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モダンメディア 63 巻 10 号 2017[ 感染対策と微生物検査 ]255 感染対策と微生物検査 7 感染防止対策加算と微生物検査 Infection prevention medical fees and microbiology laboratory いい飯 ぬまよし沼由 Yoshitsugu IINUMA つぐ嗣 はじめに 1996 年の診療報酬改定で 院内感染防止対策の評価として 院内感染防止対策加算 が新設された この加算は 院内感染対策に携わるものとしては 待望の加算であったが その後 2000 年に院内感染対策未実施 5 点減算へと転換された その後 2006 年に入院基本料の算定要件の一つとなり さらに 2010 年には 感染防止対策加算 として施設基準を満たす場合に 入院初日 100 点が新設された 2012 年には 医療安全対策加算の枠組みから外れ 感染防止対策の評価がより充実し 現在に至っている 本稿では 感染防止対策加算における微生物検査の役割について 歴史的な経緯も含め解説したい Ⅰ. 感染防止対策加算の施設基準 2010 年改訂以後の感染防止対策加算の施設基準の概要を表 1に示す 2007 年に良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部改正が行われ すべての医療機関において院内感染対策の 表 1 感染防止対策加算の施設基準 ( 概要 ) 2010 年改訂 2012 年改訂 ( 加算 1) 2014 年改訂 ( 加算 1) 2016 年改訂 ( 加算 1) 感染防止対策部門 設置されていること 感染防止対策チーム チームの組織化と 感染防止対策に係る日常業務の実施 チーム構成員 以下の4 職種の構成員からなること 医師 感染症対策に3 年以上の経験を有する専任の常勤医師 看護師 5 年以上感染管理に従事した経験を有し 感染管理に係る適切な研修を修了した専任の看護師 薬剤師 3 年以上の病院勤務経験をもつ感染防止対策にかかわる専任の薬剤師 臨床検査技師 3 年以上の病院勤務経験をもつ専任の臨床検査技師 専従者 構成員の医師又は看護師は専従であること 業務指針の整備 感染防止対策の業務指針及び院内感染管理者若しくは院内感染防止対策チームの具体的な業務内容が整備されていること 最新のエビデンスに基づき 自施設の実情に合わせた標準予防策 感染経路別予防策 職業感染予防 マニュアル作成 策 疾患別感染対策 洗浄 消毒 滅菌 抗菌薬適正使用等の内容を盛り込んだ手順書 ( マニュアル ) を 作成し 各部署に配布していること なお 手順書は定期的に新しい知見を取り入れ改訂すること 職員研修の実施 職員を対象として 少なくとも年 2 回程度 定期的に院内感染対策に関する研修を行っていること 抗菌薬適正使用 院内の抗菌薬の適正使用を監視するための体制を有すること 特に 特定抗菌薬 ( 広域スペクトラムを有する抗菌薬 抗 MRSA 薬等 ) については 届出制又は許可制の体制をとること サーベイランスへの参加 地域や全国のサーベイランスに参加していること院内感染対策サーベイランス (JANIS) 等 地域やが望ましい全国のサーベイランスに参加していること 合同カンファレンスの開催 年 4 回以上 感染防止対策加算 2を算定する医療機関と合同カンファレンスを開催すること 院内ラウンド 1 週間に1 回程度 定期的に院内を巡回し 院内感染事例の把握を行うとともに 院内感染防止対策の実務状況の把握 指導を行うこと ( 留意事項 ) 施設基準となる 院内感染防止対策委員会の設置および月 1 回程度の定期的な委員会の開催 ( 構成員に検査部門の責任 入院基本料の算定要件 者を含む ) 週 1 回程度の感染情報レポートの作成と活用 手洗いの励行の徹底と各病室に水道又は消 毒液の設置 感染防止対策地域連携加算 加算 1を算定している医療機関同士が連携し 年 1 回以上 互いの医療機関に赴いて 相互に感染防止対策に係る評価を行っていること 診療報酬 入院初日 100 点 入院初日 400 点 +100 点 ( 地域連携加算 ) 金沢医科大学臨床感染症学 920-0293 石川県河北郡内灘町大学 1-1 Department of infectious diseases, Kanazawa Medical University (1-1 Daigaku, Uchinada-machi, Kahoku-gun, Ishikawa) ( 19 )

