プレスリリース 報道関係各位 2017 年 10 月 20 日慶應義塾大学医学部理化学研究所早稲田大学国立研究開発法人日本医療研究開発機構 口腔常在菌の中には 異所性に腸管に定着すると免疫を活性化するものがいる 慶應義塾大学医学部の本田賢也教授 ( 理化学研究所統合生命医科学研究センター消化管恒常性

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

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11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

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卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

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く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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No. 2 2 型糖尿病では 病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります そのため 腸内フローラを適切に維持し 血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です プロバイオティクス飲

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

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法が確立され 5 年生存率が 42% から 91% へと飛躍的に向上しています (Kudoh S et al. Am. J. Respir. Critic. Care Med, 1996) また気管支拡張症などの慢性下気道感染症に対してもマクロライド療法は用いられ COPD の増悪に対する予防効果も

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果


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シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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2015 年 8 月 26 日放送 便移植の適応と有効性 慶應義塾大学消化器内科教授金井隆典腸疾患増加の原因きょうは 便移植の適応とその有効性ということについてお話しさせていただきたいと思います 私の専門であります炎症性腸疾患 クローン病とか潰瘍性大腸炎という病気が今増加しております 若者に多く発症

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

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(1) ビフィズス菌および乳酸桿菌の菌数とうつ病リスク被験者の便を採取して ビフィズス菌と乳酸桿菌 ( ラクトバチルス ) の菌量を 16S rrna 遺伝子の逆転写定量的 PCR 法によって測定し比較しました 菌数の測定はそれぞれの検体が患者のものか健常者のものかについて測定者に知らされない状態で

乾癬などの炎症性皮膚疾患が悪化するメカニズムを解明

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

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プレスリリース 報道関係各位 2017 年 10 月 20 日慶應義塾大学医学部理化学研究所早稲田大学国立研究開発法人日本医療研究開発機構 口腔常在菌の中には 異所性に腸管に定着すると免疫を活性化するものがいる 慶應義塾大学医学部の本田賢也教授 ( 理化学研究所統合生命医科学研究センター消化管恒常性研究チームリーダー兼任 ) と早稲田大学理工学術院の服部正平教授らを中心とする共同研究グループは 腸内細菌叢の乱れに乗じて 口腔に存在するクレブシエラ菌が腸管内に定着することにより TH1 細胞 1 と呼ばれる免疫細胞の過剰な活性化を引き起こし 炎症性腸疾患 ( クローン病や潰瘍性大腸炎 ) などの発症に関与する可能性があることをマウスを用いて示しました ( 下図 ) 今回の成果は 細菌を標的とした炎症性疾患の新たな予防法や治療薬 診断薬の開発につながることが期待されます 本研究成果は 国際学術雑誌 Science 2017 年 10 月 20 日 ( 金 ) 版に掲載されました 論文名 :Ectopic colonization of oral bacteria in the intestine drives TH1 cell induction and inflammation 発表概要 1

発表内容 1. 背景消化管や口腔などには多様な常在細菌が存在し 私たちの免疫系や生理機能に強い影響を与えることで 健康維持に大きな役割を果たしています そのため 腸内に存在する様々な細菌種の数や割合の変動が炎症性腸疾患をはじめとする様々な病気の発症に関与していることが強く示唆されています しかしながら このような腸内細菌叢の乱れから疾患発症につながるまでのメカニズムについては 不明な点が多く残されていました そこで 共同研究グループは 口腔細菌が炎症性腸疾患や大腸がんなどの患者の便中に多く検出されることに注目し 口腔細菌が腸管内に定着することによる腸管免疫系への影響と病気との関わりについて研究を行いました 2. 内容本研究では まずクローン病 2 患者の唾液を無菌マウス 3 に経口投与し そのマウスの腸管に存在する免疫細胞の種類をフローサイトメトリー 4 により解析しました この解析により クローン病患者の口腔に存在していた細菌が腸内に定着すると 腸管免疫系にどのような影響を与えるのかを明らかにすることができます その結果 あるクローン病患者の唾液を投与したマウスの大腸において インターフェロンガンマ (IFN-γ) を産生する CD4 陽性のヘルパー T 細胞 (TH1 細胞 1 ) が顕著に増加していることを発見しました そこで このクローン病患者の唾液中のどのような細菌がマウス腸内に定着していたかを把握するため このマウスの糞便から細菌 DNA を抽出し 細菌由来の 16S rrna 遺伝子をシークエンスすることにより網羅的に調べました この解析から ナイセリア属 レンサ球菌属 ゲメラ属 ベイロネラ属 フソバクテリウム属 ビフィドバクテリウム属 アナエロコッカス属 エシェリキア属 ( 大腸菌属 ) クレブシエラ属細菌など約 30 種類の細菌が検出されました 次いで これらの細菌の多くを単離 培養し それぞれの細菌を無菌マウスへ定着させたところ クラブシエラ属のクレブシエラ ニューモニエ 5 (Klebsiella pneumoniae) が TH1 細胞を強く誘導する細菌であることを見出しました さらに 腸内細菌が存在している通常の SPF 6 (specific pathogen-free) マウスにクレブシエラ ニューモニエを経口投与しても腸管内にクレブシエラ ニューモニエが定着し増殖することはありませんでしたが アンピシリン等の抗生物質を投与した SPF マウスではクレブシエラ ニューモニエが腸管内に定着し TH1 細胞を強く誘導することがわかりました このことから 通常時には元々いる腸内細菌叢が口腔から入ってきたクレブシエラ ニューモニエの腸管内への定着を阻止しているけれど 抗生物質の使用などにより腸内細菌叢が乱れるとこの定着阻害効果が弱まり クレブシエラ ニューモニエの腸管内への定着が引き起こされると考えられます 次に クレブシエラ ニューモニエの腸管内への定着がクローン病の発症 増悪に関与しているのかを調べるため 無菌の腸炎発症モデルマウス (IL-10 欠損マウス 7 ) にクレブシエラ ニューモニエを経口投与し 腸管炎症の状態を解析しました その結果 比較対象として大腸菌を投与した IL-10 欠損マウスでは腸管に炎症が起こっていませんでしたが クレブシエラ ニューモニエを投与した IL-10 欠損マウスでは強い腸管炎症が起こっていました 一方で野生型マウスにクレブシエラ ニューモニエを経口投与しても 腸管での TH1 細胞の増加は見られるものの炎症は起こりません このことから クレブシエラ ニューモニエの腸管内への定着が TH1 細胞の過剰な増殖や活性化を引き起こし 宿主の遺伝型によっては炎症の惹起 増悪 遷延化につながっていることが示唆されまし 2

