プログラム 8 植物の不思議な生き残り術 ツツジを取り上げ 植物の不思議な生き残りの仕組みを観察研究します ねらい 植物の仕組みを学ぶと共に 植物や自然に対する興味関心を育む 植物の形や色 模様などは子孫を残していくための工夫であることを知る 皇族が自然を愛し 自然を守り また研究していた事を 体験を通して知る プログラムの概要 所要時間 導入 15 分 本体 40 分 まとめ 15 分 場所 屋外 ( 導入 まとめのみ屋内での実施可 ) 季節 5 月 ( ツツジが見られる季節のみ ) 人数 個人 団体 年齢 幼児 ~ 小学校低学年 小学校中学年 ~ 高学年 中学生 用意する備品 ツツジ観察記録シート スミレとその種の写真 カエデの種の写真 98
進め方導入 : 1) 植物は動物と違い その場から動くことができない そのため生きていくために様々な工夫をしていることを 人間と比較しながら考える 例えば冬の過ごし方について考えてみましょう 人間は寒い時どうするでしょう? ( 解答例 : 服を着る 体を動かす 暖房をつけるなど ) では 植物はどうするでしょう? 冬の植物はどうなっているか思い出してみましょう ( 葉を落とす 動物でいう冬眠 光合成 ( 栄養をとること ) をやめて眠る ) ( 地表にぺったりはりつく 冷たい風の当たる面をなるべく小さくしている ) では 栄養をとるためにはどうするでしょう? 人間はどうやって栄養をとりますか? ( 解答 : 食べる 食物を育てる 買い物に行く ) では 植物はどうするでしょう? 動けない植物はどうやって栄養を取るのでしょう? ( 光合成をして 栄養を自ら作り出す ) ( 根を伸ばして 土中の栄養をとる ) 2) 植物も人間も生き残るためには 子孫を残す必要があり そのために植物の場合は受粉 が必要であることを説明する 今回のプログラムでは ツツジの観察を通してその工夫に ついて学ぶことを伝える ポイント 発言しやすいように声かけをする なるべく頭をやわらかくして考えてもらう 本体 1) ツツジ観察記録シートを配布し ツツジを観察してワークシートに書き込むことを説明する ワークシートには スケッチと観察して気づいた事を記入する ( 花の色 花の形 模様 雌しべ 雄しべ 蜜 葉の形 茎など ) 2) 観察が終わったら集合し 気づいた事を発表してもらう ワークシートの上から順に それぞれ以下の 2 点について問いかける どんな特徴がありましたか? 気づいたことは何ですか? 授粉するための工夫が隠れていますが 何だと思いますか? 3) 子孫を残す ( 授粉する ) ために 色や形を工夫して昆虫を呼び寄せるなどの戦略を説明し 動けない植物ならではの工夫を伝える 99
植物の工夫 花びらの模様ツツジ類の花に共通した特徴の一つに 花びらの模様がある 5つに切れ込んだ内の1 枚に特に目立つ斑点がついている この模様は 蜜標と呼ばれ 虫に蜜のありかを教える目印だと考えられている 雄しべ 雌しべラッパ状の花弁の手前に突き出たおしべ さらに突き出ためしべ この形は チョウが花粉を運ぶのに適した形である 花粉のついた虫が他の花を訪れると 真っ先に いちばん突き出ためしべに触れ 受粉が行われる また めしべの先端には 受粉可能な時期になると 粘液が出て 虫の体についた花粉を 効率よく回収する 花粉なるべく多く昆虫の体にくっつけ 運んでもらうために 花粉には長い糸状のものがついている この糸で花粉は長くつながっており 花に来た昆虫に花粉を絡みつかせている ポイント 事前にツツジが咲いているか どの種類のツツジが咲いているか確認する ( 那須の森の拠点施設周辺に生息するツツジ : トウゴクミツバツツジ ヤマツツジ レンゲツツジ ) スケッチは上手く書こうとして 時間をかけすぎないように声かけをする スケッチよりも 観察をして気づいた事をできるだけ書き出してもらう まとめ 1) 植物は様々な形や色をしており それぞれが特性を持っている そして生き残るための様々な工夫があり その不思議さ おもしろさを 観察を通して感じられたことを確認する また このように形や色 生態に多様性があることで 自然災害が起きても全滅することなく生き延びることができたり 他の植物に負けずに上手く生き延びたりする事を説明する 100
