糖尿病性腎症に合併したネフローゼ症候群の治療

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日本内科学会雑誌第99巻第9号

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第1 総 括 的 事 項

目次 1. 目的 2 2. 人工透析患者の年齢等の分析 3 性別 被保険者 被扶養者 3. 人工透析患者の傷病等の分析 8 腎臓病 併存傷病 平成 23 年度新規導入患者 4. 人工透析 健診結果 医療費の地域分析 13 二次医療圏別 1

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わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

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複製 転載禁止 The Japan Diabetes Society, 2016 糖尿病診療ガイドライン 2016 CQ ステートメント 推奨グレード一覧 1. 糖尿病診断の指針 CQ なし 2. 糖尿病治療の目標と指針 CQ なし 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士に

2 CKD 1. 不適当な食事 2. 感染症 : 尿路感染, 肺炎, 敗血症など 3. 急激な循環状態の変動 : 高血圧, 低血圧 4. 水 電解質異常 : 脱水, 溢水, アシドーシス 5. 尿路疾患 : 尿路結石 狭窄 感染 6. 腎毒性薬剤 : 造影剤, 抗生物質,NSAIDs 7. 手術およ

デベルザ錠20mg 適正使用のお願い

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標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

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E. 腎 尿路疾患 a. 急性 慢性糸球体腎炎 1 急性糸球体腎炎 病因 病態 急性腎不全は A 群 β 溶連金感染によるものが多い 感染後溶連菌が抗体となり免疫反応が惹起される 溶連菌に対して生産された抗体が抗原と結合し抗原抗体複合物を形成する 抗原抗体複合物は腎臓の糸球体に沈着して補体を活性化し

障害程度等級表 級別じん臓機能障害 1 級 じん臓の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの 2 級 3 級 じん臓の機能の障害により家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの 4 級 じん臓の機能の障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

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尿試験紙を用いたアルブミン・クレアチニン検査の有用性

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エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2013 CQ とステートメント 推奨グレードのまとめ 1 CKD の診断と意義 CQ 1 CKD は末期腎不全の危険因子か? GFR の低下 (40~69 歳で 50 ml/ 分 /1.73 m 2 未満,70~79 歳で 40 ml/ 分 /1.73

小児におけるCKD活動

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

メディカルスタッフのための腎臓病学2版

第 2 回健康塾平成 31 年 1 月 26 日土曜日鹿児島厚生連病院 1 階多目的ホール 慢性腎臓病 (CKD) 対策 気にしたことはありますか? あなたの腎臓 鹿児島厚生連病院腎臓内科部医長 屋万栄

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ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

糖尿病の薬物療法としては, インスリン療法と経口糖尿病薬 ( 他の箇所との語句の統一が適当と考えられます 経口糖尿病薬 経口血糖降下薬 回答 : 上記のご指摘の点に関しまして修正と語句の統一をさせて頂きました P.12 解説 10 行目 : グリクラジド MR 薬を基本として グリクラジド MR 薬

(別紙様式1)

Microsoft Word 高尿酸血症痛風の治療ガイドライン第3版主な変更点_最終

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日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

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第三問 : 次の認知症に関する基礎知識について正しいものには を 間違っているものには を ( ) 内に記入してください 1( ) インスリン以外にも血糖値を下げるホルモンはいくつもある インスリンが血糖値を下げる唯一のホルモンです 2( ) ホルモンは ppm( 百万分の一 ) など微量で作用する

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

15 検査 尿検査 画像診断などの腎障害マーカーの異常が3ヶ月以上持続する状態を指すこととしている その病期分類方法は成人と小児では若干異なり 成人では糖尿病性腎障害が多い事からこれによる CKD 患者ではアルブミン尿を用い その他の疾患では蛋白尿を用いてそのリスク分類をしている これに対し小児では

1. 趣旨 目的 香川県糖尿病性腎症等重症化予防プログラム 香川県医師会香川県糖尿病対策推進会議香川県国民健康保険団体連合会香川県 本県では 糖尿病患者の人口割合が全国上位にあり 糖尿病対策が喫緊 の課題となっている 糖尿病は放置すると網膜症や腎症 歯周病などの合 併症を引き起こし 患者の QOL

