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ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

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094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

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為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

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6. 化学療法を受ける高齢がん患者さんへのピアサポートを考える 愛知県がんセンター中央病院がん化学療法看護認定看護師宮谷美智子 講義の狙い 高齢者の身体的 精神的 社会的な特徴を理解する 高齢者の疾患や症状の特徴を知り 食事や水分摂取 排泄 転倒などの注意すべき点を学ぶ 高齢がん患者に対するピアサポートに必要なことを考える 高齢者の特徴 老いに伴う変化には 身体や心の変化だけでなく 今までに育った社会背景 生活習慣などが大きく影響し 個人差も大きいのです 単純に年齢だけの問題ではなくて 様々な要因が絡んで老いが進むと言われています 高齢者の身体面での特徴は 大きく分けて 6 つあります 1 予備力が低下し 病気にかかりやすくなる 2 環境の変化に適応する能力が低下する 具体的には 体温調節の機能が落ちたり 水 電解質バランスの異常を起こしやすくなり 夏場は脱水や熱中症に注意が必要です また 耐糖能という血糖値を保つ能力が低下します この影響で糖尿病になりやすかったり 糖尿病で治療をしている方は 治療薬によって低血糖を起こしやすくなることがあります さらに 加齢とともに血圧は上がる傾向があります 3 複数の病気や症状を持っている人が多くなる 4 症状が教科書どおりに現れない 特に 肺炎などは 一般的な高熱や咳がという症状が 高齢者では半分程度の人にしか現れないので 病気の発見が遅れがちになります 5もともとの病気と関係のない合併症を起こしやすくなる 病気で寝ていることによって 関節が硬くなる 拘縮 ( こうしゅく ) といった状態になったり 床ずれができてしまったりします 血管の中に血液の塊ができて それが飛んでしまって血管を詰まらせるエコノミークラス症候群のような病気を起こしてしまう恐れもあります 6 感覚機能が低下する 目が見えにくい 耳が聞こえないといったことはコミュニケーションにも影響を及ぼしてきます こうした身体面の特徴に加えて 高齢者の疾患の特徴として 薬に対する反応が成人とは異なり 薬が効きすぎてしまって副作用が強く出る 身体を守る力も落ちているため病気が治りにくくなるということが言われています さらに患者の予後は 医療のみならず社会的な環境に大きく影響されます 快適な生活環境かどうか 周りに支援してくれる人がいるかどうか といった社会的環境によって 患者の病気の進み方が

大きく左右されるので その方にあった適切な支援をしていくことが求められます 食事に関連する加齢による変化 高齢者に限りませんが 食べられるかどうか ということが在宅での療養生活に大きな影響を及ぼします 食事に関連する老化による変化は 視力や嗅覚の低下 味覚の低下 消化液の分泌低下 消化管の運動機能の低下 その他の運動機能の低下などがあります 味覚が鈍ってくることによって しょっぱいものを好むようになって漬物ばかり食べていたり 逆に甘いものをひたすら食べてしまったりといったことが起こります それにより高血圧のリスクがより高まったり 糖尿病が悪化したりすることもあります 消化液の分泌が減ることによって 食べたものがしっかり吸収されていかなかったり 下痢をしてしまったりして 栄養不足に陥るということも十分に考えられます 食事というのは ただ単に栄養を取るということだけではなく 生活の一部でもあります 病気をすると 治療やその病気そのものによって食事に影響が出てきます 化学療法による副作用では 吐き気 嘔吐 食欲不振などといった症状が出て 食事に大きな影響を与えることがあります 食事には その人の身体の問題だけでなく 周りの環境からの影響も大きいと言われています 1 人でコンビニのお弁当を買って食べるよりも 誰かに食事を作ってもらって キッチンからコトコトと音がして 匂いがして きょうは何かなと 作ってもらう過程も楽しみながら食べる方が美味しく感じられると思います そうしたこともふまえて 1 人暮らしの高齢者が食べられない原因は何なのだろうかということを 様々な視点から考えていく必要があります 水分摂取の重要性 食事と同様に 水分の摂取も重要です 高齢者はもともと脱水を起こしやすい体の状況になっているということと 脱水によって意識障害を起こすことがあるということ 脱水によってもともとの病気がさらに悪くなることがあります また 自分で気が付かないことも多く 早期に発見するのが難しいことがあります 発見が遅れてしまうと 命を落とす危険があるので 十分な注意が必要です

