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総論 5 Ⅱ. 通常照射の品質管理 はじめに放射線治療部門における外部照射装置と放射線治療計画コンピュータシステム,X 線シミュレータ,CTシミュレータの質的保証(Quality Assurance:QA) に関し, 通常の放射線治療を行う上で必要となる事項を取り上げる 質的保証 (Quality Assurance) とは 患者およびその家族にその治療に用いられる全ての行為および装置の十分な質を保証するために医療側が行う体系的活動 であり, 質的管理 (Quality Control:QC) とは 患者に対する診療行為および関連する医療手段の全ての管理 を意味する なお, 放射線治療の品質管理の専門職として放射線治療品質管理士が放射線治療品質管理機構より認定されている 1. 医用加速装置の質的保証 (QA) 1) 仕様策定医用加速装置の設置にあたりエネルギー, 線量率, 平坦度などの仕様の策定を行うが, この段階から品質保証が始まる 臨床的に要求される照射方法に対応した仕様を決定すると共に, 放射線治療の安全性を考慮した仕様を決定する ここでは要求レベルと許容誤差を検討しなくてはならない 2) 受入れ試験 (acceptance test) 装置設置直後に行う試験が受入れ試験である これは装置の性能, 精度, 仕様が契約時の仕様に合致している事と, 初期不良を早期に発見する事が目的で, 使用者の立ち会いのもとに納入業者が実施する試験である 実際には装置メーカーが定めている試験項目と方法により試験を実施し, 使用者がその結果を確認する 性能や仕様が満たされていない場合は再調整を要求して改善を行い, 要求したスペックである事を確認する 最終的に試験結果報告書をまとめ, 使用者と納入業者の双方が確認のサインを行い受け渡し試験は終了する 受け入れ試験結果は装置の質的保証の基準となる重要な試験である したがって, 装置メーカーが指定していない検査項目がある場合や使用者が希望する試験方法と異なる場合は, 追加の試験を要求する事も必要である 受け入れ試験で実施した項目と試験方法が, 以後より継続される定期点検 ( 不変性試験 ) の管理項目と試験方法の一部となるため, 大変重要な試験である 受入れ試験に関する国際規格として国際電気標準会議 (IEC, International Electrotechnical Commission) よりIEC 976(1989) 2), IEC 977(1989) 3) が報告され, 質的保証の基本となっている 国内では上記国際規格に沿った内容で日本工業規格 ( 医用電子加速装置 性能特性 JIS Z 4714) が2001 年に制定されている 4)

6 総論 3) 不変性試験 (constancy test) 医用加速器の定期的な質的保証を不変性試験と呼ぶ 経年変化により部品の劣化や調整値の変化, 機械的な摩耗や腐食などにより医用加速器の状態は変化していく この変化を早期に発見し, 納入当初の品質を維持するために定期点検が実施される 定期点検は受入れ試験で実施した項目から必要な項目を選択し, 適切な頻度で実施し, 事前に決めた管理基準値内に結果が収まっている事を確認することが目的である 管理基準値を越えた場合は再調整を実施し, 当初の品質を維持する事が必要となる したがって, 試験項目とその頻度および許容誤差の決定が重要となる 頻度は毎日, 毎週, 毎月, 毎年などと多様であり, 試験項目も多い 国内でも定期点検に関するプログラムやマニュアル 5 7) が発行されているが, それらを参考に実施計画 ( プログラム ) を立てると良い 基本的には重要度が高く不変性の低い項目の頻度は高くし, 許容誤差は医用加速器の特性を考慮に入れ使用者が判断する 質的保証プログラムは, 装置の状態, 測定機器, マンパワー, などを考慮して使用者が最善と思われるプログラムを作成し, その確実な実施が重要である また定期的に見直しを行い, 装置の特性や品質を考慮した融通性のある運用が求められる 4) 管理項目 頻度 許容誤差医用加速器の質的保証には幾何学的管理と線量管理がある 日本放射線腫瘍学会 (JASTRO) による外部放射線治療におけるQAシステムガイドライン 5) が参考となる これ以外にもさまざまなプログラムやマニュアル 1, 6, 7) があり, 項目や頻度, 許容誤差に多少の差異がみられるが, いずれもIEC976, IEC977が基本となっている 試験方法に関しては具体的な記述に乏しいが, 受入れ試験で採用した方法が基本である 線量管理に関しては測定機器に依存する項目が有り, また測定方法によっても結果が異なる場合がある したがって測定機器の取り扱いに習熟し, 測定誤差に注意を払う必要が有る 線量管理で最も重要な管理項目は線量モニタシステムの校正である これは医用加速器の出力を絶対線量で管理する試験で, その結果は投与線量の精度に直接影響を及ぼすため, 点検頻度は毎日となっている 絶対線量評価は日本医学物理学会編による外部放射線治療における吸収線量の標準測定法が国内のプロトコルとなっている 8) これは世界標準となる吸収線量のトレーサビリティーに則った測定法で, 水吸収線量校正定数を持つ電離箱が用いられる 細かな手順や計算方法が示されており, 忠実にこのプロトコルに従い吸収線量を評価しなくてはならない また, 測定機器の品質保証も加速器と同様に重要である 特に電離箱の感度変化に関しては年 1 回の校正が望まれる

