感染症疫学 Epidemiology of Infectious diseases Art is the lie that enables us to realize the truth. --- Pablo Picasso 1

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も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

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13章 回帰分析

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2 位 混みに かない 感染 が強いので感染しないようにするのが 番 毎年ワクチン打ったのにかかったという がたくさんいる (30 代 般内科 ) 感染の機会が多ければ多いほど感染の可能性が上がるので 出歩かないのが 番だと思います (40 代 整形外科 スポーツ医学 ) 通勤電 や職場 込みなどで

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切片 ( 定数項 ) ダミー 以下の単回帰モデルを考えよう これは賃金と就業年数の関係を分析している : ( 賃金関数 ) ここで Y i = α + β X i + u i, i =1,, n, u i ~ i.i.d. N(0, σ 2 ) Y i : 賃金の対数値, X i : 就業年数. (

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顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

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始前に出生したお子さんについては できるだけ早く 1 回目の接種を開始できるように 指導をお願いします スムーズに定期接種を進めるために定期接種といっても 予防接種をスムーズに進めるためには 保護者の理解が不可欠です しかし B 型肝炎ワクチンの接種効果は一生を左右する重要なものですが 逆にすぐに効

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(案の2)


宗像市国保医療課 御中

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感染症疫学 Epidemiology of Infectious diseases Art is the lie that enables us to realize the truth. --- Pablo Picasso 1

QUESTION 先生 韓国での MERS outbreak のニュースをみました MERS は感染力が弱いと されていますが それなのに何故最初の患者さんは 30 人近い二次感染をだしてしまっ たのでしょうか? 私達は何に気をつけたらよいのでしょうか? THEORY 第二次世界大戦において多くの人々が死亡した しかし世界史において民族の移動に伴う風土病の方が大きな影響を持っていたことは以外に知られていない 500 年前 ヨーロッパ人が南北アメリカ大陸に移住 その際天然痘と麻疹も運んだのである このためカリフォルニア メキシコ 南米の人口は 100 年で 50 分の 1 に減ったと推測されている 逆にヨーロッパ人は彼らから結核と梅毒をもらうはめになってしまった マラリアはアフリカから広がった風土病だが 皆がマラリアにかかっていると大きな問題にはならない その結果マラリアがアフリカを外敵から守ってきたともいえる 1918 年スペイン風邪 ( 悪名高き新型インフルエンザ ) で 2 3 千万人が死亡したと推定されている しかもほとんどの死亡患者は 65 歳以下であり 平均寿命が 10 年短縮したとされている 大都市に人口が集中する現代において 新興感染症は再び多くの死者を出し得るのだろうか? ここでは感染症流行を予測する簡単なモデルを紹介する R0 まずは感染が広がる様子を最も単純なモデルで説明する ある新興感染症に罹患した 生徒が その感染症に全く免疫を持たない小学生クラスに入ってきたとしよう この 2

ように ある感染症に対して免疫をもたず感染 発症し得る人を susceptible (S) と呼び 図ではグレーで表現した この感染症は熱を伴い 発熱している期間だけ感染させることができると仮定する 感染症を他者 (S) に感染させ得る状態を infectious (I) と呼ぶ 図では赤で示した よってこの単純モデルでは患者 = 感染者 =infectious と設定している そして解熱したら感染させないし 免疫をもつので感染させられることもないと仮定した このような状態を resistant (R) と呼び 黒で表わす 最初の患者 : index case (patient 1) は隣の席の生徒 1 人 (pat. 2) にうつした この生徒はさらに 2 人に感染させた そのうち 1 人 (pat. 3) は誰にも感染させていないが もう 1 人 (pat. 4) は別の1 人 (pat. 5) に感染をうつしている そして感染は 1 週間のうちに図のように広がった 39 人中 10 人が感染しているので発症率 : incidence は 25.6% だ 次に 個々の感染者 が平均で何人に感染させたかを計算する 患者 7~10 はまだ発症したばかりで まだ何 3

