2012 年 7 月 18 日放送 嫌気性菌感染症 愛知医科大学大学院感染制御学教授 三鴨廣繁 嫌気性菌とは嫌気性菌とは 酸素分子のない環境で生活をしている細菌です 偏性嫌気性菌と通性嫌気性菌があります 偏性嫌気性菌とは 酸素分子 20% を含む環境 すなわち大気中では全く発育しない細菌のことで 通

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2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

耐性菌届出基準

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

名称未設定

第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります


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Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿


2015 年 9 月 30 日放送 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE) はなぜ問題なのか 長崎大学大学院感染免疫学臨床感染症学分野教授泉川公一 CRE とはカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 以下 CRE 感染症は 広域抗菌薬であるカルバペネム系薬に耐性を示す大腸菌や肺炎桿菌などの いわゆる

Microsoft Word - 【Q&A→自治体】セファゾリン事務連絡

92 解説 Ⅰ. 序文 急性歯性感染症に対する第一選択薬はペニシリン系薬である ペニシリン系薬 セフェム系薬は下顎骨へ 歯性感染症主要起炎菌に対するsitafloxacinの抗菌 殺菌作用に関する検討 Antibacterial and Bactericidal Activity of Sitafl

浜松地区における耐性菌調査の報告

事務連絡 平成 31 年 4 月 3 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 セファゾリンナトリウム注射用 日医工 が安定供給されるまでの対応について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課及び医政局経済課から別添のとおり事務連絡があり

プライマリーケアのためのワンポイントレクチャー「抗菌薬①」(2016年4月27日)

グリコペプチド系 >50( 常用量 ) 10~50 <10 血液透析 (HD) 塩酸バンコマイシン散 0.5g バンコマイシン 1 日 0.5~2g MEEK 1 日 4 回 オキサゾリジノン系 ザイボックス錠 600mg リネゾリド 1 日 1200mg テトラサイクリン系 血小板減少の場合は投与

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

(案の2)

2006 年 3 月 3 日放送 抗菌薬の適正使用 市立堺病院薬剤科科長 阿南節子 薬剤師は 抗菌薬投与計画の作成のためにパラメータを熟知すべき 最初の抗菌薬であるペニシリンが 実質的に広く使用されるようになったのは第二次世界大戦後のことです それまで致死的な状況であった黄色ブドウ球菌による感染症に

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2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

(地Ⅲ116)

づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

2014 年 7 月 16 日放送 細菌性膣症についての最新の話題 富山大学産科婦人科教授齋藤滋細菌性膣症の概念細菌性膣症 (Bacterial vagiosis) は 以前は非特異的膣炎 ガードネレラ膣炎 ヘモフィルス膣炎などとして知られていましたが 現在では乳酸桿菌である Lactobacill

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

スライド 1

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褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

2 経験から科学する老年医療 上記 12 カ月間に検出された病原細菌総計 56 株中 Escherichia coli は 24 株 うち ESBL 産生菌 14 株 それ以外のレボフロキサシン (LVFX) 耐性菌 2 株であった E. coli 以外の合計は 32 株で 内訳は Enteroco

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

検査実施料新設のお知らせ

2.7.3(5 群 ) 呼吸器感染症臨床的有効性グレースビット 錠 細粒 表 (5 群 )-3 疾患別陰性化率 疾患名 陰性化被験者数 / 陰性化率 (%) (95%CI)(%) a) 肺炎 全体 91/ (89.0, 98.6) 細菌性肺炎 73/ (86

57巻S‐A(総会号)/NKRP‐02(会長あいさつ)

審査結果 平成 26 年 1 月 6 日 [ 販 売 名 ] ダラシン S 注射液 300mg 同注射液 600mg [ 一 般 名 ] クリンダマイシンリン酸エステル [ 申請者名 ] ファイザー株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 25 年 8 月 21 日 [ 審査結果 ] 平成 25 年 7

グリコペプチド系 >50( 常用量 ) 10~50 <10 血液透析 (HD) 塩酸バンコマイシン散 0.5g MEEK バンコマイシン 1 日 0.5~2g 1 日 4 回 オキサゾリジノン系 ザイボックス錠 600mg リネゾリド 1 日 1200mg テトラサイクリン系 血小板減少の場合は投与


