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酵素による化学反応の触媒作用 細胞の代謝に関係する多くの化学反応は自発的におこる 遅すぎて細胞にとっては使い物にならない しばしば百万倍以上にも反応速度を速める 酵素 enzyme = タンパク質 細胞内のほとんど全ての反応は酵素により触媒されている ペルオキシソームに存在するカタラーゼ catalase は 最も効力のある酵素として知られている過酸化水素の水と酸素への分解を 10 8 倍加速させる 過酸化水素は 細胞内の化学反応の副産物として生じるが 多数の分子に不可逆的損傷を引き起こすので すみやかに排除されなければならない

化学反応の平衡定数 [S] [P] S が P に変化すると S 分子の濃度は減り反応速度は減少する [S] [P] P 濃度が増加すれば 逆反応速度が増加する [S] [P] 平衡状態正反応 (S P) 速度と 逆反応 (P S) 速度が等しくなる S と P の相対濃度はつり合う この平衡状態における反応物 S と反応生成物 P の濃度をもちいて 平衡定数は定義される 平衡定数 [S] に対する [P] の割合 K eq は その反応が酵素で触媒されようがされまいが一定である 酵素は この平衡に達するまでにかかる時間を短縮する

酵素の特異性 酵素反応は高度に特異的である 一つの酵素は 通常一つの特異的分子のみを認識する x 酵素 B 酵素 A x 酵素 C 基質 substrate 酵素特異性の分子的基礎 活性部位 active site とよばれる酵素の一領域の構造に依存している 酵素 活性部位は酵素分子の表面やまたは裂け目に存在している = 親水性の部分に存在する

分子間の結合が弱い物質の分解 自発的に起こる反応 S P 自発的に起きにくい反応 S S* P 酵素触媒作用の機構 S: 基質 substance P: 生成物 products まわりから十分なエネルギーを獲得 活性化状態 activated state 反応を加速させるには 2 通りの方法がある 1. 熱を加えてエネルギーを付加する方法温度が 10 上がると 活性化される分子の割合は 2 倍になる 自由エネルギーとして放出される 2. 触媒を添加する方法触媒は基質 S 分子に結合して 活性化に必要なエネルギーを低下させる 酵素は触媒であり 活性化状態に入りやすくして反応を促進する ただし 反応速度を速めるどんな方法も最終結果をかえることはない

酵素触媒反応の速度 E + S ES E + P E 酵素 S 基質 酵素 基質複合体 E 酵素 P 生成物 酵素 酵素 酵素 反応速度最大 Vmax 最終的にはある濃度以上では 反応速度は飽和して一定の値をとるようになる 基質濃度が低い時反応速度は基質濃度の増加に比例してほぼ直線的に上昇する しかし それ以上に基質濃度が増加しても 反応速度は上昇しなくなる

ミハエリス - メンテン定数 ミハエリス - メンテンの式 酵素 E と基質 S が一旦 中間複合体 ES を作った後にそれが分かれて生成物 P を生じるという Michaelis と Menten の説 (1913) にもとづく反応速度式 V = Vmax [S] Km + [S] この式を場合分けして考えて行くと 実にうまく酵素反応のグラフに一致する i) [S] Km の時 Km が無視できる程基質濃度 [S] が高いので 式の Km を 0 とおくと V = Vmax となる ii) [S] = Km の時式に Km = [S] を代入して V = Vmax [S] / 2[S] となるので V = 1/2 Vmax となる Km 値とは 酵素速度最大の 1/2 を与える基質濃度に等しい値のことである 多くの場合 ES 複合体の解離定数に等しい 言い換えると ES 複合体の結合の強さの尺度といえる カタラーゼ Km = 25 mm グルコキナーゼ Km = 10 mm Km の値は 温度一定であれば 酵素に特定の値を示す

代謝回転数 酵素の代謝回転数 酵素が活発に活動している状態の時計測できる 基質濃度が十分に高い状態 Vmax E + S ES E + P カーボニックアンヒドラーゼ CO 2 + H 2 0 H 2 CO 3 10-6 M 毎秒 0.6 M の炭酸 H 2 CO 3 を作る この速度定数は 0.6 M 10-6 M で計算される従って毎秒酵素分子あたり 6x10 5 に等しいつまり 一個の酵素が 炭酸を 60 万分子 わずか 1 秒の間に作っている事になる 代謝回転数 = 生成物濃度 / 秒 酵素濃度 DNA ポリメラーゼ DNA を長くする酵素代謝回転数が約 50 毎秒 50 個のデオキシヌクレオチドを DNA 分子に付加しているこのペースを維持させる為には 細胞は材料であるデオキシヌクレオチドを毎秒相当数だけ合成しなければならないことになる

