バランスシート戦略に沸く金融市場 1 月 30 日 米連邦公開市場委員会 (FOMC) の会合結果が発表されました ハト派的内容に違いない という事前予想を遥かに上回る緩和的意味合いが強い会合となりました 今回のコラム記事では FOMC からの発表内容と 今後のマーケットの動きについて考えてみたいと思います FOMC からの発表まず最初に声明文の説明から致します 3 つの声明文 1 月 30 日の FOMC では 3 つの声明文が発表されました 1 通常のメイン声明文 https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20190130a.htm 2 長期的な金融政策のゴールと戦略 https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20190130b.htm 3 バランスシートの正常化について https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20190130c.htm 3 つも声明文を出すだけ 重要な決定だったと私は理解しています 注目は 3 バランスシートの正常化について上記 3 つの声明文の中でも マーケットが最も衝撃を受けたのが 3 バランスシート ( 以下 BS) の正常化について でした https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20190130c.htm 声明文内容特にマーケットを驚かせたのが 以下の文章でした The Committee is prepared to adjust any of the details for completing balance sheet normalization in light of economic and financial developments. 理事会では 経済活動や市場動向に応じて バランスシートの正常化の詳細を修正する用意がある
昨年 12 月の FOMC でパウエル議長は BS 縮小は順調に進んでおり 見直す必要性なし と仰いました しかし 今年 1 月 4 日にイエレン元 FRB 議長やバーナンキ元議長と一緒に参加されたパネルディスカッションでは BS 縮小の変更を検討するようなニュアンスの発言をし 大きく方向転換しました そして 30 日の FOMC では 正式に 正常化の修正 をほのめかしたのです 一部のマーケット関係者の間では 来年に大統領選を控えたトランプ大統領の政治的圧力に屈した決定という話も出ているようですが 個人的にもその可能性が結構あるような気がしてなりません BS 縮小の修正 = 緩和へ逆戻り? 私のブログのフォロワーさん達から この質問を受けました たぶん BS 縮小のメカニズムをきちんと把握していないため 何がなんだかわからなくなってしまったのかもしれませんね ここでは 簡単に説明します 2008 年のリーマンショック以降 世界的金融危機が深刻化し ありとあらゆる中央銀行が政策金利の引き下げに動きました 日本やユーロ圏 スイスなどでは 金利のマイナス化を断行しましたが それ以外の国々では限りなくゼロまで下げ それ以上の緩和策として量的緩和策 (QE) の導入に踏み切りました 今更説明は必要ないと思いますが QE 策を通じて中央銀行は国債などの債券を購入したため BS はどんどん拡大しました そうこうしているうちに アメリカでは景気回復が順調に進み いち早く QE 策の終了を発表たのです しかし QE 策はストップしても そこで購入した国債が満期となった部分については再投資 ( 新たな国債を購入 ) を続け BS に大きな変動がないよう 維持していました その後 景気も雇用もしっかりしてきたことを確認し 2017 年 6 月の FOMC で具体的に BS 縮小計画を発表したのです その内容は 今後はきちんとした計画の下で 満期となった国債の再投資の額を徐々に減らしていくということです 言い換えれば 今までずっと変動しないように気をつけていた BS の残高が 徐々に減りますよ! ということです BS 残高が縮小すれば 流動性はタイトになりますので 政策金利は引き上げなくても 私達の目に見えないところで 引き締めが起きるということです しかし 今度は 30 日の発表で この縮小を見直すことが決定され 今までの引き締めが今後中断する可能性が浮上しました 言い換えれば マーケットは一気に緩和再開と理解したとも言えます BS 縮小の修正 = 株高? 今まで 10 年近くに渡り中央銀行が QE 策を継続していたため マーケットには豊潤な流動性が確保されており それがリスクアセットや株を上昇させていました しかし アメリカがこ
