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上原記念生命科学財団研究報告集, 26 (2012) 48. MYC 経路を制御する新規がん抑制機構 DMAP1/p53 の解明 上條岳彦 Key words:dmap1,p53, 神経芽腫 千葉県がんセンター研究所 発がん研究グループ 緒言最も重要ながん抑制遺伝子と考えられている p53 は 1979 年に SV40 ウイルス large T 抗原に結合する 53 kda の蛋白質として Lane によって報告された.p53 の変異は非常に多くのがんで認められる. この p53 を制御する重要な分子として ARF(Alternative Reading Flame) と MDM2 (p53 のユビキチンリガーゼ ) が存在している. 筆者はこの ARF の発見 機能解析に関り, これを報告してきた. p53 は多くの腫瘍で主に点変異によって不活化されるが,p53 結合分子などによって p53 の機能が不活化されていると推測される癌腫が存在する. その例としては小児固形腫瘍の神経芽腫, 肝芽腫, 腎芽腫 ( ウイルムス腫瘍 ), 頭蓋内胚細胞腫, 白血病, リンパ腫, 乳癌などが知られている. 筆者は特に難治性小児固形腫瘍である神経芽腫の p53 経路不活化の解析をこれまで進めてきた 1-4). 筆者らはこの p53 の機能制御に関わる分子の研究を継続しており, 新たな制御分子として, 染色体 1p34 にコードされる DMAP1 (DNA methytransferase 1 associated protein 1) を見出した. 染色体 1p34 は様々な腫瘍で LOH が見られる部位であり, 癌抑制遺伝子の存在が示唆される重要な遺伝子部位であり, 神経芽腫でも LOH の頻度が高い. 今回の研究ではこの DMAP1 の機能解析を行い, 新たな p53 制御機構の詳細を明らかにすべく取り組んだ. 方法 1.DMAP1 による p53 の機能制御の分子機構を細胞レベルで明らかにする 1-1.p53 と DMAP1 の結合の詳細 :in vitro プルダウン法によって直接結合及び結合に重要なドメインを明らかにする. 1-2.DMAP1 によって転写活性化される p53 下流遺伝子群の解析 :DMAP1 の過剰発現及びノックダウンをがん細胞 正常細胞で行い, 発現が変化する遺伝子を RT-PCR 法, 及びウエスタンブロッティング法で同定する. 1-3.DMAP1 による p53 制御の分子機能の解析 :DMAP1 が p53ser15 リン酸化制御に関るデータを得ており, この機構を ATM(Ataxia Telangiectasia Mutated) に対する DMAP1 の影響を検討することで明らかにする.ATM と DMAP1 の関連を分子生物学的実験で検討する. 1-4.DMAP1 による染色体修飾の変化が p53 の転写能制御に与える影響の検討とその分子レベルでの機構解明 :DMAP1 の p53 プロモーター結合に対する影響を定量的 ChIP 法で検討する. 2.DMAP1 による p53 の機能制御の分子機構を個体レベルで明らかにする 2-1.DMAP1 の臓器特異的ノックアウトマウスの作製とその解析 :DMAP1 の臓器特異的ノックアウトマウスのそれぞれの臓器における影響を個体レベルで検討する. これは neo 抵抗性カセットを除くために Flp/FRT のシステムを用い, 除去するエクソンには lox システムを用いるデザインを検討している. このマウスの細胞を用いて, 各臓器での幹細胞に対する影響を解析する. 臓器別の腫瘍発生も想定され, 各種 DNA 変異刺激による発がんへの作用を解析する. 1