256 体制確保が法的遵守項目として位置づけられた 2010 年の改訂では 医療安全対策加算から独立し 感染防止対策加算 が新設された ここで設定された施設基準は ほぼそのまま現在まで引き継がれている 2010 年には 多剤耐性アシネトバクター等の新しい薬剤耐性菌による院内感染事例の発生が社会的な注目を浴び 2011 年 6 月には 厚生労働省より 医療機関等における院内感染対策について 1) が発出された ここには 院内感染対策の基本的遵守項目が示されており 入院基本料や感染防止対策加算の施設基準の根拠ともなっている 特に 医療機関間の連携 ( 緊急時に地域の医療機関同士が連携し 各医療機関のアウトブレイクに対して支援がなされるよう 医療機関相互のネットワークを構築し 日常的な相互の協力関係を築くこと ) とアウトブレイク時の対応 ( アウトブレイクの基準 ネットワークに参加する専門家への支援依頼 保健所への報告基準等 ) など 院内感染対策に関わる地域での医療連携の重要性が述べられている 2014 年には カルバペネム耐性腸内細菌科細菌 (CRE) の院内感染事例が発生し プラスミド伝播などのより複雑な感染伝播メカニズムがアウトブレイクの要因として考えられた 同年末には この事例をふまえ アウトブレイクの考え方と対応等について追記改訂が行われた 2) 2012 年の診療報酬改訂では 医療機関間連携が重視された より充実した感染防止対策加算制度となった 院内感染対策に関する施設基準は 2010 年度からほぼ変更は無かったが 算定する施設が加算 1 と加算 2 に分類され 加算 1 施設と 2 施設の連携が必須とされた 加算 2 施設は一般病床 300 以下を標準とし 構成員要件が加算 1 よりも緩和されている 加算 1 施設は入院 100 点から 400 点に増点され 加算 2 との定期的な合同カンファレンスや必要時に相談を受けることが必要とされた 加えて加算 1 同士の連携と相互ラウンドの実施により さらに 100 点が加算されることになった ( 図 1) 2014 年の改定時には 地域や全国のサーベイランスに参加していることが施設基準とされた 実質的には 厚生労働省院内感染対策サーベイランス (JANIS) 事業への参加が必要となり 特に検査部門は 2014 年 2 月と比較して 2015 年 1 月には約 1.6 倍 ( 1482 施設 ) と参加施設が急増した ( 図 2, https://janis. mhlw.go.jp/hospitallist/index.html) 2017 年 1 月現在 JANIS 全国参加医療機関数 1990 施設のうち検査部門参加施設は 1840 施設 ( 約 92%) と JANIS 参加施設の大多数が参加している部門となっている 1. 人員配備 Ⅱ. 感染防止対策加算における微生物検査室の役割 感染防止対策加算では 3 年以上の病院勤務経験をもつ専任の臨床検査技師 が感染防止対策チーム構成員 (ICT メンバー ) として求められている 専任の定義としては 主業務は院内感染防止に携わり責任を持つことになるが その業務に支障が出ない 感染防止対策加算 400 点 / 入院 加算 1 加算 2 専従 専任の ICT 組織 地域連携加算 100 点 / 入院 図 1 感染防止対策加算のイメージ図 (2012 年 ~) ( 20 )

257 検査部門 ICU 部門 全入院患者部門 NICU 部門 SSI 部門 参加医療機関数 2200 2000 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 468 260 91 52 14 サーベイランス開始時 371 190 61 12 システム移行前 2007 年 7 月 ( 移行後 ) 853 722 612 525 476 392 357 302 159 184 95 107 865 574 433 394 203 112 2008 年 1 月 2009 年 1 月 867 605 455 340 153 113 951 686 505 378 161 95 2010 年 1 月 2011 年 1 月 1000 734 528 414 158 98 2012 年 1 月 2013 年 1 月 1990 1859 1840 1671 1696 1482 1301 1087 808 577 469 152 96 928 715 589 841 714 163 187 102 109 2014 年 1 月 2015 年 1 月 885 771 193 114 902 814 193 118 2016 年 1 月 2017 年 1 月 ( 厚生労働省院内感染サーベイランス事業 Website より ) 図 2 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業参加医療機関の推移 限りは 他の業務に携わることが可能 とされる 院内検査室で微生物検査を行っている場合には