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連続跳躍におけるシューズ着用がリバウンドジャンプパラメータに及ぼす影響 尾上和輝 村上雅俊 仲田秀臣 The effect of Shoes Wearing on Rebound Jump Parameters in Rebound Jumping ONOUE Kazuki MURAKAMI Masatoshi NAKATA Hideomi 要旨 本研究は, 大学男子陸上競技選手を対象に両足連続跳躍時のシューズ着用がリバウンドジャンプパラメータに及ぼす影響について検討した その結果, 跳躍高および RJ index において RS 条件下 ( ランニングシューズ ) と BF 条件下 ( 裸足 ) との間に有意な差が認められた また, 接地時間については BF 条件下の方が高い数値を示したが, 有意な差は認められなかった 以上のことから, 本研究においてリバウンドジャンプ時はランニングシューズを着用するより, 裸足で実施する方が高い SSC(stretch-shortening cycle) 運動能力を発揮できる可能性が示唆された したがって, 今後リバウンドジャンプにおいて SSC 運動能力を測定する際は, シューズの粘性要素を考慮し, 測定することが必要であると考えられた Keywords: rebound jump parameters, stretch-shortening cycle, shoes wearing and barefoot, viscous elements キーワード : リバウンドジャンプパラメータ, 伸張 - 短縮サイクル, シューズ着用および裸足, 粘性要素 大阪産業大学人間環境学部スポーツ健康学科四回生 大阪産業大学人間環境学部スポーツ健康学科准教授 大阪産業大学人間環境学部スポーツ健康学科教授草稿提出日 10 月 31 日最終原稿提出日 10 月 31 日 181

大阪産業大学人間環境論集 16 1. 目的 様々なスポーツ競技において短い時間の中で, 爆発的に大きな力を発揮することは, 優れた競技成績を収めるための重要な運動能力 (motor fitness) の一つであるとされている ( 尹,2003) 特に陸上競技の短距離種目や跳躍種目など, 大きなパワーを発揮することが求められる運動種目では, 下肢において伸張 - 短縮サイクル (stretch-shortening cycle; SSC) と言われる筋活動が行われており, この筋活動 ( パワー ) の測定にはリバウンドジャンプが用いられている ( 田内ら,2003) 例えば, 陸上競技の走幅跳や走高跳などは, 踏切時間が0.1 ~ 0.2 秒であり, その短い時間内に大きなパワーを発揮することが求められる そのため, 下肢のSSC 運動能力が重要視されており, リバウンドジャンプを用いてSSC 運動能力が評価されている ( 図子ら,1993) ところで, リバウンドジャンプとは, その場で両足連続跳躍動作をすることで, その跳躍高と接地時間から, 下肢におけるSSC 運動能力を算出するものであり ( リバウンドジャンプ指数 ;RJ index), 跳躍高が高く, 且つ接地時間が短いほど大きなSSC 運動能力を発揮しているとされている ( 岩竹ら,2002) 一般に, リバウンドジャンプを用いてSSC 運動能力を測定する際は, シューズを着用して実施するが, シューズを着用した場合, ソールなどの粘性要素 ( 接地時の衝撃を緩衝するもの ) が働くことによって ( 小久保ら,2000), リバウンドジャンプ時の各種パラメータに影響を及ぼす可能性が考えられる したがって, シューズを着用してリバウンドジャンプを実施した場合には,SSCによって本来発揮されている数値が必ずしも得られているとは言えない しかしながら, これまでシューズの粘性要素を考慮してリバウンドジャンプにおける SSC 運動能力を検討した研究はあまり見当たらない そこで本研究では, リバウンドジャンプ時にシューズ着用と非着用 ( 裸足 ) の条件下においてリバウンドジャンプパラメータにどのような差があるのか, またリバウンドジャンプにおいてSSC 運動能力を評価する場合, シューズの粘性要素は考慮すべきか否かという点について, 陸上競技の跳躍種目を専門としている男子大学生を対象に検討した 182