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分離・同定検査

抗菌療法

48小児感染_一般演題リスト160909

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抗菌薬マニュアル

プライマリーケアのためのワンポイントレクチャー「総論」(2017年4月12日開催)

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

改訂の理由及び調査の結果直近 3 年度の国内副作用症例の集積状況 転帰死亡症例 国内症例が集積したことから専門委員の意見も踏まえた調査の結果 改訂することが適切と判断した 低カルニチン血症関連症例 16 例 死亡 0 例

性器クラミジア感染症

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第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 郷田瑛 論文審査担当者 主査和泉雄一副査山口朗原田浩之 論文題目 Analysis of the factors affecting the formation of the microbiome associated with chronic osteomye

接歯や粘膜上皮に付着できない菌も組織定着が可能です ( 図 2) 口腔ケアが低下し異菌種間の凝集を仲介する細菌種の Fusobacterium や Actinomyces などが増えると プラーク量は一気に増加します ( 図 2) 徐々にプラーク内の嫌気度が増し 歯周病原菌 Porphyromona

スライド 1

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57巻S‐A(総会号)/NKRP‐02(会長あいさつ)

したことによると考えられています 4. ピロリ菌の検査法ピロリ菌の検査法にはいくつかの種類があり 内視鏡を使うものとそうでないものに大きく分けられます 前者は 内視鏡を使って胃の組織を採取し それを材料にしてピロリ菌の有無を調べます 胃粘膜組織を顕微鏡で見てピロリ菌を探す方法 ( 鏡検法 ) 先に述


【第38回セミナー 講演および症例提示に関するQ&A】

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背景 ~ 抗菌薬使用の現状 ~ 近年 抗微生物薬の薬剤耐性菌に伴う感染症の増加が国際的にも大きな課題の一つに挙げられている 欧州及び日本における抗菌薬使用量の国際比較 我が国においては 他国と比較し 広範囲の細菌に効く経口のセファロスポリン系薬 キノロン系薬 マクロライド系薬が第一選択薬として広く使

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プライマリーケアのためのワンポイントレクチャー「抗菌薬②」(2017年5月10日開催)

Ⅲ. 検査検査は軽症 (0 項目 ) と中等症 (1 2 項目 ) では肺炎球菌尿中抗原 必要によりレジオネラ尿中抗原とインフルエンザ抗原 中等症 (1,2 項目 ) と重症 (3 項目 ) ではさらに喀痰グラム染色 喀痰培養を追加 超重症 (4,5 項目 ) ではさらに血液培養 血清検査とストック

topics vol.82 犬膿皮症に対する抗菌剤治療 鳥取大学農学部共同獣医学科獣医内科学教室准教授原田和記 抗菌薬が必要となるのは 当然ながら細菌感染症の治療時である 伴侶動物における皮膚の細菌感染症には様々なものが知られているが 国内では犬膿皮症が圧倒的に多い 本疾患は 表面性膿皮症 表在性膿

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医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

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研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります


第39回セミナー 講演および症例提示に関するQ&A

薬剤耐性とは何か? 薬剤耐性とは 微生物によって引き起こされる感染症の治療に本来有効であった抗微生物薬に対するその微生物の抵抗性を言う 耐性の微生物 ( 細菌 真菌 ウイルス 寄生虫を含む ) は 抗菌薬 ( 抗生物質など ) 抗真菌薬 抗ウイルス薬 抗マラリア薬などの抗微生物薬による治療に耐えるこ

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で言われています このような 副鼻腔炎と喘息の合併のことを 同一の気道で起こるので One airway one disease と呼ばれ久しくなっています それぐらいに 上気道と下気道の関連が密接であることが 広く認識されています また 副鼻腔炎に下気道の慢性炎症を合併する疾患としては 副鼻腔気管

