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重点テーマレポートレポート 経営コンサルティング本部 実践 サステナブル経営 事業継続計画における課題と対応策 2014 年 10 月 14 日全 8 頁 企業の事業継続の現状と 3 つの課題 そしてその対応策 コンサルティング ソリューション第三部 主席コンサルタント 大村岳雄 [ 要約 ] 事業継続の重要性は企業価値の向上や企業競争力の強化の観点から高まってきている 内閣府の調査 ( 平成 25 年度 ) でみても 事業継続計画 (BCP) の策定状況は 策定中を加えると大企業で 7 割強 中堅企業で 4 割弱が事業継続に取組んでいる BCP 策定の比率は高まってきているが 外部インフラや通信手段など外部要因 BCP への関心の差異といった内部要因 BCP 自体の視点の 3つの課題があると考えている しかし いずれの課題も比較的平易なアプローチで対応が可能である BCP 策定済の企業もそうでない企業も 経営戦略の観点から BCP を再検討してはいかがであろうか 近年 企業の事業活動において 事業継続の重要性は企業価値の向上や企業競争力の強化の観点から高まってきている 企業は 製造業を中心として サプライチェーンの中に組み込まれており サプライチェーンを構成する一企業が事故や災害等により操業が中断すると サプライチェーン全体が停止してしまうという事態が起こるようになってきている 実際 平成 16 年新潟県中越地震では半導体工場が復旧に時間を要し取引先を失ったこと 平成 19 年新潟県中越沖地震ではエンジン部品工場の被害が自動車メーカーの生産に影響を与えたこと さらに平成 23 年東日本大震災では 多くの工場が被災し 部品や原材料の供給が停止し 生産への支障が全国 海外にまで影響したことなどの事例は記憶に新しい 本レポートでは 企業の事業継続について 事業継続計画 ( 以下 BCP) への対応をテーマに BCP 策定の状況 BCP 策定における課題 そしてその課題への対応策についてみていきたい 株式会社大和総研 135-8460 東京都江東区冬木 15 番 6 号 このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが その正確性 完全性を保証するもものではありません また 記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります 大和総研の親会社である 大和総研ホールディングスと大和証証券 は 大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です 内容に関する一切の権利は 大和総研にあります 無断での複製 転載 転送等はご遠慮ください

1.BCP 策定の状況企業における BCP 策定の状況はどのようになっているのだろうか 内閣府が行った平成 25 年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査 1 をみてみる これは 内閣府 ( 防災担当 ) が2 年毎に実施している企業の事業継続に関する実態調査である 調査結果によると 企業の BCP 策定の状況は 大企業の 53.6% が 策定済み と回答しており ( 平成 23 年度比 7.8% ポイント増 ) 初めて 5 割を超えた これに 策定中 (19.9%) を加えると 7 割強の大企業が事業継続に取り組んでいる ( 図表 1) この事業継続に取り組んでいる比率は 平成 19 年度 (35.3%) と比べて ほぼ倍に伸びていることがわかる 図表 1 BCP 策定状況 ( 大企業 ) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 平成 19 年度 18.9 16.4 29.1 12.7 22.7 0.3 平成 21 年度 27.6 30.8 16.9 11.1 12.0 1.5 平成 23 年度 45.8 26.5 21.3 0.3 5.7 0.4 平成 25 年度 53.6 19.9 15.0 8.3 2.2 1.0 策定済みである策定を予定している ( 検討中を含む ) 事業継続計画 (BCP) とは何かを知らなかった 策定中である予定はないその他 無回答 単数回答 対象 : 大企業 平成 19 年度 n=600 平成 21 年度 n=369 平成 23 年度 n=674 平成 25 年度 n=1,008 ( 出所 ) 平成 25 年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査 内閣府 ( 防災担当 ) 平成 26 年 7 月 また 中堅企業においても BCP 策定済み の比率は 調査の回数を重ねるごとに上昇しており平成 25 年度は 25.3%( 平成 23 年度比 4.5% ポイント増 ) であり これに BCP 策定中 (12%) を加えると 4 割弱という結果であった ( 図表 2) やはり 中堅企業においても事業継続に取り組んでいる比率は 平成 19 年度の 15.8% から平成 25 年度の 37.3% へとほぼ倍に拡大している 1 内閣府 ( 防災担当 ) 平成 26 年 1 月 6 日 ~2 月 28 日調査 http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/h25_bcp_report.pdf 2

