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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

目次 1. 目的 2 2. 人工透析患者の年齢等の分析 3 性別 被保険者 被扶養者 3. 人工透析患者の傷病等の分析 8 腎臓病 併存傷病 平成 23 年度新規導入患者 4. 人工透析 健診結果 医療費の地域分析 13 二次医療圏別 1

1治療 かっていたか, 予想される基礎値よりも 1.5 倍以上の増加があった場合,3 尿量が 6 時間にわたって 0.5 ml/kg 体重 / 時未満に減少した場合のいずれかを満たすと,AKI と診断される. KDIGO 分類の重症度分類は,と類似し 3 ステージに分けられている ( 1). ステー

2 累計 収入階級別 各都市とも 概ね収入額が高いほども高い 特別区は 世帯収入階級別に見ると 他都市に比べてが特に高いとは言えない 階級では 大阪市が最もが高くなっている については 各都市とも世帯収入階級別の傾向は類似しているが 特別区と大阪市が 若干 多摩地域や横浜市よりも高い 東京都特別区

第43号(2013.5)

対象疾患名及び ICD-10 コード等 対象疾患名 ( 診療行為 ) ICD-10 等 1 糖尿病 2 脳血管障害 3 虚血性心疾患 4 動脈閉塞 5 高血圧症 6 高尿酸血症 7 高脂血症 8 肝機能障害 9 高血圧性腎臓障害 10 人工透析 E11~E14 I61 I639 I64 I209 I

1. 趣旨 目的 香川県糖尿病性腎症等重症化予防プログラム 香川県医師会香川県糖尿病対策推進会議香川県国民健康保険団体連合会香川県 本県では 糖尿病患者の人口割合が全国上位にあり 糖尿病対策が喫緊 の課題となっている 糖尿病は放置すると網膜症や腎症 歯周病などの合 併症を引き起こし 患者の QOL

< 糖尿病療養指導体制の整備状況 > 療養指導士のいる医療機関の割合は増加しつつある 図 1 療養指導士のいる医療機関の割合の変化 平成 20 年度 8.9% 平成 28 年度 11.1% 本糖尿病療養指導士を配置しているところは 33 医療機関 (11.1%) で 平成 20 年に実施した同調査

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平成 27 年 10 月 6 日第 2 回健康増進 予防サービス プラットフォーム資料 協会けんぽ広島支部の取り組み ~ ヘルスケア通信簿について ~ 平成 27 年 10 月全国健康保険協会広島支部 協会けんぽ 支部長向井一誠

第1 総 括 的 事 項

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

和歌山県地域がん登録事業報告書

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尿試験紙を用いたアルブミン・クレアチニン検査の有用性


2 本日の説明内容 1 市のプロフィール 2 CKD( 慢性腎臓病 ) とは 3 CKD 対策の背景 4 CKD 対策の取組 (2009~2014) 5 CKD 対策の結果

福岡大学薬学部薬学疾患管理学教授

事業評価のためのチェックリスト ( 単位 : %) (2) 平成 27 年度の原発がんに対する早期がん割合を把握しましたか 肺がんでは臨床病期 Ⅰ 期がん割合 乳がんでは臨床病期 Ⅰ 期までのがん割合を指す (2-1)

求する診療報酬明細書の件数 ( 入院以外 ) は 糖尿病や高血圧 心疾患などの生活習 慣病が約 4 割を占めている 生活習慣病患者が増加することにより 医療費は年々増 大していくことが考えられる 図 2 戸田市の医療費の推移 ( ウ ) 健康寿命の延伸県は健康寿命を 65 歳に達した県民が自立した生

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b. 世帯主年齢階級別 負担率 図表 II- 6-4 墨田ブロックの世帯主年齢階級別 平均負担率 図表 II- 6-5 墨田ブロックの世帯主年齢階級別 負担率の分布 合計 5% 未満 % 以上 1% 未満

また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

2 CKD 1. 不適当な食事 2. 感染症 : 尿路感染, 肺炎, 敗血症など 3. 急激な循環状態の変動 : 高血圧, 低血圧 4. 水 電解質異常 : 脱水, 溢水, アシドーシス 5. 尿路疾患 : 尿路結石 狭窄 感染 6. 腎毒性薬剤 : 造影剤, 抗生物質,NSAIDs 7. 手術およ

小児におけるCKD活動

A 2010 年山梨県がん罹患数 ( 全体 )( 件 ) ( 上皮内がんを除く ) 罹患数 ( 全部位 ) 5,6 6 男性 :3,339 女性 :2,327 * 祖父江班モニタリング集計表から作成 * 集計による主ながんを表示

