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結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

リーなどアブラナ科野菜の摂取と癌発症率は逆相関し さらに癌病巣の拡大をも抑制する という報告がみられる ブロッコリー発芽早期のスプラウトから抽出されたスルフォラフ ァン (sulforaphane, 1-isothiocyanato-4-methylsulfinylbutane) は強力な抗酸化作用

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

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背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

第90回日本感染症学会学術講演会抄録(I)

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果


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テイカ製薬株式会社 社内資料

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

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上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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STAP現象の検証結果

< 研究の背景と経緯 > 私たちの消化管は 食物や腸内細菌などの外来抗原に常にさらされています 消化管粘膜の免疫系は 有害な病原体の侵入を防ぐと同時に 生体に有益な抗原に対しては過剰に反応しないよう巧妙に調節されています 消化管に常在するマクロファージはCX3CR1を発現し インターロイキン-10(

ス化した さらに 正常から上皮性異形成 上皮性異形成から浸潤癌への変化に伴い有意に発現が変化する 15 遺伝子を同定し 報告した [Int J Cancer. 132(3) (2013)] 本研究では 上記データベースから 特に異形成から浸潤癌への移行で重要な役割を果たす可能性がある

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

2. 研究の背景関節軟骨は 骨の端を覆い 腕や膝を曲げた時などにかかる衝撃を吸収する組織です 正常な関節軟骨は硝子軟骨と呼ばれます 私達の日常動作のひとつひとつを なめらかに行うためにも大切な組織ですが 加齢に伴ってすり減ったり スポーツや交通事故などの怪我により損傷をうけると 硝子軟骨が線維軟骨注

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日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

DNA/RNA調製法 実験ガイド

■リアルタイムPCR実践編

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

Mincle は死細胞由来の内因性リガンドを認識し 炎症応答を誘導することが報告されているが 非感染性炎症における Mincle の意義は全く不明である 最近 肥満の脂肪組織で生じる線維化により 脂肪組織の脂肪蓄積量が制限され 肝臓などの非脂肪組織に脂肪が沈着し ( 異所性脂肪蓄積 ) 全身のインス

周期的に活性化する 色素幹細胞は毛包幹細胞と同様にバルジ サブバルジ領域に局在し 周期的に活性化して分化した色素細胞を毛母に供給し それにより毛が着色する しかし ゲノムストレスが加わるとこのシステムは破たんする 我々の研究室では 加齢に伴い色素幹細胞が枯渇すると白髪を発症すること また 5Gy の

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小島光暁 論文審査担当者 主査森尾友宏 副査槇田浩史 清水重臣 論文題目 Novel role of group VIB Ca 2+ -independent phospholipase A 2γ in leukocyte-endothelial cell in

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博第265号

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Transcription:

旭川医科大学研究フォーラム (2016.3) 16:42-45. 平成 25 26 年度 独創性のある生命科学研究 個別研究課題 24) 脂肪組織由来幹細胞を用いた低浸襲細胞治療に関する研究 岡久美子

24) 脂肪組織由来幹細胞を用いた低侵襲細胞治療に関する研究研究代表者岡久美子 研究目的 細胞治療は骨再建 再生を低侵襲 効率的に行うために有用である 近年 脂肪組織に含まれる体性幹細胞 (Adiposederivedstem cels:adscs) が骨形成細胞 軟骨形成細胞 脂肪細胞に分化することが報告されている 歯科口腔外科学講座ではこれまでに ADSCs の静脈内投与が骨創治癒を促進することを明らかにした さらにトレーサー実験の結果 静脈内投与した ADSCs が新生骨形成部位に集簇して骨形成細胞や血管などに分化し骨創治癒を促進するという結果を得ている しかし 静脈内投与した ADSCs が骨の障害部位に集簇するメカニズムは明らかにされていない SDF-1/CXCR4 システムは血管傷害後の新生内膜形成に寄与し 血管新生や血管リモデリングにも寄与していることが報告されている また HighMobility GroupBox1(HMGB1) は強い PDGFRα 陽性骨髄間葉系幹細胞遊走活性を有し 障害部位や炎症部位で放出され損傷組織再生に関与していることが示唆されている 本研究ではこれらの幹細胞動員因子についてその ADSCs 静脈内投与による骨創治癒促進との関連性を明らかにすることを目的とし 1 骨欠損部位への幹細胞動員因子の同定 2 ADSCs の幹細胞動員因子発現の検討を行った 方法 1. 培養細胞における幹細胞動員因子の発現 In-vitro において培養 ADSCs における SDF-1/CXCR4