人に感染させたかは判らない そうすると 感染の機会は全部で 6 回 それぞれの機 会に何人に感染させたかを数えて合計する (1+2+0+1+3+2)/6=1.5 この 1.5 は基本再生産数 : Basic Reproductive Number (R0: アール ノウと発音 ) と呼ば れる この R0 を定義すると以下だ R0 is the average number of individuals directly infected by an infectious case during his or her entire infectious period, when he or she enters a totally susceptible population. ある感染者がその感染症に免疫を全く持たない (S) 集団に入ったとき 感染性期間に直接感染させる平均の人数 R0 が大きければ感染性は強い 麻疹 百日咳などでの R0 は 10~20 を超える 風疹 水痘 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) では 5~10 一方 influenza, SARS, Ebola などでは 2~3 程度 しかしながら R0 は その感染症に免疫を全く持たない集団に入ったとき なので その推定は難しい R0 < 1: その感染症は最終的に消滅するであろう R0 = 1: その感染症はその地域に留まり風土病 ( 地方病 ) となるであろう R0 > 1: その感染症は流行するであろう R0 = 1.5 なので感染は拡大するはずだ では 先のクラスがその後 どうなったか をみてみよう 4

第 2 週 さらに 6 人の患者が発生した 第 3 週にはさらに 3 人が発症した しかし この 3 人は誰にも感染させなかったため 5

この感染症は終息した まだ S は残っているが R が I に対してあたかも壁のように 立ちはだかり感染をブロックしているかのように見える これを集団免疫 : herd immunity という 発症人数も 15 人 6 人 3 人 0 人と減っていった Resistant (R) が増えるにしたがって集団免疫が高まり 感染者数が減少するのだ 最終的にはかなりの数の S を残したまま この感染症は終息した 別にウイルスの感染力が弱まったり 人々が手洗いうがいを徹底したりしたから感染症が終息したわけではない そのメカニズムをもう少し詳細にみていきたい R0 は定義上 全てが S のときの感染力 である よって第 2 週 Resistant が出現した時点でもはや reproductive number を R0 とは呼べない 時間 t のときの R を R(t) と呼べば R(t)=R0 x S/N(N: 合計人数 ) で表される 何故なら I の感染性は未だ R0 であるが それは I が S と接触したときの話である では I が S と接触する確率は? 6

それは S/N である ということは R0> R(t) となる 第 2 週 N=39, S=23 R(2)=1.5*23/39=0.88 第 3 週 N=39, S=20 R(2)=1.5*20/39=0.77 R(t) は 1 未満なので やがて感染症は終息する 全員が感染せずに感染症が終息するの はこれが理由である ウイルスの感染性が弱まったわけではない そのため R0 は 流行の極初期 まだ免疫を獲得した生徒数を無視し得るほど少ない状況で測定できる ( どのくらいまでを初期と呼ぶのかの定義もないが 患者数が指数関数的に増加する時期のデータをとることが多い ) つまり R0 は推定値であって 初期であればある程 値がぶれる可能性があり 過信しない方がよい しかし 迅速な対応をするためには 早期におよその R0 を把握する必要がある Vaccine and R0 R 0 = 4 の感染症に対して免疫獲得率 ( ワクチン接種により感染症を防げる免疫を得られる割合 ) が 80% のワクチンが開発された 何 % の人々がワクチン接種を受けると感染の広がりを抑えることができるか? について考える 最初考えやすいように免疫獲得率を 100% とする 感染者 1 人がまだワクチン接種をしていない集団に侵入したとしよう R 0=4 なので この患者 1 人は 4 人にうつす しかし この時点で 25% がワクチン接種により免疫を獲得していたなら 4 人のうち 1 人は感染しないので 3 人にしかうつらない では 50% がワクチン接種を受け免疫を獲得していたらどうであろう 同様に考えて 2 人しかうつらない 75% では 4 x (1-0.75) = 1 で 1 人にしか発症しない 76% であれば 1 人の感染者が平均 1 人未満に感染させる すなわち R 0 < 1 だから その感染症は減少するはず 7

