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2011 年 12 月 1 日放送 日本皮膚科学会褥瘡ガイドラインについて ~ 日本褥瘡学会ガイドラインとの相違点 大阪赤十字病院 皮膚科部長立花隆夫 はじめにガイドラインは 特定の臨床状況において 適切な判断を行うために 医療者と患者さんを支援する目的で系統的に作成された文書 であり 褥瘡においては 2009 年 2 月に日本褥瘡学会から 褥瘡予防 管理ガイドライン が公表されています しかしながら 褥瘡学会のガイドラインは医師のみならず看護師 栄養士 薬剤師 理学療養士 作業療養士なども対象としており また 治療よりその予防 ケアを重視した内容であるため 日本皮膚科学会の創傷 熱傷ガイドライン委員会では より治療に重点を置いた 褥瘡診療ガイドライン を策定し 2011 年 8 月に公表しました 本講演では 日本皮膚科学会の褥瘡診療ガイドラインと日本褥瘡学会の褥瘡予防 管理ガイドラインの相違ついて概説しますが まず 先行の日本褥瘡学会の 褥瘡予防 管理ガイドライン を説明した後に 本年 8 月に公表されました日本皮膚科学会の 褥瘡診療ガイドライン について解説を加えることにします ケアアルゴリズムそれでは 褥瘡予防 管理ガイドライン の予防 ケアアルゴリズムについてですが 図 1 に示すように 褥瘡発生の予測 皮膚の観察 圧迫 ずれの排除 すなわち 体位変換と体圧分散用具を指します それに加え スキンケア 栄養管理 リハビリテーション および 患者教育と 予防に関しては 7 項目 発生後のケアに関しては発生予測を除く 6 項目からなるアルゴリズムを提示しています また その中で 皮膚の観察 の重要性を特に強調しています

褥瘡と言えば一般的には慢性期の 図1 深い皮膚潰瘍をイメージしますが 図 2 に示すように 褥瘡学会ではそれ以外 にも急性期と慢性期の浅い褥瘡がある ことを 2005 年の 局所治療ガイドライ ン で初めて言及しています また その各々の時期についての治療アルゴ リズムを提唱しています たとえば 急性期と慢性期の浅い褥瘡においては 図 3 に示すように 創面の保護と共に moist wound healing を心掛けることが 大切であることを強調しています ま た 慢性期の深い褥瘡については 図 4 に示すように DESIGN に準拠した治 療アルゴリズムを提唱しています 具 体的には 壊死組織を除去した上で 肉芽形成を促進し さらに創の 縮小 閉鎖を目指します その 図2 各々の段階で 感染 滲出液過 多やポケット形成があれば そ れを抑制 解消あるいはなくす ような局所治療 すなわち 外 用薬 ドレッシング材 外科的 治療や物理療法を選択します なお DESIGN は日本褥瘡学会 が 2002 年に公表した褥瘡状態 判定スケールであり 深さ 滲 出液 大きさ 炎症/感染 肉芽組織 壊死組織 ポケットの7項目からなるアセスメ ントツールです 図3 図4

褥瘡診療ガイドライン の概要 次に 日本皮膚科学会の 褥瘡診療ガイドライン の概要について説明しますが 先 ほど述べましたように 日本褥瘡学会のガイドラインが 医師のみならず看護師 栄養 士 薬剤師 理学療養士 作業療養士なども対象としており また 治療よりその予防 ケアを重視した内容であることから 日本皮膚科学会の創傷 熱傷ガイドライン委員会 では より治療に重点を置いたガイドラインの策定を目指しました なお 創傷 熱傷 ガイドライン委員会では 創傷一般についての概説と 褥瘡の他にも糖尿病性潰瘍 膠 原病および血管炎 下腿潰瘍および下肢静脈瘤 熱傷について 5 つの診療ガイドライ ンを併せて策定し 順次日本皮膚科学会誌に掲載しています まず 褥瘡診療ガイドライン の予防 ケアアルゴリズムについ 