門脈圧亢進症に伴う肺高血圧症 # International Liver Transplant Society Practice Guidelines: Diagnosis and Management of Hepatopulmonary Syndrome and Portopulmonary Hypertension. Transplantation. 2016;100:1440 52. # Portopulmonary hypertension and hepatopulmonary syndrome. World J Gastroenterol. 2014;20:8072 81. # Portopulmonary Hypertension and Hepatopulmonary Syndrome: Is Transplant Always the Answer? Curr Hepatology Rep 2016; 15:8 16 # Pulmonary hypertension complicating portal hypertension: findings on chest radiographs. AJR 1988;151:909 14 # Thoracic complications of liver cirrhosis: radiologic findings. Radiographics. 2009;29:825 37 1. 肺高血圧症の分類 2. 門脈肺高血圧症 (portopulmonary hypertension; PoPH) の発生機序 PoPH の発生機序については不明な点が多いが, 門脈圧亢進症に伴う門脈 体循環短絡の出現や全身血管の拡張により静脈還流の増 - 1 -
加から循環動態が高心拍出状態となり, 肺血管床を通過する血液量の増加による肺血管壁のずり応力の増大を引き起こし, 肺動脈リモデリングを起こすと考えられている. 進行した PoPH における肺動脈の病理組織所見が, 血管内皮細胞の増殖, 中膜平滑筋の肥厚, 血管内腔の叢状病変, 壊死性血管炎やフィブリノイド壊死, 微小血栓の形成などが認められる. 病初期に肺血管抵抗は正常であっても, 肺動脈の閉塞 狭窄, さらに微小血栓の出現から肺血管抵抗が増加すると PoPH が進行していく. また, 門脈 体循環短絡の形成や肝代謝の低下により, 正常であれば腸肝循環で代謝される炎症性サイトカインやエンドトキシン, セロトニンなどの物質が代謝されることなく肺循環に直接流人することにより, 肺血管の炎症を惹起して血管内皮細胞の障害や肺血管の収縮が進行するとも考えられる. 報告によって異なるが, 門脈圧亢進症の 2~6% に PoPH が合併するといわれる. わが国の 平成 23 24 年度厚生労働省特定疾患 呼吸不全 調査研究班会議報告書 では, 肺高血圧症の臨床分類のなかで PoPH は約 5% の頻度である. 門脈圧亢進症 肝臓肺 高心拍出量の状態 肺動脈のずり応力 血管作動性因子の不均衡血管収縮性因子増殖因子 肺動脈の攣縮 肺動脈における血栓形成 肺動脈のリモデリング 門脈大循環短絡 遺伝的素因 門脈肺高血圧症 門脈肺高血圧症の考えられるメカニズム - 2 -
PoPH の進展には女性と自己免疫性肝炎の 2 つが深く関わっており,C 型肝炎は PoPH の進展リスクを低下させると報告されている.PoPH の発症は. 門脈圧の程度や肝疾患の重症度には関連しないが, その生命予後は肝硬変の存在や重症度, 心機能と関連があると報告されている. 肝肺症候群 門脈肺高血圧症 3. 門脈肺高血圧症の胸部画像診断 胸部 X 線所見は初期段階では正常の場合がある. 進行すると, 肺動脈中枢の拡張と急激な末梢の狭小化, 右心室拡張を生じる. 吸気時の X 線写真における, 肺動脈の右下枝の幅の正常上限は, 男性では 16mm, 女性では 15mm である. 肺葉 / 胸郭横径比の正常上は 38% である. 胸部写真による計測右肺動脈の下行枝の径 ( ). 肺葉 / 胸郭横径比とは, 肺葉 ( 左右の肺動脈の上行枝の外側までの距離の和 =A+B) を, 胸郭の最大の横径 (T) で割ったものである. - 3 -
