79 茨城県立医療大学紀要 第 23 巻 A S V P I Volume 23 資料 茨城県における食育推進の重要性 - 栄養教諭による自主学習会の開催経緯と成果報告 - 藤井義大 1), 潮﨑純子 2), 高山絵美 3), 赤田部恵美子 4), 萩谷洋美 5) 6), 酒井弘実 佐藤敦子 7), 倉本裕美子 8), 福井恵子 9), 森浩一 1), 中島修一 1) 10), 山口忍 1) 茨城県立医療大学保健医療学部放射線技術科学科 2) 茨城県牛久市立岡田小学校 3) 茨城県立境特別支援学校 4) 茨城県立下妻特別支援学校 5) 茨城県立常陸太田特別支援学校 6) 茨城県立つくば特別支援学校 7) 茨城県立協和特別支援学校 8) 茨城県立水戸飯富特別支援学校 9) 茨城県立牛久市立向台小学校 10) 茨城県立医療大学保健医療学部看護学科 要旨本稿では, 茨城県立医療大学地域貢献研究の一環として, 平成 18 年度からの茨城県事業である いばらきを食べよう学校給食推進事業 に端を発し, 平成 25 年度に文部科学省により採択されたスーパー食育スクール事業 (SSS) の活動の中の一つについて紹介する 本活動は, 先行研究により得られたアンケート調査の結果をもとに小 中学生やその保護者に 食 と 食育 に興味 関心を持ってもらい, その重要性を感じてもらうことを目的とした 実際に行った活動は, 茨城県内の小 中 特別支援学校の栄養教諭を中心に, 減塩メニューの提案と試食,CT 立体画像を使用した食育教材の開発, および茨城県立医療大学附属図書館における特別展示での情報発信である これらの活動を学会や研究会で発表することで, 多くの人が 食 と 食育 に興味 関心を持ち, その重要性の理解につながったと思われる 今後も活動を継続することが重要と考える キーワード : 減塩食, 食育,CT 画像 1. はじめに茨城県は, 全国と比較して脳血管疾患, 糖尿病などの生活習慣病による死亡率が高い状況である 1) また, 平成 28 年度国民健康 栄養調査によると, 野菜の摂取量の平均値は, 全国有数の野菜の産地で身近に野菜が豊富にあるにもかかわらず男女ともに全国平均とほぼ同程度である 食塩摂取量は全国平 均より男女ともに若干高い傾向にある 2) これらの食習慣の改善に向けて食育推進は重要な課題である 本学が所在する阿見町では, 平成 18 年度から茨城県事業である いばらきを食べよう学校給食推進事業 を開始し, 阿見町特産品を給食に導入, 農業協同組合, 学校栄養士が所在の小学校で講義を行っていた 平成 20 年度から町単一の事業となり, 平成 21 年度からは茨城大学が, 平成 24 年度から本学 連絡先 : 藤井義大茨城県立医療大学保健医療学部放射線技術科学科 300-0394 茨城県稲敷郡阿見町阿見 4669-2 電話 :029-888-4000 FAX:029-840-2318 E-mail:fujiiy@ipu.ac.jp
80 茨城県立医療大学紀要第 23 巻 も参加した 本学は健康の維持増進の視点から食材の栄養と健康, 茨城大学は食物の特性, 農業協同組合は食物の育て方や流通についてそれぞれが担当することとなった それらの活動は児童生徒の 朝食摂取率 100% 共食の増加 地産地消 を目指す食育活動として展開され, 平成 25 年度に文部科学省スーパー食育スクール事業 (SSS) に採択された これを契機に, 今までは茨城県立医療大学保健医療学部看護学科との連携で進められた事業が, 同学科が中心となって茨城県立医療大学地域貢献の一環として展開され, 事業の実質化を図るために栄養教諭による自主勉強会も開催されるようになった 本活動は, 先行調査 3) に基づき,1) 健康を意識したメニュー開発を行い, 朝食の質の向上を図ること,2) 栄養教諭や大学教員の専門性を発揮した教材開発を行い, 小学生 中学生 その保護者などの食に対する意識を高めることを主な目的とした 2. 