■● 糖尿病

セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

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協会けんぽ加入者における ICT を用いた特定保健指導による体重減少に及ぼす効果に関する研究広島支部保健グループ山田啓介保健グループ大和昌代企画総務グループ今井信孝 会津宏幸広島大学大学院医歯薬保健学研究院疫学 疾病制御学教授田中純子 概要 背景 目的 全国健康保険協会広島支部 ( 以下 広島支部

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BSA(m 2 )= 体重 (kg) 身長 (cm) =1.27m 2 となり 173.6mL/min/1.73m 2 を 1.27m 2 である患者個人の腎機能に換算 ( で補正を外すと ) すると 127.4mL/min になりますが これでも実測 CCr

小松市医師会糖尿病連携推進協議会の取り組み 受診につなげる取り組み 1) 特定健診後 小松市からの受診勧奨 2) 地区別健康懇談会 等 3) 一般社団法人小松能美薬剤師会が主導した 薬局での血糖測定のモデル事業 合併症発症予防の取り組み 4) 診療所における栄養指導 運動指導の強化ー小松市の試みー

平成23年度国保連合会

高齢化率 総人口 454, , , ,839 老年人口 83, , , ,264 生産人口 307, , , ,138 年少人口 63,286 52,436 41,712 36,437

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機能分類や左室駆出率, 脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain Natriuretic peptide, BNP) などの心不全重症度とは独立した死亡や入院の予測因子であることが多くの研究で示されているものの, このような関連が示されなかったものもある. これらは, 抑うつと心不全重症度との密接な

Ⅰ. 調査の概要. 調査目的日本の全国民を対象に健康日本 2( 第二次 ) に関連する健康意識 認知度調査を評価することで 健康意識における重点課題を把握すること 2 経年的な健康意識の推移を把握することを目的とする これにより 今後の情報発信のあり方を検討する 本年調査は昨年調査に続いて2 回目の

福井県糖尿病性腎症重症化予防プログラム福井県医師会福井県糖尿病対策推進会議福井県 1 趣旨 目的本プログラムは福井県医師会 福井県糖尿病対策推進会議および福井県の三者で策定し 県内の医療保険者 ( 以下 保険者 という ) が医療機関と連携して糖尿病性腎症等の重症化予防の対策が容易となるよう基本的な

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資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

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13章 回帰分析

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

平成 28 年度感染症危機管理研修会資料 2016/10/13 平成 28 年度危機管理研修会 疫学調査の基本ステップ 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース (FETP) 1 実地疫学調査の目的 1. 集団発生の原因究明 2. 集団発生のコントロール 3. 将来の集団発生の予防 2 1

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高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

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第3章「疾病の発症予防及び重症化予防 1がん」

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報道関係各位 2015 年 7 月 31 日 ガルデルマ株式会社 塩野義製薬株式会社 ~ ニキビ経験者を対象としたニキビとニキビ痕に関する調査 より ~ ニキビ経験者の多くが ニキビ治療を軽視 軽いニキビでも ニキビ痕 が残る ことを知らない人は約 8 割 ガルデルマ株式会社 ( 本社 : 東京都新

カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

第 2 章計画の推進及び進行管理 1 計画の推進 県 市町村及び県民が 関係機関等と相互に連携を図りながら 県民の歯 口腔の健康づくりを推進します 県における推進 (1) 全県的な推進 県全域の課題を踏まえた基本的施策や方向性を示すとともに 取組の成果について継続的な評価を行い 県民の生涯を通じた歯

資 料 臨床現場におけるクレアチニンとシスタチン C から算 出した推算 GFR の乖離 古川 通山 聡子 1) 薫 1) 河口 勝憲 1) 佐々木 環 2) 1) 川崎医科大学附属病院中央検査部 ) 川崎医科大学附属病院腎臓内科 要 岡崎希美恵 1) 辻岡 貴之 1) 岡山県倉

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国民健康保険制度改革の施行に向けて

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平成27年国勢調査世帯構造等基本集計結果の概要

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4 月 17 日 4 医療制度 2( 医療計画 ) GIO: 医療計画 地域連携 へき地医療について理解する SBO: 1. 医療計画について説明できる 2. 医療圏と基準病床数について説明できる 3. 在宅医療と地域連携について説明できる 4. 救急医療体制について説明できる 5. へき地医療につ

EBNと疫学

年齢調整死亡率 (-19 歳 ) の年次推移 ( :1999-1) 1 男性 女性 年齢調整死亡率 -19 年齢調整死亡率 年齢調整死亡率 -19 年齢調整死亡率

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Ⅰ 障害福祉計画の策定にあたって

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ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2