図表 2 BCP 策定状況 ( 中堅企業 ) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 平成 19 年度 12.4 3.4 12.8 8.8 61.2 1.3 平成 21 年度 12.6 14.6 15.0 10.3 45.3 2.2 平成 23 年度 20.8 14.9 30.7 19.7 13.3 0.7 平成 25 年度 25.3 12.0 18.1 24.8 17.3 2.6 策定済みである策定を予定している ( 検討中を含む ) 事業継続計画 (BCP) とは何かを知らなかった 策定中である予定はないその他 無回答 単数回答 対象 : 中堅企業 平成 19 年度 n=534 平成 21 年度 n=282 平成 23 年度 n=443 平成 25 年度 n=616 ( 出所 ) 図表 1 と同様 また 業種別に BCP 策定の状況をみると 金融 保険業の BCP 策定率が 70.2% と最も高く これに情報通信業 (34.4%) 建設業(31.2%) 製造業(30.5%) と続く ( 図表 3) 図表 3 業種別事業継続計画 (BCP) の策定状況 業種 H19 年度 H21 年度 H23 年度 H25 年度 金融 保険業 42.1% 34.1% 75.6% 70.2% 情報通信業 24.1% 22.9% 48.6% 34.4% 建設業 9.4% 7.9% 44.1% 31.2% 製造業 11.3% 15.0% 28.9% 30.5% 卸売業 12.5% 13.9% 24.3% 27.9% 運輸業 郵便業 8.6% 22.4% 27.1% 26.2% その他サービス業 9.2% 13.1% 25.3% 25.0% 不動産業 物品賃貸業 3.1% 9.3% 21.2% 13.9% 小売業 4.3% 7.5% 13.3% 13.2% 宿泊業 飲食サービス業 0.0% 0.0% 14.3% 11.6% 単数回答 ただし一度でも回答数 30 社以下であった業種は除く 平成 19 年度 n=1,518 平成 21 年度 n=1,018 平成 23 年度 n=1,634 平成 25 年度 n=2,196 ( 出所 ) 図表 1 と同様 3

金融 保険業や情報通信業などで BCP 策定率が高い理由には これらの分野が内閣府で定義している重要インフラに含まれていることもあると思われる 内閣府では この 2 分野の他 電気 ガス 水道 放送 航空 鉄道 医療 行政を加えた計 10 分野を重要インフラと定義し これらの分野の事業者や行政機関は 世の中の社会活動や経済活動を支える社会インフラとして より安定的にサービスを提供し続けることが求められるとしている 2 また この重要インフラ分野以外でも 国民生活や社会 経済活動を支える社会インフラとして位置づけられる建設 物流 ( 含む 中小トラック運送 ) IT( 電機 電子 情報通信 ) 業界等も 業界内でのガイドライン策定や情報共有の仕組みを導入したりするなど 能動的な活動を行っている ( 図表 4) 図表 4 各業界団体における事業継続計画 (BCP) ガイドライン 対象 ガイドラインの名称 策定者 策定時期 証券 会員の緊急時事業継続体制の 日本証券業協会 平成 17 年 6 月 整備に関するガイドライン 銀行 震災対応にかかる業務継続計 全国銀行協会 平成 24 年 3 月 画 ( BCP) に関するガイドライン 損害保険 災害等発生時行動基本計画 日本損害保険協会 平成 24 年 6 月 建設 建設 BCP ガイドライン- 大規 日本建設業団体連合 平成 24 年 3 月 模自然災害に備えた建設会社の行動指針 - 会 物流 自然災害時における物流業の 日本物流団体連合会 平成 24 年 7 月 BCP 作成ガイドライン 中小トラック 中小トラック運送事業者のた 全日本トラック協会 平成 24 年 9 月 運送 めのリスク対策ガイドブック 電機 電子 情報通信 電機 電子 情報通信産業 BCP 策定 BCM 導入のポイント~ 取り組み事例と課題 ~ 電子情報技術産業協会 / 情報通信ネットワーク産業協会 平成 20 年 1 月 ( 出所 ) 事業継続ガイドライン第三版解説書 内閣府 ( 防災担当 ) 平成 26 年 7 月 以上見てきたように 業界団体等の取組もあり 大企業 中堅企業ともに BCP 策定率が高まってきていることは確認できたが 事業継続を考える上での課題はないのだろうか 2.BCP 策定における課題 2 日本規格協会小林誠 渡辺研司共著 BCM( 事業継続マネジメント ) 入門 (2008 年 11 月 ) 4