連続跳躍におけるシューズ着用がリバウンドジャンプパラメータに及ぼす影響 ( 尾上 村上 仲田 ) 2. 方法 (1) 被験者被験者は大学体育会陸上競技部に所属している男子跳躍選手 10 名とした すべての被験者に本研究の内容について説明した上で, 実験参加の同意を得た また, 被験者の年齢, 身長, 体重, 体脂肪率, 競技歴, 専門種目, および跳躍種目における自己最高記録 (private best; PB) を表 1に示した なおPBは, 日本陸上競技連盟が主催または共催する競技会において公認されたものを採用した 表 1 被験者の特性 No 年齢 (years) 身長 (cm) 体重 (kg) 体脂肪率 (%) 競技歴 (years) 専門種目 PB* (m) 1 19 173.5 54.8 2.9 5 走高跳 1.95 2 19 181.9 60.1 7.6 6 走高跳 1.90 3 20 166.0 57.1 8.6 7 走高跳 1.90 4 20 173.2 64.8 8.1 6 棒高跳 3.20 5 19 164.0 58.7 9.7 6 走幅跳 6.63 6 21 177.7 66.1 7.9 8 走幅跳 6.42 7 19 180.1 69.2 9.7 7 三段跳 14.81 8 19 170.8 57.4 7.2 6 三段跳 14.54 9 20 183.1 72.4 10.2 7 三段跳 13.94 10 19 172.3 53.8 3.0 10 三段跳 13.93 19.5±0.71 174.3±6.44 61.4±6.33 7.5±2.59 6.8±1.40 *:private best (2) リバウンドジャンプパラメータの測定リバウンドジャンプ時におけるSSC 運動能力は, マルチジャンプテスタ ( 株式会社 DKH 社製 ) を用いて, マットスイッチ上 ( 縦 2.0m 横 1.0m) で両腕振込動作を付けた6 回の両足連続跳躍により評価した その際, 被験者には十分にウォーミングアップを行わせ, 最初にリバウンドジャンプのデモンストレーション ( 両腕振込動作を付けた6 回の連続跳躍 ) を見せた後, 動きやすい服装で簡単に練習を行わせた また, 被験者には接地時間の短い跳躍を意識させ,6 回目で最大跳躍高が得られるよう次第に高く跳ぶことを指示した ( 岩竹ら,2002) その後, ランニングシューズ (RS), 裸足 (BF) の順で2 種類の 183

大阪産業大学人間環境論集 16 条件におけるリバウンドジャンプパラメータの測定をそれぞれ2 回実施し, それぞれ最大のリバウンドジャンプ指数 (RJ index) で評価した なお, 各条件とも十分な休息を挟みながら測定を実施した 測定したパラメータはRJ index 以外に, 接地時間 (Tc), 滞空時間 (Ta), 跳躍高 (H) であった また, 跳躍高およびRJ indexは以下の式により求めた なお, 接地時間および滞空時間の単位はミリ秒 (ms),gは重力加速度(9.8m/s 2 ) とした 跳躍高(cm)= 1/8 g Ta 2 RJ index(m/ s)= H / Tc 1) ランニングシューズ着用するシューズについては, 同種類のものを用意せず, 普段の陸上競技におけるトレーニングで着用しているランニングシューズを用いた ただし, 過度にクッション性の高いものやソールが特殊なシューズ ( 空気が入っているなど ) の使用は避けた 2) 裸足靴下などの衣類は着用せず, 素足で実施した (3) 統計処理 測定値はそれぞれ平均値 ± 標準偏差で示した 各測定データの平均値の差の検定には対 応のある t- 検定を用い, 有意水準は p < 0.05 とした 3. 結果 (1) 跳躍高の比較跳躍高はRS 条件下で49.8±4.74cm, BF 条件下で52.5±3.54cmとなり, 両者に有意差が認められた ( 図 1) 跳躍高 (cm) 60 55 50 45 * 40 RS BF *:p < 0.05 図 1 RS と BF の跳躍高 184

連続跳躍におけるシューズ着用がリバウンドジャンプパラメータに及ぼす影響 ( 尾上 村上 仲田 ) (2) 接地時間の比較 接地時間は RS 条件下で 158.5±15.17msec,BF 条件下で 154.6±14.37msec となり, 両者に 有意差が認められなかった ( 図 2) 180 170 160 接地時間 (msec) 150 140 130 120 RS BF 図 2 RS と BF の接地時間 (3)RJ index の比較 RJ index は RS 条件下で 3.19±0.61m/s,BF 条件下で 3.44±0.51m/s となり, 両者に有意差 が認められた ( 図 3) * 4.00 3.50 RJ index(m/s) 3.00 2.50 2.00 RS BF *:p < 0.05 図 3 RS と BF の RJ index 185

