脂質の分解小腸 脂肪分解とカルニチン < 胆汁 > 脂肪の乳化 < 膵液 膵液リパーゼ ( ステアプシン )> 脂肪酸 グリセリン 小腸より吸収吸収された脂肪酸は エステル結合により中性脂肪として蓄積されます 脂肪酸は 体内で分解されエネルギーを産生したり 糖質や余剰のエネルギー産生物質から合成され

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解糖系でへ 解糖系でへ - リン酸 - リン酸 1,-2 リン酸 ジヒドロキシアセトンリン酸 - リン酸 - リン酸 1,-2 リン酸 ジヒドロキシアセトンリン酸 AT AT リン酸化で細胞外に AT 出られなくなる 異性化して炭素数 AT の分子に分解される AT 2 ホスホエノール AT 2 1

次の 1~50 に対して最も適切なものを 1 つ (1)~(5) から選べ 1. 細胞内で 酸素と水素の反応によって水を生じさせる反応はどこで行われるか (1) 核 (2) 細胞質基質 (3) ミトコンドリア (4) 小胞体 (5) ゴルジ体 2. 脂溶性ビタミンはどれか (1) ビタミン B 1

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

1. 電子伝達系では膜の内外の何の濃度差を利用してATPを合成するか?

相模女子大学 2017( 平成 29) 年度第 3 年次編入学試験 学力試験問題 ( 食品学分野 栄養学分野 ) 栄養科学部健康栄養学科 2016 年 7 月 2 日 ( 土 )11 時 30 分 ~13 時 00 分 注意事項 1. 監督の指示があるまで 問題用紙を開いてはいけません 2. 開始の

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脂肪酸 1) 脂肪酸の分類脂肪酸は, 中性脂肪や複合脂質に結合しており, その構造は炭素鎖が連なるカルボン酸である 脂肪酸は炭素の鎖長 ( 長短 ) によっても分類され, 炭素数 2~4 個のものを短鎖脂肪酸 ( 低級脂肪酸 ),5 ~12 個を中鎖脂肪酸, それ以上の炭素数のものを長鎖脂肪酸 (

第11回 肝、筋、脳、脂肪組織での代謝の統合

第1回 生体内のエネルギー産生

総説 実践女子大学生活科学部紀要第 54 号,001 ~ 005, L- カルニチン - その存在量と生理機能 - 田島眞 L-Carnitine the amounts in foods and the functional properties Makoto TAJIMA L-Car

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2017 年度茨城キリスト教大学入学試験問題 生物基礎 (A 日程 ) ( 解答は解答用紙に記入すること ) Ⅰ ヒトの肝臓とその働きに関する記述である 以下の設問に答えなさい 肝臓は ( ア ) という構造単位が集まってできている器官である 肝臓に入る血管には, 酸素を 運ぶ肝動脈と栄養素を運ぶ

第8回 脂質代謝

Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

第 Ⅳ 部細胞の内部構造 14 エネルキ ー変換 -ミトコント リアと葉緑体 ( 後半 )p 葉緑体 chloroplast と光合成 photosynthesis 4. ミトコント リアと色素体の遺伝子系 5. 電子伝達系 electron-transport chain の進

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2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

第1回 生体内のエネルギー産生

をミトコンドリアに運ぶ 中鎖 : 炭素 5~12 長鎖 : 炭素 12 個以上 カルニチン 中鎖 アシル oa MFA 補酵素 A MFA oa oa 長鎖 アシル oa LFA 補酵素 A LFA oa oa 補酵素 A oa カルニチン A 主に肝臓と腎臓で生成され そのほとんどが筋肉に送られる

9.Ⅵ.低血糖症の概要・体質・原因

新技術説明会 様式例

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

1-1 栄養素の代謝と必要量 : 糖質 炭水化物 1 糖質の消化吸収 デンプンは唾液中のα アミラーゼの作用により加水分解され かなりの部分が消化を受ける ヒト の唾液中に存在するデンプン消化酵素は α アミラーゼがほとんどである 胃では糖質の消化酵素は 分泌されないが 食道から胃内に流入した食塊が

犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

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血糖値 (mg/dl) 血中インスリン濃度 (μu/ml) パラチノースガイドブック Ver.4. また 2 型糖尿病のボランティア 1 名を対象として 健康なボランティアの場合と同様の試験が行われています その結果 図 5 に示すように 摂取後 6 分までの血糖値および摂取後 9 分までのインスリ

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保健機能食品制度 特定保健用食品 には その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をすることができる 栄養機能食品 には 栄養成分の機能の表示をすることができる 食品 医薬品 健康食品 栄養機能食品 栄養成分の機能の表示ができる ( 例 ) カルシウムは骨や歯の形成に 特別用途食品 特定保健用