他の植物例 スミレ種には エライオソームと言う アリが好む小さな おまけ が付いている アリたちは喜んで種を運び 種子は 広く散布する スミレの花の特徴として 距 ( きょ ) と言う特殊な構造がある これは花の後ろに突き出たポケットで この中に蜜腺がある 距の中に口先が届く虫でないと 蜜が手に入らず 蜜を吸える昆虫を選んでいる カエデ 種がプロペラ型をしていて 風を利用して遠くに種子を運んでいる 2) 皇族の方々も那須の自然を愛し 研究し また自然を守っていたことを話し 貴重な植物 なども残っている自然豊かな森であることを伝えてまとめる 101
実施のポイント その場から動くことのできない植物の生き残るための工夫や生態を知ることによって 植物 の不思議さや面白さを感じてもらう 発展 応用 ツツジ以外の植物を取り上げる ( スミレ ラン カエデ等 ) 安全への視点 予めフィールドの下見をし 危険な生物 ( ハチ ヘビなど ) がいないか 足場が悪くないかを確 認する 102
参考 ワークシート回答例 ツツジ観察記録シート 観察した植物 : 氏名 : スケッチ 部位 観察記録 ( 特徴 気づいたこと ) 花 形 直径 4 センチ 5 つに切れ込み ラッパ型の花びら 色 模様 朱色 5 枚の花びらの内 1 枚に 斑点がついている 花の中心 雄しべ 雌しべ 雄しべ 5 本 雌しべ 1 本 花びら から突き出している 雄しべに白 く 繋がった花粉が付いている 蜜のある 場所 花の根元 その他 103
那須の森の拠点施設周辺に生息するツツジ トウゴクミツバツツジ ヤマツツジ レンゲツツジ 文献 花と昆虫 不思議なだましあい発見記 (2001) 田中肇 株式会社講談社 P.18~22,155,193 104
5-4. その他のプログラム展開案今回の8つの自然体験プログラムは 仮称 那須の森 の自然の 里山 生物多様性 自然生態系 をテーマとし 作成した この 8 つでは 季節や対象が限られるため 仮称 那須の森 の特徴的を伝える事が十分でない 今後 仮称 那須の森 を活用しながら 利用者に応じたプログラム開発が必要である そのための プログラム展開案を以下にまとめる (1) 森の分解者ねらい : 土に触れ 分解者の存在を知る 土の中で行なわれる 有機物( 落ち葉や死骸 ) の循環 ( 分解者がを分解することで 再び植物が育つための栄養が作られる ) について学ぶすすめ方 : 1 落ち葉が積もっているところ 土がむき出しになっているところなど 見た目に違う土を数カ所選んで シャベルで地面を掘る 2 落ち葉が徐々に細かくなり 土になっていく様子 植物の根 アリの巣 ミミズなど 土の断面を観察する 3 掘った土を新聞紙の上でふるいにかけ 小さなかけらや虫を見つけたら虫めがねで観察する 4 場所によって土の違いを観察する (2) 森の手入れをするということねらい : 里山管理の意味 重要性を知る ( 人の手によって維持されてきた自然の姿もあることを知る ) すすめ方 : 1 間伐 落ち葉掻きなど人が手を入れた林と入れてない林を見比べ 違いを見つける 2 人による森の手入れの意味を考える ( 例 : 間伐 = 下層に光が入る 下層植生が豊かになる 昆虫などが増える 生物多様性が高まる ) 7. ササ茶会の発展となる 105
(3) 植物の光争奪競争ねらい : 植物の戦略として 光を求めて生きる様々な戦略を知る すすめ方 : 1 森の中で真上を見上げ 光をたくさん受けるための葉っぱの工夫 ( 重ならないように枝を広げる ) を見る 2 ツル植物 ( 他の植物の幹に巻き付いて素早く伸び 上で葉を広げて 最後にはもとの木を枯らし 栄養分を奪う ) や ヤドリギ ( 他の植物に寄生し そこから栄養を奪うが 宿主を殺さない程度に共に生きる ) の特異な戦略を観察する 8. 植物博士になろうの発展となる (4) 動物の気持ちになってみようねらい : 野生生物の生態を想像し 動物のくらしを知る すすめ方 : 1 森の中で真上を 2 雪の上を散策し 動物のフィールドサイン ( 足跡 フン 爪あと 食跡 巣など ) を探す 普段 森の中でなかなか見ることができない動物のフィールドサインから 動物がどんな行動をしたのか想像する 冬の雪のあるシーズンのみでの実施となる 106