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

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2015 年 7 月 8 日放送 抗 MRS 薬 最近の進歩 昭和大学内科学臨床感染症学部門教授二木芳人はじめに MRSA 感染症は 今日においてももっとも頻繁に遭遇する院内感染症の一つであり また時に患者状態を反映して重症化し そのような症例では予後不良であったり 難治化するなどの可能性を含んだ感

入した場合には 経気道的な散布巣として臓側胸膜から 2-3mm 離れた内側に小葉中心性粒状影や tree-in-bud といわれる小葉中心性病変を呈しますが この所見をみた場合には呼吸器感染症を強く疑います 汎小葉性病変は 小葉間隔壁に囲まれた ほぼ 1, 2cm 四方の小葉内が細胞浸潤や滲出物ある

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

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NEWS RELEASE 東京都港区芝 年 3 月 24 日 ハイカカオチョコレート共存下におけるビフィズス菌 BB536 の増殖促進作用が示されました ~ 日本農芸化学会 2017 年度大会 (3/17~

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(別添様式)

地方衛生研究所におけるカルバペネム耐性腸内細菌科細菌検査の現状 薬剤耐性研究センター 第 1 室 鈴木里和

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目 次 1. はじめに 1 2. 組成および性状 2 3. 効能 効果 2 4. 特徴 2 5. 使用方法 2 6. 即時効果 持続効果および累積効果 3 7. 抗菌スペクトル 5 サラヤ株式会社スクラビイン S4% 液製品情報 2/ PDF

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2012 年 7 月 18 日放送 嫌気性菌感染症 愛知医科大学大学院感染制御学教授 三鴨廣繁 嫌気性菌とは嫌気性菌とは 酸素分子のない環境で生活をしている細菌です 偏性嫌気性菌と通性嫌気性菌があります 偏性嫌気性菌とは 酸素分子 20% を含む環境 すなわち大気中では全く発育しない細菌のことで 通性嫌気性菌とは 酸素に抵抗性を獲得したため大気中でもある程度増殖できるようになった細菌で 大腸菌や黄色ブドウ球菌などがこれに属します ヒトの粘膜上の嫌気性環境に生息する偏性嫌気性菌は 通性嫌気性菌よりも旺盛であり その場の主役です 嫌気性菌と好気性菌は 粘膜上では人に有益な営みをしていることが知られていますが 粘膜の破綻などを契機に組織内に深く侵入して病気を惹起することがあります 嫌気性菌による疾患は 粘膜上の内因性嫌気性菌が組織に侵入し起こる疾患 環境中の外因性嫌気性菌が組織に侵入して起こる疾患 嫌気性菌が産生する毒素が原因となる疾患 嫌気性菌を中心とした正常細菌叢の乱れが原因となる疾患 嫌気性菌による医療関連感染に大別されます また 嫌気性菌はヒトの皮膚 消化管 泌尿生殖器などの常在菌叢を形成する菌種です 嫌気性菌は 大腸には好気性菌の 1,000 倍 口腔内には 10 倍の菌量が存在すると言われています 嫌気性菌の中でも 酸素暴露に対して特に弱い Fusobacterium 属 Prevotella 属 Porphyromonas 属は 通常の空気中では約 10~30 分で死滅します これに対して Actinomyces 属の一部や Propionibacterium 属は 比較的酸素暴露に対して強く 皮膚や口腔内の感染症の原因となります 嫌気性菌のなかで最もポピュラーな Bacteoides 属や Clostridium 属も 酸素暴露に比較的強く 通常 横隔膜より下部における感染症の原因菌となります