ビタミンである葉酸 folic acid から合成 酵素の働きを調節するもの 酵素の多くは 補酵素 coenzyme を触媒作用に必要とする 補酵素は有機分子でタンパク質よりも小さい テトラヒドロ葉酸 tetrahydrofolate = 多くの酵素反応でメチル基 (CH 3 ) の担体 補酵素 coenzyme THF dutp デオキシウリジン 1 リン酸 dump チミジン 1 リン酸 TMP チミジル酸シンターゼ チミジル酸シンターゼ thymidylate synthase TMP は DNA 中の 4 つのヌクレオチドの一つで DNA 合成には必須 哺乳類はこの葉酸を摂取しなければ DNA 合成ができない 次にあげる 8 種の主要補酵素は ビタミン類から合成される 1. ニコチンアミド nicotinamide ナイアシンアミドniacinamide ビタミンB 3 NAD+ の構成成分 2. リボフラビン riboflavin ビタミンB 2 FAD 分子の一部をなす 3. チアミン thiamine ビタミンB 1 4. パントテン酸 pantothenic acid ビタミンB 5 5. ピリドキサールリン酸 pyridoxal phosphate ビタミンB 6 6. ビオチン biotin ビタミンB 7 7. リポ酸 lipoic acid チオクト酸 thioctic acid 8. ビタミンB 12 vitamin B12 これらビタミンのどれか一つかけても ある酵素の反応が起らなくなり ビタミン欠乏症となって現れる

活性部位の調節 全ての酵素は 活性部位 active site をもち その活性部位には 2 つの機能がある 1. 特異的基質を結合させる 2. 結合した基質分子の化学反応を触媒する 酵素タンパク質はポリペプチドが特別な 3 次元形状に折たたまれない限り活性を示さない 特殊な裂け目や溝を形成 活性中心 全体表面積のわずか数パーセント のこり 97% 以上の酵素活性に関係の無い部分はそれぞれが持つ化学的性質 ( 疎水性 親水性 ) により酵素活性に重要な部分を空間的に安定な位置に固定している

酵素 - 基質相互作用 酵素と基質の関係は特異的であると云う言葉で表現されるがこれはしばしば鍵と錠の関係にたとえられる 酵素基質は相補的な構造である 鍵に対する錠のように決まった相手がいるということ 誘導適合 induced fit 仮説 その相補性は完全ではないむしろ基質が酵素へ結合することによって活性部位の形がわずかに変形しより密接な相補性を生み出しているとする説 酵素の 3 次元構造の 歪み のエネルギーを利用して基質分子の分解 即ち基質分子間の結合を切る確率をあげる事になり 活性化エネルギーを低下させていると考える

酵素基質間の結合 水素結合 酵素と基質の結合は弱い結合である イオン結合 水素結合 ファンデルワールス結合または これらの組み合わせ 結合は分子の原子間を結合させる共有結合と比較すると弱いものである ファンデルワールス結合 イオン結合

代謝の調節 酵素活性の阻害 inhibition 酵素の阻害 阻害 可逆 reversible 不可逆的 irreversible 競合阻害剤 基質 非競合阻害剤 非競合阻害剤 競争 構造変化 不活性化 競合阻害 competitive inhibition 阻害効果の程度は 基質と阻害剤の間での酵素への結合力の差や濃度の差に依存 非競合阻害 non-competitive inhibition 活性部位以外に結合して構造変化を起こす酵素基質複合体に結合して不活性化する 不可逆的な阻害阻害分子 ( 阻害剤 inhibitor) の酵素への結合力が非常に強いこのため 永久に阻害してしまう 例 ) テングタケ属 Amanita の持つ α- アマニチンは RNA ポリメラーゼを不可逆的に阻害する転写不能

フィードバック阻害による代謝調節 細胞内の酵素活性は おおむねフィードバック機構により調節を受けている フィードバック阻害 feedback inhibition ある酵素反応の反応生成物が上流の酵素に競争的にかつ可逆的に結合し競合阻害をおこすような調節機構のこと 最終産物阻害 endproduct inhibition トレオニンデヒドラターゼ 阻害 負のフィードバック negative feedback トレオニン α- ケト酪酸 α- アセトヒドロ酪酸 α,β- ジヒドロキシ -β- メチル吉草酸 α- ケト -β- メチル吉草酸 イソロイシン アロステリック阻害 allosteric inhibiton 最終産物が酵素の活性部位とは別の部位に結合する事で非競合阻害を起こす事 アロステリック阻害剤 = 負のエフェクター negative effector 構造変化

正のエフェクターによる代謝調節 細胞はグルコースを分解するが 逆にグルコースを合成することもできる 解糖系の活動によりグルコースからクエン酸が合成 細胞内にクエン酸が沢山貯まる フルクトースビスフォスファターゼ グルコースグルコース6-リン酸フルクトース6-リン酸リン酸基 リン酸基 解糖系の逆行が始まる 活性化 正のフィードバック フルクトース 1,6- ビスリン酸 クエン酸 結果として 余剰のクエン酸は無駄になる事無くグルコースに合成されさらにグリコーゲンとしてあるいはデンプンとして細胞に貯蔵されることになる このように逆行する場合には しかしながら エネルギーを多く必要とする

酵素経路の連結 ほとんど全ての酵素的経路つまり代謝経路というものは 一つまたはそれ以上の代謝経路と連結されている 次の図に示したように 解糖系とクエン酸回路を軸として約 500の共通の代謝反応がある このように細胞は 数々の代謝を複雑に結び付けたまるで精密な機械のようなものである その巧妙さには 全く持って感心させられる これがわずか髪の毛の直径 (100μm) 以下の箱の中につまっているのである