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Transcription:

在宅で生活する機能障害が軽度の筋萎縮性側索硬化症患者に対するホームエクササイズの効果 多施設共同研究 - < 申請者 > 北野晃祐 < 所属機関 > 医療法人財団華林会村上華林堂病院リハビリテーション科科長理学療法士 819-8585 福岡県福岡市西区戸切 2-14-45 < 共同研究者 > 浅川孝司上出直人菊地豊澤田誠米田正樹寄本恵輔武内伸浩小森哲夫 吉野内科 神経内科医院理学療法士北里大学医療衛生学部講師理学療法士美原記念病院科長理学療法士国立病院機構鳥取医療センター理学療法士公立八鹿病院主任理学療法士国立精神 神経医療研究センター病院主任理学療法士東京都立神経病院理学療法士国立病院機構箱根病院神経筋 難病医療センター院長 < 助成対象年度 > 2014 年度後期 < 提出年月日 > 2016 年 2 月 29 日

背景 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 運動ニューロンが選択的かつ進展的に変性する原因不明の難治性疾患である 初発症状は様々だが 進行により徐々に障害が全身に及び 人工呼吸器を使用しなければ 3~5 年程度で死亡する 平成 28 年 2 月現在 ALS に対する有効な治療手段は見つかっておらず 機能障害の進行を抑制する薬剤としてリルゾールとエダラボンが承認を受けているのみで 多くが対処療法となる なかでも ALS に対する運動療法の科学的根拠は不足している 事実 コクラン共同計画のシステマティック レビューに採用された無作為化比較対照試験の論文は 2 編にすぎず その内容は早期 ALS 患者に対する筋力トレーニングの効果に関する報告のみである 歩行トレーニングや呼吸理学療法を介入手段とした横断的研究は散見されるが 長期間の統一された対照研究は圧倒的に少なく その結果 日本神経学会 ALS 診療ガイドライン 2013 においても 運動療法はグレード C レベルで推奨するに留まっている この要因は ALS の疾患特性である稀少性と進行の速さにより 比較対照試験が実施されにくいことにある また 本邦において ALS に対するリハビリテーションは その稀少性に対応する各地域の専門的な施設を中心に実施されており 統一された運動療法の効果を検証し 提供されにくい問題がある このような状況の中 我々研究チームは 後方視的な多施設間共同研究により 機能障害が軽度な ALS 患者に対して 日常生活で行う動作の練習や歩行などの全身運動が 機能低下を軽減する効果を有することを明らかにした (Kamide, et al. Neurol Clin Neurosci,2014) この結果を基に 我々はストレッチ 日常生活で多用する筋肉に対する軽負荷の筋力トレーニング 日常生活動作の練習で構成される ALS のためのホームエクササイズ プログラム (ALS-HELP:ALS-Home Exercise Load Program) を開発した ホームエクササイズである ALS-HELP は 環境を問わず簡便に実施出来るため 在宅 ALS 患者の機能低下を軽減できる可能性がある 一方で,ALS 患者に対して ホームエクササイズを介入手段として検証した報告はない そこで本研究は 在宅 ALS 患者に対する