よって 75% より多くの人がワクチン接種を受けかつ免疫を獲得していれば この 感染症はやがて消滅する ワクチンを接種したからといって免疫を獲得するとは限らない また全員がワクチン接種を受けるとも限らない ワクチン接種率 (p) が 95% で 免疫獲得率 ( ) が 80% ならワクチン接種による免疫獲得率は 0.95*0.80 = 76% となる 先の説明に戻ろう ここに R 0=4 の感染症に罹患した人が免疫獲得率 80% の (=p) ワクチンでその接種率 の集団に侵入した際 R = R 0 x (1-ap) = 4 x (1 p*0.80) で これが 1 になる p を求めると p = 0.9375 となる よって答えは 94% 以上の接種率となる 式で示すと以下だ 100% ワクチン接種しなくても エピデミックにならないのは集団免疫の原理である Mathematical model and R0 R0 は病原微生物の特徴 宿主 ( 人 ) の免疫状態 基礎疾患など 人の行動に影響させる では R0 を数理モデル : mathematical model で考えるとどうなるだろうか?1 回当たりの感染率 ( ) x 1 日 1 人が接触する人数 ( ) x 感染日数 (D) の積で表される R0 = * *D 1 回当たりの感染率 ( ) は病原体によっても異なるし 同じ病原体でも感染経路によ って異なる HIV 感染の場合 握手しただけでは感染しないし (β=0) 性行為でも 0.001-0.1 と幅がある 男性間の性交の場合 肛門部にびらん 潰瘍をもつことが多く 感 8

染率が男女間より高まる 輸血による感染率は 1.0 に近い 手を洗う マスクをつけるといった対策は この を下げることに他ならない HIV 感染が 1.2 であったときにコンドームが 25% に使われたとすれば R=1.2*(1-0.25)=0.9 <1 となり感染は終息する インフルエンザのように流行に季節性をもつものも多い インフルエンザ ウイルスの生存時間が冬の乾燥している時期に延びるという説がある 事実であれば冬に βが増加し 春以降これが低下する よってインフルエンザは冬に流行する 1 日 1 人が接触する人数 ( ) もやはり感染経路による 麻疹であれば 単純に1 日 1 人が接触する人数であるが 性感染症であれば 月 ( あるいは年 ) 間の新しい性交渉相手の数となる インフルエンザであれば 1.5m など飛沫感染の距離に接近した人の数 患者を隔離すれば ( ) を下げることができる 都市では田舎に比べ ( ) は増え R0 も大きくなる また 空気感染であれば 1 人の患者さんが不特定多数と接触することになり k は著しく大きな数値になるだろう 接触感染でも 飛沫感染のように患者との接触を意識できない分 k の値は大きい 感染日数 (D) は微生物の種類に依存する 治療により D を短くできる 以上のように考えると どうやったら R0 を小さくできるかが見えてくる しかし β κ D を測定することはできない ましてや新しい感染症ではこのやり方で R0 を推定することは現実的ではない SIR model 本書は感染症数理モデルの解説が主目的ではないので 最も基本的なものだけ紹介す る 出入りのない閉鎖系 * 集団で潜伏期間はゼロ 感染性期間と有症状期間は一致する 9

ものとする 集団の人数を N 全員はその感染症に免疫をもたず そこに感染者が 1 人入るという設定だ この N 人の集団は以下の 3 つに分類される * 解放系 : 人口は出 生と死亡という流れのもとに動態を保っており この点を考慮に入れる Susceptible (S): 感染症に対して免疫を持たず感受性 ( 感染発症する可能性のある人 ) Infectious (I): 感染性を有する人 Resistant (R): 感染から回復し 免疫を持つ その感染症には再度感染しない この基本となるモデルは SIR と呼ばれる 初期状態では S = N であり I = 1, R = 0 である 感染症が流行するに従って S は減 少し R は増える 一方 I は増え やがて減少する 集団の中には S, I, R の 3 種類の人がいて これらの人がブラウン運動をしながらラ ンダムに接触する様子を想像いただきたい パターンとしては S-S など 6 通りある 感染は 6 のうち S と I が接触 したときだけに S が I に変化し発生する 先の (1 回当たりの感染率 ), (1 日 1 人が接触する人数 ) を使う これを N 人の集団 10

