頸椎捻挫 むちうち損傷 と徒手理学療法 背臥位 623 座位 図 1 Distrction test それぞれ中間位 屈曲位 伸展位で行う ランス障害などがみられる 環椎横靱帯の損傷に伴う症状とし ては 足下を見るときしばしばめまいを生じる 下肢の麻痺 眼振 嚥下障害 舌の感覚障害 咽頭の違和感 頭痛 耳鳴り バランス障害などがみられる 6 9 11 上位頸椎の安定性のテスト 1 3 上位頸椎の安定性テスト Joint integrity test は 上部頸 椎の自動 他動運動テストと靱帯の安定性テストで構成されて いる そしてむち打ち損傷などで頸椎に外傷を被った患者や頸 椎の不安定性が疑われる患者やリウマチ性疾患 感染症の患者 に特に有用なテストである 特に前記の翼状靱帯や環椎横靱帯 の損傷に伴う症状を有している患者 問診や視診で異常がある と判断した場合には必須のテストである考える それ以外でも セラピストが 頸椎に問題がある患者の評価 治療中に頸椎の 図 2 Side-ending stress test 中間位 屈曲位 伸展位で行う 不安定性を疑われた場合 上位頸椎の安定性テストを行うべき である 以下に記述する上位頸椎の安定性テストのいくつかが 陽性で 上位頸椎の不安定性が確認された場合は 徒手療法は 3 Upper cervicl flexion test 上位頸椎屈曲テスト 患者は背臥位 軸椎の椎弓を固定し セラピストの肩と同側 禁忌である の手で患者の頭を前後から挟みつけて 上位頸椎だけを屈曲さ 1 主として蓋膜のためのテスト せる 正常では 動きはほとんど認められない 主として蓋膜のテストは 基本的には上位頸椎になんらかの 形で牽引を加える誘発テストである 正常であれば動きはほと 4 Ventrl horizontl trnsltion etween occiput-tls-xis 上位頸椎腹側並進運動テスト んど認められないか 認められたとしてもわずかである もし 患者は座位 セラピストは一方の手を患者の後頭骨下部 も 動きが 2 mm 以上認められるか 上位頸椎の不安定性の症状が う一方の手は前方から軸椎横突起に置き固定し 後頭骨を腹 誘発 再現される場合が陽性である 陽性であった場合 他の 頭 牽引 側へ動かす 正常では 動きはほとんど認められない テストと併せて評価する必要があるが 徒手療法の禁忌となる 2 主として翼状靱帯のためのテスト 可能性が高い 1 Distrction test 牽引テスト 患者は背臥位か座位 セラピストは患者の頭側 座位で行う 場合は患者の横 に立ち 一方の手で軸椎の棘突起と椎弓を固 翼状靱帯のテストは 上位頸椎に側屈 回旋ストレスをかけ て動きを確認するテストである 正常での動きはほとんど認め られないか わずかである 1 Side-ending stress test 側屈ストレステスト 定し もう一方の手を後頭骨の背側にあてがい優しく頭部を牽 患者は背臥位 セラピストは軸椎の椎弓から棘突起を一方の 引する 図 1 牽引は 中間位 屈曲位 伸展位の 3 肢位で行 手の母指と示指で固定し もう一方の手で頭部を把持し 後頭 う 正常ではほとんど動かないか 動いてもわずかである も 骨と環椎を側屈させる 図 2 反対側の翼状靱帯に問題なけ し動きが 1 2 mm 以上あれば 陽性である また牽引により れば 頭部の動きはない なおこのテストは 上部頸椎を屈曲 上位頸椎の不安定性の症状が再現される場合も 陽性である 位 中間位 伸展位でも行う もし この 3 つの肢位すべてで 2 Distrction in upper cervicl flexion 上位頸椎を屈曲位で 動きがみられるなら テストは陽性と考えられ 翼状靱帯の断 の牽引テスト Distrction test を発展させた方法で 上位頸椎を屈曲位に して 牽引を加える 正常では 動きはほとんど認められない 裂か後頭骨環椎関節の関節不安定性が示唆される 2 Rottion stress test 回旋テスト 患者は座位 セラピストは軸椎の椎弓から棘突起を一方の手
