東日本大震災から1 年が経過し, 被災各地で復興の槌音が響き始めた 2011 年度第 3 次補正予算成立後, おおむね10 年での全線開通を目指す三陸沿岸道路などの復興道路 復興支援道路の新規事業区間 224kmの立ち上げが猛スピードで進み, 既に事業化されていた区間の工事についてはテンポアップが図られた 釜石港では大津波で大破した湾口防波堤の再構築が, 仙台湾南部海岸では仙台都市圏を守る海岸堤防の復旧が目に見える形で動き出した 膨大な復旧 復興事業を推進するための国土交通省東北地方整備局の対応とともに, 東北地方整備局の復旧 復興事業を紹介する 2011 年 11 月 21 日に成立した11 年度第 3 次補正予算では, 復興のリーディングプロジェクトとされる三陸沿岸道路など復興道路 復興支援道路 4 路線の緊急整備に930 億円が付いた この予算で未着手区間 224kmが一気に新規事業化された 対象の4 路線は, 東北地方の太平洋沿岸を南北に走る三陸沿岸道路 ( 八戸 久慈自動車道, 三陸北縦貫道路, 三陸縦貫自動車道 ), 沿岸部と内陸部を結ぶ東西方向の東北横断自動車道釜石秋田線 ( 釜石 ~ 花巻 ), 宮古盛岡横断道路 ( 宮古 ~ 盛岡 ), 東北中央自動車道 ( 相馬 福島 ) である これらの事業を担当する東北地方整備局は, 復興道路 復興支援道路をおおむね10 年で全線開通させることを目指している これまでに開通した三陸縦貫自動車道の各区間の事業年数をみると, 平均で18 年が費 やされている 過去, 最も円滑に進展した事業に, 延長 33kmの路線を5 年で完成させた首都高速道路があるが, これは東京オリンピック対策として計画されたもので, 多くの国民が早期完成を熱望していたという背景もある このため, 新規事業区間 224km, 既事業区間 155kmを10 年という短期間で仕上げる復興道路 復興支援道路は, 前代未聞のプロジェクトともいえる 1 日も早い完成に向け事業スピードを上げるには, 大きなムーブメントになるような進め方が求められる 東北地方整備局は国, 県, 市町村が一体となって事業を推進する機運を高めるため,11 年度第 3 次補正予算成立のタイミングで, 復興道路 復興支援道路の着手を広くアピールする着工式を被災 4 県 ( 青森, 岩手, 宮城, 福島 ) でそれぞれ開いた 被 48
復興道路 復興支援道路の地図 災地域の復興道路 復興支援道路に対する大きな期待を反映し, 式典には県知事, 関係市町村長, 国会議員, 住民など地元関係者多数が出席した 鍬入れなどの儀式のほか, 命の道の重要性をアピールするためにつくられた 命の道バッジ ( 缶バッジ ) が地域の子どもたちから出席者に贈られた また郷土芸能が披露されるなど, 式典は歓迎ムードいっぱいの中で進んだ 式典で岩手県の達増拓也知事は この着工は全線開通に向けた大きな一歩, 宮城県の村井嘉浩知事は 復興道路の整備が文字通り, 三陸沿岸地域の復興にとって大きな弾みとなる とあいさつした 福島県の佐藤雄平知事は 復興道路の起工を, 福島県の再生 復興につなげていかなければならない と語った 短期間での事業完成を達成するには, 事業を進める中で浮上してくる課題にそのつど引っかかり, 立ち止まることは許されない 想定される課題を速やかに解決するシステムが必要になる 東北地方整備局は, 国, 県, 市町村が一丸となって課題解決に当たる体制 復興道路会議 を岩手, 宮城, 福島の3 県にそれぞれ設置した 国の出先機関, 県, 沿線市町村, 地元経済界, 地元マスコミで組織 その場で意思決定できるよう, 各組織のトップをメンバーとした 2011 年 11 月末, 各県で初会合を開いた 想定される課題として,1 必要な予算の確保と早期の執行,2 各種手続きの迅速化, 3 用地提供での協力, などがあげられた 49
福島県での復興道路着工式で子どもから 命のバッジ を贈られる佐藤知事 宮城県での復興道路着工式にて鍬を入れる出席者ら 会合では, 埋蔵物文化財調査, 保安林解除など道路整備に関連する協議 調整, 諸手続きのスピードを連携して可能な限り上げることを確認した 一番の難問とみられる用地取得については, 膨大な事務処理を各機関が協力して進めることを合意した 建設工事段階で懸念される人材不足や労務費 資機材価格の高騰などの問題解決にも関係者が一丸となって対応することとした 東北地方整備局は東北地方太平洋沿岸部に地域集中した膨大な事業を短期間に執行するには, 平常時の入札 契約制度, 事業執行体制では対応が困難だと考えており, 非常時の入札 契約, 事業執行体制のあり方を検討し, 順次実施している 入札 契約の工夫をみると, 復旧 復興工事を対象に発注ロットの大型化と手続きの簡素化を行ったり, 同じ工種, 関連する地域の工事を可能な限り1 本の工事にまとめたりしている また, 従来, 単独で発注していたトンネルや, 橋梁上部 橋梁下部などの大型構造物を組み合わせた50 億円規模の大型工事をすでに発注済みだ C 等級業者向けの工事も, 関係する工事をひとくくりにする大型化を実施 地元建設業者の受注機会に配慮し, 予定価格 3 億円以上となり発注標準でB 