総論 7 2. 放射線治療計画用コンピュータシステム (Radiation treatment planning system : RTPS) 治療計画用コンピュータシステムも質的保証が必要であるが, 使用開始前のビームデータ等のRTPSへの登録, ビームデータのモデリングとそれに続くコミッショニングが大変重要である コンピュータのハードウェアに依存する機械的, 電気的な管理ではなく, 入力したビームデータの妥当性の確認と計算結果の評価が重要で, 線量分布や計算されたmonitor unit(mu) 値の検証を使用前に行はなくてはならない これらの質的保証についてはAmerican association of physics of medicine (AAPM) TG53 (1995) 9) やIAEA TRS430(2004) 10),AAPM TG65 (2004) 11), 医療安全のための放射線治療計画装置の運用マニュアル (2007) 12), 放射線治療技術マニュアル (1998) 13) が参考となる 1) 受入れ試験 RTPSがその仕様書どおりに稼働する事を確認する作業であり, 使用者が特別な仕様を要求しない限り受入れ試験を追加して行う必要はない 仕様書どおりのハードウェアや周辺機器, 計算アルゴリズム,Dose Volume Histogram (DVH) などの付帯アプリケーション, 入出力関係 ( プリンタ, プロッタ,DICOM RT) の正常な動作確認が主たる作業である ここでの質的保証は登録したビームデータや加速器パラメタに誤りがないかを確認することである 数値の入力ミスや楔フィルタの方向間違いなどによる医療事故が発生しており, 入力した全てのデータをダブルチェックする事が大変重要である RTPSで重要となるのは 3) で述べるモデリングと 4) のコミッショニングである アルゴリズムが最新の機能を持っていても, それに入力するビームデータが正確に測定されたものである事が基本である モデリングにより計算結果が臨床ビームと一致するようアルゴリズムのパラメタを調整し, コミッショニングにより臨床データとの誤差を評価する事が重要である これによってシステム本来の計算精度が担保され, 計算結果に対する臨床的評価が可能となる 2) ビームデータ取得 RTPSに入力するビームデータの測定精度が重要で, この測定は使用者の責任において使用者が行う作業である 機種や計算アルゴリズムにより必要となるデータの種類や測定条件は異なるが, 基本的には深部量百分率 (PDD), 軸外線量比 (OCR), 出力係数 (OPF), 楔フィルタなどのビーム修飾器具の補正係数などの項目について, 照射野サイズごとに, あるいは測定深ごとのデータセットが必要となる これらの測定には電離箱線量計, 半導体線量計, フィルムなど, さまざまな測定機器が用いられるが, それぞれの特徴を理解して測定する必要が有る 検出器のエネルギー依存性, 方向依存性, 感度に注意し, 特に小照射野では検出器サイズの検討が必要となる 測定データは十分な解析を行

8 総論 い, グラフ化して特異なデータが無いことを確認すると共に照射野依存, 測定深依存のあるデータはプロットしたグラフが不合理な交差がない事を確認する必要がある 自己一貫性 (self consistency) のあるデータセットを構築する事が重要である RTPSに事前登録されているサンプルデータや, 公表されているビームデータ, 他施設のビームデータは絶対使用してはならない 3) モデリング RTPSにビームデータや加速器のパラメタを登録し, 計算アルゴリズムに応じた関数の設定をビームデータに合わせ込み, 最終的にビームデータを承認するまでの作業をモデリングと呼ぶ モデリング作業は納入業者が実施する場合と, 使用者が実施する場合などがあるが, 最終的にモデリングされた結果を承認するのは使用者である したがって, 納入業者が行った場合は, その結果を必ず確認して最適なモデリング処理がなされた事を確認する必要がある ここでの品質保証は, 入力したビームデータ (PDD,OCR) と計算された同一条件でのデータを比較し, その差分を検証する作業となる 両者の一致が理想であるが, 完全な一致はかなり難しい 計算アルゴリズムやモデリング手法により許容できる誤差は異なるが, 一般的に報告されている計算精度や装置の仕様を参考に評価するとよい 4) コミッショニングさまざまなベンチマーク試験を実施し, その計算結果を実測値と比較検証を行い, 計算結果が臨床使用で求められる許容基準誤差であることを確認する作業である 