脱水を起こしやすい疾患には 脳血管障害や認知症 肺気腫などの慢性呼吸器疾患 糖尿病 高血圧やうっ血性心不全などがあります 嘔吐 下痢 発熱 発汗を伴う疾患はたくさんあります がん患者さんの場合を考えてみると 化学療法の副作用でこれらの症状がよく起こります 化学療法を受けている高齢者は 化学療法の副作用で脱水を招きやすい状態にあると考えられます 加齢による排泄機能の変化と転倒の可能性 加齢による変化によって 排泄の機能にも影響が出てきます 膀胱が委縮する 膀胱の弾力性が低下する 膀胱の充満感が低下するなどの特徴があります 膀胱の容量が小さくなってしまうので トイレの回数が増えるとか トイレに行っても残った感じがすることがあります 膀胱が尿でいっぱいだという感じが鈍くなるので 自分では我慢をしているつもりはなくても 我慢をしている体の状態になって 尿が漏れてしまうことがあります このような排泄に関わる変化は その方の自尊心に非常に大きな影響を与えますし それが気掛かりになってくると 億劫で外に出られなくなる 出掛けるのが嫌になってしまうということもあり 社会生活への影響も生じてくることが考えられます 尿がすっきり出ないと 様々な問題が生じてきます 尿路感染という尿道炎 膀胱炎などの症状が起きたり それがすすんでしまうと 腎盂腎炎などの急を要する病気につながることもあります 尿閉というのは 尿を出そうと思っても出ないことです 高齢者に多い 前立腺肥大や膀胱のがんなどで 尿がいっぱい溜まっているのに出せないという状況です 尿が溜まっていることで 尿に細菌が繁殖し感染も起こしやすくなるので 注意が必要です 様々な病気や体の変化から 高齢者は転びやすくなります 病気にかかったことで 廃用症候群と言われる筋力の低下やふらつきなどが起こってくるので それらが転びやすさにつながってきます 病院では 夜のトイレのときに転ばれる患者さんが多いです 転んで骨折をしたり 頭を打ったりすると 自分で動くことが難しくなり 介護の必要性が高くなります 寝たきりになることで また新たな廃用症候群を起こしてしまうという悪循環になってしまいます 高齢者の精神面の特徴 高齢者の精神面の特徴として 一般的に感情面や人 格面では 年をとるとともに頑固になり また保守的

な傾向が強くなり 人に対しては厳しくなるとともに 疑いやすくなると言われています ただし 今はとてもアクティブな方も多数いますので あくまでも一般論としていただければと思います いずれ訪れる死に対する不安から 自分自身への健康状態への関心が高まると言われています その関心の高さを良い方向に持っていけるといいのですが 一方で その関心の高さを利用して悪巧みを考える業者もあるので 被害にあわないよう 周囲の人が注意を払う必要があります 高齢者はうつ病を発症しやすいとも言われています 身体の変化や脳の問題でうつ病が起こってくることもありますし その要因は様々で複雑です 自分の身体の変化を自覚することで落ち込んでしまったり 1 番身近な人が亡くなってしまった 何かのトラブルに巻き込まれたなどの生活事件によってストレスを抱えたり 様々な要因が絡んでうつ病を発症しやすいと言われています 身体の病気がうつ病を引き起こしやすいということもあります 脳血管障害が起きていることでうつ病が発症するケースがあります 内分泌系疾患ではホルモンのバランスが崩れてきます 1 番身近なもので よく聞くのは更年期障害です 更年期に身体に変化が生じてくることで 精神的にも負担がかかり 苛々したり不安になったりということが起こるといわれています 循環器 心臓系の疾患やほかの病気でもうつ病は起こりやすいといわれています がん患者さんも がんによるショックや 再発したことを聞かされたときのショックなどでうつ病を発症することがあります また 治療に使用する薬でもうつ病が引き起こされることがあります 高齢者の社会面の特徴 社会的な特徴にも個人差がありますが 多くの人に共通して言えるのは いろいろなものを失う 喪失 という変化があるということです 身体や心の健康が失われたり 年金生活になって 経済的基盤が働いていたときよりも厳しくなったり 家族や社会とのつながりが失われるといったことがあります 家族や社会とのつながりの喪失には 退職をして付き合いがなくなってしまう 子どもが成長して巣立っていく 配偶者が先立ってしまうなどがあります そうしたことで 生きていく意味を失いやすくなってしまうことが言われています 高齢者のがんの特徴 ここからは高齢者のがんと在宅療養上の注意点について考えていきます 高齢者のがんは5つの特徴があると言われています ただし 抗がん剤に関しては 臨床試験が主に 70 もしくは 75 歳以下を対象に行われてきているので それ以上の年齢の高齢者に化学療法を行ったデータは乏しい現状があります 現時点でいわれているのは これまで述べてきたように もともと身体の機能が弱ってきていること 薬を代謝したり排泄する機能も落ちているので副作用が出やすいことがあります 認知機能や日常生活の動作の低下を伴うこと 症状が出にくいので発見が遅れやすいというのは ほかの病気と共通して言えることです 高齢者のがんの進行は一般的に緩やかなことも多いというのが特徴です 抗がん剤の副作用は 支持療法という副作用対策によってある程度予防ができるもの 異常の早期発見により対応できるもの 残念ながら効果的な方法がないものがあります 在宅で抗がん剤の治療を受ける場合は 副作用の対策が適切になされることが重要となります

