目 次 はじめに... 独立行政法人国立病院機構北海道がんセンター臨床検査科病理主任平紀代美 Ⅰ. Liquid-based cytology(lbc) とは... 1 Ⅱ. 体腔液検体処理方法... 1 Ⅲ. 固定液の違いによる標本の違い (BD サイトリッチ レッド保存液 or BD サイトリッチ ブルー保存液 )... 2 Ⅳ. BD サイトリッチ レッド保存液による thin-layer 標本の細胞所見の特徴...4 Ⅴ. LBC 標本と conventional 標本による細胞診判定結果の差異... 5 Ⅵ. LBC 法採用の留意点... 5 症例 42 例 Plate 1 NORMAL/BENIGN... 6 Plate 2 NORMAL/BENIGN - Washing -.... 7 Plate 3 LUNG CANCER adenocarcinoma.... 8 Plate 4 LUNG CANCER adenocarcinoma.... 9 Plate 5 LUNG CANCER squamous cell carcinoma...10 Plate 6 LUNG CAMCER small cell carcinoma... 11 Plate 7 LUNG CANCER pleomorphic carcinoma...12 Plate 8 BREAST CANCER invasive ductal carcinoma...13 Plate 9 BREAST CANCER invasive ductal carcinoma...14 Plate 10 BREAST CANCER invasive lobular carcinoma...15 Plate 11 BREAST CANCER mucinous carcinoma...16 Plate 12 ESOPHAGEAL CANCER squamous cell carcinoma...17 Plate 13 ESOPHAGEAL CANCER squamous cell carcinoma...18 Plate 14 THYROID CANCER papillary carcinoma...19 Plate 15 THYMIC CANCER squamous cell carcinoma...20 Plate 16 MALIGNANT MESOTHELIOMA...21 Plate 17 GASTRIC CANCER adenocarcinoma...22 Plate 18 GASTRIC CANCER signet ring cell carcinoma...23 Plate 19 GASTRIC CANCER poorly differentiated adenocarcinoma...24 Plate 20 COLON CANCER adenocarcinoma...25 Plate 21 COLON CANCER adenocarcinoma (mucinous)...26 Plate 22 PANCREATIC CANCER adenocarcinoma...27 Plate 23 PANCREATIC CANCER adenocarcinoma...28 Plate 24 PANCREATIC CANCER adenocarcinoma...29 Plate 25 GALL BLADDER CANCER adenocarcinoma...30 Plate 26 UTERINE CERVICAL CANCER squamous cell carcinoma...31 Plate 27 UTERINE CERVICAL CANCER serous adenocarcinoma...32 Plate 28 UTERINE CORPUS CANCER endometrioid adenocarcinoma...33 Plate 29 UTERINE CORPUS CANCER clear cell adenocarcinoma...34 Plate 30 OVARIAN CANCER clear cell adenocarcinoma...35 Plate 31 FALLOPIAN TUBE CANCER serous adenocarcinoma...36 Plate 32 CARCINOMA OF THE PERITONEUM serous adenocarcinoma...37 Plate 33 URINARY BLADDER CANCER urothelial carcinoma...38 Plate 34 URINARY BLADDER CANCER urothelial carcinoma (micropapillary variant)................................. 39 Plate 35 CARCINOMA OF THE KIDNY renal cell carcinoma...40 Plate 36 NON-EPITHELIAL TUMOR neuroblastoma...41 Plate 37 NON-EPITHELIAL TUMOR Ewing sarcoma...42 Plate 38 NON-EPITHELIAL TUMOR malignant rhabdoid tumor...43 Plate 39 NON-EPITHELIAL TUMOR rhabdomyosarcoma...44 Plate 40 NON-EPITHELIAL TUMOR malignant melanoma...45 Plate 41 TUMOR OF HEMATOLYMPHOID SYSTEM acute myeloid leukemia...46 Plate 42 TUMOR OF HEMATOLYMPHOID SYSTEM diffuse large B-cell lymphoma...47 あとがき... 独立行政法人国立病院機構北海道がんセンター臨床研究部長山城勝重