でみれば 1 日合計 N 回の接触があることになる 例えば自分が感受性者 (S) で 今日誰かに会うとする そのとき その人が感染者である確率は I(t)/N である [I(t) は時間 t のときの感染者 (I) の人数 ] 1 日 k 人と接触するので 1 日に感染者と接触する確率は I(t)/N これに 1 回当たりの感染率 を掛け合わせてやれば 自分が今日 ( 時間 t) 感染を受ける確率は (t) = I(t)/N で表される しかしながら N が増えると密度が高まり接触回数も指数関数的に増えると想定すれば N が相殺されるので 式から N は消えると考える人もいる ( こちらの考えはマイナー ) 先の式は私という 1 人についてであった 私のような susceptible な人達は S 人いるので時間 t における新規発症者数は SI(t)/N 例えば 1 週間などの短い時間に 15 人が発症すれば 翌週の S(1) は 39-15 = 24 人である 一方 I(1) は 15 人 R(1) は 0 人となる 第 2 週の間に 6 人が発症するので S(2) は 24-6 = 18 人で I(2) は 6 人 R(2) は 15 人だ S(3)=18-3=12, I(3)=3, R(3)=15+6 =21 となる それぞれの時間あたりの変化量として公式化すると以下になる ds/dt: 単位時間あたりどれくらい S( 免疫を持たないものの数 ) が変化するか? 新規発症者数分減少していく di/dt: 単位時間あたりどれくらい I ( 感染性をもつものの数 ) が変化するか? 新規発症者数分増加していくが 回復期に入った患者分減る D は infectious の期間である dr/dt: 単位時間あたりどれくらい R ( 免疫をもつものの数 ) が変化するか? 回復期に入った患者分増える このような式をみると難しく感じてしまう しかし そんなことはない EXCEL を使って SIR model を作ってみよう ある感染症に全く免疫を持たない 1,000 人の集団があるとする :N=S(0)=1,000 ここに感染者が 1 人入る :I(0)=1 まだ誰も罹っていないので R(0)=0 だ この感染症の は 1.8/week, 感染性期間 D は 1/week だとする EXL 11

1. にあるように week 0, week 1 を作る 次に EXL 2 にあるように I がほとんど 0 に なるまで計算させる 図にすると 12

感染ピークは 10 週 ピーク時患者数は 144 人 最終的に 800 人が感染して感染は終息する 逆に 隔離など特別なことをしなくても 200 人は感染を免れたことになる これは herd immunity の原理に基づき 免疫者が増え (= 感受性者が減少し ) たことにより S*I が小さくなり 一定の感受性者を残して感染は終息したためで ウイルスの感染性が弱まったわけではない 要は 全体に対する感受性者の割合 (S/N) に比例して R(t) は低下するということ しかし現実社会は SIR model のように単純ではない 私が感じる点を 3 つほど指摘 したい その 1 :SIR model では人々は Brown 運動をしており 集団における全ての人が等しくお互いに接触する ことを前提としている しかし 現実社会では 営業活動をしているビジネスマンやコンビニのレジ 都会における満員電車の乗客などは多くの人と接触するであろうし 医師は日々多くの患者と接触するので偏っているだろうし 13