結果 1.DMAP1 による p53 の機能制御の分子機構の解析 1-1.p53 と DMAP1 の結合の詳細 in vitro プルダウン法によって直接結合及び結合に重要なドメインを検討した結果, 野生型 p53(359 アミノ酸 ) から 293-393 アミノ酸を除いた変異体 p53 では DMAP1 との結合が消失した. さらに DMAP1 の N 末端 (3-191 アミノ酸 ) が p53 と結合することが明らかになった ( 図 1). 図 1. DMAP1 N 末端と p53 C 末端が結合する. (A) p53 変異体模式図. TAD:transactivation domain,dbd:dna binding domain,od:oligomerization domain,ctd:c terminus domain. (B) DMAP1 変異体模式図. (C) In vitro pull-down assay. GST-tagged DMAP1 とアイソトープ標識 p53 変異体との結合の検討. (D) In vitro pull-down assay. アイソトープ標識野生型 p53 と GST-tagged DMAP1 変異体との結合の検討. 1-2.DMAP1 によって転写活性化される p53 下流遺伝子群の解析 DMAP1 の過剰発現及びノックダウンをがん細胞 正常細胞で行い, 発現が変化する遺伝子を RT-PCR 法, 及びウエスタンブロッティング法で検索した.DMAP1 過剰発現系で,p21Cip1/Waf1 および BAX の RNA/ タンパク質量の増加が示された. DMAP1 ノックダウン系においても p21cip1/waf1 および BAX の RNA/ タンパク質量の減少が認められた ( 図 2). 2

図 2. DMAP1 は p53 下流分子群を誘導する. (A) HA-DMAP1 を NB9 細胞 (p53 wt) にレンチウイルスで導入した.Doxorubicin 処理後 24 時間で回収し, Western blot を行った. (B) SK-N-SH (wt p53) と SK-N-BE (mutant p53) にトランスフェクションで DMAP1 を導入した.Doxorubicin 処理後に回収し, 半定量的 RT-PCR を行った. 1-3.DMAP1 による p53 制御の分子機能の解析 DMAP1 が p53ser15 リン酸化を DNA 傷害時に促進するデータを得ており, この機構を解析した.p53Ser15 リン酸化に関わるキナーゼ ATM のリン酸化が DMAP1 過剰発現系で示された. さらに ATM 阻害剤 KU55933 によって ATM 活性化を阻害すると,DMAP1 による p53ser15 リン酸化がキャンセルされた ( 図 3). 3

図 3. DMAP1 は ATM のリン酸化を促進し,p53Ser15 リン酸化を DNA 傷害時に促進する. HA-DMAP1 を SK-N-SH 細胞 (p53 wt) にレンチウイルスで導入した.Doxorubicin 処理 +KU55933 (ATM 阻 害剤 ) 投与後に回収し,Western blot を行った. 1-4.DMAP1 による染色体修飾の変化が p53 の転写能制御に与える影響の検討とその分子レベルでの機構解明 p21 Cip1/Waf1 プロモーターに対する p53 結合への DMAP1 の影響を定量的 ChIP 法で検討した.DMAP1 の過剰発現は, p21 Cip1/Waf1 プロモーターに対する p53 結合を促進しなかった (not shown). 2.DMAP1 による p53 の機能制御の分子機構を個体レベルでの解析 2-1.DMAP1 の臓器特異的ノックアウトマウスの作製とその解析 DMAP1 の臓器特異的ノックアウトマウスの作製については, 現在ヘテロマウスまでは作製されている. 今後臓器特異的 Cre トランスジェニックマウスと交配し, エクソン除去を行った後にホモマウスを作製する. 交感神経系で DMAP1 をノックアウトし, これと MYCN トランスジェニックマウスとを交配して, 神経芽腫発がんに対する DMAP1 の影響を個体レベルで検討する予定である ( 図 4). 4