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第43号(2013.5)

第 Ⅰ 部 総論 11 第 Ⅰ 部 総論

2006 PKDFCJ

第三問 : 次の認知症に関する基礎知識について正しいものには を 間違っているものには を ( ) 内に記入してください 1( ) インスリン以外にも血糖値を下げるホルモンはいくつもある 2( ) ホルモンは ppm( 百万分の一 ) など微量で作用する 3( ) ホルモンによる作用を内分泌と呼ぶ

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(2) 健康成人の血漿中濃度 ( 反復経口投与 ) 9) 健康成人男子にスイニー 200mgを1 日 2 回 ( 朝夕食直前 ) 7 日間反復経口投与したとき 血漿中アナグリプチン濃度は投与 2 日目には定常状態に達した 投与 7 日目における C max 及びAUC 0-72hの累積係数はそれぞれ

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福井県糖尿病性腎症重症化予防プログラム福井県医師会福井県糖尿病対策推進会議福井県 1 趣旨 目的本プログラムは福井県医師会 福井県糖尿病対策推進会議および福井県の三者で策定し 県内の医療保険者 ( 以下 保険者 という ) が医療機関と連携して糖尿病性腎症等の重症化予防の対策が容易となるよう基本的な

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

3 章 透析まで行かせないためにどうする 2 CKD と高尿酸血症 尿酸をどうコントロールする 高尿酸血症の分類を以下に示します 平和伸仁 まとめ & ス アドバイ 尿酸産生過剰型 尿酸排泄低下型 上記 2 つの混合型 腎機能の低下とともに尿酸排泄が低下して高尿酸血症の頻度は高まる 腎機能が低下する

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3 スライディングスケール法とアルゴリズム法 ( 皮下注射 ) 3-1. はじめに 入院患者の血糖コントロール手順 ( 図 3 1) 入院患者の血糖コントロール手順 DST ラウンドへの依頼 : 各病棟にある AsamaDST ラウンドマニュアルを参照 入院時に高血糖を示す患者に対して 従来はスライ

14栄養・食事アセスメント(2)

開始基準 比較的ゆっくり進行する慢性腎不全では ある程度の導入基準に関してコンセンサスが得られている 1) 慢性腎不全の透析導入基準は厚生省の基準が指標となる 1) あまりにも高度の末期腎不全まで保存的な治療を試みると尿毒症の合併症が併発しやすくなるため やや早期に社会復帰を目的として透析に導入され

2つの大きな病気 『糖尿病』 『慢性腎臓病』

Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年版 ( 日本動脈硬化学会 ) ガイドラインの策定経緯 高脂血症診療ガイドライン :1997 年 動脈硬化性疾患診療ガイドライン 2002 年版 :2002 年 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 年版 :2007 年 動脈硬化性疾患予防ガイドライン

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

表 2 解析対象患者の背景因子 ( 解析対象因子 その 1) 透析時間 ( 時間 / 回 ) < 小計 記載なし 合計 患者数 ( 人 ) 14,161 13, ,219 9,977 9,057 1, , ,6

もくじ 尿にタンパクが出るって どういうこと? 1 腎臓の働き 2 からだの細胞を働きやすくする血液をろ過する血圧を調節するタンパク尿と高血圧が病気を無症状のまま進行させる 3 尿にタンパクが出ることの悪循環血圧が上がることの悪循環 4 タンパク尿も高血圧も自覚症状はほとんどないむくみが現れ始めたら

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虎ノ門医学セミナー

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糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

2 本日の説明内容 1 市のプロフィール 2 CKD( 慢性腎臓病 ) とは 3 CKD 対策の背景 4 CKD 対策の取組 (2009~2014) 5 CKD 対策の結果


