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研究資料 バレーボール研究第 17 巻第 1 号 June 2015 37 男子バレーボール選手の身長に関する研究 岡野憲一 *, **, 谷川聡 *** A study on the height of men's volleyball players Importance in the height of volleyball players Kenichi Okano*, **, Satoru Tanigawa*** Abstract The purpose of this study was to clarify the relationships between player s height and jump reach height in volleyball players, and to provide a idea of the talent identification and development for volleyball. The results were as follows. 1. The height in London Olympics players were significantly higher than that in 2012 All Japan players and 2012/13 V League players. (London Olympics players [n = 144]:All 197.6 ± 7.3 cm, Wing Spiker [WS] 197.5 ± 5.5 cm, Middle Blocker [MB] 203.8 ± 4.9 cm, Setter [S] 194.9 ± 5.2 cm, Libero [L] 186.7 ± 8.0 cm, All Japan players [n = 27]:All 190.6 ± 7.1 cm, WS 191.0 ± 4.3 cm, MB 197.0 ± 4.4 cm, S 184.0 ± 4.7 cm, L 178.5 ± 2.5 cm, V League players [n = 131]:All 187.7 ± 7.3 cm, WS 188.3 ± 4.8 cm, MB 194.3 ± 3.7 cm, S 185.1 ± 6.0 cm, L176.0 ± 5.3 cm) 2. The player s heights were correlated with jump reach height in all groups. 3. The player s heights were correlated with the heights of their fathers, mothers, brothers and sisters. Key words : Jump reach height, Olympics players, All Japan players, V League players キーワード : 最高到達点, オリンピック選手, 全日本選手,V リーグ選手 Ⅰ. 緒言 バレーボール競技は, ネットを介した相手と攻防を競い合う競技であり, 攻撃の中で代表的なスパイクは, 低い位置から放物線を描くようなボールで対戦相手に攻撃するよりも, 高い位置から直線的に攻撃をするのが有効 4) と言われている. また, ジャンピングスパイクサーブやジャンピングフローターサーブにおいても同様の理由で高い打点が要求されている 8). さらに, スパイクを防御するためには, 高い所でブロックすることが効果的である 5). これらの攻撃および防御において, 選手はより上方からプレーを行うことが必要であり, そのためには身長が高いこと, あるいは高く跳躍する必要がある. これらのことから身長が高い選手あるいは跳躍能力に優れた選手ほど得点もしくは防御の潜在性を兼ね備えている可能性があると考えられている 4). 全日本男子バレーボールチームは, バレーボールが初めてオリンピック競技に採用された1964 年の東京大会で銅メダル, 次のメキシコ大会では銀メダル, そしてミュンヘン大会では金メダルと輝かしい成績を収めている 6). しかし, それ以降はオリンピックには出場しているものの成績 * 筑波大学大学院人間総合科学研究科 School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba ** 東レ株式会社 Toray Industries, Inc. *** 筑波大学 University of Tsukuba ( 受付日 :2015 年 2 月 19 日 受理日 :2015 年 4 月 23 日 ) は低迷し, モスクワ大会, アトランタ大会, シドニー大会, アテネ大会, 前回のロンドン大会では本大会に出場することが出来なかった. 金メダルを獲得した1972 年のミュンヘンオリンピックでは全日本男子チームの平均身長は 190.0cmと成績上位 3チームの平均身長 189.7cmを上回っており, その後, オリンピック成績上位チームと日本男子バレーボールチームとの身長差は広がり, この身長の格差は日本チーム成績低下の原因の一つとも指摘されている 6). 一方, 跳躍能力については, 助走をせずその場で両側の脚で垂直方向に跳び上がる 垂直跳び, 選手が跳躍をして手が届く一番高い地点の高さである 最高到達点, スパイクアプローチの方法から手が届く一番高い高さを測りそこから片手指高を差し引いた数値を算出する スパイクジャンプ高,1 歩の助走を用いて両手を水平に構えた状態からブロックをするように跳躍したときの高さである ブロックジャンプ などの項目が挙げられる. その中でも最高到達点は, その選手の名前や身長などと合わせてプロフィールなどにも掲載され, 選手の個々の能力を示す指標とされている. これまで, ナショナルチームを含めたトップレベルの男子バレーボール選手を対象とした形態や体力に関する研究 1)2)5)9)10)18)19) は, 多数報告されている. しかし, これらの研究はいずれも2000 年以前のものであり, 世界を含めたトップレベル男子バレーボール選手における身長と最高到達点に関する現状についての報告については, 我々の知る限りでは非常に少ない. また, 運動競技に適した身体的特徴は競技種目によって