細菌の種類とガス環境 ( 酸素分圧 ) ガス環境 酸素濃度 類似環境 細菌の種類 好気性環境 21% 大気中の酸素分圧 好気性菌 炭酸ガス培養 15% 肺胞内の酸素分圧 微好気性培養 5% 静脈内の酸素分圧 嫌気性培養 <1% 歯肉溝 手術創などの酸素分圧 偏性嫌気性菌 嫌気性菌感染症の治療にあたっては 外科的ドレナージ 壊死組織の除去 抗菌薬療法などが重要です 嫌気性菌は 一般的に発育が遅く 培養に要する時間が長いため 同定検査や感受性検査の結果が判明するまでに時間を要し 多くの場合 抗菌薬療法として経験的治療が実施されることになります 嫌気性菌感染症の頻度嫌気性菌感染症の頻度については嫌気性菌の父と呼ばれる米国の Finegold らが報告していますが この報告をいくつかの日本の報告と比較すると かなり高い頻度であると考えられます しかし 日本の嫌気性菌感染症に対する一般臨床検査室での取り組みを振り返れば 日本の嫌気性菌検出頻度が低かったからであり 実際には Finegold らが報告した数字に近いものと考えられます 各種感染症からの嫌気性菌の分離頻度 横隔膜より上部 横隔膜より下部 脳膿瘍 83% 肝膿瘍 53% 硬膜下膿瘍 50% 胆道感染 30% 慢性副鼻腔炎 50 60% 腹膜炎 腹壁膿瘍 94% 慢性中耳炎 50 60% 卵管炎 骨盤腹膜炎 56% 歯根膿瘍 80% 卵管 卵巣膿瘍 92% 嚥下性肺炎 87% 外陰 腟膿瘍 74% 肺膿瘍 93% 筋壊死 100% 膿胸 ( 成人 ) 76% 関節炎 3 8% 菌血症 10 20% 嫌気性菌感染症の抗菌薬療法 感染症治療においては 抗菌薬投与前に原因菌を特定し 薬剤感受性の結果を踏まえ て適切な抗菌薬を選択するといった理想論的な治療を行う時間的な余裕は 臨床の現場

ではないとも言えます このため 初期治療としては ほとんどの症例で 疾患が推測された段階で原因菌を推定し 抗菌薬を選択するといった経験的治療が実施されることになります 特に 嫌気性菌感染症の抗菌薬療法は Empiric therapy として開始されるべきです ほとんどの嫌気性菌感染症は好気性菌との複数菌感染であることが多いので 共存する好気性菌も目標とした抗菌薬療法が要求されることになります 嫌気性菌感染症の治療に用いる抗菌薬としては セフメタゾールなどのセファマイシン系薬 フロモキセフやラタモキセフなどのオキサセフェム系薬 スルバクタム アンピシリンやタゾバクタム ピペラシリンなどのβ-ラクタマーゼ阻害薬配合薬 イミペネム メロペネム ドリペネムなどのカルバペネム系薬 クリンダマイシン ミノサイクリンなどがあげられてきましたが 最近では これらの抗菌薬に対する耐性菌の問題も報告されるようになってきました その一方で これまで嫌気性菌感染症の治療薬として認識されていなかったキノロン系薬の中に antianaerobic quinolone として分類されるようなシタフロキサシンなどのキノロン薬も登場し 新しい概念を導入することも臨床上重要になりつつあります 抗嫌気性菌薬の代表として 欧米では メトロニダゾールの注射薬 経口薬が第一にあげられ 嫌気性菌を中心とした各種感染症に幅広く適応を有しています 日本でも 経口メトロニダゾールは嫌気性菌感染症に対して使用可能となりましたが 注射用は現在のところ使用できません 注射用メトロニダゾールに関しては その有用性はもとより コストベネフィットの点からも多くのエビデンスがあります 以前より 日本の臨床の第一線に携わる多くの医師から 日本においても メトロニダゾール静注薬の各種嫌気性菌感染症に対する適応取得が望まれていることから 早期の臨床導入が望まれています 抗嫌気性菌薬 1. ペニシリン薬 2. セファマイシン薬 3. オキサセフェム薬 4. カルバペネム薬 5. クリンダマイシン 7. ミノサイクリン 7. β-ラクタマーゼ阻害剤配合薬 8. メトロニダゾール ( 経口のみ使用可能 ) 9. 抗嫌気性キノロン薬 (Moxifloxacin (MFLX) Garenoxacin (GRNX) Sitafloxacin (ST FX))