一方 退職した高齢者や専業主婦 田舎で生活する車通勤の人は他者との接触は必ずしも多くない 感染症が流行していることが放送されれば人々の行動パターンは変化する : 自宅に居たり 病院を受診したりで 患者の行動パターンは通常とは異なってくる その 2 :1 回の接触による感染確率 βを1つしか想定していない 同じ感染症でも 飛沫と嘔吐物や下痢から感染する場合には後者の方でウイルス量が多く 感染確率は高いかもしれない エイズでは 異性間よりは同性間 あるいは麻薬常用者で針を共有する方が感染確率は高い その 3 :S あるいは N の初期設定が大まか過ぎる 例えば 人口の 1% にも満たないかもしれないが 週に 1 回は東京と九州を往復する 海外を頻繁に行き来する人がいる また susceptible と思っていても実は免疫をもっていてその感染症に罹り難いということもあるかもしれない Stochastic model 今まで述べてきた SIR モデルは決定モデル : deterministic model と呼ばれるものだ N,, S, D などを決定すれば流行曲線を描くことができる 例えばある島に麻疹の患者が訪れたとしよう 島民の多くは麻疹に免疫を持っていなかったとする そこで決定モデルでやると 必ず島で麻疹が流行することになる しかし 実際には流行しないこともある 偶然麻疹を持った旅行者が麻疹に対して免疫を持つ人としか接触しなければ 流行は不発で終わるからだ このように特に感染が流行するかしないかの初期においては偶然の影響は極めて大きい この偶然という 14

要素を取り入れたものが確率モデル : stochastic model である コンピュータを使って 何百回もシミュレーションして結果をだすわけだが 毎回モデルの流行曲線は違うこ とになる 一定数に感染が拡大すると 患者数は増える しかし感受性者が減るため あるタイミングを境に患者数は減少に転ずる 先に述べたように ウイルスの特性が変わったからでも対策が功を奏したからでもない 感染症によっては免疫ができにくいものがある 例えば性感染症だ 性感染症の場合 人々の行動が変わなければ 定常状態に入る 一方 感染症を完全に封じ込めることができずにエンデミック状態になるとどうか? 常に新生児など免疫を持たない感受性者が提供される また 数年以内に免疫が落ちてくる感染症も多い このような感染症では 一定の感受性者のプールができることにより数年ごとに流行を繰り返すことになる マイコプラズマ肺炎は昔 4 年に一度流行すると言われた ( 最近はその傾向が崩れている ) 15

Doubling time 集団感染 : outbreak 初期 R0 を数えることができない場合がある ある人が感染して から次の人に感染させるまでの患者発生間隔 : disease generation time (Tg) 患者数倍 加時間 : doubling time が判れば これらから R0 を概算することができる 患者 B は患者 A から感染したのが判っている 患者 A が発症してから患者 B が発症す るまで 3 日だった よって Tg=3days である X 月 1 日患者 6 人だったものが X 月 4 日 227 人にまで増加した 下記公式により doubling time は 0.6 日と計算できる さらに下記公式にあてはめて R0 = 6 という値を得る 16

EXAMPLE AND EXERCISE EXERCISE 1. SARS: Severe Acute Respiratory Syndrome 2002 年 11 月広東省を訪れた中国人ビジネスマンにはじまった急性呼吸不全を主徴とする SARS は世界で 8,439 人を巻き込み 812 人の死者をだしたとされている この新興感染症は 2003 年 7 月までには 人々の努力により封じ込めに成功し その後アウトブレークをみていない Q1. 感染性は 1 回の接触での感染率 単位期間あたり何回接触するか 感染性を有する期間 D の積である :R0 = *D それぞれのパラメータは どのような対策で減らすことができるか? また 0 になりうるパラメータはどれか? Q2. SIR model では infectious な期間 感染性は という定数を用いた しかし SARS においては発症してから 4 日間は二次感染が少なく 5 日目以降に 10 倍程度に急増する (1) この特徴から考えられる封じ込め対策は何か? Q3. 何故 SARS を封じ込めることが可能であったか? 封じ込める側にとって有利であった条件は何か? Q4. 人類は天然痘を封じ込めることができた その理由は何だと思うか? A1. : コンタクトを減らす : 隔離 検疫 社会対応 ( 学校閉鎖等 ) 0 になり得る : 感受性者数を減らす : ワクチン 薬剤の予防的投与 D: 感染強度および期間の減少 : 治療 A2. 患者さんが発症してから 4 日以内に隔離する 以下 実際どうであったかを示す 17