た また 潰瘍性大腸炎の患者の唾液を無菌マウスに投与する実験を行ったところ 一部の患者においてクローン病患者の唾液投与マウスと同様に腸管でのクレブシエラ属菌の定着と TH1 細胞の増加が観察されました さらに 健常者の唾液を用いた実験においても 腸管でのクレブシエラ ニューモニエの定着と TH1 細胞の増加が観察されました このことから TH1 細胞を誘導するクレブシエラ属菌は炎症性腸疾患患者だけでなく健常者の口腔にも存在している可能性があることが示唆されました そのため 例えば長期的に過剰量の抗生物質を服用した場合には健常者でも腸管へのクレブシエラ属菌の定着が起こる可能性があり 過度な抗生物質の服用には気を付けるべきだと考えられます 3. 今後の展開本研究では クローン病や潰瘍性大腸炎などの慢性炎症性腸疾患の発症にクレブシエラ属細菌が関与している可能性があることを示しました したがって クレブシエラ属細菌が慢性炎症性腸疾患に対する新たな創薬標的となり得ます 今後は クレブシエラ属細菌を選択的に排除 殺菌する抗生物質などの開発やクレブシエラ属細菌が腸管内に定着させないような薬剤の開発を通して これら疾患の予防法や治療薬の開発につながることが期待されます 4. 特記事項今回の研究の一部は 下記に示す国立研究開発法人日本医療研究開発機構の革新的先端研究開発支援事業 (AMED-CREST および LEAP) における研究開発の一環として行われました 1)AMED-CREST 研究開発領域 : 生体恒常性維持 変容破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療実現のための技術創出 ( 研究開発総括 : 永井良三 ) 研究開発課題名 : 腸内常在細菌特性理解に基づく難治性疾患新規治療法の開発 研究開発代表者 : 本田賢也実施期間 : 平成 24 年度から平成 28 年度 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) より移管されました 2)LEAP( インキュベートタイプ ) 研究開発課題名 : 腸内細菌株カクテルを用いた新規医薬品の創出 研究開発代表者 : 本田賢也実施期間 : 平成 28 年度から平成 32 年度 5. 論文タイトル : Ectopic colonization of oral bacteria in the intestine drives TH1 cell induction and inflammation ( 口腔由来細菌の腸管内定着によって引き起こされる TH1 細胞と炎症誘導メカニズムの解明 ) 著者名 : 新幸二 須田亙 Chengwei Luo 河口貴昭 元尾伊織 成島聖子 木口悠也 安間恵子 渡辺栄一郎 田之上大 Christoph A. Thaiss 佐藤繭子 豊岡公徳 Heba S. Said 山上博一 Scott A. Rice Dirk Gevers Ryan C. Johnson Julia A. Segre Kong Chen Jay K. Kolls Eran Elinav 森田英利 Ramnik J. Xavier 服部正平 本田賢也掲載誌 : Science 2017 年 10 月 20 日オンライン版 3