624 理学療法学 図 3 Rottion stress test 中間位 屈曲位 伸展位で行う 先行研究によると正 常可動域は 20 度から 35 度と分かれている 環 軸椎を後方へ動かす 図5 第 41 巻第 8 号 図 4 Lterl trnsltion stress test 後頭骨と環椎を固定し 軸椎を動かす 中間位 屈曲位 伸展位で行う 環 軸椎を前方へ動かす Posterior or Anterior stility test of the tlnto-occipitl joint 後頭骨に対して 環 軸椎を後方もしくは前方に動かす の母指と示指で固定し もう一方の手で頭部を把持し 後頭骨 が緊張する そして左手母指と示指の間を用いて軟部組織の と環椎を回旋させる 図 3 たわみを取り 軸椎を右方向に動かす 図 4 このテストは 前記の Lterl flexion stress test と併せて行 このテストは 翼状靱帯のすべての線維方向を評価するため うことが多く 陽性の場合に 上位頸椎の不安定性が翼状靱帯 に 頭部を中間位 屈曲位 伸展位でそれぞれ両側性に行う の緩みによるものなのか 環軸関節の不安定性によるものかを 動きが確認できなければ正常である もし頭部を中間位 屈曲 決定するために行うことが少なくない もし 20 30 度以上の 位 伸展位すべての肢位で異常な終末感覚が認められれば 翼 回旋がみられる場合 反対側の翼状靱帯の損傷が示唆される 状靱帯の伸張が示唆される また過度の回旋の動きが同側への過度の側屈を伴う場合は翼状 5 Posterior stility test of the tlnto-occipitl joint 環 軸 靱帯の損傷が示唆され 過度の回旋の動きが反対側の過度の側 屈を伴う場合は環軸関節性の不安定性が示唆される 3 Pssive interverterl movement occipito-tlnto-xil rottion 上位頸椎回旋テスト 患者は座位 セラピストは下方の手の示指と中指を軸椎の椎 弓に置き尾背側へ押すように固定する 上方の手は示指を乳様 突起 中指を環椎横突起に置き 回旋を加えるように頭腹側へ 関節の後方安定性テスト 患者は背臥位 セラピストは患者の頭側に立ち 両手掌全体 で患者の後頭骨を把持し 左右の示 中指を患者の環椎と軸椎 の横突起から棘突起に置き 後頭骨に対して環 軸椎を同時に 腹側へ動かす 図 5 正常では 動きはほとんど認められない 6 Anterior stility test of the tlnto-occipitl joint 環軸関 節の前方安定性テスト 動かす このテストは 軸椎に対する後頭骨 環椎の回旋の動 患者は背臥位 セラピストは患者の頭側に立ち 左右の母指 きの質と量を評価するためのテストであり 様々な回旋角度で を患者の環 軸椎の左右の横突起の前 側面に置き 両手掌全 行われ過可動性を評価する 体と残りの指で後頭骨を背側から固定する そして両母指で同 4 Lterl trnsltion stress test 側方並進運動テスト 時に環 軸椎を背側へ動かす 図 5 正常では 動きはほと 患者は背臥位 環椎に対して頭部だけを側屈する たとえば 左側屈の場合 セラピストは環椎を右手母指と示指の間を用い んど認められない 3 主として環椎横靱帯のためのテスト て右から他動的に固定し 環椎が左方へ移動した状態を維持す 環椎横靱帯のテストは 基本的に環軸関節に前後方向にスト る この位置で翼状靱帯の左環椎付着部分と右後頭骨付着部分 レスをかけて行われる 翼状靱帯のテストと同じく 正常での
6 7
8 1
頸椎捻挫 むちうち損傷 と徒手理学療法 正中神経の伸張テスト 627 橈骨神経の伸張テスト 図9 c 尺骨神経の伸張テスト 神経伸張テスト 3 尺骨神経伸張テスト 患者は背臥位 セラピストは患者の検査側に立ち 肩甲帯を 下制 後退 肩関節を伸展 外旋 肘関節は屈曲 前腕を回外 もしくは回内 手関節を背屈 橈屈 手指は伸展し 頸椎を 反対側へ側屈 回旋させる 図 9c 3 神経根症状テスト 各髄節の椎間孔の狭窄などによって出現した神経根症状を検 査するテスト 牽引テストは緩和テストであるため 症状が緩 和されれば陽生である それ以外は誘発テストであるため し びれや疼痛などの症状が再現 増悪すれば陽性である 1 牽引テスト 患者は座位 セラピストは患者の背側に立ち 両手で患者の 牽引テスト 図 10 圧迫テスト 圧迫と牽引テスト 頭部を把持し頭部の重さを取り除く程度の優しい力で頭部を牽 引する 図 10 椎間孔による狭窄で神経根が圧迫されて疼痛などの症状が出 現していた場合は 牽引により椎間孔が広がるため症状が改善 する 疼痛などの症状が靱帯や筋のスパズムの場合は 症状は 増悪するかもしれない 2 圧迫テスト 患者は座位 セラピストは患者の背側に立ち 両手を患者の 頭頂部に置き 優しい力で頭頸部に圧迫を加える 図 10 椎間孔による狭窄で神経根が圧迫されて疼痛などの症状が出 現していた場合は 圧迫により椎間孔が狭まり疼痛などの症状 が再現する 疼痛などの症状が靱帯や筋のスパズムの場合は Spurling test 