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

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第四問 : パーキンソン病で問題となる運動障害の症状について 以下の ( 言葉を記入してください ) に当てはまる 症状 特徴 手や足がふるえる パーキンソン病において最初に気づくことの多い症状 筋肉がこわばる( 筋肉が固くなる ) 関節を動かすと 歯車のように カクカク と軋む 全ての動きが遅くな

生活習慣病の増加が懸念される日本において 疾病の一次予防はますます重要性を増し 生理機能調節作用を有する食品への期待や関心が高まっている 日常の食生活を通して 健康の維持および生活習慣病予防に努めることは 医療費抑制の観点からも重要である 種々の食品機能成分の効果について数多くの先行研究がおこなわれ

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インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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ドリル No.6 Class No. Name 6.1 タンパク質と核酸を構成するおもな元素について述べ, 比較しなさい 6.2 糖質と脂質を構成するおもな元素について, 比較しなさい 6.3 リン (P) の生体内での役割について述べなさい 6.4 生物には, 表 1 に記した微量元素の他に, ど

1 編 / 生物の特徴 1 章 / 生物の共通性 1 生物の共通性 教科書 p.8 ~ 11 1 生物の特徴 (p.8 ~ 9) 1 地球上のすべての生物には, 次のような共通の特徴がある 生物は,a( 生物は,b( 生物は,c( ) で囲まれた細胞からなっている ) を遺伝情報として用いている )

疫学 : それぞれ極めて稀な先天代謝異常症であり, 本邦での新生児タンデムマス スクリーニングのパイロット研究結果 2) からは,CPT1 欠損症は約 300,000 出生に対して 1 例,CPT2 欠損症は約 260,000 出生に対して 1 例の頻度と推測される.CACT 欠損症は約 196 万

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本書の読み方 使い方 ~ 各項目の基本構成 ~ * 本書は主に外来の日常診療で頻用される治療薬を取り上げています ❶ 特徴 01 HMG-CoA 代表的薬剤ピタバスタチン同種同効薬アトルバスタチン, ロスバスタチン HMG-CoA 還元酵素阻害薬は主に高 LDL コレステロール血症の治療目的で使 用

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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250 グルタル酸血症2型

2. 本邦での発生頻度 常染色体劣性遺伝疾患で 欧米白人では頻度が高い (1 万人に 1 人 ) が わが国で の頻度は約 13 万人に 1 人と推定されている 3) 3. 臨床病型 1 発症前型タンデムマス スクリーニングや 家族内に発症者又は保因者がいて家族検索で発見される無症状の症例が含まれる

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ストレスが高尿酸血症の発症に関与するメカニズムを解明 ポイント これまで マウス拘束ストレスモデルの解析で ストレスは内臓脂肪に慢性炎症を引き起こし インスリン抵抗性 血栓症の原因となることを示してきました マウス拘束ストレスモデルの解析を行ったところ ストレスは xanthine oxidored

< 研究の背景 > 運動に疲労はつきもので その原因や予防策は多くの研究者や競技者 そしてスポーツ愛好者の興味を引く古くて新しいテーマです 運動時の疲労は 必要な力を発揮できなくなった状態 と定義され 疲労の原因が起こる身体部位によって末梢性疲労と中枢性疲労に分けることができます 末梢性疲労の原因の

249 グルタル酸血症1型

第三問 : 次の認知症に関する基礎知識について正しいものには を 間違っているものには を ( ) 内に記入してください 1( ) インスリン以外にも血糖値を下げるホルモンはいくつもある 2( ) ホルモンは ppm( 百万分の一 ) など微量で作用する 3( ) ホルモンによる作用を内分泌と呼ぶ

