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[ 原著論文 ] メタボリックシンドローム該当者の年齢別要因比較 5 年間の健康診断結果より A cross primary factors comparative study of metabolic syndrome among the age. from health checkup resu

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ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

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No. 2 2 型糖尿病では 病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります そのため 腸内フローラを適切に維持し 血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です プロバイオティクス飲

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans


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インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

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腸内環境 腸内細菌を介した中高年者におけるメタボリック シンドロームおよび肥満の治療法の開発 慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科 助教入江潤一郎 ( 共同研究者 ) 慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科大学院生添田幸恵 はじめに厚生労働省の国民健康 栄養調査によると 40-74 歳でメタボリックシンドロームが強く疑われる人はその予備群も含めると中高年者の男性の 2 人に 1 人 女性の 5 人に 1 人が該当する 内臓脂肪の蓄積を伴う肥満がメタボリックシンドロームを惹起し心血管事故を誘発することから 心血管事故に至るその病態の研究が盛んにおこなわれてきているが 中高年者の肥満 特に男性の肥満は増加の一途をたどっており十分な管理が出来ていない そもそも肥満が生じるその原因や有効な治療法については研究が不十分と考えられ 新規の視点からのアプローチが求められている 近年 肥満やメタボリックシンドロームの形成における消化管環境の役割に注目が集まっている 現在まで看過されていた消化管からの栄養の吸収過程の変化が 肥満の発症に関与している可能性が昨今示唆されており 特に腸管環境を規定する重要な因子として腸内細菌が注目されている 肥満者では痩せている者と腸内細菌叢が異なること また日本人全体が欧米人とは腸内細菌が異なることが報告され 腸内細菌の代謝異常症への影響およびその治療への応用が注目されている 1 しかし腸内細菌叢を規定する因子 その病態形成への意義 また治療への応用方法は明らかではない そこで本研究では 高脂肪食の投与や抗肥満効果を有する薬剤をマウスに投与し これらの食事内容の差異が腸内細菌叢の組成に如何に影響するか また薬剤の腸内細菌叢への影響を検討することとした また同時に薬剤の効果発現に腸内細菌が如何に関わるかも無菌動物を用いて検討した 結果 1. 高脂肪食ならびに抗肥満薬が腸内細菌叢の組成に与える影響の検討まず食事内容が腸内細菌叢に与える影響の検討を行った 4-6 週令の雄 BALB/c マウスを使用し 1 通常食 (CE-2) を与える群 ( 通常食群 ) 2 高脂肪食 (Research diet 社の 60% 脂肪食 ) を与える群 ( 高脂肪食群 ) 3 高脂肪食 (Research diet 社の 60% 脂肪食 ) にコレスチミドを混餌した餌を与える群 ( コレスチミド混餌食群 ) に割り付け飼育した 週 2 回体重の測定を行った また各マウスの便を採取し DNA を抽出した後 腸内細菌叢の分布を 16SrDNA 法である T-RFLP 法と Real-time PCR 法の両方を用いて行った 高脂肪食を与えたマウスでは有意に体重の増加を認め コレスチミド混餌食群では有意にその体 58

重増加が抑制された ( 下図 1; 通常食 vs. 高脂肪食群 高脂肪食群 vs. コレスチミド混餌食群 p<0.05) 図 1: 通常食 高脂肪食 コレスチミド混餌食を与えたマウスの体重の増加 図 2: 通常食 高脂肪食 コレスチミド混餌食を与えたマウスの腸内細菌組成 この 3 群間で腸内細菌叢のプロファイルを検討したところ 高脂肪食の投与によりクロストリジウム族が通常食群に比較し増加し コレスチミドの混餌投与によりそのクロストリジウム族の増加は抑制され バクテロイデス族の増加が認められた ( 図 2) さらに本所見を半定量 PCR 法を用いて確認を 59

図 3: 通常食 高脂肪食 コレスチミド混餌食を与えたマウスの腸内細菌組成 行った バクテロイデス族全体 クロストリジウム族に対するプライマーを使用し半定量 PCR 法を行ったが 通常食に比較して高脂肪食投与でバクテロイデス族は減じており コレスチミドの混餌により高脂肪食群に比較しバクテロイデス族は増加した ( 図 3) 従って 2 種類の異なる方法により高脂肪食およびコレスチミドの混餌による腸内細菌叢組成の変化を確認しえた 2. 腸内細菌の抗肥満効果発現への影響次に本コレスチミドの抗肥満効果の発現に腸内細菌が如何に関与するかを明らかとするために 高脂肪食およびコレスチミド混餌食を無菌雄性 Balb/c マウスに与えた 無菌環境の維持は定期的な糞 図 4: 無菌環境下での高脂肪食 コレスチミド混餌食による体重増加 60

