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様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 21 年 4 月 30 日現在 研究種目 : 基盤研究 (C) 研究期間 :2007~2008 課題番号 :19591212 研究課題名 ( 和文 ) けいれん性疾患の治療に向けた病態解明 - 熱性けいれん疾患感受性遺伝子の同定 - 研究課題名 ( 英文 ) Searching for the febrile seizure susceptibility genes. 研究代表者中山純子 (NAKAYAMA JUNKO) 茨城県立医療大学 付属病院 助教研究者番号 :30433155 研究成果の概要 : けいれん性疾患の病態を解明するため 日本人熱性けいれん 59 家系を対象として遺伝学的研究を行った これまで我々が報告した 1 番染色体と 5 番染色体上の熱性けいれん遺伝子座について 疾患感受性遺伝子が存在すると考えられる有意な伝達不平衡領域を検出することができた 遺伝子構造変異の検索法として DNA チップ解析の導入を行った これまでに海外で熱性けいれんとの関連が報告されている遺伝子について関連解析を行ったが有意な関連はみとめられず それらの遺伝子と日本人の熱性けいれん発症には関連がないと考えられた 交付額 ( 金額単位 : 円 ) 直接経費 間接経費 合計 2007 年度 2,200,000 660,000 2,860,000 2008 年度 1,300,000 390,000 1,690,000 年度年度年度総計 3,500,000 1,050,000 4,550,000 研究分野 : 医歯薬学科研費の分科 細目 : 内科系臨床医学 小児科学キーワード : 熱性けいれん 遺伝子 遺伝子座 遺伝子多型 関連解析 1. 研究開始当初の背景 小児にみられるけいれんのうち熱性けいれんはもっとも頻度が高い 熱性けいれんは 一般集団と比較して後にてんかんを発症する危険率は高く 長時間続くけいれん ( けいれん重積 ) を引き起こすこともある 欧米と比較し日本では発症頻度が高く その発症には遺伝素因が関与していることが知られている また熱性けいれんとてんかんのオーバーラップと考えられる Generalized epilepsy with febrile seizure plus(gefs + ) において 同一の遺伝子変異で両疾患が引き起こされることが報告されている 以上から熱性けいれんとてんかんの遺伝要因が一部共通である可能性があり 熱性けいれんの発症機序の解明がてんかんの発症機序の解明へと結びつく可能性が示されている 我々はこれまでに 59 の日本人熱性けいれん家系を解析して 2 つの新しい熱性けいれん遺伝子座 (FEB4, FEB6) を報告し

た (Nakayama et al. 2000, 2004) またこれら以外にも 1 番染色体上の遺伝子座も報告している これらの遺伝子座については熱性けいれん以外のてんかんとの連鎖の報告もあり これらの遺伝子座が熱性けいれんのみならず 他のてんかんとも関係している可能性が示唆されている (Durner et al., 2001; Baulac et al., 2001; Deprez et al., 2006) 海外でも 4 つの熱性けいれん遺伝子座 (FEB1, FEB2, FEB3, FEB5) が報告されているが それらはいずれも少数 ( 多くは 1 家系のみ ) の大家系を用いた解析であり 多くの熱性けいれん患者に共通の疾患感受性遺伝子は未だ同定されていない (Wallace et al., 1996; Johnson et al., 1998; Peiffer et al., 1999; Nabbout et al., 2002) てんかんの原因遺伝子であるイオンチャンネルなどを候補遺伝子とした関連解析の報告もあるが グループ間で結果に差があり一定の見解が得られていない 2. 研究の目的 けいれん性疾患の病態解明のため 日本人熱性けいれん家系を用いて 多くの熱性けいれん患者に広く共通する疾患感受性遺伝子を同定することを目的とする (1) これまでに我々が報告した 5 番染色体および 1 番染色体上の熱性けいれん遺伝子座に存在する熱性けいれん疾患感受性遺伝子を同定する (2) 海外で熱性けいれんとの関連が報告されている候補遺伝子について 日本人のサンプルを用いて熱性けいれんとの関連を検討する 3. 研究の方法 (1) 対象 日本人の熱性けいれん患者を発端者とする 59 家系 223 名 ( うち患児 112 名 ) 熱性けいれんの診断は NIH の診断基準である Consensus Development Panel(1980) に基づき 病歴カルテおよび家族からの聞き取りにより小児科医が行った 本研究は筑波大学倫理委員会で承認されたプロトコールに基づき両親と本人の同意 ( インフォームドコンセント 学童期以下の子どもについては両親の承諾 ) を得て行った (2) 方法 15 番染色体および 1 番染色体上の熱性けいれん遺伝子座領域の絞込みおよび候補遺伝子の変異検索 我々が報告した 5 番染色体および 1 番染色体上の熱性けいれん遺伝子座に存在するマイクロサテライトマーカーや一塩基多型 (SNP) を データベース (UCSC Genome Browser や The GDB Human GenomeDatabase など ) を用いて抽出した これらのマーカーを蛍光標識プライマーを用いて PCR 法で増幅し ABI PRISM 3100 DNA Sequencer を用いて電気泳動した Genescan