BCP 策定の比率は高まっている中で BCP 策定における課題については 前述の内閣府の調 査結果にも表れているが 筆者は 3 点あると考えている (1) BCP 策定における外部要因の課題まず 1 つ目の課題であるが 前述の内閣府の平成 25 年度実態調査の中で示されている この調査の中で BCP を策定したものの 残された課題 について聞いているが その結果をみると 全体では 外部インフラ ( 電気 水道 ガス等 ) (30.6%) 通信手段( 固定電話 携帯電話 インターネット等 ) (24.2%) 情報システム (20.6%) の3つが課題とされている 大企業 中堅企業でみてもほぼ似たような結果となっている ( 図表 5) これら外部インフラ 通信手段 情報システム 輸送手段に対する課題感は 平成 23 年の東日本大震災でどの企業も経験したものではないだろうか 図表 5 BCPを策定したものの 残された課題について 全体 大企業 中堅企業 1 位 外部インフラ ( 電気 水 外部インフラ ( 電気 水 外部インフラ ( 電気 水 道 ガス等 ) 30.6% 道 ガス等 ) 38.2% 道 ガス等 ) 31.3% 2 位 通信手段 ( 固定電話 携帯電話 インターネッ 通信手段 ( 固定電話 携帯電話 インターネッ 通信手段 ( 固定電話 携帯電話 インターネット等 ) ト等 ) 24.2% ト等 ) 29.1% 25.8% 3 位 情報システム 輸送手段 ( 物流 ) 情報システム 20.6% 25.7% 22.5% ( 出所 ) 平成 25 年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査 内閣府 ( 防災担 当 ) より大和総研作成 (2) BCP 策定における内部要因の課題 2 つ目は 企業内部の課題である 冒頭に説明した 企業の BCP 策定状況 をみると 大企業では BCP 策定の 予定はない という回答が 8.3%( 平成 23 年度比 2.6 ポイント増 ) 事業継続計画 (BCP) とは何かを知らなかった という回答が 2.2%( 同 1.9 ポイント増 ) といずれも増加傾向にあった ( 図表 1) 中堅企業においても同様な傾向が見られた( 図表 2) これについては BCP 策定に対する企業の関心の高さが二極化していること 企業の BCP 担当者に継続性が保たれていないこと の2つの要因が考えられる 特に 事業継続計画 (BCP) とは何かを知らなかった という回答がでるのは 当該企業で BCP 担当者が人事異動で交代してしまい BCP について十分な引継ぎが行われていない可能性が考えられる 5

(3) BCP 自体の課題 3 つ目の課題は BCP 自体の課題である つまり現状の BCP が 緊急時の対応計画にとどまっており そのあと事業を巡航速度に建て直していくマネジメントの視点が足りないのではないか という点である つまり 今 求められているのは 事業継続計画 (BCP) ではなく 事業継続マネジメント (BCM) ではないのかということである 内閣府が平成 25 年度に公表した事業継続ガイドライン第三版では 事業継続計画 すなわち BCP(Business Continuity Plan) とは 大地震等の自然災害 感染症のまん延 テロ等の事件 大事故 サプライチェーン ( 供給網 ) の途絶 突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても 重要な事業を中断させない または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針 体制 手順等を示した計画 と説明しているのに対して 事業継続マネジメントすなわち BCM(Business Continuity Management) は BCP 策定や維持 更新 事業継続を実現するための予算 資源の確保 対策の実施 取組を浸透させるための教育 訓練の実施 点検 継続的な改善などを行う平常時からのマネジメント活動のこと 経営レベルの戦略的活動として位置付けられる と説明している 以上みてきたように BCP 策定に関しては 外部要因 内部要因 BCP 自体の 3 つの課題がある それでは これらの課題に対して どのような対応策を考えれば良いのだろうか 3.3つの課題への対応策本節では BCP 策定に関する3つの課題への対応策についてみていきたい (1) 外部要因 ( 外部インフラ ( 電気 水道 ガス ) 通信手段 情報システム 輸送手段など ) への対応まず 外部要因への対応であるが 被害状況に応じた事前対策をどのように検討しておくかが鍵である 電気 水道 ガスなど主要な外部インフラに関しては 電力会社 水道局 ガス会社といったライフライン事業者の運営に依存しており自社での対応が難しい しかし 業種 業態にもよるが 電気に関しては 自家発電装置の導入により被災当初の段階での事業所運営に役立つ可能性がある ライフラインの復旧には 通常 3 日間を見込むとされており 自家発電装置の導入はそれまでの事業継続に資する対応策である 通信手段については 現在 固定電話 携帯電話 ネット以外にも MCA 無線 業務用無線 衛星電話など多様な通信手段がある 後者にあげた3つの通信手段は 費用は高くつくものの比較的災害に強いといわれている この通信手段を準備しておき 訓練などで複数の通信手段を試しておくことは 緊急時に威力を発揮することになろう 情報システムについては バックアップセンターを準備しておくことが考えられるが そ 6

