【資料4-1】ヒト微生物叢(microbiome)に関する研究開発を成功させるために必要なこと「健常者情報の重要性」

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資料2_ライフサイエンス研究におけるオープンサイエンスの推進(理化学研究所 小安重夫氏 説明資料)

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

2015 年 8 月 26 日放送 便移植の適応と有効性 慶應義塾大学消化器内科教授金井隆典腸疾患増加の原因きょうは 便移植の適応とその有効性ということについてお話しさせていただきたいと思います 私の専門であります炎症性腸疾患 クローン病とか潰瘍性大腸炎という病気が今増加しております 若者に多く発症

発表内容 1. 背景感染症や自己免疫疾患は免疫系が強く関与している病気であり その進行にはT 細胞が重要な役割を担っています リンパ球の一種であるT 細胞には 様々な種類の分化したT 細胞が存在しています その中で インターロイキン (IL)-17 産生性 T 細胞 (Th17 細胞 ) は免疫反応

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

研究から医療へ より医療への実利用が近いもの ゲノム医療研究推進ワーキンググループ報告書 (AMED) 臨床ゲノム情報統合データベース公募 対象疾患の考え方の方向性 第 1 グループ ( 主に を目指す ) 医療への実利用が近い疾患 領域の着実な推進 単一遺伝子疾患 希少疾患 難病 ( 生殖細胞系列

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

第6号-2/8)最前線(大矢)

計画研究 年度 腸管出血性大腸菌を中心とした腸管感染菌の病原性ゲノム基盤の 解明と臨床応用 林 哲也 1) 小椋 義俊 1) 大岡 唯祐 2) 1) 宮崎大学フロンティア科学実験総合センター 戸邉 亨 3) 2) 宮崎大学医学部 飯田 哲也 4) 桑原 知巳 5) 3) 大阪大学

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

平成14年度研究報告

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

(1) ビフィズス菌および乳酸桿菌の菌数とうつ病リスク被験者の便を採取して ビフィズス菌と乳酸桿菌 ( ラクトバチルス ) の菌量を 16S rrna 遺伝子の逆転写定量的 PCR 法によって測定し比較しました 菌数の測定はそれぞれの検体が患者のものか健常者のものかについて測定者に知らされない状態で

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

< 研究の背景と経緯 > ヒトの腸管内には 500 種類以上 総計 100 兆個以上の腸内細菌が共生しており 腸管からの栄養吸収 腸の免疫 病原体の感染の予防などに働いています 一方 遺伝的要因 食餌などを含むライフスタイル 病原体の侵入などや種々の医療的処置などによって腸内細菌のバランスが乱れると

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

No. 2 2 型糖尿病では 病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります そのため 腸内フローラを適切に維持し 血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です プロバイオティクス飲

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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プロジェクト概要 ー ヒト全遺伝子 データベース(H-InvDB)の概要と進展

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308 まず定着するのは大腸菌や腸球菌といった通性嫌気性菌 すなわち酸素の存在の有無にかかわらず発育できる菌群である しかし 生後 3 日目頃には環境中に酸素があると生育できない偏性嫌気性菌 (Bifidobacterium や Bacteroides Clostridium など ) が登場し な

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

日本内科学会雑誌第105巻第9号

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

平成24年7月x日

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

析法やフォーマットが混在し 発足から数年たった現在でも 統一されたデータは発表されていません また 2014 年 5 月に この HPP とは無関係に ヒトプロテオームドラフトマップ注 7 が Nature 誌で発表されました しかし このドラフトマップは 網羅性を上げるためにデータをひたすら寄せ集

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ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 郷田瑛 論文審査担当者 主査和泉雄一副査山口朗原田浩之 論文題目 Analysis of the factors affecting the formation of the microbiome associated with chronic osteomye

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%


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後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

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2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

エネルギー代謝に関する調査研究

接歯や粘膜上皮に付着できない菌も組織定着が可能です ( 図 2) 口腔ケアが低下し異菌種間の凝集を仲介する細菌種の Fusobacterium や Actinomyces などが増えると プラーク量は一気に増加します ( 図 2) 徐々にプラーク内の嫌気度が増し 歯周病原菌 Porphyromona

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

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本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

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1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

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NEWS RELEASE 東京都港区芝 年 3 月 24 日 ハイカカオチョコレート共存下におけるビフィズス菌 BB536 の増殖促進作用が示されました ~ 日本農芸化学会 2017 年度大会 (3/17~

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娠中の母親に卵や牛乳などを食べないようにする群と制限しない群とで前向きに比較するランダム化比較試験が行われました その結果 食物制限をした群としなかった群では生まれてきた児の食物アレルゲン感作もアトピー性皮膚炎の発症率にも差はないという結果でした 授乳中の母親に食物制限をした場合も同様で 制限しなか

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卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

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本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

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Clostridium difficile 毒素遺伝子検査を踏まえた検査アルゴリズム

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2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

東京医科歯科大学医歯学研究支援センター illumina Genome Analyzer IIx 利用基準 平成 23 年 10 月 1 日医歯学研究支援センター長制定 ( 趣旨 ) 第 1 条次世代型シークエンサーはヒトを含むあらゆる生物種の全ゲノム配列の決定 全エキソンの変異解析 トランスクリプ