流行がはじまって第 6 週 発症から入院隔離までの期間が中央値 3 日 あるいは SARS 患者さんの 75% を 4 日以内に隔離できるようになった時点で 流行曲線 (1 日当たりの発症人数 ) も下降に転じた このことは発症後 5 日以降に 2 次感染者を多くだす SARS の特徴と矛盾しない 多くの患者さんを 4 日以内に隔離できれば 劇的に R(t) を下げることができるからだ その結果 SARS 封じ込めに成功したのである 18

A3. 1 SARS を発症してから 5 日目以降 急に感染性を増す特性をもつ = 発症し てから 4 日以内は感染性が低いのでこの間に隔離すれば感染拡大を阻止できる 症状があるときだけ感染性を有すると錯覚してしまいがちであるが 症候期と感染期 は必ずしも一致しない 微生物が体内に侵入 すなわち感染 : infection を受けてから これが体内で増えて病気を発症 : disease onset するまでを incubation period と呼ぶ AIDS では日和見感染するよりも前に HIV を血液検査により検知するが そのような特別な場合を除き 多くの感染症では潜伏期間中に診断をすることはできない したがって致死率 感染率が共に高く 公衆衛生的に大きな影響が懸念される感染症においては 潜伏期間中検疫する よって検疫では 症状の無い人を隔離して行動の自由を奪うことになり しかもその人が発症するかどうか判らない点で倫理的な問題を伴う 検疫はあくまで お願いベース とならざるを得ない Incubation period に対して 感染から感染性を有するまでの期間を latent period と呼 19

ぶ 感染症の中には発症する前から感染性を帯びるものがある つまり Incubation period > latent period インフルエンザなどがそうだ 発熱前に 1 人以上に感染させると いくら徹底的に発症者を発見してこれを隔離しても感染拡大を抑えることはできない 何故なら 隔離したときは既に複数人に感染させてしまっているからだ 一方 ラッキーなことに SARS は Incubation period < latent period であった すな わち 発症したばかりの頃 患者さんはまだ感染性をもっていない そのため発症後 すぐに隔離すれば 感染拡大をブロックできるのだ 2 SARS では不顕性感染あるいは無症候性感染例からの 2 次感染が無かった 多くの感染症では症状の軽微なものから重症例まで存在する 重症例は医療機関を受診し きちんと診断を受けることが多い しかし 症状が軽いと医療機関を受診せず 患者さんは日常生活を継続する 基本的に症状が重い方が感染性は高いと考えられるが 軽微なものでも感染性があるとすると 重症例だけ隔離してもその感染症を封じ込めることはできない 一方 SARS では不顕性感染 : asymptomatic からの感染が無かったため 症状の有る人を隔離するだけで封じ込めに成功した 接触歴聴取 : contact trace による検疫 : quarantine も行ったが 上記理屈からは患者の早期隔離の方が封じ込めに与えた効果は大きかったであろう 20

Q4. 人にしか感染しない ワクチンがあった WHO がリーダーシップを発揮し 世界が一丸となって封じ込めに成功した これが一般的なみ方であろう しかし 私は天然痘においては SARS 同様発症後より周囲への感染性を有するようになる点と 不顕性感染がない点 独特の症状 患者さんは倦怠感が強くそうそう外出できない点を付け加えたい MARS: Middle East respiratory syndrome coronavirus 最初の患者 : Index case (2) 2012 年 6 月 13 日 60 歳男性が 7 日間の発熱と咳嗽 痰 呼吸促迫があり Saudi Arabia の Jeddah にある民間病院に入院した Jeddah は Makkah 巡礼の中継地として有名である 入院第 11 病日に進行性の肺炎と腎不全で死亡した その 3 カ月後 Saudi Arabia 旅行歴のある患者が発生 しかし 両者の接点はない 2012 年 9 月 WHO はこの感染症を Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) と名付けた MERS は院内感染 (3) 家族内感染 (4) ラクダからの感染 (5) が中心である 4 人に 1 人は 症状が無いか軽微であり (6) 無症候性感染があると考えられた 医療関係者は 5 人に 1 人でみられた Summary 1. 人から人に広がる感染症では数理モデルが適応できる 21