その担当者が専任の ICT メンバーとなることが多い 一方 比較的小規模の病院では 検査室の外部委託化が進んでおり 特に微生物検査は不採算部門として そのターゲットになりやすく 加算算定の障壁の一つとなっている 2016 年に発表された薬剤耐性 (AMR) 対策アクションプラン 3) でも この問題が取り上げられている 院内微生物検査室は 薬剤耐性 (AMR) 及び医療関連感染症 (HAI) の動向調査 監視及び抗微生物薬の適正使用 (AMS) 上 極めて重要な機能を担っているが 特に微生物検査に係る業務は不採算といわれ 中小規模病院では 外部委託が進められてきた と記載されている また 今後の方針として 薬剤耐性 (AMR) の検査に関する全国規模での外部精度管理体制の構築を支援し 検査技術のレベル向上を図るとともに 統一的な比較 評価が可能になる検査体制を確保する とある 院内感染対策における微生物検査の重要性は言うまでも無いことであ るが 院内検査室での微生物検査の実施 さらにその担当者となる感染制御認定微生物検査技師の育成が 加算算定施設では必要と考えられる 2. 日常的業務 ( 入院基本料の算定要件等 ) 微生物検査室の日常的業務における役割として 入院基本料の算定要件として 以下の項目が示されている これは 感染防止対策加算の算定の有無に関係なくすべての医療機関に適応される :1 各病棟の微生物学的検査に係る状況等を記した 感染情報レポート を週 1 回程度作成する 2 当該レポートが院内感染防止対策委員会において十分に活用される体制がとられている 3 当該レポートは 患者からの各種細菌の検出状況や薬剤感受性成績のパターン等が病院の疫学情報として把握 活用されることを目的として作成されるものである 感染情報レポート 作成の主目的は 薬剤耐性菌の異常集積の早期発見にあると考えられる 2016 年発出の通知では 各医療機関は 疫学的にアウトブレイクを把握できるよう 日常的に菌種ごと及び ( 21 )

258 カルバペネム耐性などの特定の薬剤耐性菌ごとのサーベイランスを実施することが望ましい また 厚生労働省院内感染対策サーベイランス (JANIS) 等の全国的なサーベイランスデータと比較し 自施設での多剤耐性菌の分離や多剤耐性菌による感染症の発生が特に他施設に比べて頻繁となっていないかを 日常的に把握するように努めることが望ましい とされている また アウトブレイクの基準としては 1 例目の発見から 4 週間以内に 同一病棟において新規に同一菌種の感染症例が 3 例以上 または同一医療機関内で同一菌株と思われる感染症の発病症例が 3 例以上特定された場合を基本とする ただし カルパペネム耐性腸内細菌科細菌 (CRE) 多剤耐性緑膿菌 (MDRP) や多剤耐性アシネトパクター属 (MDRA) 等の多剤耐性菌については 保菌も含めて 1 例目の発見をもって アウトブレイクに準じて厳重な感染対策を実施する とされている 微生物検査室スタッフとして 特に入院患者から検出される様々な微生物 特に耐性菌について 週 1 回程度の検出状況のサマリー すなわち 感染情報レポート の作成を行うこととなる 内容的には メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) や ESBL 産生腸内細菌科細菌 (ESBL) などの比較的頻度の高い耐性菌や上述の多剤耐性菌に加え Clostridium difficile さらに院内感染の原因となる流行性感染症( インフルエンザ ノロウイルス等 ) についてもレポートすることが望ましい 一方 これらの微生物は 入院時あるいは検出時からの院内感染対策の早期実施が 院内伝播では非常に重要となる 金沢医科大学病院では 微生物検査室で薬剤耐性菌および C. difficile が検出された場合には 病棟への即時電話連絡を行い感染対策の実施を促すとともに 発生報告書を病棟 感染制御室および感染症科に即日送り 感染対策 感染症診療の評価および支援を行っている ( 図 3) 発生報告書( 警告書 ) には 検出された薬剤耐性菌とともに 感染対策の概要について記載されている ( 図 4) 病棟に届けられた発生報告書は 院内感染対策資料ファイルに綴じ込み保存することとしている また薬剤耐性菌の検出状況については 当院の電子カルテに組み込まれている感染制御システムから リアルタイムの状況を確認することもできる 週報のみでは 散発的に検出される耐性菌の異常 電話連絡集積を見逃す危険があるため 病棟毎の耐性菌の経時的検出状況を把握する必要がある 微生物検査室が最も早くその情報を入手できることより 検査室から集約した情報を発信することが望まれる 当院のアウトブレイク調査基準を表 2に示す 薬剤耐性菌は 持込症例も多いため あくまでも調査開始基準としている ただし 重要な多剤耐性菌については 1 例目から厳重な対応を行うこととしており 緊急性の高い情報として 感染制御室にも即時報告することとしている なお 緑膿菌に関しては 耐性獲得の速度が速く 2 剤耐性菌 ( 特にカルバペネム キノロン耐性 ) から 厳密な隔離予防策の対象としている 3. 