Transcription:

ライフサイエンス委員会基礎 横断研究戦略作業部会 2016 年 6 月 20 日 資料 4-1 ( 小安委員提出資料 ) ヒト微生物叢 (microbiome) に関する研究開発を成功させるために必要なこと 健常者情報の重要性 理化学研究所 小安重夫 1

腸内細菌のメタゲノム 機能情報解析拠点形成と日本人 10K プロジェクト 背景 腸内細菌の異常が炎症性腸疾患や大腸がんなどの腸疾患のみならず 糖尿病 動脈硬化などのメタボリック症候群 アレルギー 関節リウマチなどの免疫疾患とも関連することが最近知られている さらに 腸の状態は 腸脳軸 として脳神経活動とも密接に関係し 自閉症やうつ病などの脳神経疾患との関連も指摘されつつある したがって 腸内細菌の組成や機能の理解はこれらの疾患の治療や予防に直結する重要な課題である 腸内細菌研究の世界の現状は 細菌ゲノムの網羅的解析 ( メタゲノム解析 ) による細菌ゲノムのカタログ作りであり 欧米では国家的プロジェクトによりデータの集積が進んでいる しかし 腸内細菌には人種差 地域差が認められる 健康 医療戦略推進本部 ( 平成 26 年 7 月 22 日 ) の 医療分野研究開発推進計画 ( 案 ) においても アジア人に固有の腸内細菌のゲノム情報の集積 を行うことによる 疾患の診断治療のみでなく 重症化や薬剤副作用の予防 発症予防の実現に向けた研究開発の促進及び環境整備等 の必要性が明記されている このためには メタゲノムによるカタログ作りに加え 細菌遺伝子の網羅的発現解析 ( メタトランスクリプトーム ) や代謝物の網羅的解析 ( メタボローム ) による機能情報解析が必須である なお 細菌叢の解析は腸内にとどまらず 皮膚や唾液などに関しても広範に行う必要性も指摘されている 研究概要 日本人を中心に正常腸内細菌のゲノム 機能情報を集積し そのデータベースを広く研究者コミュニティに公開するとともに 全国の大学 医療機関との連携により種々の疾患の腸内細菌のゲノム 機能情報を集積するための拠点を形成する メタゲノム 機能情報解析拠点 正常 疾患腸内 細菌等サンプル 正常 疾患腸内 細菌等サンプル 医療機関 第 3 世代シーケンサー 高精度質量分析装置 大学 疾患ゲノム情報 正常腸内細菌のゲノム 機能情報 疾患腸内細菌のゲノム 機能情報 腸内細菌関連疾患の新規予防 治療法への応用 2

腸内細菌と疾患 関節リウマチ (800,000 $10billion) アトピー性皮膚炎 (10-13% of infants) 2 型糖尿病 (2.7million $12billion) 虚血性心疾患 (810,000 $7.7billion) 炎症性腸疾患 (810,000 $130million) 食物アレルギー (5-10% of infants) 免疫系 腸管 常在細菌叢 環境 上皮 ( 皮膚 腸管 生殖器 ) と免疫系は環境 ( 常在菌 ) と体の生理機能の橋渡し器官である 3

ヒト常在菌メタゲノム解析の国際動向 腸内フローラによる病態の制御 ヒトゲノム ( 遺伝背景 ) Science 315, 1781 (2007) Mar. 30 Understanding the microbiome-human, animal, and environmental is as important as the human genome. ヒト 動物 環境中の細菌叢を理解することはヒトゲノムを理解することと同じように重要である 疾患 メタボリック症候群 ( 糖尿病 肥満 高血圧 虚血性心疾患 ) 免疫疾患 ( 自己免疫 リウマチ アトピー 食物アレルギー ) 脳神経疾患 ( 自閉症 うつ病 ) 腸疾患 ( 炎症性腸疾患 大腸癌 偽膜性腸炎 ) 肝障害 感染症 抵抗性減退 下痢 便秘 発育障害 超有機体 ヒトマイクロバイオーム 免疫系腸内細菌 様々な要因 宿主の生理状態 ( 年齢 性別 病気等 ) 食習慣 食文化 ( 高脂肪 高タンパク等 ) 生活環境 空間 ( 周囲の細菌 清潔度 化学物質等 ) 研究費フランス イギリス (EU) MetaHIT (Metagenomics of the Human Intestinal Tract) 2,210 万ユーロ ( 約 31 億円 ) (2008-2012 年 ) => 終了へ アメリカ HMP (Human Microbiome Project) 1 億 4,000 万ドル ( 約 140 億円 ) (2008-2012 年 ) (*2013 年以降は 各疾患プロジェクト予算に振り分け メタゲノム解析予算の総額は増加 ) 日本 Human MetaGenome Consortium Japan (HMGJ) 国家プロジェクト予算なし (2005-) 2007 年 12 月 : 国際コンソーシアム (IHMC) 設立 日 米 フランス (EU) 中国 カナダ オーストラリア シンガポール 4