圧迫により症状が改善するかもしれない 3 Spurling Test 図 11 セグメント単位の Spurling test Spurling Test 下位頸椎の神経根を圧迫し 刺激症状を評価するテスト 患者は腰かけ座位 セラピストは患者の背側に位置し 患者 の頸椎をやや伸展 斜め後方に側屈する セラピストの両手を 頭頂部に置き 頸椎を下方に圧迫する 図 11 陽性の場合は 頸椎側屈側の疼痛や上肢への放散痛やしびれ 感がみられる 4 セグメント単位での Spurling test 患者は腰かけ座位 セラピストは患者の背側に位置し 患者 の頸椎をやや伸展 斜め後方に側屈する 片手を側屈と反対側 の頭頂部から側頭部に置き固定する 反対の手で 側屈側の頸 椎の椎弓をセグメント毎に腹内側に動かす 図 11 図 12 ドアベルテスト
628 理学療法学 眼球を上方視 図 13 第 41 巻第 8 号 眼球を上方視し ながら体幹を前 屈にしてもどす c 眼球を上方視しな がらベルトで抵抗 をかける 過可動性のある部位に対するスタビライゼーション 背側 陽性の場合は 動かしたセグメント直上の神経根症状 疼痛 や上肢への放散痛やしびれ感 がみられる 5 ドアベルテスト 患者は背臥位 セラピストは患者の頭側に立ち 頸椎横突起 の前結節と後結節の間からでてくる神経根に優しく圧迫を加え る 図 12 陽性の場合は 神経根を圧迫することで 疼痛や上肢への放 散痛やしびれ感などの神経症状が再現される 治 療 1 2 4 8 10 15 16 上位頸椎に不安定性が認められた場合は 基本的には徒手療 法は禁忌となる ただ 頸椎の深部筋に対するスタビライゼー ションは 不安定性を保護するためにも必要である また下位 眼球を下方視 眉間に抵抗をかけた状態で 下方視を行う 図 14 過可動性のある部位に対するスタビライゼーション 腹側 頸椎の不安定性により椎間孔が狭窄し 神経根が圧迫されて疼 痛やしびれなどの症状が出現している場合は 頸椎の牽引や神 部筋だけが収縮するように注意して行う 図 14 次に 患者 経のモビライゼーションを行う に 5 7 秒間下方視しているときに セラピストが一方の手で 1 スタビライゼーション 患者の頭を背側から把持し 腹側から眉間に抵抗をかける も 上位頸椎周囲の深部筋を中心にしたスタビライゼーション しくは 5 7 秒間下方視しながら自分の両母指で眉間に抵抗 は 眼球の動きと上位頸椎の動きが同調していることを利用し をかける 図 14 どちらも休憩を 5 秒入れて 10 回繰り返す て行われる 以下に最初に指導する方法をいくつか記載する 2 牽引 背側の筋のスタビライゼーションは まずは眼球だけで上方 牽引治療には 頸椎全体の牽引治療とセグメント単位の牽引 視を行ってもらう 頸椎は 動かさないように注意する 5 治療がある 椎間孔の狭窄により症状が出現している場合 椎 7 秒間上方視し 休憩を 5 秒入れて 10 回繰り返す 図 13 間孔を開大させて症状の改善を図る目的で行う 最初は 深部筋だけが収縮するように注意して行う うまくで 1 頸椎全体の牽引治療 きるようになれば 真横や斜め上 下にも動かすとよい 次に 患者は座位か背臥位 前術の牽引テストと同じ方法で 図 座位になり 眼球で上方視しながら頭部から体幹を真っ直ぐに 10 セラピストは患者の背側に立ち 両手で患者の頭部を把 したまま 股関節を屈曲しゆっくりともどす 図 13 1 回に 持し頭部の重さを取り除く程度の力で頭部を 30 秒以上牽引す つき 5 秒程度時間をかけて行うとよい 休憩を入れて 10 回 る 症状の改善が認められるなら 1 分程度行う 疼痛などの 繰り返す 頸部の背側にベルトやタオルで抵抗をかけて スタ 症状が強い場合は もっとも症状が軽い肢位で行い 症状の改 ビライゼーションを行うこともできる この場合も眼球で上方 善に合わせて中間位で行うようにする 視しながら 頸部の背側に回したベルトを両手で把持して抵抗 2 セグメント単位の牽引治療 をかけて 5 7 秒行う 図 13c 休憩を入れて 10 回繰り返す 患者は座位か背臥位 セラピストは一方の手で牽引を行うセ 腹側の筋のスタビライゼーションは まずは眼球だけで下方 グメントの尾側の椎体を固定し もう一方の手を頭側の椎体の 視を行ってもらう 頸椎は 動かさないように注意する 5 横突起から椎弓にあてがい 頭側にわずかな力で 30 秒以上牽 7 秒間下方視し 休憩を 5 秒入れて 10 回繰り返す 最初は 深 引する 症状の改善が認められるなら 1 分程度行う