図5 てですが 図 5 に示すように そ の基本方針として 創に不要な圧 迫 ずれなどの外力を加えないこ と すなわち 創面保護の維持を 治療の基本方針としています ま た 不幸にして褥瘡が生じた時に は 図 6 に示すように 深い褥瘡 すなわち 黒色期 黄色期の治療 前半では TIME コンセプトによる wound bed preparation を また 浅 い褥瘡と治療後半の深い褥瘡 すなわち 赤色期 白色期では moist wound healing をそ の治療方針としています なお TIME とは 壊死組織 活性のない組織の管理を意味 する T 感染または炎症の管理を意味する I 湿潤の不均衡の管理を意味する M と 創 辺縁の表皮進展不良あるいは表皮の巻き込みの管理を意味する E の頭文字をとった造 語です 図6

話は少し戻りますが 図 4 に示した 日本褥瘡学会のガイドラインの治療アルゴリズムに示した治療前半の治療方針 すなわち 壊死組織を除去し 感染 滲出液過多やポケット形成があればそれを抑制 解消あるいはなくす治療方針は Falanga らが提唱する TIME コンセプト すなわち wound bed preparation を目指すための治療方針そのものであります また 治療前半の肉芽形成を促進し 創の縮小 閉鎖を目指す治療方針は moist wound healing を目指す治療方針です すなわち 日本皮膚科学会のガイドラインと日本褥瘡学会ガイドラインの治療アルゴリズムに示す治療の基本コンセプトは全く同じということになります 褥瘡診療ガイドライン では 外用薬選択の特徴として 油脂性基剤の抗生物質あ るいは抗菌薬含有軟膏なども含め 皮膚損傷 すなわち びらん 潰瘍に保険適応のあ る外用薬すべてを対象としています たとえば 急性期褥瘡に対しては 創面保護を目 的に白色ワセリン 酸化亜鉛 ジメチルイソプロピルアズレンなどの油脂性基剤軟膏 あるいは 感染予防の目的にスルファジアジン銀を用いることを推奨しています これ らは褥瘡学会のガイドラインと同じですが それ以外に短期間使用であれば抗生物質 ( 抗菌薬 ) 含有軟膏を使用してもよいとしています また 図 7 に示すように 深い慢性期褥瘡に対しては 主剤による使い分けのみならず 主に滲出液に注目した創の状態 すなわち 滲出液が過剰な創 正常 少ない創 少な い創の 3 つに分けた創の状態と外用薬基剤の特殊性を考慮した使い分けにも言及してい ます 具体例には 治療前半の wound bed preparation を目指す時には滲出液が過剰な時 期と少ない時期 の 2 つ また 後半の moist wound healing を 目指す時には滲 出液が適正 ~ 少 ない創面 滲出 液が少ない創面 あるいは 滲出 液が過剰または 浮腫が強い創面 の 3 つに分け それらに適した 外用薬を推奨し ています たと 急性期黒色期黄色期赤色期白色期治癒 T の改善 ( 壊死組織の除去 ) を目的として : カデキソマ - ヨウ素スルファジアジン銀デキストラノマーブロメライン I の改善 ( 感染の制御 除去 ) を目的として : カデキソマー ヨウ素スルファジアジン銀ポビドンヨードポビドンヨード シュガーヨウ素軟膏 ( ヨードコート R 軟膏 ) ヨードホルム M の改善 ( 湿潤環境の保持 ( 滲出液の制御 除去 )) を目的として : カデキソマー ヨウ素スルファジアジン銀デキストラノマーポビドンヨードシュガーヨウ素軟膏 ( ヨードコート R 軟膏 ) 白色ワセリンや酸化亜鉛ジメチルイソプロピルアズレンなどの油脂性軟膏 E の改善 ( 創辺縁の管理 ( ポケットの解消 除去 )) を目的として : トラフェルミントレチノイントコフェリルポビドンヨード シュガー moist wound healing を目的として : アルミニウムクロロヒドロキシアラントイネート トラフェルミン トレチノイントコフェリル ブクラデシンナトリウム プロスタグランジン E1 幼牛血液抽出物 リゾチーム塩酸塩 白色ワセリンや酸化亜鉛 ジメチルイソプロピルアズレンなどの油脂性軟膏 図 7 薬剤に適した創の状態 ( 主に滲出液 ) を色分けして示す 過剰適正 ~ 少ない少ない ブロメラインは壊死組織が硬く滲出液が少ないときには作用が減弱するため メスで表面に格子状の切れ目を入れる等の工夫が必要となる