感染防止対策加算関連業務 棟接触予防策の実施病微生物検査室感染制御室発生報告書感染症科( 金沢医科大学病院 ) 接触予防策の実施状況の確認 感染対策および診療状況の確認 前述の微生物検査室スタッフとしての日常的業務に加え 特に院内ラウンドへの参加が重要な業務となる その概要は 以下の通りである :ICT は 1 週間に 1 回程度 定期的に院内を巡回し 院内感染事例の把握を行うとともに 院内感染防止対策の実施状況の把握 指導を行う また 院内感染事例 院内感染の発生率に関するサーベイランス等の情報を分析 評価し 効率的な感染対策に役立てる 院内感染の増加が確認された場合には病棟ラウンドの所見及びサーベイランスデータ等を基に改善策を講じる 微生物学的検査を適宜利用し 抗菌薬の適正使用を推進する また 2018 年度より 院内ラウンドが施設基準とされ 以下の解釈が示されている : 1ラウンドは 全員で行うことが望ましく 少なくとも 2 名以上で行うこと 2 必要性に応じて各部署を巡回すること なお 各病棟を毎回巡回するこ 感染管理支援活システムの3 薬剤耐性菌, C. difficile 発生時の連絡と対応用図 ( 22 )

259 * 病棟に届けられた発生報告書は 院内感染対策資料ファイルに綴じ込み保存 図 4 薬剤耐性菌発生報告書 ( 警告書 ) ( 金沢医科大学病院 ) 表 2 薬剤耐性菌のアウトブレイク調査基準 ( 金沢医科大学病院 ) 菌種 MRSA C. difficile ESBL MDRP * MDRA カルバペネマーゼ産生菌 CRE VRE 基準 3 例 / 月 / 病棟 2 例 / 月 / 病棟 1 例目からアウトブレイクに準じた厳重な対応を行う * 緑膿菌に関しては 2 剤耐性 ( 特にカルバペネム キノロン耐性 ) 菌についても 厳重な隔離予防策の実施を求めている ととするが 耐性菌の発生状況や広域抗生剤の使用状況などから 病棟ごとの院内感染や耐性菌の発生のリスクの評価を定期的に実施している場合には 少なくともリスクの高い病棟を毎回巡回し それ以外の病棟についても巡回を行っていない月がないこと 当院では 2018 年の施設基準の改定に基づき 全病棟の毎週巡回を開始した 最低 2 職種以上の参加が必要であり ICT メンバーの臨床検査技師を増員し 毎回ラウンドに参加することとした 事前に 薬剤耐性菌や結核菌 流行性感染症など院内感染リスクの高い病原菌が検出されている患者の病棟毎のリストを検査室で作成し ラウンドの際に活用している 4. 発展的業務 ( アウトブレイク発生時など ) アウトブレイク発生時には ICT メンバーが中心となり対策に取り組むこととなる 感染者の全容を知るための保菌調査 ( 患者 職員 ) 環境調査( 環境汚染がアウトブレイクに関連すると疑われた場合 ) 検出菌の薬剤耐性機序の解析や菌株のタイピングなど検査室が関わる業務も多い 調査の必要性や実施 ( 23 )

260 範囲 結果の解釈 地域の専門家への支援依頼のタイミングなど ICT メンバーとして指導的な役割を果たすことが期待される また 新たな耐性機序の耐性菌の出現やそれに伴う新たな検査法など 専門性の高い情報の収集と提供も期待される 大学病院など一部の加算 1 の施設の中には 専門家や菌株の解析機能を有する施設もあり そのような施設では 検査室スタッフが外部から依頼された菌株の解析を行う場合もある 5. 抗菌薬適正使用への貢献 AMR 対策アクションプランに記載されているように 抗菌薬適正使用は AMR 対策の主要な柱となっている 診療所外来においてグラム染色を導入したところ 広域抗菌薬の使用が 3 分の 1 以下に減り 受診患者一人当たりの抗菌薬の消費額が 5 分の 1 となり 小児副鼻腔炎患者における抗菌薬不使用患者数が 9 倍に増加したとの報告が紹介されている 4) 抗菌薬適正使用を推進する上で 抗菌薬投与前の微生物検査は非常に重要な根拠データとなる 感染症診療は 推定起因菌に対する初期治療から開始し 微生物検査結果に基づく最適治療を行うことが重要である 初期治療前に微生物検査も行わず さらに広域抗菌薬を根拠も無く開始し 長期に使うことは 多剤耐性菌出現の原因ともなり 絶対に避けなければならない 現在加算算定施設には 特定抗菌薬 ( 広域スペクトラムを有する抗菌薬 抗 MRSA 薬等 ) の届出制あるいは許可制が求められているが たとえ届出あるいは許可されていたとしても 