なぜ今日本で進めなければならないか? たとえば 日本人における炎症性腸疾患の患者数は引き続き増加の一途をたどっている 欧米では既に患者数は飽和していると考えられている 日本人で増加しているのは食生活の変化が一つの原因と考えられているが 証拠はない 今後前向きコホートも含め腸内細菌叢と疾患発症を追跡することで真の環境要因が明らかになると期待され このような研究は欧米では不可能であろう 5

文部科学省 平成 28 年度研究開発目標 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/03/1368512.htm 宿主と微生物叢 ( そう ) 間クロストーク 共生の解明と健康 医療への応用 ( 達成目標 ) 本研究開発目標では 微生物叢という新たなフロンティアに切り込むことで 生命や疾患の理解の深化 そして従来とは異なる新しいコンセプトに基づく健康 医療技術の創出などを目指す 具体的には 以下の達成を目指す (1) 微生物叢の解析技術の高度化 (2) 宿主 微生物叢間の相互作用 疾患発症機序の解明 (3) ヒト微生物叢に着目した 予防 診断 治療技術の創出 AMED-CREST, PRIME 微生物叢と宿主の相互作用 共生の理解と それに基づく疾患発症のメカニズム解明 6

日本で行う必要性 : 日本人の腸内フローラは外国人とは異なる メタゲノム解析 腸内フローラ遺伝子のカタログ作り 1. 日本人の腸内フローラは他国と異なる 2. 日本人腸内フローラ遺伝子の 76% は日本特有 100% 90% 80% 70% 60% P DK SP CN US Other genera Blautia Coprococcus Dorea 日本人特有 日本人欧米人共通 789918 2214531 789918 欧米人特有 2341172 日本人欧米人共通 50% 40% 30% 20% 10% 0% Roseburia Escherichia @Lachnospiraceae _genus Ruminococcus 789918 2341172 2214531 日本人特有 欧米人特有 日本人欧米人共通 Qin J et al., Nature 2010; Qin J et al., Nature 2012; Human microbiome project et al., Nature 2012, Iijima et al., DNA Res. 2016 7

健常者腸内マイクロバイオームは国間で大きく異なる MDS of all subjects 国ごとに特徴的な菌叢構造を持つ d = 0.2 1.00 P-value <0.01 MDS2 (27%) SE RU VE MW JP ES DK CN US JP CN US DK SP SW RU VM More similar Pearson s correlation 0.75 0.50 0.25 0.00 Within country Between countries MDS1 (41%) 同国内の個人間の菌叢の類似性は他国の個人間の類似性よりも有意に高い Qin J et al., Nature 2010; Qin J et al., Nature 2012; Human microbiome project et al., Nature 2012, Iijima et al., DNA Res. 2016 8

国間の違いは健常 - 疾患間の違いよりも大きい H: 健常者 T2D: 2 型糖尿病 IGT: 糖尿病予備群 UC: 潰瘍性大腸炎 100% Other genera 80% 60% 40% 20% 0% S H D H K C E W U H D T P C Escherichia Butyrivibrio Coprococcus Roseburia Dorea @Lachnospiraceae_genus Ruminococcus Clostridium Parabacteroides Alistipes Bifidobacterium Faecalibacterium Prevotella Eubacterium Bacteroides 我が国独自のマイクロバイオーム基盤データの取得が必須 9

背景 ( 追加 ): 腸内細菌だけか? 唾液中の細菌叢や皮膚の細菌叢も解析対象としては重要であるという指摘がある 唾液中の細菌叢では日内変動も見られている 皮膚の細菌叢も日本人の特有であり また加齢と共に多様性が上昇する 1 0

さらに進めるべき研究開発 難培養性細菌の培養法の開発 個別の細菌ゲノムレファレンスの構築 (PacBio に代表される新しい一分子シークエンサーの活用?) 真菌やウイルスの解析 微生物代謝マップの精緻化 推計統計学かベイズ統計学か? 情報学 統計学の人材育成 11

システムとして整備すべきこと バンクの構築 データの取り方 プロトコール全体の統一 ( 使ってもらえるデータベースの構築 ) ヒトゲノム解析との連携 エピゲノム解析基盤の構築 ( 一細胞レベルの解析?) と連携 Precompetitive 領域のコンソーシアムの整備 知財戦略は? JST? と AMED? 内局? 12

オールジャパン体制 大学 腸内エコシステム 腸内細菌ゲノム 機能情報解析拠点 メタボローム 1 H- NMR 医療機関 正常 疾患腸内細菌等サンプル 第 3 世代シーケンサー 高精度質量分析装置 共相関解析 cdna library トランスクリプトーム Shotgun sequencing 研究機関 統合オーミクス解析 メタゲノム ノトバイオート解析 疾患ゲノム情報 疾患腸内細菌のゲノム 機能情報 正常腸内細菌のゲノム 機能情報 波及効果 腸内細菌関連疾患の新規予防 治療法への応用 大気 土壌 植物 家畜 家禽海洋 珊瑚養殖場 生活スペース ショッピングモール 13