えば 治療前半のwound bed preparationを目的とした時期で滲出液が少ない場合には水分補給作用を有する水中油型の乳剤性基剤を持つスルファジアジン銀を また 治療後半のmoist wound healingを目的とした時期で滲出液が多い場合には水分吸収作用を有するマクロゴール基剤を持つブクラデシンナトリウムなどを推奨しています おわりに褥瘡診療における最近の進歩は著しく その予防 ケア 治療においても今までの経験と勘の時代から科学的根拠に基づいた治療の時代へと移りつつあります また かつては医療の表舞台にでることのなかった褥瘡にも 褥瘡ケア用創部アセスメントツールの DESIGN や エビデンスに基づいた推奨を載せた診療ガイドラインが 2 年前の 2009 年 2 月には日本褥瘡学会により策定されました また 本年 8 月には日本皮膚科学会の創傷 熱傷ガイドライン委員会によって新たに 褥瘡診療ガイドライン が公表されました 前者の褥瘡学会のガイドラインは医師のみならず看護師 栄養士 薬剤師 理学療養士 作業療養士なども対象としたものであり 一方 後者の日本皮膚科学会のガイドラインは 臨床に従事する皮膚科開業医や病院のレジデントを対象としたものでありますが 両ガイドラインとも治療の基本コンセプトを同じであり 共に創を保護しつつ病期と創の深さを考慮した wound bed preparation と moist wound healing を心掛けることを基盤にしていることをもう一度強調しておきます 図の説明文図 1: 褥瘡の予防 ケアアルゴリズム ( 日本褥瘡学会編 : 褥瘡の予防 管理ガイドライン 照林社 東京 2009 より引用 ) 図 2: 褥瘡の進展様式 ( 福井基成 : 褥瘡治療のコンセプトよくわかって役に立つ新 褥瘡のすべて ( 宮地良樹 真田弘美編 ) 永井書店 大阪 2006 p164-169 より引用 ) 図 3: 急性期と浅い慢性期褥瘡 (d) に対する治療アルゴリズム ( 日本褥瘡学会編 : 在宅褥瘡予防 治療ガイドブック照林社 東京 2008 より一部改変して引用 ) 図 4: 深い慢性期褥瘡 (D) に対する DESIGN に準拠した治療アルゴリズム ( 日本褥瘡学会編 : 褥瘡の予防 管理ガイドライン 照林社 東京 2009 より一部改変して引用 ) 図 5: 深い慢性期褥瘡 (D) の時の DESIGN に準拠した外用薬の選択 ( 日本褥瘡学会編 : 褥瘡の予防 管理ガイドライン 照林社 東京 2009 より一部改変して引用 五十音順に記載 ) 図 6: 褥瘡の予防 ケアアルゴリズム ( 日本皮膚科学会編 : 褥瘡診療ガイドライン 日皮会誌 121 (9): 1791-1839, 2011 より引用 ) 図 7: 深い慢性期褥瘡の治療アルゴリズム ( 日本皮膚科学会編 : 褥瘡診療ガイドライン 日皮会誌 121 (9): 1791-1839, 2011 より引用 ) 図 8: 治療前半の TIME コンセプトによる wound bed preparation また 後半の moist wound healing を目指した外用薬の選択 ( 五十音順に記載 薬剤に適した創の状態 ( 主に滲出液 ) を色分けして示す過剰適正 ~ 少ない少ない )