基礎化学 第 9 回 分 構造の予測 担当 : 学院 学理 学部化学 命科学科阿部 朗 1
校化学の教科書に記述されている内容 原 価殻電 対反発理論 (VSEPR 理論 ) 2
メタンの分 構造 3 (a) 正四 体は 4 個の等価な頂点と 4 個の等価な平 からなる対称的な 体である (b) 正四 体形は 体に基づく構造としてみることもできる すなわち 体の 8 個の頂点のうち 図のように 4 個の原 をおき さらに中 に原 をおくと正四 体形となる 正四 体結合 は 109.5 となる
原 価殻電 対反発理論 VSEPR 理論 (Valence-shell electron-pair repulsion theory) ともいう 分 構造を予測するためのルイス構造に基づく 常に信頼性の い理論である この理論は 気体状態にある分 のような 孤 した分 の形状を予測するために いる規則であるが 般に 固体状態でも 分 の形状はこの理論によって予測されものとほとんど違わない ギレスピー (Ronald J. Gillespie) とナイホルム (Ronald S. Nyholm) により 1957 年に提案された理論 分 の中 原 の原 価殻における結合電 対と 共有電 対の総数に基づいて 分 構造を予測する 分 の形状は 中 原 の原 価殻における電 対の間の反発を最 にすることにより決まる 4
実験的に観測された様々な分 の形状 5
塩化ベリリウム (BeCl 2 ) の分 構造の予測 VSEPR 理論 : 分 の中 原 の原 価殻における結合電 対と 共有電 対の総数に基づいて 分 構造を予測する理論である 分 の形状は 中 原 の原 価殻における電 対の間の反発を最 にすることにより決まる 1. 中 のベリリウム原 は 共有電 対を持たないが つの共有結合があるので その原 価殻に つの結合電 対を持っている 2. これらの原 価殻の電 対は反発しあうので できるだけ離れることによって その反発を最 にしようとする 3. つの結合は中 のベリリウム原 に対して 反対側に位置することになり Cl-Be-Cl 結合 は 180 となる すなわち 直線形 (linear) の分 になる 6
複数の電 対をもつ分 構造の予測 互いの反発が最 になるように球の表 に配置された電 対の組 ( の球 ) 7
三フッ化ホウ素 (BF 3 ) の分 構造の予測 ホウ素原 のまわりにある三つの原 価殻電 対 ( すなわち 三つの共有結合 ) は 互いに最も離れることによって それらの間の反発を最 にすることができる この結果 三つの電 対は平 三 形 (trigonal planar) に配列することになる 8
メタン (CH 4 ) の分 構造の予測 炭素原 のまわりにある四つの原 価殻電 対 ( すなわち 四つの共有結合 ) は 互いに最も離れることによって それらの間の反発を最 にすることができる この結果 四つの電 対は正四 体形 (tetrahedral) に配列することになる 9
五塩化リン (PCl 5 ) の分 構造の予測 リン原 のまわりにある五つの原 価殻電 対 ( すなわち 五つの共有結合 ) は 互いに最も離れることによって それらの間の反発を最 にすることができる この結果 五つの電 対は三 両錐形 (trigonal pyramidal) に配列することになる 道上にある頂点は正三 形を形成しており 両極をつなぐ軸上の頂点は その正三 形の上下に位置している そのため 三 両錐形の五個の頂点は等価ではない 道上にある三個の頂点は等価 ( エクアトリアル :equatorial) 両極をつなぐ軸上の 2 個の頂点は等価 ( アキシアル :axial) 10
六フッ化硫 (SF 6 ) の分 構造の予測 硫 原 のまわりにある六つの原 価殻電 対 ( すなわち 六つの共有結合 ) は 互いに最も離れることによって それらの間の反発を最 にすることができる この結果 六つの電 対は正 体形 (octahedral) に配列することになる 11
分 の形状と結合 12
原 価殻に 共有電 対がある場合 : アンモニア分 アンモニアの窒素原 の原 価殻には四つの電 対がある そのうちの三つは共有結合を形成しており つは 共有電 対である これら四つの原 価殻電 対は互いに反発し 正四 体の頂点の 向を向く 三個の 素原 は正三 形を形成し 窒素原 はその正三 形の中 の上 に位置する このような構造を三 錐 あるいは三 ピラミッドといい アンモニア分 の 体構造は三 錐形 (trigonal pyramidal) である と表現する 13 CH 4 NH 3 H 2 O