旭川医科大学研究フォーラム 16 :11~51,2015 PDGFα インテグリン α βの発現を免疫組織化学および RT-PCR で検討した 1) 細胞培養 F344 ラットの脂肪組織から ADSCs を分離し 10%FBS 添加 DMEM により培養した 80% コンフルエントで継代を行い P2 とした 2) 免疫組織化学染色 1) で分離した ADSCs を蛍光抗体法および酵素抗体法により染色を行った 加えて 組織障害部位でのフリーラジカルの細胞への影響を検討するため ADSCs を H2O2 で24 時間処理後 免疫染色を行った H2O2 濃度は 10mM 10μM とした 3) 遺伝子発現解析 RNA 抽出 1) で分離した ADSCs から RNeasyMiniKit (Qiagen) を用いて RNA を抽出 RNase-Free DNase(Qiagen) を用いて DNase を分解した High-CapacityRNA-to-cDNAKit(AppliedBiosystems) を用いて cdna を合成した RT-PCR 遺 AmpliTaq Gold 360 Master Mix(Applied Biosystems) を使用し RT-PCR を行った PCR 産物は2% アガロースゲルを使用し電気泳動を行った 2. 骨欠損部位の幹細胞動員因子の発現 Invivo において ADSCs を静脈内投与したラットの頭頂部へ形成した骨欠損部位のケモカインの局在を検討した 1) 細胞培養 F344 ラットの脂肪組織から ADSCs を分離し 10%FBS 添加 DMEM により培養した 80% コンフルエントで継代を行い P2 とした 2)ADSCs の投与 F344 ラット頭頂骨に骨欠損を形成し 3 日後にラット尾静脈から5 10 5 の ADSCs を投与した 頭頂部に骨欠損を形成するが細胞の静脈内投与は行わないラットを対照とした 3) 免疫組織化学染色 ADSCs 投与後 4 日後に4% パラホルムアルデヒドを用いて潅流固定し 頭部組織を摘出した 10%EDTA 液で脱灰後 組織標本を作製 免疫組織化学的染色の手法を用いて骨創治癒部のケモカインの局在を観察した 4) 遺伝子発現解析 RNA 抽出 ADSCs 投与後 4 日後に組織を採取し RNeasy MiniKit(Qiagen) を用いて RNA を抽出 1.2) と同様に cdna を合成した RT-PCR 遺 AmpliTaq Gold 360 Master Mix(Applied Biosystems) を使用し RT-PCR を行い同部位での SDF-1/CXCR4 の遺伝子発現を検討した 組織は骨欠損部位 胸腺 脾臓とした PCR 産物は 1.3) と同様に泳動した 結果 1. 培養細胞における幹細胞動員因子の発現免疫組織化学的検討 ADSCs には PDGFRα および SDF-1 が強発現していた また CXCR4 インテグリン α 4 β2 の局在を検討したところ発現が見られた ( 写真 1) H2O2 処理後に24 時間培養したADSCs では CXCR4 の発現増強が見られた 10μM H2O2 での処理後に最も発現増強したが 10mM H2O2 では細胞死がみられた 遺伝子発現解析 SDF-1 は異なる継代数の ADSCs において発現が見られた CXCR4 は BMSCs では前回報告したように発現が見られたが ADSCs では継代数を変えても発現は明らかでなかった 2. 骨欠損部位の幹細胞動員因子の発現免疫組織化学的検討 HMGB1 陽性部が骨欠損形成部周囲に見られ その範囲は3 日目に最も広く その後減少した HIF-1 および SDF-1 陽性細胞は術後 3 日目に骨欠損周囲の組織に多く見られ 1 週 2 週とその数は減少した ICAM-1 VCAM-1 陽性部が血管およびその周囲組織に見られた ( 写真 2) 遺伝子発現解析 ADSCs の静脈内投与を行ったラットの骨欠損部の組織 胸腺 脾臓において SDF-1 CXCR4 43

