ホルモン補充療法の効果 (070307 100907) (100907) 参考文献 4-8 を読んで HRT について総復習 ホルモン補充療法 (HRT) は現在でも 諸外国と比べると十分普及していないというデータがあるようだ 更年期症状の緩和のために短期的に使用するのであれば あまり大きな問題は無さそうだが 長期的使用には色々と問題が多いことが確認されている 良いか悪いか単純に分けられるような治療では無いだけに 医師の判断や患者の判断がより重要になるのだと思う いくつかの大規模試験があるので読んでみた 一つ目は Women's Health Initiative randomized controlled trial である 抄録から PECO を抜粋 PECO P: postmenopausal women aged 50-79 years with an intact uterus at baseline EC: conjugated equine estrogens, 0.625 mg/d, plus medroxyprogesterone acetate, 2.5 mg/d, in 1 tablet (n = 8506) or placebo (n = 8102) O: The primary outcome was coronary heart disease (CHD) (nonfatal myocardial infarction and CHD death), with invasive breast cancer as the primary adverse outcome. つまり 50 歳から 79 歳の閉経後女性に対して 結合型ウマエストロゲンと酢酸メドロキシプロゲ ステロンを投与すると プラセボと比較して冠動脈疾患が減少するかどうかを検討した研究である ことが分かる 妥当か 追跡期間は a mean of 5.2 years of follow-up とある ランダム化は問題なし ITT に関しては Table2 を確認すると割付どおりに評価されているので問題ない 結果 Table2 の結果を見ると 心血管イベントは増加する傾向にあることがわかる 総死亡に関しては
有意差が出ていない 骨折や結腸直腸癌は減らすものの 心血管イベントを増やすことになるの で この論文の結論としては心血管イベント抑制のために HRT は行うべきでないとしている NNH を計算してみると CHD イベントは 1428 と計算できる つまり 5.2 年間 1428 人に HRT を行うと 1 人のイベントを増やすというわけだ ちなみに 結腸直腸癌の NNT は 1667 すべての骨折に対する NNT は 227 と計算できる ( 参考文献 1 より引用 ) 2006 年に発表された WHI Investigators の論文 ( 参考文献 4) ではサブグループ解析されており 高齢である程 BMI が 30 以上の人ほど冠動脈疾患のリスクが高いことが示されている 閉経前後の肥満のない患者であれば 短期的使用に関してはリスクがメリットを上回る可能性がやや増すのかもしれない
( 参考文献 4 より引用 ) 同じく 2006 年に発表された WHI Investigators の論文 ( 参考文献 3) ではエストロゲン単独とプ ロゲステロンの併用による乳癌の発生についても検討されている 一般に HRT( エストロゲンとプロゲステロンの併用 ) では乳癌の発生が増えることも指摘されているが この論文では エストロゲン単独の乳癌発生率が低いことを示している ただし マンモグラムで異常を指摘される頻度は上昇し QOL の観点からその選択はリスクとベネフィットを考慮するべきとしている 最も恩恵を受けるのはひどいフラッシュや骨粗鬆症によるリスクが高い人である この治療は長期にわたって行うべきでなく 可能であれば閉経後 5 年かそれ以下に制限されるべきともしている
( 文献 3 より引用 ) ( 文献 3 より引用 )
投与ルートによるイベントの発生の違いも興味深い 参考文献 5 は観察研究であるが エストロゲン単独の経皮的投与では心筋梗塞のリスクが低いことが示されている プロゲステロンとの併用の場合では経口でも経皮でもそれほど変わりは無いが 少なくとも心筋梗塞のリスクはそれほど上昇していない ( 前述のように 観察研究なので介入の効果を保証するものではない ) In all age groups, the highest risk of MI was found with continuous HT regimen. Significantly lower risk was found with dermal route than oral unopposed oestrogen therapy (P. 0.04) ( 参考文献 5 より引用 ) ここで基礎的なことを確認 プロゲステロンを加えることにより 冠血管イベントや乳癌に関してはリスクを+αしているようなイメージだが プロゲステロンを加える意味は子宮内膜癌を予防するためである 子宮摘出後の患者ではエストロゲンの単独投与でも良いとされる 参考文献 1 のように エストロゲン+プロゲステロンで投与すると子宮内膜癌は増加していないが 参考文献 8 のように 単独で投与された場合 子宮内膜癌のリスクが 1.45 倍になるという観察研究もある ( 参考文献 8 より引用 )