38 研究資料岡野 : 男子バレーボール選手の身長に関する研究 異なることが知られており 17), トレーニングによって形成された身体組成と体格体型には種目の特性が強く反映している 16). 一方, ヒトの量的形質, 特に形態に関する形質についての遺伝的研究は数多く報告されており, とりわけ, 身長 体重についての研究は知的能力と並んで多くの調査研究が知られている 13). バレーボール選手において, 重要な要素である身長が, 遺伝的なものなのかを両親と兄弟, 姉妹との関係で検討することにより, 優れたスポーツタレントを発掘する上で重要な知見となるものと考える. そこで本研究では, トップレベルにおける男子バレーボール選手の身長および最高到達高の関係について明らかにすると同時に, 両親と兄弟, 姉妹の身長との関係を検討することで, 優れたスポーツタレントの発掘を行う際の判断材料および基礎的資料を得ることを目的とした. Ⅱ. 方法 1. オリンピック出場選手, 全日本選手,Vリーグ選手の身長および最高到達点本研究では2012 年ロンドンオリンピック出場選手 ( 以下, オリンピック選手 )144 名,2012 年度全日本男子バレーボールチーム選手 ( 以下, 全日本選手 )27 名,2012/13シーズンVプレミアリーグ男子選手 ( 以下,Vリーグ選手)131 名を対象として, 統計的な視点からバレーボール選手の身長および最高到達点の関係について, また日本選手の身長の現状について, ロンドンオリンピックに出場した強豪国選手と比較を行った. 2012 年ロンドンオリンピックに出場した国は, ロシア, アルゼンチン, オーストラリア, ブラジル, ブルガリア, イギリス, ドイツ, イタリア, ポーランド, セルビア, チュニジア, アメリカの12 ヶ国であった それぞれの国は, 選手の年齢, 身長, 体重, ランニングジャンプ到達点 ( 最高到達点 ), ブロックジャンプ到達点の基礎資料を世界バレーボール連盟 (FIVB) に提出する. 本研究におけるオリンピック選手の身長および最高到達点については,FIVBのホームページ(http: //www.fivb.org/en/olympics/london2012/indexvb.asp) に掲載されたデータを採用した. また, 全日本選手およびVリーグ選手の身長および最高到達点については, 一般社団法人日本バレーボールリーグ機構のオフィシャルプログラム (2012/13 V. League Men Official Program) に掲載されたデータを採用した.Vリーグチームは各チームに外国人選手が1 名ずつ在籍しているが, それらの選手は対象から除外した. これらデータのほとんどは自己申告によるもので, このような自己報告によるアンケート調査法には必ずしも真実のデータが得られない可能性が内在している 13). 例えば, Stwart 15) やBostorom 3) らの報告によると, 男性は女性より身長を高く報告する傾向があると言われている. しかしながら, 全日本選手およびVリーグ選手の基礎資料について, 山中ら 20) が行った国内トップレベルを対象とした研究にお いて得られた結果と本研究におけるデータを照らし合わせて見ると, ほぼ一致しており, 概ね正しいデータが報告されていると判断される. 2. 両親と兄弟, 姉妹の身長との関係対象となる選手の身長と両親および兄弟, 姉妹の身長との関係についての分析については,Vプレミアリーグ男子に所属するチームの選手 46 名および全日本大学バレーボール連盟に所属する男子選手 117 名を対象に, 本人の身長, 両親および兄弟, 姉妹の身長について, アンケート調査を行った. なお, 身長の伸びが止まっていない選手については, 対象から除外した. 3. 統計処理測定値はすべて平均値 ± 標準偏差で表した. オリンピック選手, 全日本選手,Vリーグ選手の三群間の比較には一元配置の分散分析を行い, 有意な差が認められた際には Bonferroni の多重比較検定を行った. また, 身長と最高到達点との関係, 両親と兄弟, 姉妹の身長との関係についてはピアソンの相関係数を用いた. 統計処理および分析はMicrosoft Excel 2010 を使用し, 有意水準はいずれも5% 未満とした. Ⅲ. 結果および考察 1. オリンピック選手, 全日本選手,Vリーグ選手の身長および最高到達点身長において, 全体ではオリンピック選手は197.6 ± 7.3cm, 全日本選手は 190.6 ± 7.1cm,Vリーグ選手は 187.7 ± 7.3cmであり. オリンピック選手が全日本選手とVリーグ選手に比べて有意 (p <0.001) に高値を示した ( 図 1). 柏森らの1999 年の報告 6) によると, メダルを獲得した東京, メキシコオリンピックに出場した選手の身長は, オリンピック上位 3チームと比較して, ほぼ同じ高さを有しており, 金メダルを獲得したミュンヘンオリンピックでは, オリンピック上位 3チームの平均身長を唯一上回っている. しかし, その後, オリンピック上位 3チームとの差が大きくなっており, これらの身長差は日本がメダルから遠ざかった時期とほぼ一致している 6). 本研究においても, オリンピック選手と全日本選手を比較すると7.0cm の差 (p <0.001) があり, 柏森らの報告から15 年近く経った現在も, 世界の強豪国との身長差が広がっていることを示している.

