図解でわかる! M&A 会計日本基準と IFRS 第 5 回企業結合と 無形資産 あらた監査法人公認会計士 清水 毅 公認会計士 山田 雅治 はじめに金融庁 企業会計審議会は 2009 年 6 月に 我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書 ( 中間報告 ) を公表しました 国際財務報告基準 ( 以下 IFRS ) の適用については 2010 年 3 月期から国際的な財務 事業活動を行っている上場企業の連結財務諸表に IFRS の任意適用を認めることが適当であるとしています このような状況の中 各上場企業は IFRS が適用された場合への検討を始めています 企業のグローバル化が進むなか M&A を実施する予定の企業は 企業会計基準委員会が 2008 年 12 月に公表した改訂企業結合会計基準 ( 以下 改正基準 ) に加え IFRS に準拠した M&A 会計も理解しておくことが望まれます このシリーズでは M&A 会計について 日本基準の改訂 IFRS の改訂 日本基準と IFRS との違いにスポットをあて 解説しています 第 5 回 ( 本稿 ) では 企業が M&A を実施する際 計上することになる 無形資産 を対象としています なお 文中意見に係わる箇所は筆者の個人的見解です 1.M&A 会計における 無形資産 の認識企業会計審議会が 2003 年に公表した 企業結合に係る会計基準 ( 以下 旧基準 ) では 取得した資産に法律上の権利または分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には 取得原価を当該無形資産等に配分することができるとされていました 改正基準では 企業結合により受け入れた識別可能な無形資産の取扱いについて 法律上の権利など分離して譲渡可能な資産が含まれる場合には 当該無形資産は識別可能なものとして取り扱うことになりました IFRSについては 2008 年 1 月に改正された改正国際財務報告基準第 3 号 企業結合 ( 以下 IFRS3R ) においても (M&Aにおける ) 取得者は のれん とは別に分離可能なあるいは契約上の権利を構成する 無 PricewaterhouseCoopers Aarata 1
形資産 を計上する とされています 無形資産およびのれんの新旧基準のまとめは 図表 1 のとおりです 図表 1 日本基準 vs IFRS 無形資産とのれん 2. 無形資産 の認識 測定と のれん の認識 測定 IFRS3R において 識別可能資産 負債および のれん の認識 測定は以下のように規定されています M&A における取得者は 取得日において のれん とは別に 被取得者のすべての識別可能な資産 負債 非支配持分を認識する必要があります 被取得者の識別可能な資産 負債については 取得時における公正価値で測定します 被取得者における非支配持分については 1) 公正価値か2) 純資産の持分相当額で測定します 取得者は 1 取得に要した資産の公正価値 ( 現金であれば取得価額 ) 非支配持分の公正価値 ( または純資産の持分相当額 ) 従前から一定の持分を有していた 場合当該持分の公正価値の合計額 と 2 識別可能な資産および負債の公正価 値の純額との差額を のれん として計上します 日本の改正基準における のれん および 無形資産 の規定は以下のとおりで す PricewaterhouseCoopers Aarata 2
取得原価は 被取得企業から受け入れた資産および引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なもの ( 識別可能資産および負債 ) の企業結合日時点の時価を基礎として 当該資産および負債に対して企業結合日以後 1 年以内に配分します 受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な 無形資産 が含まれる場合には 当該無形資産は識別可能なものとして取り扱います 取得原価が 受け入れた資産および引き受けた負債に配分された純額を上回る場合には その超過額は のれん として会計処理し 下回る場合には 負ののれん として会計処理します 上記 IFRS3R および日本の改正基準の規定を仕訳 ( イメージ ) で示すと 図表 2 のとおりになります IFRS において のれん は償却せず 無形資産 は原則として見積耐用年数に渉って償却することになるので M&A において取得した識別可能な 無形資産 と差額概念である のれん を区別して 適切に 無形資産 の価値を測定することが重要となります 従前より 無形資産 の計上が要求されてきた米国基準や IFRS において 無形資産 を含む識別可能資産と のれん との配分計算のことを Purchase Price Allocation といい M&A 会計を実施する際の重要な手続きのひとつとなっています 図表 2 識別可能資産 負債と のれん の仕訳 ( イメージ ) PricewaterhouseCoopers Aarata 3