吐き気や便秘 下痢 口内炎などはある程度予防ができますが 末梢神経障害といわれるしびれや脱毛などは予防が難しいのが現状です 予防できるものはできる限り予防していく 予防はできないが早く見つけられれば何とかなるものは 早く見つける努力をするということが 在宅で抗がん剤治療を受けるうえで重要なポイントとなります 在宅療養上の注意点 在宅療養の場合 どのようなときに医療スタッフに連絡が必要かを理解していただく必要があります 吐き気が続く 吐いてしまう 食事や水分がほとんど取れないというのは 自宅で生活するのが困難な状態になります また 下痢が続くと 水分や栄養とれなくなり 脱水や栄養不足につながっていきます 便秘でお腹が張って苦しいときなどは 腸閉塞も考えられるため早急な対処が必要です 高齢者は熱が出ないこともありますが 感染を疑うような症状があったときは 早く病院のスタッフに連絡をしなければいけない状態です ただし 高齢者はこれらの症状をご自分で気が付きにくいとか 典型的な症状が出にくいということがあります しかし 周りの人が見れば ちょっと顔色が悪い 急にやせたんじゃないか など気付くことがあるかもしれません 本人任せにせずに 可能であれば家族にも協力をお願いしてサポートを強化し 少しでも早く適切な対応をすることが重要です 高齢者の在宅療養では 水分の摂取には十分に気を付けていただく必要があります 飲み込む機能が衰えてくると ふつうの水をごくごくと飲むことが難しくなります とろみをつけるほうが飲み込みやすくなるので お茶でゼリーを作り 食べ物感覚で摂取できるようにする といったこともよい方法です とろみを付ける粉末も売っていますので そういったものを利用してむせないようにしながら水分を取るとか 食事の制限がなければプリンやゼリーなどをこまめに食べるなど そうした工夫で脱水を予防していく必要があります 食べられない原因は何かを考える 食事に関しても 工夫をしてできる限り食べられるようにする必要があります 高齢者は一般的に しょっぱいものや極端に甘いものなど味の濃いものを好む傾向にあると話しましたが 消化機能が落ちることで脂っこいものを好まなくなることもあります 食べられないと言っていても どうして食べられないのかが分からないと 効果的な対応につながりません よく話を聞いて 食べられない原因は何かを考えることが必要になります

食べられないのはどうして? と聞いたときに 口内炎ができて痛くて食べられないのであれば 口内炎に対する治療をすれば食べられるようになるかもしれません 抗がん剤の吐き気で食べられないものがあれば 吐き気を予防するための薬の使い方について 医師と相談して考えてみます 便秘が酷くて食べられないのであれば お通じがうまく出るような工夫をしてみます 食べると下痢になるのではないかと思って食べないようにしている という方もいらっしゃいますし 口がまずいということもあります 一人暮らしの方は 一人だと何を食べても美味しくないから食べられないこともあります 高齢者の中には いろいろ説明するのも億劫になってしまうという方もいらっしゃいます 食べられないという一言で片づけてしまう方もいらっしゃいますが よく聞いていくといろいろな原因があるので その原因に対して対策を取っていくことが大切です 高齢がん患者さんへのピアサポート には これが正解だというものはありません ただ どうしてこの人が自宅で過ごすのに支障が出ているのかということを 根気よく話を聞くということが原点にあると思います ピアサポーターの皆さんも私たちと一緒に考えていただきたいと思います 包括的がん医療と患者支援 がん対策基本法では在宅医療の充実が課題にあげられていますが まだまだ不十分なのが現状です 緩和ケアやターミナルケアなどに関しては 在宅医療に関わるスタッフの意識も非常に高くなってきていると思いますが まだまだ がんの化学療法に関しては 知識が不足している現状があると感じています 近年 包括的がん医療 という言葉がよく聞かれるようになりました 化学療法は 終末期の前まで 場合によってはぎりぎりまで治療を続ける方がいるかと思いますが 長い期間にわたって継続される治療であり 今では通院での治療が主体となってきています 高齢者が化学療法を受ける場合 どうしたら少しでも安心して自宅で過ごせるか ということを考えてサポートしていく必要があると思います がん医療を充実させ がん患者さんの療養生活の質の維持ということを目指していくためには 医療者だけでは限界があります ピアサポーター達の力が非常に大きなものになってきます ぜひ 私達とも協力して 患者さんのよりよい生活を考えていただけたらと思います 愛知県がんセンター中央病院 がん化学療法看護認定看護師宮谷美智子