バレーボール研究第 17 巻第 1 号 (2015) 39 また, ポジション別の平均身長を比較すると, オリンピック選手のウイングスパイカー ( 以下,WS) は197.5 ± 5.5cm, ミドルブロッカー ( 以下,MB) は203.8 ± 4.9cm, セッター ( 以下,S) は194.9 ± 5.2cm, リベロ ( 以下,L) は186.7 ± 8.0cm, 全日本選手のWSは191.0 ± 4.3cm,MBは197.0 ± 4.4cm,Sは184.0 ± 4.7cm,Lは178.5 ± 2.5cm,Vリーグ選手のWSは188.3 ± 4.8cm,MBは194.3 ± 3.7cm,Sは 185.1 ± 6.0cm,Lは176.0 ± 5.3cmであった ( 図 2). すべてのポジションにおいてもオリンピック選手が全日本選手とVリーグ選手に比べて有意に高値を示した. その中で, Sはブロックの上を攻撃されないための高さ, 高いレシーブボールに対してのトスアップ, トスからスパイクするまでのスピードを短縮するため高い位置でのトスアップなど, 高さが要求されるようになってきており, 日本では大型セッターの育成が急務 8) と言われているが, 現状ではまだ10cm 近い差 (p <0.001) がみられた. ことから, 国際大会等の高いレベルで戦うためには, より身長が重要な要素であることが示唆された. これらのことから, 選手のスカウティングやセレクションにおいては, 身長の高い者を選択することが有効である 4) といった先行研究を支持する結果となった.1999 年の柏森ら 6) の報告においても 今後は, 長身者を計画的に育成する体制を作って強化に臨まなければ, 世界との差は縮まらない と指摘しており, 本研究においても同様の傾向が示され, 国際大会等の高いレベルで戦うためには, 今後も長身者を選別し育成することが大きな課題であるといえる. 本研究においてはオリンピック選手の資料において, 指高に関する記載がなかったため, ランニングジャンプの跳躍高は確認することが出来なかった. 今後, トップレベル選手の身長と跳躍高の関係について, より詳細な調査と研究が必要であると考える. 2. 身長と最高到達点の関係オリンピック選手, 全日本選手,Vリーグ選手の最高到達点は,343.2 ± 13.5cm,342.9 ± 11.0cm,333.1 ± 22.8cm であり. オリンピック選手がVリーグ選手に比べて有意 (p < 0.001) に高値を示した ( 図 3). 一方, 身長と最高到達点の関係について, オリンピック選手, 全日本選手,Vリーグ選手のすべてにおいて, 身長と最高到達点との間に有意な正の相関 ( オリンピック選手 :r =0.668,p <0.001, 全日本選手 :r = 0.763,p <0.001,Vリーグ選手 :r =0.293,p <0.001) が認められた ( 図 4~6). 最高到達点に関しては, 身長が高いこと, より高く跳躍することが出来ることが必要であることは, バレーボールの指導者の経験上から知られているが, 本研究において, トップレベルにおけるバレーボール選手の身長と最高到達点の関係について, オリンピック選手および全日本選手に高い相関が認められたが,Vリーグ選手は低い相関であった. 近年のバレーボールは攻撃の高速化が進んでおり, クイックのみならず両サイドの平行, バックアタックにおいてもファーストテンポの攻撃に含まれるほど速くなってきており 21), たとえ最高到達点が同じであっても, 身長が高い場合には最高到達点に至る時間は早くなるため, プレーに有利であると考えられる. オリンピック選手がVリーグ選手に比べて有意に高値を示し, オリンピック選手および全日本選手に身長と最高到達点との間に有意な正の高い相関が認められた