患者の QOL を評価した Heart and Estrogen/Progestin Replacement Study (HERS) trial も公式 どおり PECO から読んでいくことにする PECO P: postmenopausal women with documented coronary artery disease (mean age, 67 years) E C: 0.625 mg/d of conjugated equine estrogen plus 2.5 mg/d of medroxyprogesterone acetate (n = 1380) or placebo (n = 1383) O: Physical activity, measured by the Duke Activity Status Index; energy/fatigue and mental health, measured by RAND scales; and depressive symptoms, measured on the Burnam screening scale, at 3 years of follow-up. 妥当か ランダム化は抄録中 ITT は本文中に記載があり 問題ない 結果 結果を見てみると 全体としての効果はないが 更年期症状 ( 顔面徴候 ) のある患者では QOL を 上げるという結果であった
( 参考文献 2 より引用 ) 心血管イベントの抑制は重大なアウトカムだが QOL というのも重大なアウトカムである HRT をルーチンに行うことは控えるべきと思うが 症状の強い患者 ( フラッシュや骨粗鬆症関連の症状 ) での短期的な使用に関しては HRT のも考慮してもいいかもしれない もちろん きちんとした説明は必要である ( 乳癌 心筋梗塞 脳梗塞 静脈血栓症のリスク vs 骨折予防 結腸直腸癌のリスク低下 症状のある人の QOL 向上というメリット ) また 高齢であるほど BMI が 30 を超えるよう
な肥満の患者ではよりリスクは高い可能性がある どちらかといえば経皮的投与の方がリスクは 低い可能性もある いずれにしても 治療は長期にわたって行うべきでなく 可能であれば閉経後 あまり期間が経過していないような患者を対象にするのがいいのかもしれない 参考文献 1. Rossouw JE et al. Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women: principal results From the Women's Health Initiative randomized controlled trial. JAMA. 2002 Jul 17;288(3):321-33. 2. Hlatky MA et al. Quality-of-life and depressive symptoms in postmenopausal women after receiving hormone therapy: results from the Heart and Estrogen/Progestin Replacement Study (HERS) trial. JAMA. 2002 Feb 6;287(5):591-7. 3. Stefanick ML, Anderson GL, Margolis KL, et al, for the WHI Investigators. Effects of conjugated equine estrogens on breast cancer and mammography screening in postmenopausal women with hysterectomy. JAMA 2006;295:1647-1657. 4. Hsia J, Langer RD, Manson JE, Kuller L, Johnson KC, Hendrix SL, Pettinger M, Heckbert SR, Greep N, Crawford S, Eaton CB, Kostis JB, Caralis P, Prentice R; Women's Health Initiative Investigators. Conjugated equine estrogens and coronary heart disease: the Women's Health Initiative. Arch Intern Med. 2006 Feb 13;166(3):357-65. 5. Løkkegaard E, Andreasen AH, Jacobsen RK, Nielsen LH, Agger C, Lidegaard Ø. Hormone therapy and risk of myocardial infarction: a national register study. Eur Heart J. 2008 Nov;29(21):2660-8. 6. 若槻明彦. ガイドラインを踏まえた HRT 治療の実際.PROGRESS IN MEDICINE, 29(10) : 2465-2473, 2009. 7. 岡野浩哉.WHI を起点とした安全なホルモン補充療法への歩み. 産婦人科治療, 98 : 709-716, 2009. 8. Beral V, Bull D, Reeves G; Million Women Study Collaborators. Endometrial cancer and hormone-replacement therapy in the Million Women Study. Lancet. 2005 Apr 30-May 6;365(9470):1543-51.