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CKD 診療ガイド 2012 刊行にあたって 槇野博史

2017 年 9 月 画像診断部 中央放射線科 造影剤投与マニュアル ver 2.0 本マニュアルは ESUR 造影剤ガイドライン version 9.0(ESUR: 欧州泌尿生殖器放射線学会 ) などを参照し 前マニュアルを改訂して作成した ( 前マニュアル作成 2014 年 3 月 今回の改訂

BSA(m 2 )= 体重 (kg) 身長 (cm) =1.27m 2 となり 173.6mL/min/1.73m 2 を 1.27m 2 である患者個人の腎機能に換算 ( で補正を外すと ) すると 127.4mL/min になりますが これでも実測 CCr

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CKD 診療ガイド 01 刊行にあたって 槇野博史

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院外処方箋の検査値活用法につ??

やまぐち糖尿病療養指導士講習会  第1回 確認試験

1 疾患別医療費札幌市国保の総医療費に占める入院医療費では 悪性新生物が 21.2% 循環器疾患が 18.6% となっており 循環器疾患では 虚血性心疾患が 4.5% 脳梗塞が 2.8% を占めています 外来医療費では 糖尿病が 7.8% 高血圧症が 6.6% 脂質異常症が 4.3% となっています

第4章:施策と目標 2:生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底(3)糖尿病(4)COPD

ヘルスケア・スクエア(仮称)設立に向けて

糖尿病の慢性合併症 細小血管障害 (3 大合併症 ) 大血管障害 糖尿病性網膜症 網膜の血管に障害が起こり 視力障害を引き起こします 脳梗塞 糖尿病性腎症腎臓の機能が低下し 毒素がたまり 重症化すると尿毒症や透析が必要になることがあります 糖尿病性神経障害末端の手足のしびれ 痛み えそを引き起こしま

問 85 慢性腎不全による透析導入基準について正しいのは次のうちどれか 1 透析導入基準の点数が 60 点以上になれば透析導入の判断となる 2 腎機能評価ではクレアチニンが評価項目である 3 血管合併症があれば基準点に加算される 4 視力障害は透析導入基準の評価には含まれない 5 日常生活の障害に関

日本スポーツ栄養研究誌 vol 目次 総説 原著 11 短報 19 実践報告 資料 45 抄録

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

透析看護の基本知識項目チェック確認確認終了 腎不全の病態と治療方法腎不全腎臓の構造と働き急性腎不全と慢性腎不全の病態腎不全の原疾患の病態慢性腎不全の病期と治療方法血液透析の特色腹膜透析の特色腎不全の特色 透析療法の仕組み血液透析の原理ダイアライザーの種類 適応 選択透析液供給装置の機能透析液の組成抗

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第12回 代謝統合の破綻 (糖尿病と肥満)

亜急性 慢性の区別はあいまいであるが 疾患の期間がわかると鑑別疾患を狭めることができる 臨床経過に関するチェック ( 問診 ) 項目 過去の腎疾患 関連疾患の既往はないか 学校検尿での異常は 保健加入時の尿所見の異常は 職場検診での尿所見の異常は 妊娠 出産時の尿所見の異常は 扁桃炎の既往は ( 急

告示番号 1 糖尿病 ( ) 年度小児慢性特定疾病医療意 書 新規申請用 病名 1 1 型糖尿病 受給者番号受診日年月日 受付種別 新規 1/2 ふりがな 氏名 (Alphabet) ( 変更があった場合 ) ふりがな以前の登録氏名 (Alphabet) 生年月日年月日意見書記載時の年齢歳か月日性別

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健康診断結果の 見方のついて

カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

Transcription:

糖尿病性腎症の各病期と治療 佐賀大学医学部講座 宮崎博喜 hirokim@cc.saga-u.ac.jp

日本の透析患者数は年々増加し 現在約 30 万人である ( 人口 400 人あたりに 1 人 ) 平成 22 年末の透析患者数 297.126 人 ( 前年 + 約 6500 人 )