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

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脂質の分解小腸 脂肪分解とカルニチン < 胆汁 > 脂肪の乳化 < 膵液 膵液リパーゼ ( ステアプシン )> 脂肪酸 グリセリン 小腸より吸収吸収された脂肪酸は エステル結合により中性脂肪として蓄積されます 脂肪酸は 体内で分解されエネルギーを産生したり 糖質や余剰のエネルギー産生物質から合成されたりします それに関わるのがカルニチンです 1. カルニチンとは? カルニチン (carnitine) の化学式は (CH 3 ) 3 N + -CH 2 -CH(OH)-CH 2 -COOH 古くは ビタミン B T と呼ばれていた物質です 蛋白質のリジン残基 ( 必須アミノ酸のリジンとメチオニン ) から 肝臓 心筋 骨格筋 腎臓などで カルニチン前駆体の γ- ブチロベタインが合成され 最終的に 肝臓 腎臓 脳に存在し 更に γ- ブチロベタインヒドロキシラーゼにより カルニチンが合成されます 肝臓などで合成されたカルニチンは 血中を運ばれ 末梢細胞 ( 筋細胞など ) で 細胞膜のナトリウム依存性トランスポートシステム (Transporter) により 細胞内に取り込まれます 細胞内カルニチン濃度は 細胞外液より 20~50 倍 高く維持されています カルニチンは 羊肉 赤肉 鶏肉 魚 乳製品などにも豊富に含まれていて 食事からも供給されます 尚 植物はカルニチンの生成に必要な 2 種類のアミノ酸 ( リジンとメチオニン ) の含量が少ないので ベジタリアンの人は 血漿カルニチン濃度や 尿中カルニチン排出量が 低下する可能性があります 最近では カルニチンが脂肪酸の分解 (β- 酸化 ) を促進させることから ダイエットを目的としたサプリメントとしてもよく耳にします 2. カルニチンの役割 a. カルニチンは 脂肪酸を ミトコンドリア内に輸送するのに必要 カルニチンは カルニチントランスポーターにより 細胞内に取り込まれます 細胞質の長鎖脂肪酸は 細胞質ゾルで ACS(Acyl-CoAsynthase) により CoA(CoenzymeA) と結合して アシル -CoA(Acyl-CoA) に活性化されます アシル -CoA は CPT-I(carnitineO-palmitoyltransferasetypeI: カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ 1 型 :EC2.3.1.21) によってカルニチンと結合して アシルカルニチン (Asylcarnitine) となって ミトコンドリアの内膜を通過し ミトコンドリア内のマトリックスに移行します 従って カルニチンは ミトコンドリア外の長鎖脂肪酸を ミトコンドリア内に輸送するのに必須な物質 ( ビタミン ) であり カルニチンがないと 長鎖脂肪酸は ミトコンドリア内のマトリックスで β- 酸化されにくくなります ミトコンドリア内のマトリックスに入ったアシルカルニチンは CPT-II(carnitineO-palmitoyltransferasetype II: カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ 2 型 ) によって カルニチンとアシル -CoA に分離します

アシル -CoA に活性化された長鎖脂肪酸は β- 酸化によりアセチル -CoA に変換されオキサロ酢酸と結合して TCA 回路 ( クエン酸回路 ) に取り込まれます 注 : 肝臓では 遊離脂肪酸から生成されるアシル -CoA が カルニチンシャトルにより ミトコンドリア内に取り込まれ アセチル -CoA となり TCA 回路で代謝されます インスリンは このアシル -CoA のミトコンドリア内への取り込みを抑制します インスリン不足 インスリン拮抗ホルモン過剰の際には アシル -CoA のミトコンドリアへの取り込みが促進され 大量のアシル -CoA ( 遊離脂肪酸から生成される ) が ミトコンドリア内に流入し TCA 回路で代謝されないと アセチル -CoA から ケトン体が生成され 血中ケトン体が増加し ケトーシスを来たします b. カルニチンは 脂肪酸を ミトコンドリア外に輸送するのに必要 ミトコンドリア内のアセチル -CoA は カルニチンアセチルトランスフェラーゼ (CAT) の作用により カルニチンと結合して アセチルカルニチンとして ミトコンドリア外の細胞質ゾルに輸送されます アセチル -CoA+ カルニチン アセチルカルニチン +CoASH アセチルカルニチンは 細胞質ゾルから 血液中に排泄されます また 細胞質ゾル内のアセチルカルニチンは カルニチンとアセチル -CoA に分解され アセチル -CoA は アセチル -CoA カルボキシラーゼ (acetyl-coacarboxylase:acc) により マロニル -CoA 経路で 脂肪酸に合成されます 脂肪酸アシル -CoA(LCACoA) がミトコンドリア内に蓄積すると ミトコンドリア内膜に存在するカルニチンアシルトランスフェラーゼ (carnitineacyltransferase EC2.3.1.) の作用により 活性脂肪酸 (acyl-coa) のアシル基 (acylgroups) を カルニチン (L-carnitine) に転移させ ACR( アシルカルニチン ) を生成することで ミトコンドリア外に輸送させます アシル -CoA+ カルニチン アシルカルニチン +CoASH カルニチンは ミトコンドリア内のアセチル -CoA や アシル -CoA を ミトコンドリア外に輸送する ( ミトコンドリア内の CoA/ アシル -CoA 比を調節する ) のに必要な物質でもあります 注 : カルニチンアセチルトランスフェラーゼ (carnitineo-acetyltransferase:cat:ec2.3.1.7.) は