40 研究資料岡野 : 男子バレーボール選手の身長に関する研究 ることが難しい可能性も高いことも考えられる. 以上のことから, オリンピック選手の身長は日本代表を含めた国内トップレベルの選手と比べ有意に高く, トップレベルにおけるバレーボール選手の身長と最高到達点の関係については, オリンピック選手および全日本選手に高い相関が認められたが,Vリーグ選手は低い相関であったことから, 国際大会等の高いレベルで戦うためには, より身長が非常に重要な要素であることが示唆された. また, 身長については遺伝的な要因もあることが示唆され, 遺伝的に長身者となる可能性の秘めた選手を若年時から確保し, 強化していくことも重要であると考える. 3. 両親と兄弟, 姉妹の身長との関係これまで述べてきたように, バレーボールにおいては身長が高いことは非常に重要な要素である. 日本は長身者の母集団が小さい上に, 多くの多様なスポーツが存在し, それぞれの組織が強化策を講じているのが現状であり 16), 国際競技力向上のためには, 限られた長身者の人的資源を若年時から確保し強化していくかが重要であると考える. 本研究では, 高身長に成りうる要因について, バレーボールのトレーニングなどによる後天的なものなのか, もしくは遺伝的なものなのかをVプレミアリーグ男子に所属するチームの選手 46 名と全日本大学バレーボール連盟に所属する男子選手 117 名を対象にアンケート方式の調査を行い, 得られたデータから身長との関係を検証することとした. 表 1に身長と父 母 兄弟 姉妹の身長との相関係数の結果を示した. すべての項目において, 有意な正の相関関係が認められた. 形態に関する遺伝的研究において, 身長は体重と比べて遺伝力が高いと報告されている 7)14). また, 水野ら 11) によると, 一卵性双生児における身長の相関係数は,0.9 以上と非常に高いことから, 身長は遺伝的な要因を強く受けると報告している. 最終身長に関しては,TW 2 法や成長率のSDスコアなどにより様々な研究で予測されている 12) が, 本研究においても, 選手の身長との相関係数は, 父親とで 0.47(p <0.001), 母親とで0.45(p <0.001), 兄弟とで0.57 (p <0.001), 姉妹とで0.47(p <0.001) と相関関係が認められた. なお, 本研究では, 兄弟および姉妹との相関関係も分析したが, 選手を発掘する時期には兄弟および姉妹も発達段階にある可能性もあり, 兄弟および姉妹を参考にす Ⅳ. 結論本研究では, トップレベルにおける男子バレーボール選手の身長および最高到達高の関係について検証すること, また, 両親と兄弟, 姉妹の身長との関係を検討することで, 優れたスポーツタレントの発掘を行う際の判断材料および基礎的資料を得ることを目的とした. 得られた結論は以下のとおりである. 1. 身長について, オリンピック選手の全体は197.6 ± 7.3cm,WSは197.5 ± 5.5cm,MBは203.8 ± 4.9cm, Sは194.9 ± 5.2cm,Lで186.7 ± 8.0cm, 全日本選手の全体は190.5 ± 8.6cm,WSは191.6 ± 4.2cm,MB は198.5 ± 4.9cm,Sは185.0 ± 7.0cm,Lは173.7 ± 2.5cm,Vリーグ選手の全体は187.5 ± 7.4cm,WSは 188.6 ± 4.5cm,MBは194.4 ± 4.1cm,Sは183.3 ± 5.1cm,Lは176.0 ± 6.0cmであった. 全体, すべてのポジションにおいてオリンピック選手が全日本選手と Vリーグ選手に比べて有意に高値を示した. 2. 身長と最高到達点の関係について, オリンピック選手, 全日本選手,Vリーグ選手のすべてにおいて, 身長と最高到達点との間に相関関係 ( オリンピック選手 :r = 0.668,p <0.001, 全日本選手 :r =0.763,p <0.001, Vリーグ選手 :r =0.293,p <0.001) が認められた. 3. 選手の身長と父 母 兄弟 姉妹の身長との関係において, すべての項目において, 有意な正の相関関係が認められ, 身長については遺伝的な要因もあることが示唆された. Ⅴ. 引用 参考文献 1 ) 明石正和 : バレーボール選手の体力に関する研究 : アジア大会候補選手の体力について, 城西大学研究年報自然科学編,12,pp.35 41,1988. 2 ) 明石正和 : バレーボール選手の体力に関する研究 : 全日本ジュニア男子候補選手について, 城西大学研究年報自然科学編,15,pp.35 46,1991. 3 )Bostrom, G., F. Diderichsen: Socioeconomic differentials