佐賀県における透析患者の数

日本の医療費 34 兆円のうち透析医療費は 1.4 兆円 (4.1%) を占める

新規透析開始となった患者の年齢分布 0.3% 5.7% 30.3% 少年期青年期壮年期中年期老年期 生産年齢人口 (15~64 歳 ) 36.3 % 老年人口 (65 歳以上 ) 63.5 % 腎臓病は発症から数年の経過で透析になることは稀である 壮年 中年期で腎臓病が見逃されている可能性が高い

日本の人口ピラミッド 2010 年

日本の人口ピラミッド 2040 年 2040 年に日本は 人類史上初の超高齢化社会へ突入する

腎臓 kidney 腎臓 尿管 膀胱 尿道 腎重量は 1 個あたり約 100-120g 位置は一般に第 12 胸椎から第 3 腰椎の高さ

腎臓の働きとその異常 腎臓の働き 腎不全の所見 老廃物の除去体液量の調節電解質バランスの調節血液を弱アルカリ性に保つビタミンDの活性化血圧の調節造血ホルモンの分泌インスリンの分解 老廃物の蓄積体液量が過剰電解質バランスの異常血液が酸性に傾くビタミンD 作用不足高血圧貧血になるインスリン効果の遷延

腎機能とは何か? 腎機能とは尿の元 ( 原尿 ) をつくる力 すなわち糸球体濾過量 糸球体濾過量 (GFR: 正常約 100 ml/min) 糸球体濾過量 クレアチニン クリアランス (Ccr) 測定 ( 蓄尿が必要 ) Ccr = ( 尿中 Cr 値 mg/dl) (1 日尿量 ml) ( 血清 Cr 値 mg/dl) (60min) (24 時間 ) Ccr 56ml/min 腎機能 56% 血清クレアチニン (Cr) の濃度 - 腎機能をよく反映 - 筋肉由来の老廃物であり 尿として捨てられるべき尿毒素 - 体格 ( 筋肉量 ) に依存する スポーツマンや大柄な人では高め

egfr: 推算糸球体濾過量 Estimated GFR 血清 Cr 値 年齢 性別で腎機能を推定する方法 インターネット上に早見表や自動計算器がある ( 愛腎協 HP http://www7a.biglobe.ne.jp/~aijinkyo/)

慢性腎臓病 (CKD) の定義 CKD:Chronic Kidney Disease

CKD は common disease である ( ありふれた疾患 ) ( 万人 ) CKD の患者数は推定 1330 万人

CKD のステージ ( 病期 ) 分類 末期腎不全 10 未満 自分の腎臓では生命維持できない

CKD 患者では 透析になるより 心血管病で死亡することが高い 腎機能 (GFR 糸球体濾過率 ml/min)

CKD 患者は心血管疾患を起こしやすい 腎機能 腎機能

CKD 患者は心血管疾患を起こしやすい

新しい CKD 分類

たんぱく尿は腎臓のなみだである 末期腎不全になった人の数 尿蛋白 3+ 尿蛋白 2+ 尿蛋白 1+ 沖縄県での住民健康診断結果を追跡調査したもの 追跡期間 尿蛋白 ± 蛋白尿が多いと, 腎機能は低下していく

U-P/Cr: 尿中タンパク クレアチニン比 24 時間蓄尿を行わず 随時尿で 1 日の尿タンパク量を推定 尿中クレアチニン排出量が約 1 日 1g であることに基づいている ( 尿中のタンパク質濃度 ) ( 尿中クレアチニン濃度 )=U-P/Cr 値 できるだけよく濃縮された早朝 ( 午前中 ) 尿を用いる タンパク尿量は CKD における腎障害の指標とされ 治療の目標でもある (U-P/Cr<1.0 あるいは 0.5)

糖尿病性腎症は透析導入原因の第一位 慢性糸球体腎炎 糖尿病性腎症 腎硬化症

糖尿病性腎症は透析導入原因の第一位 2009 年度透析導入 急速進行性糸球体腎炎 不明 Lupus 腎炎 慢性腎盂腎炎 多発性のう胞腎 腎硬化症 糖尿病性腎症 44.5% 慢性糸球体腎炎

