語管理研究 Vol.6 人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 198 pp.97-112. 高民定 (2011). 日本語学習者の よ ね よね について 日本語初級 中級教科書の機能分析を中心に国際教育 (4) pp.11-23 千葉大学国際教育センター高民定 崔英才 (2015). 日本語学習者の終助詞 よ ね よね の使用と習得問題 国内と海外における接触場面の会話データの分析から 한국언어연구학회언어학연구 pp.83-305 鈴木睦 (1997). 日本語教育における丁寧体世界と普通体世界視点と言語行動くろしお出版ナズキアン富美子 (2005). 終助詞 よ ね と日本語教育言語教育の新展開 牧野成一教授古稀記念論集 pp.167-180 ひつじ書房. 西阪仰編訳 (2010). 会話分析基本論集世界思想社益岡隆志 (1991). モダリティの文法くろしお出版水谷信子 (1993). 共話 から 対話 へ日本語学 12 巻 4 号 pp.4-10 明治書院野田春美 (2006). 日本語 日本語教育を研究する第 30 回 : 日本語の終助詞について考えるために大切なこと日本語教育通信 56 国際交流基金日本語グループ大曽美恵子 (1986). 誤用分析 1 今日はいい天気ですねはい そうです 日本語学 5(9) pp.91-94 大曽美恵子 (2005). 終助詞 よ ね よね 再考 雑談コーパスに基づく考察 言語教育の展開 pp. 2-15 ひつじ書房崔英才 (2015c). 終助詞 ね よ よね の談話上における機能分析 コーパス データの母語場面の会話を中心に 千葉大学人文社会科学研究 31 pp.94-115 西郷英樹 (2012). 終助詞 ね よ よね の発話連鎖効力に関する 考察 : 談話完成タスク結果を基に関西外国語大学留学生別科日本語教育論集 22 pp.97-118 宇佐美まゆみ (1997). ね コミュニケーション機能とディスコース ポライトネス女性のことば 職場編 pp.241-268 ひつじ書房宇佐美まゆみ (2011). 基本的な文字化の原則 (Basic Transcription System for Japanese:BTSJ) URL:http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/usamiken/btsj.htm 柴原智代 (2002) ね の習得 2000/2001 長期研修 OPI データ分析 国際交流基金日本語 35

相互行為における接触場面の構築 ナズキアン富美子 (2005). 終助詞 よ ね と日本語教育言語教育の新展開 牧野成一教授古稀記念論集 pp.167-180 ひつじ書房楊虹 (2008a). 中日接触場面の初対面会話における ね の分析 共感構築の観点から 東京成徳大学人文学部研究紀要 15 pp.36 1 崔 (2015c:112) の表 2 の機能の並べ順を変えた. 2 それぞれの機能には通し番号を付け, 分かりやすく示した. 3 要求 は後続発話を導く連鎖効果の強弱により 要求 と 受け入れ要求 に更に分類される( 崔 2015c). 4 2015 年日本語教育学会秋大会で指摘されたコメントを基に, 分析の枠組みとなる発話連鎖効力に対し, 新たに記述を行い, 表 2 としてまとめた. 5 本研究では高 崔 (2015) による日本語学習者の逸脱の捉え方と逸脱のタイプ分類を参考にする. したがって, 誤用 ではなく, 逸脱 という用語を用いた. 6 このような過少使用について高 崔 (2015) では不使用による逸脱とし, 逸脱として扱っていた. 本研究では実際に使用された終助詞のみ分析対象にし, このような不使用による逸脱の問題は, 今後の課題にする. 7 格助詞 が の間違いは本研究では扱わない. 36