の政策を変更し 徐々に BS 残高を減らすということが伝わると アメリカ株をはじめとする主要国の株価指数が下落に転じたのです そして 今回 BS 縮小修正の可能性のニュースが出た途端 株は一気に買われています https://twitter.com/realdonaldtrump/status/1090729920760893441 この株高を受け トランプ大統領は上記の Tweet をしていました BS 縮小の修正 = 長期金利低下? = ドル安? FOMC からの BS 縮小修正の発表後 長期金利が低下し ドル安となっています これが意味することは FED が BS 縮小ペースを弱める ( 一時中止する?) のであれば 引き締めから緩和拡大期待が出てくるので 国債利回り ( 長期金利 ) が下落してドル安を引き起こしたという説明が一番ぴったりくるでしょう ここから難しい話になりますが 長期金利が低下すれば必ずドル安になるのか? その答えは NO です このチャートは 米 10 年物国債イールド ( 赤線 ) とドル インデックス ( 青線 ) を一緒に載せたものです
チャート : 米セントルイス連銀米 10 年物国債利回り https://fred.stlouisfed.org/series/dgs10 ドル インデックス https://fred.stlouisfed.org/series/dtwexb 黒い点線で囲んだ部分は 長期金利低下 = ドル安の相関性がありますが ピンクの部分は逆の形 ( 逆相関 ) となっているのが分かります どうしてこういう矛盾した動きになるのか? それについて簡単に説明してみましょう 黒い点線当時は 2008 年のリーマンショック以降に実施された QE1 が終了しても アメリカの景気回復のペースが一向に改善せず鈍化する兆候がありました そのため この時期に FED は 新たな QE 第 2 弾 (QE2) に踏み切りました このような景気減速による金利先安感を受け 長期金利は低下 そしてドル安となったことが分かります 次にピンクの点線当時は トランプ氏が大統領選に当選し トランポノミクス ( 大幅な減税 規制緩和 インフラ投資 ) に対する期待が高まった時期でした この政策がカンフル剤となりアメリカ経済が大きく改善することを先取りする形で ドル高に拍車が掛かりました しかし それと並行し 原油安や中国 / トルコ発の新興国不安も台頭 それを受け 世界各国で金利引き下げのセンチメントが高まり 長期金利が低下 当時の FRB 議長であったイエレンさんからは 銀行に対するストレステストでは アメリカの国債利回りがマイナス金利となった場合も想定して質問している という発言も飛び出したくらいです https://www.central-tanshifx.com/market/market-view/sf-20160212-01.html このように 金利とドルとの関係は 必ずしも相関関係だけでなく 逆に動くこともあるため 注意が必要です FOMC を振り返り感じたこと文頭でも書いた通り 予想以上にハト派的内容が強い FOMC となりました 1 の声明文では オートパイロットと呼ばれていた さらなる穏やかな利上げが必要 という文言が消え 今後は経済指標やその他の情報次第 というアプローチに変更されました その他の情報 の中には 赤くハイライトをした international developments も含まれます たぶん 米中貿易問題や 英国の EU 離脱問題 (Brexit) を指しているのでしょう This assessment will take into account a wide range of information, including measures of labor market conditions, indicators of inflation pressures and inflation expectations, and readings on financial and international developments. https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/files/monetary20190130a1.pdf
FOMC が終わってからいろいろ考えたのですが 文頭でも書いたようにたった 1 ヶ月でパウエル議長の方針が 180 度変更されたことを受け もしかしたら今年のドルは高値を打ったのかもしれません 年内 1 度くらい利上げがあってもいいのではないか? そういう意見も聞こえます それも十分可能かもしれませんが 現時点での利上げのハードルは かなり高そうに見えて仕方ありません このチャートは 週足のドル インデックスにベガス トンネル (144/169EMA) を載せたものです 今週のトンネルの位置は 94.04/35 執筆時のインデックス レベルは 95.27 です チャート : Stockcharts https://stockcharts.com/h-sc/ui 下がると仮定した場合 最初のターゲットは黄緑のチャネル下限が通る 95 近辺 そしてトンネルが通る 94.04/35 そして藤色の点線が通る過去のサポートとなっていた 93 近辺です 最後になりますが 今回の FOMC 発表以降から 一部の新興国通貨が買われています 私は取引しておりませんが 投資家たちの間で Undervalue( 過少評価 ) されていると思われる通貨の選別が始まるかもしれません 特に ドル インデックスが 93 辺りを切って下がり始めてくると その傾向が顕著となる可能性が出てくると思われます