図 4. Dmap1 conditional KO マウス作製. 上図のゲノムを持つマウスを作製し,FLP マウスとの交配で Neo を除き, さらに Cre マウスとの交配でエクソン 3,4 を 除去する. 考察 MYC は悪性腫瘍の発がん過程に非常に重要な意義を持つことが明らかになっているがん遺伝子である 5).MYC, MYCN は細 胞周期の進行に関与し, がん細胞の増殖を促進する.MYCN 葉特に神経芽腫で発がん 悪性化に重要な遺伝子である 6). しかしながら, 同時にがん細胞におけるアポトーシスの誘導にも関与する 7). この MYC family によるアポトーシス誘導経路が 不活化されることが発がん過程では重要なイベントであり, 不活化される経路は ATM を介する DNA 損傷経路と ARF を介す る経路である. この MYC/MYCN の下流に ATM/p53 経路が存在することは既に報告されているが, 我々はこの経路に DMAP1 が関与する ことを今回の研究で明らかにした. さらに DMAP1 が p53 に直接結合すること,DMAP1 が p53 の転写活性を促進すること, DMAP1 が神経芽細胞腫における癌抑制遺伝子として機能していることもこれまで明らかになっている. これらを考慮すると, DMAP1 は神経芽腫において,MYCN からのシグナルを受けて,ATM/p53 経路活性化に関わってがん抑制遺伝子として機 能すると推測される. この研究の更なる推進によって,MYC family が発がんに関わる非常に多くの悪性腫瘍において, 新た な治療戦略の標的分子機構の詳細を明らかにできることが期待される. MYC/p53 経路は発生過程においても重要な役割を果たすことが遺伝子改変マウスで明らかにされているが, 今回作製してい る DMAP1 遺伝子改変マウス ( 臓器特異的ノックアウトマウス ) によって MYC-DMAP1-p53 経路の意義を個体レベルで明ら かにすることが可能になると考えられる. 共同研究者 本研究の共同研究者は, 千葉県がんセンター研究所の山口陽子, 竹信尚典である. 本稿を終えるにあたり, 本研究を御支援 いただきました上原記念生命科学財団に深く感謝申し上げます. また遺伝子変換マウスの作製にご協力いただいているかずさ DNA 研究所の中山学博士, 理化学研究所免疫 アレルギー科学総合研究センター免疫器官形成研究グループの古関明彦 博士に深謝いたします. 文献 1) Kamijo, T. : Role of stemness-related molecules in neuroblastoma. Pediatr. Res., 71 : 511-515, 2012. 2) Takenobu, H., Shimozato, O., Nakamura, T., Ochiai. H., Yamaguchi, Y., Ohira, M., Nakagawara, A. & Kamijo, T. : CD133 suppresses neuroblastoma cell differentiation via signal pathway-modification. Oncogene, 30 : 97-105, 2011. 3) Ochiai, H., Takenobu, H., Nakagawa, A., Yamaguchi, Y., Kimura, K., Ohira, M., Okimoto, Y., Fujimura, Y., Koseki, H., Kohno, Y., Nakagawara, A. & Kamijo, T. : Bmi1 is a MYCN target gene and regulates tumorigenesis via repression of KIF1Bbeta and TSLC1 in neuroblastoma. Oncogene, 29 : 2681-2690, 2010. 4) Shi, Y., Takenobu, H., Kurata, K., Yamaguchi, Y., Yanagisawa, R., Ohira, M., Koike, K., Nakagawara, A., Jiang, L. L. & Kamijo, T. : HDM2 impairs Noxa transcription and affects apoptotic cell death in a p53/p73-dependent manner in neuroblastoma. Eur. J. Cancer, 46 : 2324-2334, 2010. 5) Brooks, T. A. & Hurley, L. H. : The role of supercoiling in transcriptional control of MYC and its importance in molecular therapeutics. Nat. Rev. Cancer, 9 : 849-861, 2009. 5

6 6) 上條岳彦, 中川原章 : 小児医療における診断 治療の進歩 6 診断技術神経芽腫の遺伝子検査. 小児科, 52 : 1612-1626, 2011. 7) Hoffman, B. & Liebermann, D. A. : Apoptotic signaling by c-myc. Oncogene, 27 : 6462-6472, 2008.