微生物検査が行われていない場合には 適正使用は困難である アクションプランには 医療機関における抗微生 ICT 医師 感染制御部 感染症科 ( 独立組織 ) ICT 看護師薬剤薬剤師師臨床検査技師 AST( 抗菌薬適正使用支援チーム ) ICT( 感染対策 ) および AST( 抗菌薬適正使用支援 ) からなる独立した組織を構築し, 各組織に所属する医療従事者には専門家 ( 有資格者が望ましい ) を配置し, 業務に専念できる環境づくりが必要である ( 構成員の重複可 ) 5 抗菌薬適正使用支援 (Antimicrobial 師図 Stewardship: AS) 推進のための組織作り 臨床検査技師看護師事務職員医物薬適正使用 (AMS) 推進のための抗微生物薬適正使用チーム (AST) の運用 AMS の質の評価等の実施を通じて 外来患者 入院患者等に対する AMS 及び感染症診療の適正化を推進する と記載されている 今後 感染防止対策加算の施設基準として抗菌薬適正使用のより厳密な運用が求められていくものと予想される AST は 実質的には ICT とメンバーが重複することが多いと考えられるが 臨床検査技師は ICT とともに AST における主要メンバーとして活動することが期待される 5) 6. 地域連携 2012 年改訂の感染防止対策加算により 院内感染対策の地域連携はかなり強化され また 加算算定の有無にかかわらず 地域連携の重要性を認識する機会となったものと考えられる 病診連携の推進により 患者は一医療機関にとどまること無く その病状に応じた施設での診療が求められるようになってきている また高齢者の増加に伴い 介護施設から病院への紹介患者も増加傾向にある 患者の紹介や受け入れなどにおいて薬剤耐性菌情報は 院内感染対策を行う上で非常に重要な情報であるが 情報共有は必ずしもスムーズには行われていない 微生物検査室は 各施設の薬剤耐性菌の情報を集約している部署であり 検査室間での情報共有による地域での耐性菌の検出情報の共有および各施設へのフィードバックについて積極的な取り組みが期待される 岐阜県での医療連携の結果報告では 血液培養の複数セット採取率の増加が認められ 抗菌薬適正使用推進の一助となっていることが報告されている 6) 医療機関における感染対策について 1) では 緊急時に地域の医療機関同士が連携し 各医療機関のアウトブレイクに対して支援がなされるよう 医療機関相互のネットワークを構築し 日常的な相互の協力関係を築くことが求められている 感染防止対策加算施設間での連携は強化されたが 加算未算定の施設が取り残されることが無いように 感染防止対策加算とは直接関係の無い 地域ネットワークの構築が重要と考えられる その場合も 微生物検査技師 ( 特に感染制御認定技師 ) は 地域ネットワークの中核として活動することが期待される ( 24 )

261 おわりに 文 献 微生物検査室を取り巻く環境は必ずしも良好とは言えない しかしながら これまで述べてきたように感染防止対策加算の施設基準を満たす院内感染対策を実施する上で 少なくとも加算 1 施設においては 院内微生物検査室の設置と専任の微生物検査技師 ( 可能であれば感染制御認定技師 ) の配備を期待したい AMR 対策アクションプランが発表され 抗菌薬適正使用は特に加算取得施設では強く求められていくものと考えられる 適正な抗菌薬使用のためには精度の高い微生物検査結果の迅速な報告が必要になり ますます微生物検査室の役割は重要になっていくものと考えられる 1 ) 厚生労働省 : 厚生労働省医政局指導課長通知医政指発 0617 第 1 号 ( 平成 23 年 6 月 17 日 ). 2 ) 厚生労働省 : 厚生労働省医政局指導課長通知医政地発 1219 第 1 号 ( 平成 26 年 12 月 19 日 ) 3 ) 国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議 : 薬剤耐性 ( AMR) 対策アクションプラン (2016-2020)( 平成 28 年 4 月 5 日 ) 4 ) 前田雅子 前田稔彦 松元加奈 ほか. 耳鼻咽喉科診療所でのグラム染色検査によってもたらされた抗菌薬の選択 使用の変化予備的検討. 日本プライマリ ケア連合学会誌 2015 ; 38 : 335-339. 5 )8 学会合同抗微生物薬適正使用推進検討委員会 : 抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス (2017 年 8 月 17 日 ) 6 ) 渡邉珠代 丹羽隆 土屋麻由美 ほか. 岐阜県内感染防止対策加算算定全病院での感染対策活動に関するサーベイランス結果報告. 環境感染誌 2015 ; 38 : 44-55. ( 25 )