頸椎捻挫 むちうち損傷 と徒手理学療法 図 15 図 16 629 牽引した状態での神経モビライゼーション 頸部の動きと同調した神経モビライゼーション 3 神経モビライゼーション 骨動脈テストを行うことで 少しでも信頼性を向上させる必要 1 牽引を加えての神経モビライゼーション があると考える 患者は座位か背臥位 正中神経レベルのモビライゼーション を行う場合は セラピストは患者の背側に立ち 両手で患者の 頭部を把持し牽引する 患者は その状態で患側上肢の肩関節 を伸展 外転 外旋 肘関節を伸展 前腕を回外 手関節を背 屈 手指伸展する 次に 患側上肢の肘関節を屈曲する 図 15 そしてこの動きをゆっくりと繰り返す 2 神経モビライゼーション 患者は座位か背臥位 正中神経レベルのモビライゼーション を行う場合は 患者は患側上肢の肩関節を伸展 外転 外旋 肘関節を伸展 前腕を回外 手関節を背屈 手指伸展し 頸椎 を患側に側屈 回旋 する 次に 患側上肢の肘関節を屈曲 すると同時に 頸椎を患側と反対に側屈 回旋 させる 図 15 この動きを繰り返す セラピストが動きを誘導する場合 は 一方の手で患者の患側手関節を把持し もう一方の手で患 者の頭部を把持し動きをコントロールする おわりに むち打ち損傷などによって 上位頸椎の不安定性の症状を訴 える患者は少なくないと思われる 上位頸椎に重篤な問題があ る場合には 徒手療法は禁忌であるため このような患者に対 しては まずは問診や視診を行う そして上位頸椎の不安定性 の症状を疑われた場合 必ず上位頸椎の安定性テストや椎骨動 脈テストを行い 安全性を確認した後で詳細な評価 治療を行 うべきである ただ上位頸椎の安定性テストは それぞれの靱 帯や椎骨動脈に応じたテストがあるものの 特異性や感受性に は差があるだけでなく 信頼性にも差があるように思われる したがって我々臨床家は 複数の上位頸椎の安定性テストや椎 文 献 1 Kltenorn FM, Evjenth O, et l.: Mnul Moiliztion of the Joints Volume II The Spine. OPTP. 2009. 2 Kruss JR, Evjenth O: Spinl Orthopedics L Mnul. OPTP. 2012. 3 Dvork J, Dvork V 最新徒手医学 痛みの診察法 江藤文夫 原田 孝 監訳 新興医学出版社 東京 1996 4 Cook CE: Orthopedic Mnul Therpy n Evidence-Bced Approch. PEARSON. 2012. 5 Petty NJ 神経筋骨格系の検査と評価 中山 孝 監訳 医歯薬 出版 東京 2010 6 Mgee DJ 運動器リハビリテーションの機能評価 I 陶山哲夫 監訳 エルゼビア ジャパン 東京 2006 7 Kpndji IA 関節の生理学 Ⅲ体幹 脊柱 荻島秀男 監訳 医歯薬出版 東京 1988 8 Kruss JR, Evjenth O, et l.: Trnsltoric Spinl Mnipultion. OPTP. 2006. 9 Lewit K 徒手医学のリハビリテーション 大川 泰 監訳 エ ンタプライズ 東京 2000 10 Grieve GP グリーブの脊柱モビリゼーション 斎藤昭彦 監訳 エンタプライズ 東京 2000 11 Shrp J, Purser DW: Spontneous Atlnto-Axil Disloction in Ankylosing Spondylitis nd Rheumtoid Arthritis. Ann rheum Dis. 1961; 20: 47 77. 12 Aspinll W: Clinicl testing for the crnioverterl hypermoility syndrome. J Orthop Sports Phys Ther. 1990; 12(2): 47 54. 13 Kerry R, Tylor AJ: Cervicl Arteril Dysfunction: Knowledge nd resoning for mnul physicl therpists. J Orthop Sports Phys Ther. 2009; 39(5): 378 387. 14 Hoppenfeld S 図解 四肢と脊椎の診かた 野島元雄 監訳 医 歯薬出版 東京 1984 15 Butler DS バトラー 神経系モビライゼーション 伊藤直榮 監 訳 共同医書 東京 2000 16 Shcklock M クリニカルニューロダイナミクス 神経筋骨格障 害の新しい評価 治療システム エンタプライズ 東京 2008