バレーボール研究第 17 巻第 1 号 (2015) 41 in misclassification of height, weight and body mass index based on questionnaire data, International J. of Epidemiology, 26:pp.860 866, 1997. 4 ) 濱野光之, 小山桂史, 勝俣康之 : 身長および跳躍能力がバレーボールプレイヤーの最高到達高に及ぼす影響, 順天堂大学スポーツ健康科学研究,12:pp.22 28,2008. 5 ) 花城均, 本村恵, 日高敬兒, 池上寿伸, 坂元康成 : バレーボールジャンプに必要な要因の検討, 佐賀大学文化教育学部研究論文集,6(2):pp.293 302,2002. 6 ) 柏森康雄, 宮内一三, 岡本孝信 : バレーボール選手の体力に関する研究, バレーボール研究,1(1):pp.54 60, 1999. 7 )Kaur, D. P., R. Singh: Parent adult offspring correlation and heritability of body measurements in rural Indian population, Ann. Hum. Biol., 8:pp.333 339, 1981. 8 ) 増村雅尚, 阿江通良 : 特集跳躍動作のバイオメカニクスバレーボール選手のスパイクジャンプ, 体力の科学,57 (7):pp.521 527,2007. 9 ) 南匡泰, 河端孝志, 土屋秀雄 : 体力に関する研究 : ソウルオリンピック出場全日本男子バレーボール選手のトレーニング効果について, 大阪市立大学保健体育学研究紀要,25:pp.1 8,1989. 10) 宮内一三, 柏森康雄, 岡本孝信 : バレーボール選手の体力に関する研究 ( 第 1 報 )- 全日本男子チームにおける6 年間の縦断的な分析 -, 大阪市立大学保健体育学研究紀要, 28:pp.77 88,1997. 11) 水野忠文 : 双生児の体格 筋力 運動能力の類似度に関する研究, 東京大学教育学部紀要,1:pp.136 157, 1956. 12) 村田光範, 浅見俊雄, 芦沢玖美他 : 日本人青少年の最終身長予測と体力の発達に関する研究 第 2 報, 平成 5 年度日本体育協会スポーツ医 科学研究報告,6:pp.19 74,1994. 13) 小須田和彦 : ヒトの身長 体重における親子相関, 城西大学研究年報自然科学編,30:pp.1 13,2007. 14)Sanchez Andres, A., M. S. Mesa: Heritabilities of morphological and body composition characteristics in a Spanish population, Anthropol. Anz., 52: pp.341 349, 1994. 15)Stewart, A. L.:The reliability and validity of self reported weight and height, J. Chronic Desease, 35: pp.295 309, 1982. 16) 田中信雄, 村上博巳, 明石正和 : ワールドカップバレーボール2011 出場選手の身体的特徴と競技能力に関する研究, 城西大学研究年報自然科学編,36:pp.9 26,2013. 17) 田中信雄, 千賀康利, 堀清記他 : 大学生の体格, 体型に及ぼす身体運動の影響, 体育学研究,25(3):pp.215 232,1980. 18) 豊田博, 広田公一, 菊地武道 : バレーボール選手の体力に関する研究 : 全日本男子選手の体力について :8. 測定評価に関する研究, 日本体育学会大会号,22:p.376, 1971. 19) 上田実, 柏森康雄, 都沢凡夫 : バレーボール選手の体力に関する研究 : 日本ユニバーシアード男子選手の体力について, 法政大学体育研究センター紀要,6:pp.111 120,1988. 20) 山中浩敬, 秋山央, 谷川聡 : 一流男子バレーボール選手の跳躍能力に関する研究, 日本コーチング学会第 24 回大会論文集 :pp.19 20,2013. 21) 吉田康伸, 濱口純一, 山田快他 : バレーボールにおけるルール改正に伴う戦術の変化についての研究 2, 法政大学体育 スポーツ研究センター紀要,29:pp.11 14,2011.