software を用いて遺伝子型を決定し 得られた結果 ( 遺伝子型および血縁関係 ) を用いて連鎖解析法や TDT 法 (Transmission disequilibrium test) により 熱性けいれんとの関連を検討した 統計解析には GENEHUNTER プログラム SIB-PAIR プログラムを用いた 有意な関連が認められたマーカー近傍に存在する遺伝子を位置的候補遺伝子として すべてのエクソンとプロモーター領域を増幅するプライマーを設計して PCR により増幅した 得られた PCR 産物を用いて ABI PRISM 3100 DNA Sequencer により変異検索を行った 2DNA チップによる遺伝子構造変異検索 5 番染色体と 1 番染色体上の熱性けいれん遺伝子座領域について DNA チップを用いて遺伝子の重複や欠失といった構造変異の検索を行った 5 名の熱性けいれん患者を対象に Infinium BeadChip (Human610-Quad DNA Analysis Kit, Ilumina 社 ) を用いて 5 番染色体と 1 番染色体上の遺伝子座領域に平均 2.7kb 間隔で存在する SNP と CNV( コピー数多型 ) の遺伝子型を決定した えられたデータを Illumina BeadStudio Software で解析し 構造変異の有無を検討した 3 海外で関連が報告されている候補遺伝子についての検討 これまでに海外で熱性けいれんとの関連が報告されている 4 個の遺伝子 (Interleukin 1β 遺伝子 :IL1B, Interleukin 1 receptor antagonist 遺伝子 :IL1RN, GABAA receptor γ2 subunit 遺伝子 : GABRG2, Neuronal nicotinic acetylcholine receptor α 4 subunit 遺伝子 : CHRNA4) の多型を含む領域

を 対象の DNA を鋳型にして PCR 法で増幅した 制限酵素を用いた PCR-restriction fragment length polymorphism (RFLP) 法とダイレクトシークエンス法により遺伝子型を決定した 得られた結果を用いて TDT 法により 熱性けいれんと関連を検討した 統計解析には GENEHUNTER プログラム SIB-PAIR プログラムを用いた 4. 研究成果 (1) 1 番染色体上の熱性けいれん遺伝子座領域の絞込みおよび候補遺伝子の変異検索 1 番染色体上の熱性けいれん遺伝子座領域に存在する 25 個のマイクロサテライトマーカー (D1S1631, D1S3723, D1S2726, D1S498, D1S1653, D1S484, D1S1679, D1S1677, D1S2878, D1S196, D1S218, D1S1589, D1S518, D1S238, D1S1660, D1S413, D1S1678, D1S249, D1S425, D1S2141, GATA124F08, D1S549, D1S213, D1S3462, D1S2800) の遺伝子型を決定し TDT 解析を行った D1S3723 (transmit : not transmit = 29:8, χ 2 =11.92, p=0.0055) と D1S1679 (transmit : not transmit = 22:5, χ 2 =10.70, p=0.016) において 有意な伝達不平衡がみとめられた また JSNP database に登録されている SNP のうち 脳で発現しており日本人での遺伝子頻度が 20% 以上である 14 個の SNP(IMS-JST107430, 100506, 100505, 100504, 070065, 107085, 100303, 051159, 057641, 107474, 086910, 109011, 048198, 050865) についても TDT 解析を行ったが 有意な伝達不平衡は認められなかった 本領域にはカリウムチャンネルとカルシウムチャンネルが多数存在しているため それぞれの遺伝子上のマイクロサテライトマーカーや SNP を用いて連鎖解析を行った その結果 カルシウムチャンネルである CACNA1E 遺伝子 (calcium channel, voltage-dependent, alpha-1e subunit gene) 上のマイクロサテライトマーカーにおいて最大の NPL score 2.60 (P=0.0047) が得られた ( 表 1) CACNA1E 遺伝子について 全 49 エクソンをダイレクトシークエンス法により変異検索を行った 2 つのミスセンス変異 (Arg25Pro, Asp859Glu) 2 つのサイレント変異 (3447C>T, 5072T>C) 4 つのイントロン多型 (IVS10-13C>T, IVS12+65G>C, IVS30-53A>T, IVS34+28A>G) が検出されたが いずれも SNP であった 2 つのミスセンス変異について TDT 解析を行ったが 熱性けいれんとの有意な関連は認められなかった (P>0.05) (2) 5 番染色体上の熱性けいれん遺伝子座領域の絞込みおよび候補遺伝子の変異検索 5 番染色体上の熱性けいれん遺伝子 (FEB4) については 我々のこれまでの研究で D5S644 マーカーにおいて有意な伝達不平衡が認められていた (Hum Mol Genet, 2000) これらのマーカー近傍に存在する PCSK1 (proprotein convertase, subtilisin/ ketin-type 1), CAST (calpastatin), ERAP1 (endoplasmic reticulum aminopeptidase 1) 遺伝子についても変異検索はすでに終了していたが 有意な伝達不平衡は検出できなかった そのため D5S644 マーカー上流と下流のそれぞれ約 5kb 以内の塩基配列を変異検索して 21 個の多型を同定した その中からアレル頻度が 5% 以上である 4 多型について遺伝子型を決定した TDT 解析の結果 -3119T>C, -2400A>T, +1826G>A, +4680T>G 多型で有意な伝達不平衡が認められた ( 表 2) 本領域には既知の遺伝子は存在しないが PCSK1 遺伝子の 5 調節領域である可能性があるため 熱性けいれんの発症と PCSK1 遺伝子との関連について今後さらに解析をすすめていく予定である 表 2 D5S644 近傍配列の関連解析結果 表 1 1 番染色体候補領域の連鎖解析結果 (3) DNA チップによる遺伝子構造変異検索 通常行われているダイレクトシークエンス法による遺伝子変異解析では 遺伝子の重複や欠失といった構造的な変異を同定することができないという問題点がある 遺伝子

の重複や欠失はこれまではごく一部の先天疾患の原因と考えられてきたが 近年の遺伝学の進歩により common disease を含むヒトの形質に広くかかわっている可能性が示されている 一部のてんかんでもチャンネル遺伝子の重複や欠失が報告されており 熱性けいれんを含めた他のけいれん性疾患の原因が遺伝子の重複や欠失である可能性が考えられる そのため 本研究では 遺伝子の重複や欠失といった構造的な変異を検出するために DNA チップによる解析の導入を行った 血縁関係のない 5 名の熱性けいれん患者の DNA を対象に infinium BeadChip を用いて 1 番染色体と 5 番染色体の遺伝子座について解析を行った 解析した 5 名については 本領域の遺伝子重複や欠失といった構造変異は認められなかった 熱性けいれんは多因子疾患であり いくつもの遺伝子や環境要因がからみあって発症すると考えられている そのため 本領域に構造変異をもつ熱性けいれん患者が存在する可能性は否定できない また 本領域以外に構造変異をもつ可能性もある 今後は 対象を増やして 本領域のみでなく 全ゲノム上の構造変異をスクリーニングしていく予定である (4) 海外で関連が報告されている候補遺伝子についての検討 これまでに海外で熱性けいれんとの関連が報告されている 4 遺伝子 (IL1B, IL1RN, GABRG2, CHRNA4) の多型について TDT 法により日本人の熱性けいれん発症との関わりを検討した いずれの遺伝子多型も熱性けいれんとの有意な関連は認められず これらの多型は日本人の熱性けいれんの発症には関連がないと考えられた ( 表 3) 表 3 候補遺伝子多型と熱性けいれんとの関連解析結果 象集団の小ささなどといった関連解析における疑陽性 疑陰性の問題点がこれまでにも指摘されている これらの遺伝子と日本人の熱性けいれんとの関連については 他機関との共同研究などでさらに対象数を増やして検討する必要があると思われる 5. 主な発表論文等 ( 研究代表者 研究分担者及び連携研究者には下線 ) 雑誌論文 ( 計 3 件 ) 1Nakayama J. Progress in searching for the febrile seizure susceptibility genes. Brain & Development (2009) 31:359-365. 査読有 2 中山純子. 日本人における熱性けいれん疾患感受性遺伝子の同定. てんかん治療研究振興財団研究年報 (2008) 19:25-30. 査読無 3Carr JA, van der Walt PE, Nakayama J, Fu YH, Corfield V, Brink P, Ptacek L. FAME 3: a novel form of progressive myoclonus and epilepsy. Neurology (2007) 68:1382-1389. 査読有 学会発表 ( 計 3 件 ) 1 中山純子. Searching for the febrile seizure susceptibility genes Japanese. International Symposium on Febrile Seizures and Related Conditions. 2008 年 4 月 大津 2 中山純子. 日本人における熱性けいれん疾患感受性遺伝子の同定. 第 19 回てんかん治療研究振興財団研究報告会. 2008 年 3 月 7 日 大阪 3 中山純子 岩崎信明 浜野建三 中原智子 太田正康 堀米ゆみ 新健治 佐藤秀郎 松井陽 有波忠雄. 日本人における熱性けいれん発症と候補遺伝子多型との関連. 第 49 回日本小児神経学会. 2007 年 7 月 5 日 大阪 図書 ( 計 0 件 ) これらの遺伝子多型については海外からも追試の報告があるが グループ間で一定の見解が得られていない 民族間の疾患感受性の違いのみでなく 対象疾患の不均一性 対 産業財産権 出願状況 ( 計 0 件 ) 取得状況 ( 計 0 件 )

その他 6. 研究組織 (1) 研究代表者中山純子 (NAKAYAMA JUNKO) 茨城県立医療大学 付属病院 助教研究者番号 :30433155 (2) 研究分担者岩崎信明 (IWASAKI NOBUAKI) 茨城県立医療大学 付属病院 准教授研究者番号 :70251006 (3) 連携研究者有波忠雄 (ARINAMI TADAO) 筑波大学 人間総合科学研究科 教授研究者番号 :10212648