食物アレルギー (100909 101214) 101214 2 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいということで来院 ( 患者 ) エビやカニを食べると唇が腫れるんです 多分アレルギーだと思うんですが 検査は出来ますか? ( 私 ) 検査は出来ますが おそらく検査をするまでも無く アレルギーだと思いますよ ( 患者 ) 実は ラーメンのスープや他の食べ物の中にもエビやカニが入っていることがあるんです はっきりと検査で示されれば 他の人にも説明しやすいんです あと アレルギーであれば アレルギーの治療をすればエビやカニを食べることが出来るようになりますよね エビやカニも本当は大好きなんです ( 私 ) 喉が腫れたり 呼吸が苦しくなったり 全身に皮疹が出ることは無いのですね いろいろ説明したいこともありますが ご希望の検査で確認するところから始めてみましょう アレルギーの治療をすれば 原因の食物を食べていいのだろうか? 外食や弁当などでは どの食べ物に含まれているかわからないので ずっと飲み続けなければいけないのだろうか? そもそも 重大なアレルギー症状に注意しなくてもいいのだろうか? こんなことを考えながら検査の結果が出るまで勉強してみることにした ( ちなみに 後に判明し た検査結果はエビとカニで明らかに IgE 陽性であった *1) *1 参考文献 1 には 食物抗原特異的 IgE 抗体 皮膚テスト陽性は必ずしも食物除去の根拠と なり得ず 参考にとどめることが重要である 逆に食物抗原特異的 IgE 抗体 皮膚テスト陰性を 根拠に否定することもできない ( 参考文献 1) と指摘されている
まず この患者の食物アレルギー反応の分類は 口腔アレルギー症候群と分類できる アナフィラキシーショックの可能性は他の食物アレルギーと比べてそれほど多くないようだ 実際 この患者の場合も ショック症状や呼吸器症状などの全身症状の既往は無い もちろん 病気のことだけを考えれば 極力避けた方がいいことは間違いないが エビ / カニを食べられない人生もちょっとした問題と思う ( 参考文献 1 より引用 ) 幼児期以降 学童期 成人期に即時型症状として発症したケースでは乳児期発症のケースに比べると寛解に至る確率は非常に低いと考えられている ( 参考文献 1) と記載されており 症状は重篤にならない可能性が高いが 自然寛解も少なそうなので 治療はある程度長く行う覚悟は必要があるかもしれない 治療法は食事の除去 + 抗ヒスタミン薬になると思う 仕事をしている独身男性であれば どうしても食事の調整が難しくなる 特に 弁当や外食などを食べる機会が多い場合には食事の制限を厳密に守ることは難しいかもしれない 食物アレルギーにおいて薬物療法はあくまで補助療法である 原因食品を適切に除去していれば長期管理において薬物は通常不要である 食物の摂取により皮膚 粘膜に症状が出現した場合には抗ヒスタミン薬が有効であり 呼吸器症状が出現した場合には通常 0.01% のアドレナリンの皮下注 筋注が適応となる アドレナリンはアナフィラキシーシヨックになってから用いるのではなく呼吸器症状の出現などのプレショックの段階で用いることが重要である ( 参考文献 1) と記載されており 重症度やタイミングも重要であることが分かる
( 参考文献 2 より引用 ) 食事に気をつけ 抗ヒスタミン薬を服用するにしても その後のスケジュールはどうしたらよいだろうか この患者の場合 以下のフローチャートのように 内服の上 普段の生活で症状が無ければ 十分量をチャレンジしてみてもいいのかもしれない もちろん 食物負荷試験ほど厳密でなくてもいいかもしれないが 十分な注意は必要と思う アナフィラキシーなどに備えたうえで 医師の監督のもとでチャレンジするのがいいと思う 食物負荷試験は 除去試験に続いて確定診断として行う場合と耐性が獲得されたかをみるための二通りの目的がある 病歴や検査結果などからアナフィラキシーなどの危険性が高いと判断される時には行うべきではない 幼児期以降のアナフィラキシーなどの即時型症状で発症し摂取状況などの病歴から疑われる原因抗原が明らかで IgE 抗体の存在が証明できた場合には食物負荷試験は行わないことが多い ( 参考文献 1)
( 参考文献 1 より引用 ) 上記のフローチャートは 2005 年版のガイドライン ( 参考文献 1) の記載が元になっているが 以下のように 2008 年版のガイドラインでは摂取量が少量で症状が無い場合 専門医による食物負荷試験を行う流れに変更されている もちろん その方が安全といえば安全なのだが 地方だと専門医による判断というのは難しい場合も多いと思う そもそも 誤食があるかどうかに大きく検査方針が左右されるところが このフローチャートの歯がゆいところでもある 2~3 年の間隔で食物負荷試験を考慮するというのも 出来れば自然な食生活の中で判断できることを優先するということだと思う 今回の症例のように 唇が腫れるだけならこの方針自体は現実的といえる ( ただし ショックなどの可能性が高い場合には間違って食
べた時の作戦は必須と思う ) ( 参考文献 2 より引用 ) 2 例目 30 代女性 ゴマを食べると 嘔気 嘔吐 下痢が出現 嘔吐 下痢がひどく トイレで冷や汗をかくほどの症状が 1 時間程度持続する 時に意識がもうろうとすることもあるという 摂取したのもを排出しきって しばらくすると 嘘のように症状がなくなり元通りとのこと 古いゴマや体調が悪い時に再現性がある ゴマアレルギーの検査希望 嘔気 / 嘔吐もアレルギーの症状としてよいか? まず 上記のような疑問があったが ガイドラインの定義では 原因食物を摂取した後に免疫学 的機序を介して生体にとって不利益な症状 ( 皮膚 粘膜 消化器 呼吸器 アナフィラキシーなど ) が惹起される現象 とされており 消化器症状もアレルギーの一症状として矛盾はない 具体的に
は以下の通り 食物アレルギーにより引き起こされる症状 2) 消化器症状 : 腹痛 悪心 嘔吐 下痢 血便 検査では特異的 IgE( ゴマ ) は陰性であった もちろん だからと言って 原因物質を否定できるわけではない ガイドライン通りだと 専門の医師において各種検査結果の見直し必要に応じ食物除去 負荷試験 という流れと思うが なかなか難しい 疑わしいものは原因物質 ( 仮 ) として 対応していくのが現実的と思う 症例 1 も症例 2 も 最低限の食事制限 + 補助的な薬物療法 ( 抗ヒスタミン薬 ) で経過観察の方針 となっている 誤食や症状をフォローアップしながら対応をしていこうと思う 参考文献 1. 海老澤元宏. 食物アレルギー. 臨牀と研究, 85(2) : 187-194, 2008. 2. 厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患など予防 治療研究事業アレルギー性疾患の発症 進展 重症化の予防に関する研究 ( 主任研究者 : 海老沢元宏 ). 食物アレルギー診療の手引き 2008.