活動内容茨城県の食行動を概観し, 阿見町の食育活動成果の基礎資料を得ることを目的に, 茨城県小学生 1,867 名, 中学生 974 名, 高校生 482 名及びその保護者を対象とした自記式質問紙調査を県教育庁から自治体教育委員会を通して実施した 調査の実施は地域貢献研究委員会の活動として位置付けた アンケート調査の実施状況は, 児童生徒の回収率 97.6%, 保護者 91.1% と非常に高かった それらの結果は, 主に日本公衆衛生学会で報告するとともに, 茨城県内の学校栄養教諭が組織する茨城県学校栄養士協議会主催の研修で 平成 26 年度茨城県 食 の調査結果から考える食育推進に向けた課題 と題して, 平成 28 年 2 月 19 日に報告をした そこでは, 自分の学校だけではなく, 県内にも同じ健康上の問題解決を課題としている人々がいることを知った という声が聞かれ, 大変熱心に報告内容を聞いてくれた栄養教諭の姿に感銘を受けた そこで, これらの膨大なデータを, 栄養士の視点で分析し, もっと自分たちの児童生徒のことを知り, それを学会等で報告しよう! との趣旨で, 茨城県学校栄養士協議会, 茨城県教育庁保健体育課を通して声掛けをした 約 30 数名の有志により, 平成 28 年 5 月 14 日, 茨城 県立医療大学において, 第 1 回の自主学習会が開催された ここでいう自主学習会とは, 業務以外の自分たちの時間を活用し, 自らの考えを基に分析の視点を持って調査データを整理 検討する学習会を意味する 自主学習会においては, 参加者が自らの視点で題目を決め 4 つの研究班が構成された 研究班には,1-2 名の本学教員が入り栄養士が行う研究活動をサポートした その中で, 食育研究を推進する研究班として, 茨城県内の特別支援学校 小学校の栄養教諭, 茨城県立医療大学教員によるグループが構築された 具体的な取り組みとしては, 小 中学生においても, 減塩食の摂取が必要であること, 朝食の摂取率が低いことをメンバーで確認した後に, 日本古来の食材の長所を見直す意義も含めて, 茨城県内で入手できる古代食材 ( 黒米, 赤米, あわ, ひえ等 ) を用いた 減塩メニューの提案, 茨城県立医療大学附属図書館での特別展示との合同開催による食育推進に関する情報発信, さらに, 本学のオープンキャンパスにおける同種企画の経験から, 食や食材に興味を持ってもらうために食材をX 線 CT で撮影した画像を用いた教材開発の提案である また, より幅広い情報発信を達成するために, これらの活動をまとめ, 学術学会や研究会での発表も行った 4) 1) 食への興味を引き出すための古代食材を用いた 減塩メニューの提案 朝食メニューとして, 作り置きができ, おいしくて健康的で, 地元の食材に加えて, 食への興味を引き出すために古代食材 ( 黒米, 赤米, あわ, ひえ等 ) を用いたメニューの提案を行った 具体的な献立は表 1の通りである 実際の調理写真を図 1 に示した 5 回行った自主勉強会の後半の数回は, 秋期に開催されたことから, 減塩行楽弁当メニューの提案を行った 特に, 彩り豊かで, 地場産物や旬の食材を使用したものを作成した 具体的な献立は表 2の通りである 実際の調理写真を図 2に示した 学校給食の基準値と比較すると, 素材そのものの味, 食材の組み合わせ等を工夫し, 食塩相当量をかなり抑える (2.1 ~ 2.5g) ことに成功した また, 古代食材や地元の食材である野菜等を多く使用することによって, 栄養バランスを考慮し, 食物繊維や鉄を多く摂取することができた これを表 3 に示した
81 表 1 朝食メニュー 表 2 行楽弁当メニュー 図 1 実際の朝食メニュー 図 2 実際の行楽弁当メニュー 勉強会と同日に行われた調理当日には, 茨城県立医療大学において試食会を開催した 試食会には, 勉強会のメンバーと大学教員が参加し, すべてのメニューに関して好評価を得ることができた 2) 本活動の情報発信茨城県立医療大学の平成 28 年度創療祭においては, 附属図書館での弥生時代の人々の食生活に関する特別展示 ( テーマ名 : 卑弥呼の鏡 ) と同時に今回提案した各種メニューのレシピ ( 全 12 種類 ) の公開と自由配布を通して情報発信を行った 特に人気のあったレシピとして, れんこん肉団子の豚汁 