カルニチンアシルトランスフェラーゼであり acetyl-coa(c 2 ) 以外に propanoyl-coa(c 3 ) や butanoyl-coa(c 4 ) を カルニチンと結合させて アセチルカルニチンやアシルカルニチンを生成します acetyl-coa+carnitine=coa+o-acetylcarnitine カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ (carnitineo-palmitoyltransferase:cpt:ec 2.3.1.21.) も アシルトランスフェラーゼであり 炭素数が 8~18(C 8 ~C 18 ) の 広い範囲の脂肪酸に作用しますが パルミチン酸 (C 16 ) の活性脂肪酸 (palmitoyl-coa) に最も作用します palmitoyl-coa+l-carnitine=coa+l-palmitoylcarnitine カルニチンオクタノリルトランスフェラーゼ (carnitineo-octanoyltransferase:ec2.3.1.137.) は 中鎖 ~ 長鎖 (medium-chain/long-chain) の活性脂肪酸 (acyl-coas) に作用し 特に 炭素数が 6~8(C 6 ~C 8 ) のアシル基 (acylgroups) のオクタン酸 (C 8 ) の活性脂肪酸 (octanoyl-coa) などを始めとして 作用します octanoyl-coa+l-carnitine=coa+l-octanoylcarnitine c. カルニチンをエネルギー産生から見た場合 カルニチンによってミトコンドリア内へ輸送された長鎖脂肪酸の β- 酸化によるアセチル -CoA の生成は エネルギー産生につながるだけでなく ピルビン酸脱水素酵素を抑制し 解糖 ( グルコースのピルビン酸への分解 ) が抑制され ピルビン酸からの乳酸生成が減少します しかし 低酸素 (hypoxia) などによる TCA 回路 ( クエン酸回路 ) の障害 脂肪酸の過剰摂取や脂肪酸からのエネルギー産生を必要としない場合 余剰となるアセチル -CoA はカルニチンによって アセチルカルニチンに変換されたり マロニル -CoA 経路で再び脂肪酸に合成されたりします これにより アセチル -CoA によるピルビン酸脱水素酵素の抑制は軽減されます 炭水化物の過剰摂取は ピルビン酸脱水素酵素により ピルビン酸からアセチル -CoA が生成され アセチルカルニチンとして 細胞質ゾルに輸送され アセチル -CoA から アセチル -CoA カルボキシラーゼにより マロニル -CoA 経路で再び脂肪酸に合成されます マロニル -CoA は CPT-I を抑制し 脂肪酸の β- 酸化を抑制します ( 糖質の代謝参照 ) 3. カルニチンに関わる様々な疾患 a. カルニチンの代謝 カルニチンの体内総プール量は 100mmol であり その内 98% が筋肉内に 1.6% が肝臓と腎臓に 0.6% が細胞外液中に存在します カルニチンは 大半は尿中 ( 腎臓 ) から排泄され 1% 以下は 便中から 排泄されます 腎臓でのクリアランスは アシルカルニチンは遊離カルニチンより 10~20 倍速い アセチルカルニチンは 腎尿細管から再吸収されますが 長鎖脂肪酸のアシルカルニチンは 再吸収が悪い その為 脂肪酸代謝異常症 (FAOD) では 代謝が阻害された脂肪酸の炭素鎖が長い程 アシルカルニチンとして カルニチンが 尿中に排泄されるので 血中のカルニチンは減少し易い 尿中に排泄されるアシルカルニチンを分析することにより 脂肪酸代謝異常症 (FAOD) や 有機酸代謝異常症を 診断することが可能です