< 用語解説 > 1 TH1 細胞 CD4 陽性のヘルパー T 細胞の一種で 主にインターフェロンガンマ (IFN-γ) を産生します IFN-γ はマクロファージを活性化し その殺菌作用を強化します 主に細胞内寄生細菌の感染防御に重要な役割を担っていますが 過剰な活性化は自己免疫疾患の発症につながるため適切な制御が必要です 2 クローン病口から肛門にいたる消化管に非連続性に炎症 潰瘍ができる病気 回腸の末端にもっとも好発します 活動期と寛解期を繰り返し その過程で腸が狭くなり狭窄を起こし 腸閉塞を起こすこともあります まだ病因は明らかになっていませんが 遺伝的な素因 免疫系の異常 腸内細菌や食事などの環境要因が複合的に組み合わさって起こると考えられています 3 無菌マウス無菌状態で飼育できる特殊な環境 ( アイソレーター ) 内で飼育したマウスで 腸内細菌や皮膚などの常在細菌を含め 検出可能な微生物をまったく持たないマウス 常在細菌をもたないため 生理学的 免疫学的にいくつかの異常がみられますが 健康な状態を維持しています 4 フローサイトメトリー一つの細胞の複数の分子 ( 主にタンパク質 ) を同時かつ高速に測定し 複数種類の細胞の分布を解析する装置 細胞表面または内部の分子を蛍光物質で標識した後 細胞一つずつに一定波長のレーザー光を当てた時に生じる蛍光波長を検出することにより その細胞が何の分子を持っているかを分析します ある部位に存在する細胞集団の増減や機能分子の発現量の増減を解析するために利用されています 5 クレブシエラ ニューモニエ (Klebsiella pneumoniae) グラム陰性の桿菌で 肺炎桿菌とも呼ばれます ヒトの口腔や腸内に常在していますが 通常は病気を引き起こすことはありません しかし 免疫系が弱っている人や高齢者 糖尿病患者などでは 肺炎や気管支炎 膀胱炎など日和見感染症を引き起こすことがあります 6 SPF マウス研究で用いられるマウス飼育施設の基準を満たした清潔な環境で飼育され 病気を引き起こす病原体 (specific pathogen) がいない (free) マウス 腸内や皮膚には常在細菌が存在しています 7 IL-10 欠損マウス免疫系を抑制する機能をもつインターロイキン (IL)-10 を遺伝的に働けなくしたマウス このマウスでは免疫系の抑制が不十分なため SPF 環境で飼育すると自然に腸炎を発症します しかし 無菌環境で飼育すると腸炎の発症は見られません そのため IL-10 欠損マウスの腸炎の発症には腸内細菌の存在が必要であることがわかっていますが どのような細菌種が炎症惹起に関与しているかはこれまであまりよく分かっていませんでした 4

( この件に関するお問い合わせ先 ) < 研究内容について > 慶應義塾大学医学部微生物学 免疫学教室教授本田賢也 ( ほんだけんや ) TEL:03-5363-3769; FAX:03-5361-7658 E-mail:kenya@keio.jp 早稲田大学理工学術院先進理工学研究科教授服部正平 ( はっとりまさひら ) TEL:03-5286-3382( 早稲田大学 ) または 04-7136-4070 ( 東京大学 ) E-mail:m-hattori@aoni.waseda.jp < 報道について > 慶應義塾大学信濃町キャンパス総務課 : 鈴木 山崎 160-8582 東京都新宿区信濃町 35 番地 TEL:03-5363-3611; FAX:03-5363-3612 E-mail:med-koho@adst.keio.ac.jp 理化学研究所広報室報道担当 : 351-0198 埼玉県和光市広沢 2-1 TEL:048-467-9272; FAX:048-462-4715 E-mail:ex-press@riken.jp 早稲田大学広報室広報課 : 169-8050 東京都新宿区戸塚町 1-104 TEL:03-3202-5454; FAX:03-3202-9435 E-mail:koho@list.waseda.jp < 事業に関すること > ( 革新的先端研究開発支援事業 ) 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 基盤研究事業部研究企画課 TEL:03-6870-2224 E-mail:kenkyuk-ask@amed.go.jp 5

共同研究グループ : 慶應義塾大学医学部 ( 本田賢也 新幸二 須田亙 河口貴昭 安間恵子 田之上大 ) 理化学研究所統合生命医科学研究センター ( 本田賢也 新幸二 河口貴昭 元尾伊織 成島聖子 渡辺栄一郎 田之上大 ) 東京大学大学院新領域創成科学研究科 ( 服部正平 須田亙 木口悠也 ) 早稲田大学理工学術院先進理工学研究科 ( 服部正平 須田亙 Heba S. Said) 理化学研究所環境資源科学研究センター ( 佐藤繭子 豊岡公徳 ) 大阪市立大学医学部 ( 山上博一 ) 岡山大学農学部 ( 森田英利 ) 米国 Broad Institute of MIT and Harvard(Chengwei Luo Dirk Gevers Ramnik J. Xavier) イスラエル Weizmann Institute of Science(Christoph A. Thaiss Eran Elinav) シンガポール Singapore Centre on Environmental Life Sciences Engineering(Scott A. Rice) 米国 NIH National Human Genome Research Institute(Ryan C. Johnson Julia A. Segre) 米国 University of Pittsburgh School of Medicine(Kong Chen Jay K. Kolls) 6