大阪産業大学人間環境論集 16 4. 考察 (1) 跳躍高について跳躍高はRS 条件下で49.8±4.74cm,BF 条件下で52.5±3.54cmとなり, 両者に有意差が認められた 跳躍高は接地時の重心位置から跳躍時の重心位置までの距離から算出されるが, 本研究ではマットスイッチで得られた滞空時間から跳躍高を算出した 跳躍高は, 離地時点の身体重心速度によって決定され, 大きな床反力が長い時間身体に加わり, 作用する力積が大きくなることで高い跳躍が可能となる ( 中俣ら,2014) また, この身体重心速度は, 接地時に物体の持つ粘性要素がエネルギーを吸収することで減少する ( 小久保ら, 2000) つまり, 接地時に粘性要素が働く物体が少ないほど身体重心速度の減少が抑えられ, 大きな跳躍高を得ることができると考えられる 本研究の場合,BF 条件下では接地時に粘性要素が働く物体は足底部の皮膚や筋肉などであるが,RS 条件下ではさらにシューズも粘性要素が働く物体として加わる したがって,BF 条件下の方が,RS 条件下よりも身体重心速度の減少を抑えられたので, 大きな跳躍高を得られたものと考えられた (2) 接地時間について接地時間はRS 条件下で158.5±15.17msec,BF 条件下で154.6±14.37msecとなり, 両者に有意差が認められなかったが,BF 条件下の方が短い数値を示す傾向がみられた 接地時間は足底部と地面が衝突してから離地するまでの時間であり, 衝突初期には粘性要素の影響により床反力が小さく, 粘性要素の変形が進むにつれ徐々に組織が圧縮されながら床反力が大きくなり, 粘性要素が変形の限界に達すると床反力が最大になる ( 宮地ら,1988) このことより, 接地時に変形する粘性要素が少ないほど床反力がピークに達するのが速くなり, それが接地時間の短縮につながると考えられる したがって, 前述したように, RS 条件下よりもBF 条件下の方が接地時に粘性要素が働く物体が少なく, その結果,BF 条件下の接地時間が短縮されたと考えられた (3)RJ indexについて RJ indexはrs 条件下で3.19±0.61m/s,BF 条件下で3.44±0.51m/sとなり, 両者に有意差が認められた RJ indexは跳躍高を接地時間で除すことで算出され ( 岩竹ら,2002), 接地時間が短く, 且つ跳躍高が高いほど大きな数値が出現する したがって, 本研究では, 跳躍高はRS 条件下よりも,BF 条件下の方が有意に高く, 接地時間はRS 条件下よりも, BF 条件下の方が短い傾向にあったため,BF 条件下の方が高い数値を示した 186

連続跳躍におけるシューズ着用がリバウンドジャンプパラメータに及ぼす影響 ( 尾上 村上 仲田 ) (4) リバウンドジャンプを実施する際の条件設定について岸本ら (2003) は, シューズの着用が連続跳躍における下肢の動作制御に及ぼす影響について検討したところ, 裸足と比較して足関節の仕事量およびスティフネスが減少すること, 膝関節の仕事量およびスティフネスが増加すること, また下肢 3 関節のうち, 跳躍動作に対して膝関節の貢献度が高くなることを報告している つまり, 連続跳躍時には条件によって運動学的 動力学的要素や筋活動が変化することを示唆している 残念ながら, 本研究では運動学的 動力学的要素や筋活動の観点から分析を行うことができなかったが, リバウンドジャンプ時の各種パラメータにはシューズの粘性要素が少なからず影響する可能性も示されたことから, リバウンドジャンプパラメータを測定する際の条件は, 目的に応じて設定する必要があると考えられた 例えば, ある特定の競技種目におけるリバウンドジャンプパラメータを測定するのであれば, その競技種目に応じたシューズを着用してリバウンドジャンプを実施する また, 様々な競技種目におけるリバウンドジャンプパラメータを測定するのであれば, 条件を同一にするために裸足で実施するなど, 目的に応じて条件を設定することで, より適切なデータが収集できると考えられる 本研究の限界と課題 本研究の限界としては, 同種類のシューズで測定できなかったこと, また被験者において同質性 ( 同じ種目や同じ競技レベルなど ) が確保できなかったこと, さらにリバウンドジャンプ時におけるレッグスティッフネスなどの運動学的要素を分析できなかったことなどが挙げられる また, 本研究の課題としては, 上記の条件や分析方法を加味し, 再検討することである 参考文献岩竹淳 鈴木朋美 中村夏実 小田宏行 永澤健 岩壁達男 (2002) 陸上競技選手のリバウンドジャンプにおける発揮パワーとスプリントパフォーマンスとの関係, 体育学研究,47: 253-261. 尹聖鎮 (2003) 伸ばしてから縮める : 伸張 短縮サイクル運動, 月刊国立競技場,529:6-7. 岸本諭 丸山剛生 (2003) シューズの着用が跳躍動作中における下肢の動作制御に及ぼす影響の定量的評価, 日本機械学会スポーツ工学シンポジウム シンポジウムヒューマン ダイナミクス講演論文集,139-142. 187

大阪産業大学人間環境論集 16 小久保雅仁 佐々木徹 (2000) 粘弾性モデルを用いた着地衝撃シミュレーション, 岡山大学環境理工学部研究報告,5(1):13-21. 図子浩二 高松薫 古藤高良 (1993) 各種スポーツ選手における下肢の筋力およびパワー発揮に関する特性, 体育学研究,38:265-278. 田内健二 尹聖鎮 高松薫 (2003) 同一個人の上肢および下肢の伸張 - 短縮サイクル運動におけるパワー発揮特性 : 投擲競技者と跳躍競技者との比較, 体育学研究,48:313-325. 中俣修 新田收 古川順光 (2014) 健常人における両足跳躍動作の跳躍高を決定する因子の分析 - 体幹 下肢の姿勢と運動に着目して-, 理学療法学,41(5):290-300. 宮地力 小林一敏 牛山幸彦 (1988) ランニング中の着地衝撃の粘弾性モデルによるシミュレーション, 筑波大学体育科学系紀要,11:253-263. 188