ライ症候群でも ミトコンドリアの脂肪酸代謝 (β- 酸化 ) が障害され アシルカルニチンが 尿中に増加します 正常児のアシルカルニチンのアシル基は アセチル基 ( アセチール ) である ( アセチルカルニチン ) が ライ症候群のアシルカルニチンのアシル基は アシル基とされます また ライ症候群に類似した症状を示す カルニチン欠損症と異なり ライ症候群では 血中カルニチン値は 基本的には低下しませんが 二次的に低下することがあります b. 慢性疲労症候群 (CFS) カルニチン ( アシルカルニチン ) が欠乏すると 慢性疲労症候群 (CFS) と言う病気 ( 風邪などを契機に 激しい倦怠感や 脱力感を 半年以上 持続ないし繰り返す ) になるとも言われています 慢性疲労症候群の病因は確定されていませんが 過度なストレスから生体機能を守る為に 自己防衛機制が作動し コルチゾールや DHEA-S の産生を抑制したり 脳血流を低下させて脳代謝を抑制したりしていると考えることもできます ACR( アシルカルニチン ) は グルタミン酸 GABA(γ アミノ酪酸 ) などの神経伝達物質の合成に利用されますが 慢性疲労症候群では ACR( アシルカルニチン ) の脳内 ( 前頭葉の前帯状回と 前頭前野 ) への取り込みが低下していると言われており ACR は疲労の程度と相関していると考えられます また アセチルカルニチンの脳内への取り込みが Broadmann24 野 ( 自律神経系の調節や情動などに関連する ) と Broadmann9 野 ( 意欲やコミュニケーションに関連する ) において 局所脳血液量低下とは無関係に 低下していると言われています 慢性疲労症候群では アシルカルニチンやアセチルカルニチンの不足と脳内への取り込みの低下が同時に起こっていることから ストレスなどによる体内の代謝の抑制により アシルカルニチンやアセチルカルニチンの産生 ( 合成 ) や 細胞内への取り込みが低下していると仮定することもできる 慢性疲労症候群では 血清コルチゾールや DHEA-S( デヒドロエピアンドロステロンサルフェート ) など 副腎皮質から産生されるホルモンが減少し 思考力や集中力が低下すると言われる DHEA-S は アセチルカルニチントランスフェラーゼ (acetylcarnitinetransferase: carnitineo-acetyltransferase:cat) 活性と相関していて DHEA-S が減少すると アセチルカルニチンが低下する DHEA-S を投与 ( 補充 ) すると アセチルカルニチンが上昇する この説では アセチルカルニチンの低下は 慢性疲労症候群の原因ではなく 結果を意味します ストレスにより 内分泌系が崩れ DHEA-S などのホルモン産生のバランスの失調が 慢性疲労症候群の第一原因と考えることができる 慢性疲労症候群では NK 細胞活性が低下し 潜伏感染していたウイルス (HHV-6 EBV など ) が 再活性化すると言われ それに伴い 抗炎症性サイトカインの TGF-β が増加すします TGF-β は DHEA の硫酸抱合を調節している酵素 ( スルフォキナーゼ ) の活性を抑制する為 DHEA-S が減少し アセチルカルニチンの合成が低下します また IFN-α( インターフェロンアルファ ) は 2-5AS(2',5'- オリゴアデニル酸合成酵素 ) を誘導し 誘導された 2-5A(2',5'- オリゴアデニル酸 ) により RNase を活性化させ ウイルス RNA を分解して ウイルス増殖を抑制するが 慢性疲労症候群では 2-5AS が上昇している しかし HHV-6 EBV などのウイルスは 初感染後 体内に 潜伏感染するウイルスであり 特に HHV-6 は 過労状態の人では 高率に唾液中に分泌 ( 検出 ) される 従って ウイルスの再活性化や 2-5AS の上昇は 慢性疲労症候群の原因と捉えるより ストレスにより 免疫力が低下 ( 疲弊 ) した結果と 捉える方が 妥当と思われる c. 全身性カルニチン欠損症全身性カルニチン欠損症では カルニチントランスポーターに障害があり 骨格筋 心筋 腎臓で 血液中からカルニチンを 細胞内に取り込めない また 血中カルニチンも減少している これにより細胞内カルニチンが欠乏するため 長鎖脂肪酸を ミトコンドリア内へ転送する能力が低下し 脂肪酸は ミトコンドリアで β- 酸化をされないため 飢餓などで グルコースからアセチル -CoA を生成できない状況になると エネルギー産生 (ATP 産生 ) が低下します また 糖新生も低下して ケトン体の上昇が少ない 低ケトン性低血糖を来た

します また 脂肪酸がエネルギー化されないため 中性脂肪 ( トリグリセリド ) が組織に蓄積し 肝腫大 心筋障害 ミオパチーなどを引き起こします さらに ミトコンドリア内に有害なアシル -CoA が蓄積し TCA 回路 ( ピルビン酸脱水素酵素 ) や 尿素回路 (N- アセチルグルタミン酸合成酵素 ) が阻害され エネルギー産生の低下 高乳酸血症 高アンモニア血症などを呈します ( ライ症候群に類似した症状を来たします ) d. 抗生剤による カルニチン欠乏ピボキシル基を持つ抗生剤 (CFPN-PI など ) は 消化管から吸収される際に代謝を受け 抗菌活性物質とピバリン酸に分解されます ピバリン酸は カルニチン抱合を受け 尿中にピバロイルカルニチンとして排出されます 従って ピボキシル基を持つ抗生剤を長期間投与すると 血清中カルニチンが低下すします