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4 年齢階級別の死因山形県の平成 28 年の死因順位は 20 歳から 34 歳までの各階級において自殺が1 位となっているほか 64 歳までの各階級においても死因順位の上位にあり おおむね全国と同様の傾向が見られます < 表 7> 年齢階級別の死因順位 死亡者数 ( 山形県 ) 年齢階級 総死亡者数

CKD 平成 25 年度厚生労働科学研究費補助金による難治性疾患克服研究事業の成果として, 小児慢性腎臓病 ( 小児 CKD) 診断時の腎機能評価の手引き が完成したことをこころからお慶び申し上げます.CKD という概念ははじめ欧米からわが国の成人の腎臓学に持ち込まれた概念で, 日本腎臓学会にて深化

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平成18年度厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)

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(6/5 19:00修正)資料3 標準的な健診・保健指導プログラム改定のポイント (2) (2)

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15 検査 尿検査 画像診断などの腎障害マーカーの異常が3ヶ月以上持続する状態を指すこととしている その病期分類方法は成人と小児では若干異なり 成人では糖尿病性腎障害が多い事からこれによる CKD 患者ではアルブミン尿を用い その他の疾患では蛋白尿を用いてそのリスク分類をしている これに対し小児では

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

Transcription:

日本人の年齢別推算糸球体濾過量 (egfr) の検討 ~ 協会けんぽ東京支部 76 万人の健診データから ~ 渋谷区医師会 望星新宿南口クリニック院長高橋俊雅 協会けんぽ東京支部保健グループ岡本康子 尾川朋子 目的 企画総務グループ馬場武彦 概要 推算糸球体濾過量 (egfr) は 慢性腎臓病 (CKD) の診断 治療に広く利用さ れているが 個々人の egfr を比較できる年齢別 egfr( 標準値 ) の検討は 未だ報告されていない 本研究では 全国健康保険協会 ( 協会けんぽ ) 東京支部が保有する 2012 年度の生活習慣病予防健診受診者 76 万人の健診データを横断的に解析し 年齢階級別 egfr 及び年間 egfr 低下率を推定する 方法 血清クレアチニン値と年齢 性別から推算された 35~74 歳 766,095 名の egfr を 年齢 (5 歳階級 ) 別に集計し 平均値 中央値 75%tile 25%tile 及び 99%tile 1%tile を算出し グラフ化する 各年齢階級別 egfr 平均値の回帰直線から 年間 egfr 低下率を推定する 結果 各年齢階級別 egfr 平均値は 35~39 歳の 86.40 ml/dl/1.73 m2から 70~74 歳の 67.79 ml/dl/1.73 m2まで緩やかに低下する傾向を示した 年齢階級別 egfr 平均値の回帰直線の傾きから推定された年間 egfr 低下率は 男女計 -0.506 ml/dl/1.73 m2 / 年 男性 -0.506 ml/dl/1.73 m2 / 年 女性 -0.483 ml/dl/1.73 m2 / 年であった egfr 平均値は 全ての年齢階級で男性より女性が高かった 考察 年齢階級別 egfr 平均値から求められた回帰直線の傾きは 加齢に伴う egfr の低下率を示唆すると考えられる 年齢階級別 egfr 平均値は 健診や診療の現場において egfr の相対的評価に利用することが期待される 今回作成したグラフは 個々人の egfr の経時的評価の参考になると考えられ CKD の治療効果測定や患者教育 腎代替療法の計画的準備などを予測する指標として活用が期待される 135

目的 推算糸球体濾過量 (egfr) は 慢性腎臓病 (CKD) の診断 治療に広く利用されているが 個々人の egfr を比較できる年齢別 egfr( 標準値 ) の検討は 未だ報告されていない 本研究では 全国健康保険協会 ( 協会けんぽ ) 東京支部が保有する 2012 年度の生活習慣病予防健診受診者 76 万人の健診データを横断的に解析し 年齢階級別 egfr 及び年間 egfr 低下率を推定する 方法 協会けんぽ東京支部の生活習慣病予防健診を 2012 年度に受診した 35~74 歳の 766,095 名 ( 男性 521,550 名 女性 244,545 名 ) について 血清クレアチニン値と年齢 性別から推算された egfr を年齢 (5 歳階級 ) 別に集計し 平均値 中央値 75%tile 25%tile 及び 99%tile 1%tile を算出する 各年齢階級別 egfr 平均値の回帰直線から 年間 egfr 低下率を推定する 今回の対象者 766,095 名の性年齢階級別の人数内訳と 各検査数値の状況 egfr の性年齢別散布図は それぞれ表 1 表 2 図 1 の通りであった ( 表 1) 136