腎機能低下は様々な原因で生じる 加齢 高血圧動脈硬化 酸 塩基異常 ( 高 Ca 低 K) 膠原病血管炎 糖尿病性腎症 高尿酸血症 慢性糸球体腎炎 心機能低下 貧血血液疾患 遺伝性疾患 ( 多発性のう胞腎 ) 慢性腎臓病の原因を一つの病態で説明するのは難しい

糖尿病性腎症 (DM nephropathy) 糖尿病による細小血管障害に起因する腎障害であり 微量アルブミン尿の出現により発症し 次第に腎機能が低下して腎不全に至る 全世界における末期腎不全 (ESRD) の原因疾患の第 1 位 糖尿病患者の 20~40% に発症

典型的な糖尿病性腎症 5 年以上の糖尿病歴 糖尿病性網膜症が認められる 顕微鏡的血尿を伴わない 徐々に増加する持続的蛋白尿 緩徐な腎機能障害の進行 晩期にネフローゼ症候群となる 腎生検は通常行わない

非糖尿病性腎臓病 経過の短い糖尿病 (5 年以内 ) 糖尿病性網膜症なし 顕微鏡的血尿を伴う比較的少量の持続的蛋白尿 (<3.5g/day) 急速な腎機能障害の進行 突然発症のネフローゼ症候群 腎生検を含めた精査が必要

食事療法 1 適正なカロリーの摂取推定エネルギー必要量 = 標準体重 基礎代謝基準値 (21.5-24kcal) 身体活動レベル肥満はCKDの進行リスク 30-35kcal/kg 標準体重 2 たんぱく質制限 1.0 0.8 0.6g/kg 標準体重 (0.3-0.6g/kg) たんぱく質制限は腎機能障害の進展を抑制する 3 食塩制限 6g/ 日未満 食事療法は糖尿病性腎症の治療に必須である

糖尿病性腎症の病期分類 病期 臨床的特徴 主な治療法 尿蛋白 ( 尿アルブミン ) GFR(Ccr) 第 1 期 ( 腎症前期 ) 正常 正常 ときに高値 血糖コントロール 第 2 期 ( 早期腎症 ) 微量アルブミン尿 正常 ときに高値 厳格な血糖コントロール 降圧療法 第 3 期 -A ( 顕性腎症前期 ) 持続性蛋白尿 ほぼ正常 厳格な血糖コントロール 降圧療法 蛋白制限食 第 3 期 -B ( 顕性腎症後期 ) 持続性蛋白尿 (1g/ 日以上 ) 低下 (60 未満 ) 厳格な降圧療法 蛋白制限食 第 4 期 ( 腎不全期 ) 持続性蛋白尿 著明低下 (Cr 上昇 ) 厳格な降圧療法 低蛋白食 透析療法導入 第 5 期 ( 透析療法 ) 透析療法中 腎移植 糖尿病性腎症に関する合同委員会 日腎会誌 44(1), 2002

GFR ( 腎機能 ) 糖尿病性腎症の経過図 過剰濾過第 3 期 -B ( 顕性腎症後期 ) 第 1 期 ( 腎症前期 ) 第 3 期 -A 第 4 期 ( 腎不全期 ) 第 2 期 ( 早期腎症 )( 顕性腎症前期 ) 第 5 期 ( 透析療法 ) 1 2 3a 3b 4 5 蛋白尿量 (1 日あたり ) 3500 腎機能 1000 蛋白尿 発症からの年数 500 300 30 微量アルブミン尿 DM 腎症の発症にはサイン ( 兆候 ) がある

過剰濾過とは何か? アンギオテンシン Ⅱ 腎症前期 (1 期 ) 腎症 (2 期 ) 糸球体内圧 不変 上昇 微量アルブミン尿 なし あり 糸球体濾過量 不変 上昇 血清 Cr 値 不変 低下 egfr 不変 上昇