ALS-HELP の有効性を多施設間共同研究により検証することとした 方法 1 対象対象は 神経内科医により ALS の診断を受け 当該施設において理学療法が処方された症例とした 採用基準は 我々の先行研究 (Kamide, et al. Neurol Clin Neurosci,2014) での採用基準をもとに 1ALS の日常活動における機能評価尺度 (ALSFRS-R) の得点が 30 点以上で ADL 障害が軽度な症例 2Frontal Assessment Battery(FAB) にて 13 点以上の症例 3ALS 以外の神経筋疾患のない症例 4 心筋梗塞や心不全などの心疾患のない症例 5 慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患のない症例 5 悪性腫瘍の併存がない症例 と設定した (ALS-HELP 群 ) 2 倫理的配慮本研究は 全ての研究参加施設において倫理委員会の承認を受けて実施した また 対象に対して 書面を用いて研究計画を説明し 研究参加の同意を得た 3 介入プログラム研究に同意の得られた対象に対しては 担当理学療法士が1 腕 体幹の筋力トレーニングとストレッチ 2 足 体幹の筋力トレーニング 3 日常生活で出来る全身運動 で構成される ALS-HELP の内容を説明し指導した 運動回数と頻度は 担当の理学療法士が症例の状況を診て設定し 毎日実施できる回数と頻度で指導した ALS-HELP の実施期間は 6 ヶ月間として 運動実施記録用紙を配布して実施頻度を把握した 安全に配慮するため 追跡期間中は 担当理学療法士が症例の状況を 1 ヶ月程度で問診により調査し 必要に応じて ALS-HELP における各運動種目の回数や頻度を調整した 4 評価項目評価項目は 主要評価として ALSFRS-R 二次評価として疾患特異的 QOL 尺度

(ALSAQ-40) Peak Cough Flow(PCF) 5m 歩行 ( 速度 歩数 ) Multidimensional Fatigue Inventory(MFI) を採用し ベースライン時点および 6 ヶ月経過時に評価した さらに ベースライン時点での基本属性として 年齢 性別 初発症状の部位 罹病期間 球麻痺症状の有無 経皮内視鏡的胃瘻造設術 (PEG) の有無 リルゾール服用の有無 非侵襲的陽圧換気 (NPPV) の使用について把握した 5 コントロール群介入効果を検証するため 先行研究 (Kamide,et al. Neurol Clin Neurosci,2014) において通常の理学療法を施行された ALS 患者の経過を追跡したデータを対照群として設定した 対照群のデータは先行研究においてデータ収集がなされた 350 例の ALS 患者のデータから 6 ヶ月間の追跡期間があり 気管切開および TPPV を施行されていない症例のデータを選択した さらに選択した症例データから ALS-HELP 実施群のベースライン時における年齢 性別 罹病期間 発症型 球麻痺の有無 NPPV 実施の有無 ALSFRS-R の総得点および各下位項目の得点のすべてをマッチングさせた症例データ 90 例を抽出し 対照群とした ALS-HELP 実施群と対照群のデータのマッチングは統計解析ソフト easy R を用いて行った 6 統計解析 ALS-HELP 実施群と対照群の ベースライン時の年齢 性別 罹病期間 発症型 球麻痺の有無 NPPV 実施の有無 ALSFRS-R の総得点および各下位項目の得点の比較は Fisher の直接確率法または対応のない t 検定により比較した さらに 6 ヶ月の追跡後の ALSFRS-R の総得点および各下位項目の得点における ALS-HELP 実施群と対照群の比較は対応のない t 検定により比較した また ALS-HELP 実施群における ALSAQ40 MFI CPF 5m 歩行時間と歩数の 6 ヶ月間における変化の比較は 対応のある t 検定で比較した 統計処理には 統計解析ソフト easy R を用い 統計的有意水準は 5% 未満を有意差あり 10% 未満を傾向ありとした