嫌気性菌感染症の治療にあたっては 抗菌化学療法だけではなく 壊死組織のデブリードマン ドレナージなどにより嫌気性菌が増殖できない環境をつくること 嫌気性菌の周囲への進展および遠隔部位への拡散を防止すること 症例によっては抗毒素を使用することなども必要です 嫌気性菌感染症へのアプローチ治療方法嫌気性菌が増殖できない環境をつくる嫌気性菌の周囲への進展および遠隔部位への拡散を防止する抗毒素を使用する 具体的方策壊死組織の除去 ( デブリードマン ) ドレナージ 閉塞の除去 圧迫からの解放 ガスの解放 循環の改善 組織のオキシゲネーション抗微生物薬 ( 化学療法薬 ) 毒素産生菌に対する治療方法 嫌気性菌と呼吸器感染症 / 外科系感染症嫌気性菌は 上気道 口腔内に多く存在することから 呼吸器感染症の原因菌としても病態に大きく関与しています 嫌気性菌が関与する呼吸器感染症の治療にあたって必要なことは Prevotella 属 Porphyromonas 属 Fusobacterium 属など呼吸器感染症に関与する菌種に β-ラクタマーゼを産生する菌株が多いことです したがって 嫌気性菌の関与が疑われる呼吸器感染症の抗菌薬選択にあたっては 通性嫌気性菌と偏性嫌気性菌に抗菌活性を示し かつ β-ラクタマーゼに安定であることがキーポイントになります このような点から 嫌気性菌が関与する呼吸器感染症の治療にあたって第一選択とされる薬剤は β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬やカルバペネム系薬などになります β-ラクタマーゼに安定な薬剤の代表としてクリンダマイシンは 呼吸器感染症においては 併用薬として使用されてきましたが 呼吸器感染症で問題となることが多い嫌気性菌である Parvimonas 属 Porphyromonas 属 Fusobacterium 属では 現在でもクリンダマイシン耐性株の頻度は高くないので クリンダマイシンは 重症の呼吸器感染症では併用薬として選択可能ですが 最近では Prevotella 属でクリンダマイシン耐性が増加しているとの報告もあり 今後注意が必要かもしれません 嫌気性菌は 腹腔内感染症などの外科系感染症においても きわめて重要な原因菌です 腹腔内感染症に関与する嫌気性菌は 主に腸内細菌で 消化管穿孔などにより腹腔内に漏出したものや bacterial translocation に起因したものが原因菌となり感染をきたしている症例が多いのが特徴です 特に 虫垂炎や憩室炎などに続いて起こる続発性腹膜炎の分離菌に占める嫌気性菌の割合は約 60% にもおよび 中でも Bacteroides 属の分離頻度が高くなっています 最近では Bacteroides fragilis だけではなく

non-fragilis Bacteroides 属の検出頻度も高くなっています しかしながら これらの嫌気性菌のなかでも外科系領域で最も注目すべき嫌気性菌は B. fragilis group です B. fragilis group の多くは β-ラクタマーゼの産生により 日常臨床の現場で頻用されているペニシリン系薬や 最近 臨床で使用頻度が高い第 4 世代セフェム系薬を含むセフェム系薬などのβ-ラクタム系薬などの薬剤を不活化させることも多いことを知っておく必要があります モキシフロキサシン ガレノキサシン シタフロキサシンなどを除くキノロン系薬は B. fragilis group に対して抗菌活性が低いことも重要です 外科系感染症では 好気性菌との複数菌感染を示すことが多くなります したがって 嫌気性菌の関与が疑われる外科系感染症の抗菌薬選択にあたっては 通性嫌気性菌と偏性嫌気性菌に抗菌活性を示し かつ β-ラクタマーゼに安定であることがキーポイントになります これまでβ- ラクタマーゼに安定な薬剤の代表としてクリンダマイシンが頻用されてきましたが 近年では B. fragilis group を中心として クリンダマイシン耐性株が 20~40% 以上存在するという報告も多くなっています 現在 臨床現場では クリンダマイシンは 併用薬として使用されることが多いのですが 特に B. fragilis group ではクリンダマイシン耐性に注意が必要となります このような点から 嫌気性菌が関与する外科系感染症の治療にあたって第一選択とされる薬剤は β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬やカルバペネム系薬などになることが多くなります