3. M&A で計上される 無形資産 の種類 IFRS3R において 1) 法的な権利または2) 分離可能な無形資産を識別可能な無形資産として定義しています 無形資産 が法的な権利の場合 たとえ実務的に当該権利を単独で譲渡することが難しい場合においても 識別可能な無形資産として M&A 実施時には認識 測定することが要求されています 2) 分離可能要件については 当該権利を譲渡 移転 貸出しを 単独であるいはそのほかの資産とともにできる場合 識別可能な 無形資産 として計上することが要求されます IFRS において M&A 時に計上される 無形資産 には 以下のような項目が含まれます 1) マーケティング関連 - 商標権 商号等 2) 顧客関連 - 注文または製品受注残高 顧客契約 顧客リスト等 3) 芸術関連 - 書籍 雑誌等における権利 音楽作品 映画等のコンテンツ 4) 契約関連 -ロイヤリティ リース契約 マネージメントサービス契約 フランチャイズ契約等 5) 技術関連 - 特許 ソフトウェア 製法等日本の改正基準の適用指針においては 法律上の権利 とは 特定の法律にもとづく知的財産権 ( 知的所有権 ) 等の権利をいい 知的所有権等の権利には 特許権 実用新案権 商標権 意匠権 著作権 半導体集積回路配置 商号 営業上の機密事項 植物の新品種等が含まれる と記載されています 分離して譲渡可能な無形資産 とは 企業又は事業と独立して売買可能なものをいい そのためには 当該無形資産の独立した価格を合理的に算定できなければならない と規定しています また 分離して譲渡可能な無形資産であるか否かは 対象となる無形資産の実態にもとづいて判断すべきであるが たとえば ソフトウェア 顧客リスト 特許で保護されていない技術 データベース 研究開発活動の途中段階の成果 ( 最終段階にあるものに限らない ) 等についても分離して譲渡可能なものがある点に留意する としています 日本の改正基準の適用指針は 特定の無形資産に着目して企業結合が行われた場合など 企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れであり その無形資産 PricewaterhouseCoopers Aarata 4
の金額が重要になると見込まれる場合には 当該無形資産は分離して譲渡可能なものとして取り扱う と規定しています このようなケースにおいては 取得企業は 利用可能な独自の情報や前提等を基礎に一定の見積方法 ( 図表 4 参照 ) を利用し あるいは外部の専門家も関与するなどして 通常 取締役会そのほかの会社の意思決定機関において 当該無形資産の評価額に関する多面的かつ合理的な検討を行い それにもとづいて企業結合が行われたと考えられる このような場合には 当該無形資産については 識別して資産計上することが適当と考えられ 分離して譲渡可能なものとして取り扱うこととした と規定されています 法律上の権利など分離して譲渡可能という認識要件を満たさないため 無形資産として認識できないものの例としては 被取得企業の法律上の権利等による裏付けのない超過収益力や被取得企業の事業に存在する労働力の相乗効果 ( リーダーシップやチームワーク ) があり これらは識別不能な資産として のれん に含まれる としています 図表 3 M&A 時における無形資産 IFRS vs 日本基準 企業会計基準委員会 企業結合会計の見直しに関する論点の整理 より抜粋 PricewaterhouseCoopers Aarata 5
4. M&Aにおいて計上される 無形資産 の評価方法 M&A においてほかの資産とともに取得された 無形資産 の測定は 取得日の公正価値により行われます ここで 公正価値とは 取引の知識がある自発的な当事者の間で 独立第三者間取引条件により 資産が交換される価額をいいます 具体的に 無形資産 の公正価値は以下の方法の何らかで計算されます (1) マーケット アプローチは 類似した無形資産の取引価格から評価対象の無形資産の価値を類推する方法です (2) インカム アプローチは 当該無形資産の価値をそれによって将来生み出される経済的便益の現在価値の合計によって算定する方法です (3) コスト アプローチは 当該無形資産を再生産ないし再調達するためにかかる支出額で評価する方法です IFRS で計上される 無形資産 の典型的な計算方法の概要は 図表 4 のとおりです 図表 4 無形資産の評価手法 PricewaterhouseCoopers Aarata 6
この記事は 週刊経営財務 2935 号 (2009 年 9 月 28 日 ) にあらた監査法人として 掲載したものです 発行所である税務研究会の許可を得て あらた監査法人がウェブ サイトに掲載しているものですので ほかへの転載 転用はご遠慮ください ( 2 0 0 9 ) P r i c e w a t e r h o u s e C o o p e r s A a r a t a. A l l r i g h t s r e s e r v e d. P r i c e w a t e r h o u s e C o o p e r s r e f e r s t o t h e J a p a n e s e f i r m o f P r i c e w a t e r h o u s e C o o p e r s A a r a t a o r, a s t h e c o n t e x t r e q u i r e s, t h e PricewaterhouseCoopers global network or other member firms of the network, e a c h o f w h i c h i s a s e p a r a t e a n d i n d e p e n d e n t l e g a l e n t i t y. PricewaterhouseCoopers Aarata 7