旭川医科大学研究フォーラム 16 1 1 51 201 5 写真1 免疫組織化学 と か ら 静 脈 内 投 与 を 行 っ た ADSCsが I CAM1 VCAM1を発現した部位に接着し 血管新生に寄与す る可能性も考えられた SDF1 HMGB 1は全ての細胞 組織において強発 現していたが CXCR4は ADSCsにおいて発現は低下 しており 骨創治癒部の組織において発現が見られ た 手術などの組織障害を生じた際に生じる低酸素状 態や酸化ストレ スを模した研究として 培養細胞を H2O2 処理する方法がある 本研究では H2O2 で処理後 に培養した ADSCsで CXCR4の発現増強が見られた SDF1/ CXCR4シ ステムは血管傷害後の新生内膜形 成 血管新生に寄与するとされ CXCR4の発現が亢 写真2 骨欠損形成後3日目 HI F1αの発現 矢印 進された場合にはより効果的に血管新生が誘導され る 低酸素下での培養や H2O2 を用いた前処理により は共に発現がみられた 写真3 細胞の CXCR4の発現を増強する方法が現在までに報 告されている 低酸素下での培養における CXCR4の 考 察 発現増強については 低酸素誘導因子である HI F1の 本研究では培養細胞 ADSCs と ADSCsを静脈内 関与が考えられている 本研究では H2O2により CXCR 4 投与したラットの骨創治癒部における幹細胞動員因子 の発現増強が見られたが 高濃度の H2O2ではその効果 の発現について免疫組織化学的 遺伝子解析を行い検 が見られなかったことから 活性酸素 細胞の酸化ス 討した トレスが関与する可能性も考えられた 本研究の結果から ADSCsには接着因子としてのイ 今回の結果からは ADSCsを静脈内投与した後 組 ンテグリンα4 β2が発現しており 骨欠損形成部 織修復の際に CXCR4の発現が増強することが考えら 周囲の血管に I CAM1 VCAM1の発現が見られるこ れたが 実際に ADSCsに発現しているか t r o p h i c効果 44

旭川医科大学研究フォーラム 16 :11~51,2015 写真 3 各組織における遺伝子発現 1,6,11: ネガティブコントロール 2,7,12: 骨欠損部 3,8,13: 胸腺 4,9,14: 脾臓 5,10,15: 小腸 等によるものかは不明である 今後は上記の方法で CXCR4 の発現を増強させた ADSCs を静脈内投与した場合の骨創治癒についても検討したい 文献 1)OtsuruS,TamaiK etal.:circulatingbonemarowderivedosteoblastprogenitorcelsarerecruitedtothe bone-forming site by CXCR4/SDF1 pathway.stem Cels.26,223-234.(2008) 2) 金田安史 : 体内細胞動員による再生治療.Drug deliverysystem.27,246-256(2012) 3)Tang YL,Zhu W etal.:hypoxic preconditioning enhancesthebenefitofcardiacprogenitorceltherapy fortreatmentofmyocardialinfarction by inducing CXCR4expresion.CircRes.104,1209-1216.(2009) 4)AkashiS,MiuraT etal.:superoxidestimulation enhancescxcr4expresioninheartmuscle-derived stem celsviaask1activation.bulyamaguchimed Sch.60,11-18.(2013) 5)Horiguchietal.:ExpresionofchemokineCXCL12 anditsreceptorcxcr4infoliculostelate(fs)cels oftheratanteriorpituitarygland:thecxcl12/cxcr4 axisinducesinterconnectionoffscels.endocrinology. 153,1717-1724(2012)