等級業者向けの案件になるケースでも, 難易度が低い工事は特例によりC 等級業者も参加できる措置を講じている 事業執行体制の強化では, 工事が集中する太平洋沿岸部の東北地方整備局出先事務所に, 日本海側や内陸部の事務所から技術職員をシフトさせたほか, 他地方整備局からの応援部隊を投入する 新規事業区間の事業を一斉に動かすには現行体制では不十分であることから, 事業川上部分のマネジメントに民間の力を活用する事業促進 PPP を考案 12 年度から新たなシステムを動かすこととしている 東北地方整備局が復興道路 復興支援道路の事業期間を大幅に圧縮するために講じてきた総合対策の成果もすでに現れてきた 事業の各段階で事業期間を短くしていく必要があるが, 大きなカギを握るのは, 白紙の状態から始める新規事業区間の立ち上げのスピードだ 50
岩手県で作業に活躍するマシン 青森県での復興道路着工式の様子 東北地方整備局は2011 年 11 月末, 各県での復興道路会議を終え, 現地で立ち入り測量を行うための説明会を沿線各地域で一斉に開始した 地元首長自ら出席し説明に当たるなど最大限の協力を得て, 測量のための中心杭打ちへと速やかに移行 中心杭打ちでは事業進捗の見える化を図ろうと, 地域関係者の参加を求め各地で中心杭設置式を行った 中心杭の設置は, 一部区間 ( 権限代行区間 ) を除き2 月末までに終えた 中心杭設置式は各路線でトータル16 回開催した 通常の新規事業執行であれば, 地元説明を実施し中心杭設置までに2 年強かかるとされるが, 今回は3か月という短期間で第一ステップをクリアした 今後もスタートダッシュのスピードを維持しながら新規事業区間の事業川上段階を猛進し,1 日でも早い工事着手を目指すこととしている 御することとしており, 湾口防波堤は被災地復興の基盤となる重要な施設 湾口防波堤の着工は, 早期復旧 復興への大きな一歩といえる 釜石港では2 月 26 日, 関係者を集め湾口防波堤災害復旧事業着工式が現地 ( 岩手県釜石市須賀地区 ) で開かれた 釜石港の湾口防波堤は南堤 670m, 開口部 300m, 北堤 990m, 総延長は1,660m 東日本大震災では, 設計津波を超える大津波で甚大な被害を受けた 南堤は南側の 360mのケーソンが港内側に倒壊 北堤はケーソンがとびとびに滑落し歯抜け状態となり, マウンドに残っているケーソンも大 復興道路 復興支援道路以外の基幹インフラの復旧 復興をみると, 釜石港の湾口防波堤の復旧事業がスタートした 釜石市の復興まちづくりでは, 湾口防波堤と防潮堤との組み合わせにより港湾と市街地を防 復興道路 復興支援道路着工式 ( 福島県 ) の鍬入れ式の様子 (2011 年 11 月 26 日 ) 51
福島県での復興道路会議の様子 中心杭設置式 ( 宮古市松山 田老,2011 年 12 月 23 日 ) きく傾いている 復旧にあたっては, 設計津波高を超える高さの津波が来襲した場合でも, 崩壊することなく減災効果を発揮する ねばり強い構造 を採用する ケーソンの滑落に抵抗するため港内側の基礎マウンドをかさ上げするほか, ケーソンを超えた波で基礎マウンドが洗い流されないようケーソン背後のマウンドをブロックで覆う 工程をみると, 南堤は2012,13 年度の2 か年でケーソンの製作 (9 函 ) を行い,12 ~ 14 年度で据え付け作業を実施する 北堤は,12 年度からの約 4 年間でケーソンを 37 函製作 15 年度までに工事を終える予定だ 仙台湾南部海岸 ( 仙台市若林区 ~ 宮城県 山元町 ) の復旧も 2011 年度第 3 次補正予算 で始動 大津波で流出した海岸堤防の復旧に約 253 億円が配分された 東北地方整備局は本格復旧の着手を広くアピールするため1 月 29 日, 宮城県や関係沿岸 5 市町とともに仙台湾南部海岸堤防復旧着工式を現地 ( 宮城県名取市下増田北釜地区 ) で開いた 仙台南部海岸は仙台市から山元町まで3 市 2 町にまたがる延長約 43kmの砂浜海岸 背後にある仙台空港, ごみ処理場, し尿処理場, 常磐線, 新幹線などの重要施設を津波から守るため, 海岸堤防 ( 約 30km) や防潮林で備えていたが, 東日本大震災では大津波に打ち破られ重要施設に大きな被害が出た 海岸堤防の復旧は沿岸 5 市町の復興の根幹となる 式典で関係市町を代表しあいさつした名取市の佐々木一十郎市長は 地域の安全 安心を確保するため, 恒久的な海岸堤防を待ち望んでいた 1 日も早く堅固な海岸堤防を築いてほしい と訴えた 復旧工事は今後, 各市町の復興計画との整合を図りながら進められる 復旧工事は海岸堤防約 30km 区間を対象に実施 東日本大震災で沈下, 流失したヘッドランド (5 号 ) の復旧も合わせて行う まず重要施設 ( 仙台空港や下水処理場など ) が背後にある区間 ( 約 10km) の復旧を先行して進める 先行区間は12 年度中に工事を終える予定だ 残る区間 ( 約 20km) についても今後 5 年間での完成を目指す * * 今回で 建設分野をめぐる全国各地の多角的挑戦レポート は終了いたします 12 回にわたりお読みいただき, ありがとうございました 52