と 卵焼き について図 3(a,b) に示した また, 各学校において, 食育だよりや掲示物を通して児童生徒 その保護者への情報発信も行った ( 図 4 ) 3) 食育推進のための教材開発の提案茨城県立医療大学放射線技術科学科において, メロン等の果物の CT 画像の撮影を行った これらの画像データより, 実際に試食を行わなくても熟度, 糖度やカロリーなどが分かるようなソフトの開発なども期待できる また, 食材の立体画像を学校現場でも掲示物や授業の中で使用して, 児童生徒 保護者らが 食材 を科学的視点も含めて多方面から学び, 描写の意外性から, 食材や食そのものに興味を持つきっかけとしたいと考えている 食材の立体画像の事例を図 5 に示した なお, この作業は, 食材に放射線を照射することを奨励するものではない 4) 学術学会 研究会での発表 2016 年 11 月に埼玉県大宮市で開催された第 20 回日本健康福祉政策学会学術大会及び 2017 年 2 月 に阿見町で行われた第 9 回三大学交流セミナーにお 表 3 栄養摂取量 ( 項目は抜粋 ) エネルギー 炭水化物 たんぱく質 脂質 カルシウム 鉄 食物繊維 食塩相当量 摂取値 689kcal 92.3g 23.3g 23.9g 118mg 3.7mg 6.7g 2.1g 基準値 650kcal 92.4g 27.6g 18.1g 350mg 3.0mg 5.0g 2.5g
82 茨城県立医療大学紀要第 23 巻 (a) (b) 図 3 配布レシピ a: れんこん肉団子の豚汁 b: 卵焼き 図 4 食育だより 掲示物の例
83 図 5 X 線 CT により撮影した各種果物 いて活動内容を発表し, 情報発信 交換を行ってきた 自由討論においては, 多くの方に興味 関心を持って頂き, 活発な議論と情報交換の良い機会となった 氏, ほか附属図書館司書スタッフの皆様に感謝いたします 3. まとめ本活動は前述の通り, 食 と 食育 に興味 関心を持ってもらい, その重要性を感じてもらうことを目的とした 今回実際に行った大きく分けて4 つの活動により, この目的をある程度達成できたと考えている また, 栄養教諭と医療職の立場である茨城県立医療大学教員とが共同したことにより, 新しい食育, つまり食育と健康とのつながりが見え始め, 今後のさらなる展開の見通しもできた しかし, 今回の活動は食育の啓蒙においては足がかりに過ぎず, まだ十分とは言えない そこで, 今後の活動として,1) 開発した健康メニューを学校給食のメニューに取り入れたり, 家庭教育座談会や調理講習会等の保護者との関わりにある機会を通して伝えたりして, 朝食の質の向上に取り組んで行くこと,2) 今回は途中となってしまったので, 食べることに興味 関心を持ってもらうことを目的とした食育推進のための教材開発を続けていくこと,3) さらに魅力のあるおいしいレシピを開発し, 食と食育の重要性を引き続き伝えていくことの 3つのことが必要であると考えている 文献 1) 厚生労働省人口動態統計年報主要統計表 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ jinkou/suii10/( 参照 2017-09-23). 2) 厚生労働省国民健康 栄養調査報告 http://www.mhlw.go.jp/file/04- Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku- Gantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou_7. pdf( 参照 2017-12-14). 3) 平成 26 年度スーパー食育スクール事業実績報告食に関する調査報告書茨城県教育委員会平成 26 年度 3 月. 4) 食から広がる郷土愛育成に向けたメニュー開発潮﨑純子, 金子絵美, 赤田部恵美子, 森浩一他 5 名第 20 回日本健康福祉政策学会埼玉平成 28 年 11 月. 謝辞 本学附属図書館における食育展示では, 減塩レシピの印刷と配布にご協力いただきました菅野明里