誤差が許容できない場合は, 登録ビームデータの再測定, ビームモデリングの手直しなどにより修正を行う また, コミッショニングは大きく 2 つに分けられ, 線量に関与する項目と線量に関与しない項目がある 三次元 RTPSに求められる許容度の 1 例としてIAEA TRS430では, 均質ファントムにおいて矩形照射野の中心軸で1%, 軸外で1.5%, 非対称照射野の中心軸で 2 %, 軸外で 3 % となっている 不均質ファントムでは中心軸で 5 %, 軸外で 7 % である 詳しくはAAPM TG53(table 1 3),IAEA TRS430(Table 18) を参照のこと 1 線量測定に関与するコミッショニング計算アルゴリズムが実測値ベースでもモデルベースでも, 計算結果にはアルゴリズムや登録ビームデータの質, モデリングの結果などに応じた限界の精度が有り, 不確定さを含んでいる したがって, 計算結果の適用可能性と限界を判断する事が必要となる 線量に関するコミッショニングでは, 均質なファントムで単純な幾何学的条件で試験を行うと共に, 臨床例をモデル化した不均質を含み, 非対称照射野や各種フィルタなどを含めた複雑な条件での検証を行う 検証対象は, 深部線量分布, ビームプロファイルなどの相対線量分布と出力係数, リファレンス点における絶

総論 9 対線量の評価などである 光子線線量計算のコミッショニングのテストプランはAAPM TG53 Table A3 1 などを参照の事 実際には使用者が施設に応じたテストプランを作成し, コミッショニングを行う なお, 計算アルゴリズムのバージョンアップを行った場合は, 新規導入と同様のコミッショニングが必要となる 2 線量測定に関与しないコミッショニング使用画像 (CT, MRIなど ) の位置情報や歪み, 輪郭取得の誤差, 自動マージンの誤差,CT 値 電子密度変換テーブル, マシンパラメータ ( 動作範囲 ), 楔フィルタ ( 形状, 方向, 照射野サイズ ) やMLC 形状, 照射野形状設定, 三次元表示や Digital reconstruction radiography(drr) 画像, 線量分布表示,DVH, ハードコピー出力精度, データ転送 ( 医用加速器,Radiological Information System (RIS)) の確実性など, 間接的に線量計算結果に反映する項目や幾何学的精度などについて検証を行う なお, スタッフ間で治療計画装置の運用に関するコンセンサスを得ておく事が重要な点である 最低でも線量評価点と線量の指定方法, 計算アルゴリズム, 不均質補正の有無, アーチファクトの処理,MU 値計算方法, などの確認が必要である 5) 線量計算に影響を与える因子登録ビームデータの質, モデリングの結果, 計算アルゴリズム, 不均質補正の有無, 計算グリッド間隔, 線量正規化点, 取得輪郭, 呼吸などの生理的動きや膀胱などの生理的容積の変化などが線量計算結果に影響を及ぼす したがって, これらの要因に関してスタッフ間のコンセンサスを得る事が重要となり, またRTPSのプログラムのバージョンアップや更新などの際にも, 確認が求められる 3.MU 値の独立検証医用加速器にセットするMU 値は,RTPSの計算結果や表参照による手計算により得られた値が用いられているが, このMU 値は最終的な患者投与線量を決定する重要な値である したがって, 過剰 ( 過小 ) 照射事故防止のためにはこのMU 値が正しい値である事を独立に検証することが必須である 検証方法には 1) 異機種のRTPSで計算する,2) 二次元の市販 MU 値計算システムの利用,3) スプレッドシートを用いた独立検証,4) 表参照による手計算,5) 水ファントムを使用した実測検証, などがある 1),2) はシステムがなければ利用できない 4) は単純な照射野でなければ計算できない 3) にはいろいろな方法があるが, 保科が示した適切な計算式 14) を用いてスプレドシートを利用する事により不整形照射野を含む応用範囲の広いMU 値計算が可能となる 5) は臨床例 ( 胸壁接線照射など ) を

10 総論 再現したファントムを用いなければ, それほど精度が望めない場合が有る したがって, 臨床例によってはプランを定形ファントムに置き換えて計算したMU 値と, その実測値とを比較する方法も必要となる いすれにしても, 何らかの手段を用いてMU 値の独立検証を行う意義は, 事故防止の観点から大変重要である 4.X 線シミュレータの質的保証 X 線シミュレータの質的保証はIEC(1993) をもとに日本工業規格 JIS Z4761 (2005) 放射線治療シミュレータ特性 が制定された 15) IEC 国際規格とは一部修正が行われているが, 実質的には同一規格である これ以外に関連学会よりマニュアルや報告書が出版されている 5,16) 重要な点は, 治療装置を正確にシミュレートするための幾何学的精度であり, 治療装置と共通した管理項目が多い その許容値は治療装置と同等か, より厳しい値が設定されている 5.CTシミュレータの質的保証 CTシミュレータの質的保証に関する国際的な規格は未整備で, 国内規格も作成されていない CT 装置の撮像性能に関しては診断用 CT 装置に準拠して管理すれば良いが, シミュレータ機能としては画像の歪みや拡大率,CT 値の安定性などが重要な管理項目である AAPM TG66が最も詳細である 17) 6. 