糖尿病性腎症の早期診断基準 測定対象 必須事項 参考事項 尿中アルブミン排出率 尿中 Ⅳ 型コラーゲン値 尿蛋白陰性か陽性 (+1 程度 ) の糖尿病患者 尿中アルブミン値 30~299mg/g Cr 3 回測定中 2 回以上 30~299mg/g Cr 7~8μg/g Cr 以上 腎サイズ 腎肥大 随時尿 ( なるべく午前中 ) を用いる DM 腎症には特有の自覚症状がないため DM 腎症を早期に発見する という意図をもって 検査を行わないと見つけられない

糖尿病性腎症の各病期における治療 GFR ( 腎機能 ) 1 血糖管理 1 2 3a 3b 4 5 蛋白尿量 (1 日あたり ) 3500 腎機能 1000 蛋白尿 500 300 30 厳密な血糖管理 厳密な血糖管理 (Hb A1C 6.5%,FBS 110, 食後血糖 180

腎不全に投与禁忌の経口血糖降下剤 ビグアナイド薬 ( メルビン など ) 重篤な腎機能低下では禁忌 チアゾリジン薬 ( アクトス ) 重篤な腎機能低下では禁忌 スルフォニル尿素 ( アマリール 等 ) 重篤な腎機能低下では禁忌 ナテグリニド ( スターシス 等 ) 透析患者には禁忌 DPP-4 阻害剤 ( ジャヌビア ) Ccr30-50:1 日 1 回 25mg 使用可能な経口血糖降下剤ミチグリニド ( グルファスト ) 慎重投与 Ccr<30( 含 HD) 禁忌 α グルコシダーゼ阻害剤 ( セイブル ベイスン など ) DPP-4 阻害剤 ( ネシーナ )Ccr30-50:1 日 1 回 12.5mg Ccr<30( 含 HD)1 日 1 回 6.25mg ( エクア ) 中等度以上の腎機能障害で慎重投与

糖尿病性腎症の血糖管理戦略 食事 運動療法 経口血糖降下薬 ( 単剤 ) 経口血糖降下薬 ( 併用 ) インスリン治療 基礎インスリン + 追加インスリン ( 強化インスリン療法 ) 混合型インスリン インスリン導入 経口血糖降下薬 + 基礎インスリン egfr<50 腎機能

糖尿病性腎症の各病期における治療 GFR ( 腎機能 ) 2 血圧管理 1 2 3a 3b 4 5 蛋白尿量 (1 日あたり ) 3500 腎機能 1000 蛋白尿 500 300 30 厳密な血糖管理 厳格な血圧コントロール ARB ACE-I による厳密な血圧管理 (130/80 未満, 蛋白尿 1g 超 125/75 未満 )

推奨される降圧剤の併用法 Ca 拮抗薬 利尿薬 ARB β 遮断薬 ACE 阻害薬 咳 推奨される併用を実線で示す 高血圧治療ガイドライン 2009

糖尿病性腎症の各病期における治療 GFR ( 腎機能 ) 3 専門的治療 1 2 3a 3b 4 5 蛋白尿量 (1 日あたり ) 3500 腎機能 1000 蛋白尿 500 300 30 厳密な血糖管理 (Hb A1C 6.5% FBS 110 食後血糖 180 ARB ACE-I による厳密な血圧管理 (130/80 125/75) 専門的治療 3b 期以降は腎臓専門医と共同診察を受けるのが望ましい

CKD に対する集約的治療法 食事療法 脂質異常 スタチン製剤 コレステロール輸送体阻害薬 代謝性アシドーシス 炭酸水素ナトリウム ( 重曹 ) 減塩 減蛋白十分なカロリー K 制限など 血圧管理血糖管理 RAS 系阻害剤 (ACE 阻害剤 ARB) 高尿酸血症 尿酸降下薬 腎性貧血 EPO 製剤 活性炭投与 クレメジン

糖尿病性腎症 治療のチェックポイント ACE 阻害剤あるいは ARB が使われて 血圧 130/80 以下にコントロールされている 栄養士さんから食事指導をきちんと受け 塩分 カリウム 蛋白制限ができている 高カリウム血症の対策が取られている 高尿酸血症 腎性貧血が治療されている 透析療法についてきちんと説明を受けている