褥瘡処置について 沖永良部徳洲会病院初期研修医 千葉西総合病院研修医 2 年次 小山右文
症例 60 歳男性 主訴意識障害 現病歴独居 右麻痺あり訪問介護介入中の方 26 年 3 月意識状態が普段より悪く来院し CT を撮影した所視床出血が見つかり入院となった 既往歴脳梗塞糖尿病
入院後 入院後意識は改善し リハビリで症状は安定した その後 誤嚥性肺炎に繰り返し罹患し また社会的問題もあったため入院は長期化した 26 年 5 月 糖尿病 栄養不良などの背景もあり仙骨部に 3cm 5cm の褥瘡が発生した
褥瘡とは 褥瘡 (pressure ulcer) 持続的な圧迫によって 組織の血流が減少 消失し 虚血状態 低酸素状態になって 組織の壊死が起こった状態です
褥瘡の評価方法 DESIGN+P Depth( 深さ ) Exclude( 浸出液 ) Size( 大きさ ) Inflammation/Infection( 炎症 / 感染 ) Granulation tissue( 肉芽組織 ) Necrosis tissue( 壊死組織 ) Pocket
カルテ番号 ( ) DESIGN-R 褥瘡経過評価用患者氏名 ( ) 月日 / / / / / / Depth 深さ創内の一番深い部分で評価し 改善に伴い創底が浅くなった場合 これと相応の深さとして評価する 0 皮膚損傷 発赤なし d 1 持続する発赤 3 皮下組織までの損傷 4 皮下組織を越える損傷 D 5 関節腔 体腔に至る損傷 2 真皮までの損傷 U 深さ判定が不能の場合 Exudate 滲出液 0 なし e 1 少量 : 毎日のドレッシング交換を要しない 3 中等量 :1 日 1 回のドレッシング交換を要する E 6 多量 :1 日 2 回以上のドレッシング交換を要する Size 大きさ皮膚損傷範囲を測定 :[ 長径 (cm) 長径と直交する最大径 (cm)] *3 0 皮膚損傷なし 3 4 未満 s 6 4 以上 16 未満 8 16 以上 36 未満 9 36 以上 64 未満 12 64 以上 100 未満 S 15 100 以上 Inflammation/Infection 炎症 / 感染 i 0 局所の炎症徴候なし 3 局所の明らかな感染徴候あり ( 炎症徴候 膿 悪臭など ) I 1 局所の炎症徴候あり ( 創周囲の発赤 腫脹 熱感 疼痛 ) 9 全身的影響あり ( 発熱など ) Granulation 肉芽組織 0 治癒あるいは創が浅いため肉芽形成の評価ができない 4 良性肉芽が 創面の10% 以上 50% 未満を占める g 1 良性肉芽が創面の90% 以上を占める G 5 良性肉芽が 創面の10% 未満を占める 3 良性肉芽が創面の50% 以上 90% 未満を占める 6 良性肉芽が全く形成されていない Necrotic tissue 壊死組織混在している場合は全体的に多い病態をもって評価する n 0 壊死組織なし 3 柔らかい壊死組織あり N 6 硬く厚い密着した壊死組織あり *1 Pocket ポケット毎回同じ体位で ポケット全周 ( 潰瘍面も含め )[ 長径 (cm) 短径 (cm)] から潰瘍の大きさを差し引いたもの 6 4 未満 p 0 ポケットなし 9 4 以上 16 未満 P 12 16 以上 36 未満 24 36 以上 部位 [ 仙骨部 坐骨部 大転子部 踵骨部 その他 ( )] 合計 *2 *1 : 短径 とは 長径と直交する最大径 である 日本褥瘡学会 /2013 *2 : 深さ (Depth:d.D) の得点は合計には加えない *3 : 持続する発赤の場合も皮膚損傷に準じて評価する
褥瘡の分類について 右記のように 4 期に分けて分類される
褥瘡の治療法 黒色期 ~ 黄色期の治療まずは肉芽が形成される環境を整える事が必要 壊死組織の除去 ( デブリドマン ) を行う 赤色期 白色期の治療創部の湿潤環境保持を行い 肉芽組織ができるように 上皮化を促す環境を整える
褥瘡 (pressure ulcer) の治療法 外用薬 ( ワセリンゲーベン軟膏 ) 適度な湿潤環境を保つ ドレッシング材創傷の湿潤環境を保ち 浸出液を吸収する 外科的治療壊死組織除去ポケットの切開切除 ラップ療法 陰圧閉鎖療法
褥瘡 (pressure ulcer) の治療法 外用薬 ( ワセリンゲーベン軟膏 ) 適度な湿潤環境を保つ ドレッシング材創傷の湿潤環境を保ち 浸出液を吸収する 外科的治療壊死組織除去ポケットの切開切除 ラップ療法 陰圧閉鎖療法