( 表 2) ( 図 1) 137

結果 男女計の年齢階級別 egfr 平均値 ( 単位 :ml/dl/1.73 m2 ) は 35~39 歳 :86.4 40~44 歳 :83.0 45~49 歳 :79.8 50~54 歳 :77.4 55~59 歳 :75.5 60~ 64 歳 :73.2 65~69 歳 :70.9 70~74 歳 :67.8 であり 回帰直線の傾きから推定された年間 egfr 低下率は -0.506 ml/dl/1.73 m2 / 年であった ( 図 2) ( 図 2) 138

男性の年齢階級別 egfr 平均値 ( 単位 :ml/dl/1.73 m2 ) は 35~39 歳 :85.7 40~44 歳 :82.5 45~49 歳 :79.5 50~54 歳 :77.2 55~59 歳 :75.4 60~ 64 歳 :72.7 65~69 歳 :70.3 70~74 歳 :67.2 であり 回帰直線の傾きから推定された年間 egfr 低下率は -0.506 ml/dl/1.73 m2 / 年であった ( 図 3) ( 図 3) 139

女性の年齢階級別 egfr 平均値 ( 単位 :ml/dl/1.73 m2 ) は 35~39 歳 :88.0 40~44 歳 :84.1 45~49 歳 :80.4 50~54 歳 :77.6 55~59 歳 :75.8 60~ 64 歳 :74.6 65~69 歳 :73.1 70~74 歳 :69.6 であり 回帰直線の傾きから推定された年間 egfr 低下率は -0.483 ml/dl/1.73 m2 / 年であった ( 図 4) ( 図 4) 140

男女で年齢階級別 egfr 平均値と 95% 信頼区間を比較すると 全ての年齢階級で男性より女性の方が高かった ( 図 5) ( 図 5) 考察 76 万人のビッグデータから 実地の年齢階級別 egfr 平均値が示された 年齢階級別 egfr 平均値から求められた回帰直線の傾きは 加齢に伴う egfr 低下率を示唆すると考えられる 年齢階級別 egfr 平均値を参照することで egfr の相対的評価 をすることができる 健診後の受診勧奨や かかりつけ医による患者教育や経過観察 専門医との連携への活用が期待される 加齢に伴う egfr 低下率は 日本人で平均 -0.36 ml/dl/1.73 m2 / 年の報告があり ノルウェー住民コホートで平均 -1.03 ml/dl/1.73 m2 / 年との報告があるが 加齢による egfr 低下率の報告は少ない 今回 単年度データの横断的な解析ではあるが 年間 egfr 低下率を-0.506 ml/dl/1.73 m2 / 年と推計し 視覚的に経過を捉えることができるグラフを作成した 個々の症例ごとに経過が異なる CKD において egfr の経時的評価は重要であり 年齢別 egfr 平均値などのグラフは参考になると考えられる CKD の治療効果測定や患者教育 腎代替療法の計画的準備などを予測する指標として活用が期待される 141

参考までに 協会けんぽ東京支部では CKD 未治療者に対する受診勧奨文書に 対象者の egfr をプロットした年齢別 egfr グラフ掲載し その相対的評価や経時的変化を視覚的に把握し易くする取り組みを行っており 受診勧奨で効果を上げている ( 図 6) ( 図 6) 142

また 年齢別 egfr グラフの臨床応用例として 現在どれほど同年齢より egfr が低いか このまま egfr が低下を続けた場合に何歳ぐらいで透析が必要になると予想されるか 等を視覚的に患者に示すことができる ( 図 7) ( 図 7) 尚 本研究の限界として 以下の点が挙げられる egfr 推算式の正確性は 75% の症例が実測 GFR の ±30% に含まれる 程度であること 今回の対象は 労働者 (= 働いている人 ) の健診データベースであること 今回の 年間 egfr 低下率 は 単年度データを横断的に解析した推定値であること 今回の対象には 疾患治療中の受診者 や 未治療の受診者 が含まれる為 健常者の標準的な egfr を示すものではないこと 今後は 健常者のみに限定した年齢階級別 egfr 平均値の推定や 同じコホートを追跡した年間 egfr 低下率の推定に取り組みたい 参考文献 日本腎臓学会編 CKD 診療ガイド 2012 Imai E, et al. Slower decline of glomerular filtration rate in the Japanese general population: a longitudinal 10-year follow-up study. 143

Hypertension Research 2008; 31(3):433-41 Eriksen BO, Ingebretsen OC. The pregression of chronic kidney disease: a 10-year population-based study of the effects of gender and age. Kidney International 2006: 69(2):375-82 備考 2015 年 6 月 6 日第 58 回日本腎臓学会で発表 144