原 価殻に 共有電 対がある場合 : アンモニア分 アンモニアの窒素原 の原 価殻には四つの電 対がある そのうちの三つは共有結合を形成しており つは 共有電 対である これら四つの原 価殻電 対は互いに反発し 正四 体の頂点の 向を向く 三個の 素原 は正三 形を形成し 窒素原 はその正三 形の中 の上 に位置する このような構造を三 錐 あるいは三 ピラミッドといい アンモニア分 の 体構造は三 錐形 (trigonal pyramidal) である と表現する もし NH 3 分 における四つの電 対が正四 体の頂点 向を向いていれば N-H-N 結合 は 109.5 になるはずであるが 実際は 107.3 であることが分かっている 14
共有結合電 対と 共有電 対の空間的広がりの違い 共有結合を形成している電 対 : 個の原 に共有されており それらの間に局在している 共有電 対 : 中 原 だけに関わっている電 対であるから 共有結合の電 対のように局在していない そのため 共有電 対は 結合電 対に べてより空間的に広がって存在している あるいは かさ い ということができる その結果 共有電 対と共有結合の電 対との反発は つの隣接する共有結合の電 対間の反発よりも きくなる 15
原 価殻に 共有電 対がある場合 : 分 分 の酸素の原 価殻には四つの電 対がある そのうちの つは共有結合を形成しており つは 共有電 対である これら四つの原 価殻電 対は互いに反発し 正四 体の頂点の 向を向く したがって H 2 O は屈曲型 (bent) あるいは折れ線形である つの 共有電 対は つの共有結合の電 対よりも 酸素原 のまわりの きな空間をとる 共有電 対と共有結合の電 対間の反発 あるいは つの隣接する共有結合の電 対間の反発 < 共有電 対間の反発 16
原 価殻に 共有電 対がある場合 : 分 共有電 対と共有結合の電 対間の反発 あるいは つの隣接する共有結合の電 対間の反発 < 共有電 対間の反発 CH 4 NH 3 H 2 O 正四 体型 (tetrahedral) H-C-H 109.5 三 錐型 (trigonal pyramidal) H-N-H 107.3 屈曲型 (bent) H-O-H 104.5 17
分 の形状 AX m E n 型分 (X: 配位 E: 共有電 対 ) 18
分 の形状 AX m E n 型分 (X: 配位 E: 共有電 対 ) 19
多重結合をもつ分 に対する VSEPR 理論の適 多重結合を形成している 2 個の原 間の結合電 はすべて それらの 2 個の原 に共有されているので 重結合あるいは三重結合は 中 原 A と配位 X をつないでいるひとまとまりの電 とみなす H-C-O 122 H-C-C 116 例 1) 酸化炭素 CO 2 は AX 2 分 に分類されるので 直線形であると予想できる 例 2) ホルムアルデヒド H 2 CO は AX 3 分 に分類されるので 平 三 形であると予想できる 複数の電 対をもつ多重結合は つの電 対からなる単結合よりも空間的な広がりが きい すなわち かさ いことに注意が必要である したがって 多重結合と単結合の間の反発は 単結合どうしの反発よりもずっと強い 空間的な きさの点では 多重結合は 共有電 対と同等にふるまう 20
多重結合をもつ分 に対する VSEPR 理論の適 ホスゲン (COCl 2 ): 毒性の強い 無 の気体 AX 3 分 に分類されるので 平 三 形であると予想できる 塩化チオニル (SOCl 2 ): 有機合成における塩素化剤として利 される 硫 原 に 共有電 対が存在するため AX 3 E 分 に分類される したがって 塩化チオニル分 は三 錐形 すなわち 2 個の塩素原 と 1 個の酸素原 が形成する平 の上 に硫 原 が位置した形状をもつ ホスゲンと塩化チオニルでは分 式が類似しているにも関わらず 塩化チオニル分 の中 硫 原 が 共有電 対をもつために それぞれの分 形状が異なることに注意する 21