陰圧閉鎖療法とは 陰圧閉鎖療法 (NPWT) の定義 NPWTとは 創傷を密閉し持続的陰圧を加えることにより創傷治癒を促進させる物理療法
陰圧閉鎖療法の作用機序 作用機序 1 創収縮の促進 2 過剰な浸出液の除去と浮腫の軽減 3 創傷血液量の増加 4 細菌 浸出液の除去による炎症の軽減 5 細胞 組織に体する物理的刺激
陰圧閉鎖療法とは 吸引により陰圧状態を保ち肉芽形成を促進する
1 被覆材を傷の形状に合わせて当てる 2 透明フィルムで密封する 3 ドレナージ管を透明フィルムに開けた穴を通して接続する 4 ドレナージ管は吸引源に接続され 開いた傷を閉じるように調整される
陰圧閉鎖療法の歴史 キネティックコンセプト社による 陰圧閉鎖療法 (VAC) が有名 1995 年に商品化された 2009 年 11 月 日本でも認可され 2010 年 4 月からは保険の適用が可 能となった
NPWT のエビデンスに基づく症例が 3 分野に分かれて出版された Feb 2011:Acute and Traumatic Wounds published as a supplement to injury 42(2011)S1-S12 外傷 & 再建術 Sept 2011:Treatment Variables Published as a supplement to the Journal of Plastic,Reconstructive and Aesthetic Surgery (2011)64 S1-S16 陰圧値 フィラー コンタクトレイヤーの選択 Dec 2011:Chronic Wounds published as a supplement to be the Journal of Tissue Viability 慢性創傷
陰圧閉鎖療法のその他の利点 浸出液が多い創では粘着性フィルムはすぐに剥離してしまうので, 使用ができなかった 陰圧閉鎖療法では浸出液は強制的にドレナージされるので 1 週間も貼りっぱなしにすることができる 軟膏を使わなくてすむ
褥瘡の経過 洗浄 + ゲーベンクリームで治療を開始だが効果はみられず褥瘡は徐々に大きくなっていった 5/25 4 3 9/14 7.5 4.5 10/1 から陰圧閉鎖療法開始 10/20 3.0 3.5 単位 (cm)
DESIGN では (10/1 治療開始 ) 日程点数 4 月 27 日 11 点 6 月 15 日 31 点 6 月 22 日 44 点 11 月 4 日 25 点 11 月 11 日 25 点
炎症反応の変化 10 月 1 日から陰圧閉鎖療法開始 CRP WBC 9 月 2 日 4.13 8000 9 月 8 日 7.21 12300 10 月 7 日 0.78 7200 11 月 12 日 2.45 9100
陰圧閉鎖療法使用後の変化 7/5 11cm 5cm 11/11 5cm 2cm
陰圧負荷の道具 10/1 10/31 は機材がないためドレーバッグにて陰圧を負荷し 37mmHg にて陰圧負荷を行った smith and nephew 社の RENASYS をレンタルし 125mmHg という高い圧で陰圧を負荷する事が可能になった 37mmHg 125mmHg
陰圧閉鎖療法が保険で算定される疾患 外傷性裂開創 外科手術後離開創 四肢切断端開放創 デブリードマン後皮膚欠損創
急性期の創傷から慢性期の創傷まで 使用可能 糖尿病性潰瘍 外傷による創傷
他の治療法との比較 ラップ療法 陰圧閉鎖療法 ドレッシングラップ粘着性フィルムガーゼ 創の圧迫圧迫しない陰圧圧迫する 浸出液 自然にドレナージされる 強制的にドレナージ 処置の回数毎日 1 回 / 週毎日 特別な器具不要必要高価不要 従来の治療法 創内に閉じ込められる
創傷閉鎖日数の臨床成績 疾患分類 既存対照群 n(41) 陰圧閉鎖 n(26) 閉鎖日数 n 閉鎖日数 n 外傷性裂開層 縫合後融解層 33.4 日 5 13.4 日 7 48.8 日 6 12.6 日 8 皮膚欠損層 67.8 日 25 16.6 日 6 四肢切断層 70.6 日 5 26.8 日 5
陰圧閉鎖療法のまとめ 長所 ドレッシングの交換回数が激減する 早期の肉芽形成を促進し治療期間が短縮する 短所 専用の機械が必要である 移動時に機械の持ち運びが必要 ただ QOL を低下させる程ではない
離島研修にて 今回の陰圧閉鎖療法は 始まりは当院の後期研修医が始めたものである 今後も陰圧閉鎖療法を継続してもらいたいとういう事で器具の購入を依頼した
ご清聴ありがとうございました