の際 検討しておくべき点は要員の確保である 緊急時に システムの切り替えによりバックアップセンターにつながったとしても そこでのオペレーションを可能にする要員を確保できなければ業務継続は不可能である 平時のうちに 緊急時のバックアップセンターに従事可能な要員が誰であるかを確認しておく必要があろう 輸送手段については 鉄道やトラックを利用している場合 震災や土砂災害で軌道や幹線道路が寸断されるケースがある そのような場合 輸送に関してどのような代替手段があるのか 予め確認しておく必要がある < 外部要因への対応策 ( 例 )> 外部インフラ : 自家発電装置の導入 通信手段 : 複数の通信手段の確保と訓練 (MCA 無線 業務用無線 衛星電話 ) 情報システム : バックアップセンターだけでなく そこでの要員の確保 輸送手段 : 代替手段の検討 (2) 内部要因への対応 BCP への関心がない もしくは BCP を知らない という点については BCP についての社内でのハードルを下げること 社内での啓蒙活動が重要である 事業継続を考える上で 緊急時の対応計画である事業継続計画 (BCP) は スタートとなる重要なものである 但し 注意を要するのは BCP を策定する際 BCP の文書化が行われるが この文書作成に力が入り 文書化が目的とされてしまうことである これまでの BCP 策定では 計画文書作りには力が注がれるが 完成後にはあまりメンテナンスがされずに放置されてしまうということが少なからずみられた このようなことを無くす方法としては 緊急時に素早く行動できるように 簡潔なマニュアルやチェックリストを準備しておくことが考えられる また BCP は 事業や組織の変化や事業環境の変化などを受けて古くなっていくので 定期的に見直し 改善していく必要がある 特に 後任の担当者等でもメンテナンスのやり方がわからなくなることがないように 詳細に作りすぎないよう工夫しておくべきである また 社内の啓蒙活動については 伝える内容の差はあるにしても 事業継続の必要性と BCP について 新人研修 新任管理職研修 幹部研修 部店長会などのさまざまな集合研修の中で連綿と伝えていく必要がある BCP を BCP 担当者だけのものとせず 全社的なものとして役職員に啓蒙していくことが重要である < 内部要因への対応策 ( 例 )> 計画文書は 文書化が目的とならないように BCP ではその利用を考慮して 簡潔なマニュアルやチェックリストを用意する BCP については その必要性とその内容を適宜 社内研修などで伝えていく (3) BCP も経営戦略の一部 ( その理由とメリット ) 7

BCP を単なる防災活動の延長と考えて 当該拠点の 事前対策と復旧 しか考慮していないのでは不十分である 幅広く事業継続戦略の視点を持っておくことが大切である BCP も経営戦略として捉えるべき理由は何であろうか BCP を策定する上では 重要業務の選定というプロセスがあるが これはまさに事業の 選択と集中 に関わるものであり 経営戦略と言える 被災時のために検討する代替戦略は 経営者が決定すべき経営戦略である 企業や組織として事業継続能力を高める対策は 業務の効率化や経営資源の見直しにつながることも多い そして BCP を BCM へと考えを広げ 平常時にも有効なもの として取組むことで 危機対応が強い企業との評価を受けることができれば 平常時の取引拡大につながる可能性がある また BCP や BCM の検討の際 同業他社との災害時協力協定や平常時からの一部委託生産などは経営者が決断することであり 経営戦略の一部といえる 従って BCP 策定にあたっては 経営戦略としての視点を持っておくことが大切である <BCP 自体の課題への対応策 > BCP 策定時の重要業務の選定は 事業の 選択と集中 であり経営戦略そのもの BCP を検討する過程で 業務の効率化や経営資源の見直しなどにつながることも多い BCP を平常時にも有効なものとして取組めば 外部評価を高める可能性がある 以上みてきたように BCP 策定における課題は 比較的平易なアプローチでも解消する糸口がある BCP 策定済みの企業は既存の BCP の見直しを BCP 策定がまだの企業は本レポートで説明したポイントに留意して BCP 策定に取組んで頂ければ幸いである 以上 参考文献 内閣府 ( 防災担当 ) 平成 25 年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査 ( 平成 26 年 7 月 ) http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/h25_bcp_report.pdf 内閣府 ( 防災担当 ) 事業継続ガイドライン第三版 解説書( 平成 26 年 7 月 ) http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline03_ex.pdf 日本規格協会小林誠 渡辺研司共著 BCM( 事業継続マネジメント ) 入門 (2008 年 11 月 ) 8