2. R0 は ある感染者がその感染症に免疫を全く持たない (S) 集団に入ったとき 感 染性期間に直接感染させる平均の人数 である 3. R を 1 未満にすると感染症は終息する 4. R を 1 未満にするためのワクチン接種率は以下の公式で求められる 5. R0 = D で示されるが 患者隔離により k を 0 にできるので R を減らすためには最も有効である 6. SARS は発症してしばらくしてから感染性を増す特性をもっていた 感染性を増す前に隔離すれば封じ込めできることを学んだ MY THOUGHTS 感染症数理モデル : Mathematical model of infectious diseases は我々に真実に気付かせてくれる 嘘 である 臨床医からみるとかなり無理な前提もあるが outbreak 初期 数理モデル的な考え方でアプローチすることにより どの対策が最も有効かが見えてくる ANSER TO THE QUESTION MERS は SARS と同じコロナウイルスです そのため症状 感染様式など共通点も多くあります ですから SARS の教訓を思い出すことが重要だと思います SARS 流行初期 super spreader と呼ばれる 1 人で 10 人以上に感染させる患者さんがいました 誰も SARS という病気自体を知らなかったため SARS 患者さんは個室に隔離されることなく大部屋に入院していました SARS は発症後 5 日以降より突然感染力を増し 22

ます その結果発症 5 日以降で大部屋に入院していた SARS 患者さんは 同じ病棟の他の患者さん 医療関係者 見舞人など多くの人々に 2 次感染させてしまったのです 韓国で集団発生した MERS でも 最初の患者さんが 2 番目の病院で入院中 これはちょうど発症してから 4, 5 日目にあたりますが 大勢の入院中の患者さん 医療関係者 見舞人に感染させてしまいました MERS の感染力は発症してから 3 日間は弱い しかし 4, 5 日目より感染力を増す 最初の患者さんを 4, 5 日目以降も病院の大部屋で治療したため 30 人近い二次感染者をだしてしまった これが理由です これは SARS 流行初期と同じ状況です では SARS をどうやって封じ込めることができたのでしょうか SARS が 発症 3 ~4 日以内は感染性が弱いが 発症後 5 日以降は急に感染性を増す点 に着目すれば答えは簡単です SARS 患者さんを発症 4 日以内に入院させ 個室に隔離し 病院内での感染防護策を採れば R(t) を 0 に近づける 言い換えれば 2 次感染をゼロに近づけることができます 韓国の場合 患者隔離ならびに防護策が手ぬるかったために 3 次感染までいってしまった ( 医療関係者に 4 次感染がみられた ) ことが 患者数を増やしてしまった最大の原因です 1 次感染で終われば MERS 感染患者数は 1 人 2 次感染で止まればせいぜい数十人 3 次感染までいくと数百人規模 4 次感染では数千人規模に達します REFERENCES 1. Lipsitch M, et al. Transmission dynamics and control of severe acute respiratory syndrome. Science. 2003;300:1966-70. 2. Zaki AM, et al. Isolation of a novel coronavirus from a man with pneumonia in Saudi Arabia. N Engl J Med. 2012;367:1814-20. 3. Assiri A, et al. Hospital outbreak of Middle East respiratory syndrome 23

coronavirus. N Engl J Med. 2013;369:407-16. 4. Drosten C, et al. Transmission of MERS-coronavirus in household contacts. N Engl J Med. 2014;371:828-35. 5. Azhar EI, et al. Evidence for camel-to-human transmission of MERS coronavirus. N Engl J Med. 2014;370:2499-505. 6. Oboho IK, et al. 2014 MERS-CoV outbreak in Jeddah--a link to health care facilities. N Engl J Med. 2015;372:846-54. 24