便の無菌を確認することで行った その結果これまでに認められたコレスチミドの抗肥満効果は無菌環境下では認められなかった ( 図 4) コレスチミドの抗肥満効果に腸内細菌の存在が必要であることが示された 考察近年糖尿病治療薬として大きな注目を集めているインクレチン製剤 (GLP-1 アナログ DPP4 阻害薬 ) はその血糖降下作用のみならず 体重増加を来さない または減量効果を有することが明らかとなり期待が寄せられている しかしこれらの薬剤の作用機序は必ずしも明らかではなく また一方でこれまで長く臨床で使用されてきた糖尿病治療薬などにもインクレチンを介した作用があることが明らかとなってきており 改めて肥満 メタボリックシンドロームを代表とする代謝異常症の治療における腸管ホルモンの重要性を認識することになった 本研究で用いたコレスチミドは非吸収性薬物であり 主として胆汁酸を腸管内で吸着することで血清コレステロールを低下させる薬物である 1980 年代には既にコレステロールを低下させることで心血管事故を減じることを明らかとしており 副作用の少ない歴史のある薬剤である 一方で最近コレスチミドが減量効果を有すること また耐糖能が改善するとの報告が相次いでいる 2,3 しかしこの機序は不明であった そこで我々はコレスチミドが非吸収性薬剤であることに注目し 腸管環境に作用することを介して代謝異常症の改善がもたらされると仮説を立てた 特に腸管環境に大きな影響を与えるものとして近年腸内細菌が注目を集めている 肥満者では糞便中のバクテロイデス族が減じており 一方クロストリジウム族が増加していること また肥満者が減量するとバクテロイデス族が増加しクロストリジウム族が減じることが報告され腸内細菌叢組成が個体の代謝状態を反映する指標として使用できる可能性が示されている 4 そこで本研究においてもコレスチミドの腸内細菌叢組成に与える影響を検討した まずコレスチミド混餌食の投与により高脂肪食による肥満形成の軽減が認められることを確認し 引き続きそれらの個体の腸内細菌叢組成を遺伝学的に検討した その結果高脂肪食により肥満が誘導された個体ではバクテロイデス族の減少 クロストリジウム族の増加が認められ ヒトでの既報に合致するものであった さらに興味深いことに高脂肪食にコレスチミドを混餌した餌を投与された群では 高脂肪食で認められたバクテロイデス族 クロストリジウム族の変化が減じていた すなわちヒトにおける減量を行った際に認められる変化に相当する変化が認められていた しかし完全に通常食を投与されたマウスと同じ腸内細菌叢組成とはなっておらず 食事内容の違いによる腸内細菌叢形成への寄与も大きいと考えられた 次にこのコレスチミドの抗肥満効果が腸内細菌を介しているものであるかを検討すべく無菌マウスを用いて同薬剤の効果を検討した 無菌環境下ではコレスチミドの抗肥満効果は認められず 同薬の抗肥満効果には腸内細菌が関与していることが示された コレスチミドが腸内細菌を介して代謝異常を改善する機序としては 1) 変化した腸内細菌そのものが寄与している可能性 2) 腸内細菌が代謝する物質が寄与している可能性が想定される 1) の可能性に関しては実際にコレスチミドの投与でクロストリジウム族が減じ バクテロイデス族が増加しており この腸内細菌叢組成が代謝異常症に好影響を与えている可能性は考えられる 既報では腸 61

内細菌叢組成の違いが発酵能の違いをもたらし 食物のエネルギー回収能の違いとなり肥満形成に寄与するとされている 5 今後我々の系においても糞便中のエネルギー含量を測定する予定である さらに高脂肪食またはコレスチミド混餌食を与えられたマウスの糞便をそれぞれ無菌マウスに移植して異なる細菌叢を有するノトバイオートマウスを作製し それぞれの代謝状態を検討する 2) の可能性に関しては コレスチミドは胆汁酸を主に吸着する物質であり 腸管腔内および体循環における胆汁酸量 組成の変化の検討を行う必要がある 特に胆汁酸は全身にホルモン様に影響し 褐色脂肪組織におけるエネルギー消費を亢進させ抗肥満効果を有することが発見されており コレスチミドの投与により個体全体の胆汁酸代謝が変化している可能性は極めて高い 6 現時点ではコレスチミドの投与により腸管壁細胞における胆汁酸シグナルが減じていることを見出しており腸管局所では必ずしも胆汁酸を投与した際の胆汁酸動態と一致しないが 逆説的ではあるがコレスチミドを投与されたマウスでも基礎代謝が亢進し 褐色脂肪組織のエネルギー消費が亢進していることを我々は見出している 従って腸管腔で胆汁酸が吸着され減少することが 結果的に褐色脂肪組織に高親和性の全身の胆汁酸組成をもたらすことを想定している 今後各臓器 血中の胆汁酸組成の検討 ならびに胆汁酸シグナルの下流遺伝子の発現を検討していく予定である 要約高脂肪食誘導肥満マウスでは通常食マウスに比較しクロストリジウム族の増加 バクテロイデス族の減少に代表される腸内細菌叢組成の変化を認めた 高脂肪食にコレスチミドを混餌し投与すると 高脂肪食による肥満の軽減を認めた また高脂肪食で出現した腸内細菌叢組成の変化の軽減が認められた このコレスチミドによる抗肥満効果には腸内細菌の存在が必須と考えられた 文献 1. Hehemann, J.H., et al. Transfer of carbohydrate-active enzymes from marine bacteria to Japanese gut microbiota. Nature 464, 908-912 (2010). 2. Kobayashi, M., et al. Prevention and treatment of obesity, insulin resistance, and diabetes by bile acidbinding resin. Diabetes 56, 239-247 (2007). 3. Suzuki, T., et al. Effects of colestimide on blood glucose-lowering activity and body weight in patients with type 2 diabetes and hypercholesterolemia. Journal of Nihon Medical School = Nihon Ika Daigaku zasshi 74, 81-84 (2007). 4. Ley, R.E., Turnbaugh, P.J., Klein, S. & Gordon, J.I. Microbial ecology: human gut microbes associated with obesity. Nature 444, 1022-1023 (2006). 5. Backhed, F., et al. The gut microbiota as an environmental factor that regulates fat storage. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 101, 15718-15723 (2004). 6. Watanabe, M., et al. Bile acids induce energy expenditure by promoting intracellular thyroid hormone activation. Nature 439, 484-489 (2006). 62