参考文献 1)Gerald JK, Lawrence C, Michael G, et al. Comprehensive QA for radiation oncology (Report of AAPM radiation Therapy Committee Task Group 40), Med Phys 21 : 581-618, 1994. 2)IEC(1989).Medical electron accelerators-functional performance characteristics, International Electrotechnical commission, Geneva (IEC Publication 976). 3)IEC(1989a).Medical electron accelerators in the range 1 MeV -5 0MeV guidelines for functional performance characteristics, International Electrotechnical commission, Geneva (IEC Publication 977). 4) 日本工業規格 : 医用電子加速装置 性能特性 JIS Z 4714, 日本規格協会,(2001). 5) 日本放射線腫瘍学会 QA 委員会編 : 外部放射線治療におけるQuality Assurance (QA) システムガイドライン, 11(supplement 2), 2000. 6) 日本放射線腫瘍学会研究調査委員会編 : 外部放射線治療装置の保守管理プログラム, 東京, 通商産業研究社, 1992. 7) 日本放射線技術学会放射線治療分科会編 : 外部放射線治療における保守管理マニ

総論 11 ュアル ( 放射線医療技術学叢書 22), 京都, 日本放射線技術学会, 2003. 8) 日本医学物理学会編 : 外部放射線治療における吸収線量の標準測定法, 東京, 通商産業研究社, 2002. 9) Frass BA, Doppke M., Hunt G, et al. Quality auurance for clinical radiotherapy treatment planning (Report of AAPM radiation Therapy Committee Task Group 53). Med Phys 25 : 1773-1829, 1998. 10)IAEA TRS430 : Commissioning and Quality assurance of computerized planning systems for radiation treatment of cancer,(2004). 11)Paoanikolaus N, Bsttista JJ, Boyer AL, et al. Tissue Inhomogeneity corrections for megavoltage Photon Beams, (Report of AAPM radiation Therapy Committee Task Group 65), WI, Med Phys Publishing, 2004. 12) 熊谷孝三編 : 医療安全のための放射線治療計画装置の運用マニュアル, 東京, 日本放射線技師会出版会, 2007. 13) 日本放射線技術学会放射線治療分科会編 : 放射線治療技術マニュアル ( 放射線医療技術学叢書 16), 京都, 日本放射線技術学会, 1998. 14) 保科正夫. 直線加速器での線量計算におけるX 線出力の評価, 日放技学誌 56: 559-571, 2000. 15) 日本工業規格 : 放射線治療シミュレーター性能特性 JIS Z 4761, 日本規格協会, 2005. 16) 日本放射線技術学会専門委員会放射線技術品質保証班 ( 編 ): 放射線治療技術 QC プログラム改訂 増補版 ( 放射線医療技術学叢書 (1)), 京都, 日本放射線技術学会, 1992. 17)Sasa M, Jatinder RP, Elizabeth KB, et al. Quality assurance for computedtomography simulators and the computed-tomography- simulation process, (Report of AAPM radiation Therapy Committee Task Group 66), WI, Med Phys Publishing, 2003. ( 信州大学医学部附属病院放射線部小口宏 )