結果 採用基準を満たす 18 名の ALS 患者に ALS-HELP を指導した (ALS-HELP 実施群 ) ALS-HELP 実施群の基本属性は 年齢 62.8±10.5 歳 性別が男性 13 名と女性 5 名 罹病期間が 2.2±2.5 年 初発症状は呼吸型 1 名 球麻痺型 6 名 上肢型 9 名 下肢型 2 名であった また 11 名に球麻痺症状があった 治療内容は NPPV を 1 名が使用 リルゾールを 13 名が服用 PEG の造設術を施行された患者はいなかった 6 ヶ月間の追跡期間の間に 窒息による状態変化 1 例 夜間の突然死 1 例 日常生活中の転倒による骨折 2 例 認知症状の急速な進行による運動継続困難 1 例 気管切開後の長期療養 1 例により合計 6 名の脱落があったが いずれも ALS-HELP による有害事象ではなかった ALS-HELP の実施状況としては 全例が実施可能であった ALS-HELP 群と対照群における ベースライン時の年齢 性別 罹病期間 発症型 球麻痺の有無 NPPV 実施の有無 ALSFRS-R の総得点および各下位項目の得点に関しては すべて有意差がなかった ALS-HELP 群と対照群における 6 ヶ月後の ALSFRS-R の総得点と下位項目の得点を比較すると 球機能得点および四肢機能得点において両群で有意差を認められなかったが 呼吸機能得点と総得点において有意水準に達しなかったものの 両群で差がある傾向が認められた すなわち ALS-HELP 群は対照群と比較して 6 ヶ月後の ALSFRS-R の呼吸機能得点と総得点が高い傾向にあった また ALS-HELP 実施群における ALSAQ40 MFI CPF 5m 歩行時間と歩数の 6 ヶ月間における変化の比較の結果 ALSAQ40 MFI CPF 5m 歩行の歩数には有意差を認めなかったが 5m 歩行時間は 6 ヶ月後に有意な低下を示した 考察 本研究の結果から ALS-HELP は 有害事象がなく全例に実施可能であり ADL 障害

が軽度な ALS 患者に対して安全なプログラムと考えられた ALS-HELP 群は 対照群と比較して 6 ヶ月経過後の ALSFRS-R の呼吸機能得点と総得点が高い傾向を示した ALS 患者を対象とした運動療法の呼吸機能維持効果を示す報告は多く 介入手段として呼吸理学療法のみならず筋力運動や NPPV 使用下での歩行運動がある ALS-HELP は 在宅において継続出来る全身運動プログラムとして ストレッチと筋力トレーニングおよび日常生活動作練習で構成されている ALS-HELP 群の呼吸機能得点が高い傾向を示したことにより ALS 患者の呼吸機能障害に対しては 単一的なプログラムではなく 継続的に実施可能な全身運動が重要と考えられる また ALSFRS-R の総得点も ALS-HELP 群が高い傾向を示している この結果は ADL 障害が軽度な ALS 患者に対する日常生活で行う動作の練習や歩行などの全身運動の有効性を示した 我々が後方視的研究により明らかとした報告を支持している 本研究により ADL 障害が軽度な ALS 患者に対する全身運動は 理学療法士が定期的に管理することで ホームエクササイズとしての実施でも ADL を維持する効果が期待できることが示唆された また ホームエクササイズである ALS-HELP は 専門施設へ頻回に通院することが出来ない患者に対しても統一された手法として 在宅で簡便に実施することが可能であり 大変有効な手段となり得ると思われる 現在 コクラン共同計画は 診断早期 ALS 患者の四肢機能に対する筋力運動の有効性を報告している ALS-HELP は 四肢機能に有効性を示しておらず 筋力運動を実施する筋や負荷量を再検討することで 更に有効なプログラムとなる可能性がある しかし ALS 患者に対する筋力運動は 過負荷に注意が必要である ホームエクササイズとして筋力運動を実施する際は より慎重なリスク管理が必要であり 運動回数や頻度に関する追加検証が必要だろう 更に 本研究は対象数が少ない中 ALS-HELP が有効である傾向を示すに留まっている問題がある 研究を継続して対象数の増加を図るとともに 専門的に ALS 診療を担っていない施設を利用する ALS 患者を対象に含めることが必要と考えている

本研究で採用した二次評価項目においては 5m 歩行速度のみが低下し QOL や咳嗽力や疲労感および 5m 歩数に 6 ヶ月間での変化を認めなかった 呼吸機能の一つであり肺活量と相関がある PCF や ALSFRS-R の一項目である歩行評価の結果は ALS-HELP による効果も考えられるが これらについては ALS の自然史との比較が必要であり 今後の課題としたい 謝辞 本研究は 公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団の助成によって実施いたしまし た 御礼申し上げます