下肺野から上肺野への肺血管の再分布肺血管の再分布とは, 上肺野の血管サイズ / 下肺野の血管サイズの比が 1/3 から,1 以上に大きくなることである. 肺血流再分布の原因は, 肺静脈圧の上昇が最も多い. 他の原因は少ないが, 左右シャントで見られる右心室拍出量の増加, 肺気腫による肺実質の破壊の時による肺血管床の喪失で見られる. これらの可能性の他には, 肺血流再分布は肺高血圧症に認める. 正常な個体では静水圧勾配のために, 肺尖部から肺底部に向かって, 肺内の圧は増加する. 患者が立位の場合, 上肺野の多くの毛細血管は虚脱する. しかし, 肺動脈圧が上昇して重力差を超えると, 上肺野の毛細血管が開放される圧を超えて, 血液が徐々に流れる. CT では, 肺高血圧は (a) または (b) の所見を認める. (a) 肺動脈主幹部の直径 29mm,4 肺葉のうち 3 つにおいて区域肺動脈 / 気管支比 >1. (b) 肺動脈主幹部の直径 / 大動脈直径 >1( 特に 50 歳未満の患者 ). HR CT では肺高血圧症はモザイクパターンの輝度を示す可能性がある. この所見は特に血栓塞栓性肺高血圧症に比較的多い. 造影 CT では, 上行大動脈の直径よりも大きい, 拡張した肺動脈幹が見られる. 少し尾側の断面では, 右心室の拡張, 心室中隔の湾曲, および右心室自由壁の肥厚を示す. 拡張した肺動脈幹が急に先細りを呈する vascular pruning( 血管の切り詰め ) が見られる. 肺血流スキャンは正常であるか, または重度の肺高血圧症では斑状の欠損を示すことがある. - 4 -
4. 門脈肺高血圧症の右心カテーテル診断と重症度 右心カテーテルによる門脈肺高血圧症の診断 進行した肝硬変における右心カテーテルによる血行動態の検査所見 臨床徴候右室収縮期圧平均肺動脈圧肺動脈楔入圧心拍出量肺動脈抵抗 門脈圧亢進症肝肺症候群門脈肺高血圧症 正常 正常 ~ 正常 ~ 正常 か正常か 最初, 次第に 正常 ~ 正常 ~ 容量過負荷 高心拍出量状態 肺動脈平均圧が 35mmHg 以上の症例では 35mmHg 未満の症例と比べて有意に死亡率が高く,PoPH に対する肝移植前には肺動脈平均圧を 35mmHg 未満, かつ末梢肺血管抵抗を 250 dynes sec cm 5 未満にすることが治療目標とされている. PoPH においては, 肝疾患に伴う薬剤代謝能の低下から使用できる肺血管拡張薬に制限があることや, 肺血管拡張薬により門脈 体循環短絡が増加する可能性があることを念頭に置いて治療薬を選択する必要がある. - 5 -
5. 門脈肺高血圧症と肝臓移植の適応 肝臓移植の死亡率に基づいた, 門脈肺高血圧症の重症度スコア軽症 :25 mmhg< 平均肺動脈圧 <35 mmhg 中等症 :35 mmhg 平均肺動脈圧 <45 mmhg 重症 :45 mmhg 平均肺動脈圧 肝臓移植の適応の有無 / 経胸壁心エコー 適応があれば右心カテーテル 平均肺動脈圧 >35 mmhg 門脈肺高血圧症の薬物療法 平均肺動脈圧 <35 mmhg かつ肺動脈抵抗 <400 dyn.s.cm -5 平均肺動脈圧 >35 mmhg かつ肺動脈抵抗 >400 dyn.s.cm -5 3 ヶ月毎に経胸壁心エコー 肝臓移植の適応はなし << 境界例 >> 6 ヶ月毎に右心カテーテル 肝臓移植の当日 : 右心カテーテル門脈肺高血圧症の重症度に応じて集学的に肝臓移植の判断 << 境界例 >> 第 2 の移植レシピエント候補を確保しておく 肝臓移植のレシピエント候補における門脈肺高血圧症のスクリーニングと経過観察 - 6 -
MELD の例外基準 状態 MELD の例外基準を適応する条件 MELD スコアに加算される点数 門脈肺高血圧症 治療後の平均肺動脈圧 <35 mmhg 以下の全ての診断項目を満たす必要がある 初期の平均肺動脈圧 初期の肺動脈抵抗 初期の肺動脈楔入圧で容量負荷を補正 治療の文書記録 治療後の平均肺動脈圧 <35 mmhg 治療後の肺動脈抵抗 <400/dynes/s/cm -5 MELD スコア 22, 又は PELD スコア 28. 3 ヶ月毎に右心カテーテル検査を受けて平均肺動脈圧 <35 mmhg であれば,3 ヶ月毎に 10% ずつスコアが上乗せされる 生存率 (%) 既診断の特発性 / 家族性,n=1,059 新規の特発性 / 家族性,n=419 既診断の門脈性,n=118 新規の門脈性,n=66 登録からの月数 RAVEAL 試験における門脈肺高血圧症と特発性肺高血圧症の患者の 2 年生存率 - 既診断患者か新規患者かの差. - 7 -