五塩化リン (PCl 5 ) の分 構造の予測 リン原 のまわりにある五つの原 価殻電 対 ( すなわち 五つの共有結合 ) は 互いに最も離れることによって それらの間の反発を最 にすることができる この結果 五つの電 対は三 両錐形 (trigonal pyramidal) に配列することになる 道上にある頂点は正三 形を形成しており 両極をつなぐ軸上の頂点は その正三 形の上下に位置している そのため 三 両錐形の五個の頂点は等価ではない 道上にある三個の頂点は等価 ( エクアトリアル :equatorial) 両極をつなぐ軸上の 2 個の頂点は等価 ( アキシアル :axial) 22
共有電 対をもつ三 両錐形 (trigonal pyramidal) 分 共有電 対がエクアトリアル位置にある AX 4 E 分 共有電 対と 90 をなす隣接原 が 2 個 共有電 対がアキシアル位置にある AX 4 E 分 共有電 対と 90 をなす隣接原 が 3 個 どちらが安定か? その理由は? 23
共有電 対をもつ三 両錐形 (trigonal pyramidal) 分 安定 不安定 24 共有電 対がエクアトリアル位置にある AX 4 E 分 共有電 対と 90 をなす最近接の結合電 対が 2 個 他の つの結合電 対と 共有電 対とのなす 度は 120 であり 互いに 分に離れているため それらの間の相互作 は 最近接の結合電 対と 90 をなす場合と べて著しく さい 共有電 対がアキシアル位置にある AX 4 E 分 共有電 対と 90 をなす最近接の結合電 対が 3 個
共有電 対をもつ三 両錐形 (trigonal pyramidal) 分 seesaw-shaped T-shaped linear 25
共有電 対をもつ三 両錐形 (trigonal pyramidal) 分 ルイス構造から四フッ化硫 SF 4 分 は AX 4 E に分類されることがわかる 共有電 対が三 両錐形のエクアトリアル位置の つにおかれるので SF 4 分 の形状はシーソー形と予想することができる 26
共有電 対をもつ三 両錐形 (trigonal pyramidal) 分 理想的な形状 実際の形状 エクアトリアル位置にある 共有電 対と四つの硫 - フッ素共有結合との反発により 理想的な形状からわずかにずれる 27
共有電 対をもつ三 両錐形 (trigonal pyramidal) 分 ルイス構造から三フッ化塩素 ClF 3 分 は AX 3 E 2 に分類されることがわかる 共有電 対が三 両錐形のエクアトリアル位置の つにおかれるので ClF 3 分 の形状は T 字形と予想することができる 28
共有電 対をもつ三 両錐形 (trigonal pyramidal) 分 理想的な形状 実際の形状 エクアトリアル位置にある つの 共有電 対によってわずかなゆがみが起こり 実際の結合 は 90 よりもやや さくなる 29
共有電 対をもつ三 両錐形 (trigonal pyramidal) 分 ルイス構造から I 3- イオンは AX 2 E 3 に分類されることがわかる 共有電 対が三 両錐形のエクアトリアル位置の三つにおかれるので I 3- イオンの形状は直線形と予想することができる 30
共有電 対をもつ正 体 (octahedral) 分 (a)ax 6 (b) AX 5 E (c) AX 4 E 2 (d) AX 3 E 3 に分類される分 の理想的な形状 (c) と (d) においては 共有電 対間の 較的 きな電 反発を最 にするために つの 共有電 対は 反対の位置を占める 31
共有電 対をもつ正 体 (octahedral) 分 ルイス構造から BrF 5 分 は AX 5 E に分類されることがわかる BrF 5 分 の形状は四 錐形と予想することができる 32
無極性分 の分 形状 分 が正味の双極 モーメントをもつためには その分 は次の つの条件を満たさなければならない 1. 極性結合をもつこと すなわち 分 に含まれる 2 個 あるいはそれ以上の原 の間に電気陰性度の差があること 2. その極性結合が 対称に位置していること すなわち 極性結合がもつ双極 モーメントが打ち消されないこと 双極 モーメントを持たない分 を無極性分 という 33
無極性分 の分 形状 34
極性分 の分 形状 正味の双極 モーメントをもつ分 の例 35