Ⅰ. Liquid-based cytology(lbc) とは Liquid-based cytology(lbc) とは 採取した細胞を一度 液体 ( 固定 保存液 ) 中に浮遊させて均一化した状態からスライドガラスに塗抹する方法を総称している LBC は効率よく細胞を収集することのできる方法であり 婦人科検体をはじめ多くの検体に利用することが可能である また 固定液や塗抹原理などの違いにより幾つかの方法が開発されており 米国の FDA の承認を得て広く使用されているものから本邦で開発された方法などがあり それぞれの特徴がみられる BD 社には非婦人科検体用の方法として 婦人科検体を対象とした BD シュアパス 法と塗抹原理は同一であるが 異なった固定液である BD サイトリッチ 保存液を使用し thinlayer 標本を作製する方法が用意されており 尿 腫瘍穿刺針洗浄液 擦過ブラシ洗浄液 その他の液状検体に LBC 標本を作製することができるようになっている 塗抹の原理は 細胞とスライドガラスの荷電によるとされており 詳細は BD 社の説明書を参照されたい 体腔液細胞診は古くから行われており 体腔穿刺液の他に最近では術中採取の洗浄液としても多く提出されるようになってきている 体腔液は蛋白濃度が高いため 尿検体と比較するとアルコールによる湿性固定時の細胞脱落が少ないものの 出血性の検体が多いために多数の赤血球が腫瘍細胞の収集の妨げとなることがしばしば経験される この体腔液に 優れた溶血能を有する BD サイトリッチ レッド保存液を用いて thin-layer 標本を作製することにより 効率が良くかつ精度の高い診断が可能となる 写真 1 は同一検体の LBC 標本と引きガラス法により塗抹された conventional 標本の Papanicolaou 染色標本であり それぞれに腫瘍細胞にマークされているが LBC 標本では多くの腫瘍細胞が塗抹されてい ることがわかる しかし BD サイトリッチ レッド保存液により固定さ れた細胞は Giemsa 染色には適しておらず lymphoma な どの血液系疾患の腫瘍細胞の出現が予想される場合では conventional 法による Giemsa 染色標本と併用して診断する ことが必要となる 写真 1: 腹水 (PLATE 24 症例 ) conventional 標本 引きガラス塗抹法の引き止まり位置の 4 か所に腫瘍細胞集塊がみられる LBC 標本 直径 13mm の塗抹範囲に多数の腫瘍細胞がみられる ( 腫瘍細胞集塊のみにポイントされており 散在性の腫瘍細胞はさらに多くみられている ) Ⅱ. 体腔液検体処理方法 LBC 法は効率よく細胞を収集することのできる方法ではあるが 検体処理の方法に その効力を発揮できるか否かがかかっている 特に出血性の検体が多い体腔液ではその処理方法により収集される細胞数が極端に異なり 処理方法を誤ると conventional 標本より少ない細胞しか塗抹されないという事態も起こり得る 基本的には BD 社のマニュアルに準じるが ここでは 特に高度の出血性検体の処理法を紹介する 高度出血性検体の処理方法 = 二重溶血法 = 高度の出血性の検体は 沈渣に BD サイトリッチ レッド保存液を加えそのまま放置するとゲル化してしまうため その後に遠心操作をしても細胞は収集できない これを避けるためには 1 次の溶血操作をした後に直ちに遠心し 上清を捨てて再び BD サイトリッチ レッド保存液を加えて 2 次溶血を行うことを我々は推奨する この二重溶血法によりきれいに溶血が完了し 多数の細胞が収集できる その手順を図 1 に示す また高度出血性検体に限らず 体腔液検体は腫瘍細胞の由来 ( 原発巣 ) などの解析のために免疫染色などが必要となることがあるため 手順 6. の残り検体の保存は後の検索に有用である 1
Plate 1 NORMAL/BENIGN conventional LBC 1a. 中皮細胞と macrophage 上, 下 ( 左 ): 2 個の中皮細胞の間にいわゆる mesothelial window がみられる ( 矢印 ) (Pap. 40) 下 ( 右 ): 中皮細胞の胞体が強い好塩基性に染まっている (MGG 40) 1d. 中皮細胞と macrophage(1a と同一検体 ) 上 : LBC 標本では胞体にやや重厚感がみられ 中央 3 個の中皮細胞の辺縁に bleb がみられる 下 : 2 個の中皮細胞の間に mesothelial window がみられる ( 矢印 ) (Pap. 40) 1b. 核小体有する活動性中皮細胞集塊とその周囲にリンパ球 上部に macrophage を 2 個認める (Pap. 40) 1e. 活動性中皮細胞 (1b と同一検体 ) 細胞がやや収縮ぎみになるため 胞体が厚ぼったくなり集塊の細胞間隙が開いてみえる (Pap. 40) 1c. リンパ球 好中球 好酸球 macrophage 好中球と好酸球の区別がむずかしい (Pap. 40) 1f. リンパ球 好中球 好酸球 macrophage (1c と同一検体 ) LBC 標本では好酸球の顆粒が黄緑色に染色されてくるため 好中球との機別が容易になる (Pap. 40) 6
Plate 11 BREAST CANCER mucinous carcinoma 胸水 (50 歳代 : 女性 ) conventional LBC 11a. 多染性 (orange/brown green) に染まる多量の粘液の背景に集塊状と散在性の腫瘍細胞が観察される (Pap. 10) 11d. LBC では上皮性の粘液は Light green に染色されることが多いが 本症例では強い Orange G 好性を示している 厚い粘液内に取り込まれている細胞は染色性が悪く観察しづらい (Pap. 10) 11b. 多染性の粘液に絡まるように 胞体内に粘液を有している腫瘍細胞がみられる (Pap. 40) 11e. LBC ではエタノール主体の固定液で固定されてから塗抹されるため 粘液も収縮気味となり厚ぼったくみられる (Pap. 40) 11c. 背景と胞体内に PAS 染色で強い陽性を示す粘液がみられる (PAS 40) 11f. 乳頭状の集塊も少数だがみられる (Pap. 40) 16
Plate 26 UTERINE CERVICAL CANCER squamous cell carcinoma 開腹時腹腔洗浄液 (50 歳代 : 女性 ) conventional LBC 26a. 上 : spindle な細胞がみられる 体腔液中の細胞は adenocarcinoma との鑑別が難しい場合が多く 本例のように spindle な細胞が出現することは少ない (Plate12,13 参照 ) 下 : 濃染核 (indian ink 状 ) を有する spindle cell (Pap. 40) 26d. LBC では胞体の形態の保存が良く spindle な形態がより明瞭に観察できる chromatin の染色性は conventional 標本と差があまりみられない (Pap. 40) 26b. 核 胞体共に類円形の細胞の小集塊もみられる (Pap. 40) 26c. MGG 染色では胞体の形態の保存が悪く spindle な細胞は確認できない (MGG 40) 26e. 上 : 濃縮状 chromatin の腫瘍細胞集塊下 : 多型性の大型の核と広い多綾形の胞体を有する腫瘍細胞集塊がみられるが 胞体に明らかな角化傾向は認められない (Pap. 40) 31